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限界具現 〜魔法ゼロ令嬢が現代アイテムを呼び出したら、祭具の聖女にも災具の魔女にもされました〜  作者: ちぇ!
ごまかしから始まる学院生活

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18/43

薬草学の実習ですが嫌な予感です


「では、さっそく最初の班課題です」


「本日は、セレスティア郊外にある実習林で、指定した三種類の薬草を採取してきてもらいます」


 黒板には、三つの名前が書かれていた。


 月白草。赤鈴花。霧糸葉。


 ……名前だけでもうファンタジー濃度が高い。


「ただ採ればいいわけではありませんよ。傷めず、混ぜず、見分けをつけて持ってくること。そこまで含めて課題です」


 出た。


 “取ってこい”じゃなくて、“状態よく持ってこい”のタイプである。こういうのは、雑な人がいる班だと一気に詰む。


 ちらっと横を見ると、ミーナはきらきらしている。完全に「探す係、任せて!」の顔だ。その横で、エルヴィンはもう小型のメモ帳を開いていた。説明を一文字も逃さない気らしい。


 雑に突っ込むミーナと、丁寧に拾うエルヴィン。


 ……あれ、うまく組み合わされば、うちの班、意外といけるのでは?


 一方、向こうではリリスがやる気満々だった。アルガスも「さっさと行こうぜ」みたいな顔をしている。そんな二人の横で、シャーロットちゃんだけが説明を必死に書き写していた。


 突撃役が二人に、良心役が一人。


 あっちはあっちで意外とバランスが取れてそうなのが腹立つ。


 そこで、ディディエ司祭は少しだけ表情を引き締めた。


「制限時間は二時間。ここは聖堂院が管理している場所ですが、街中とは違います。森の奥には入らないこと。見慣れない場所や、立入禁止の札がある場所には、絶対に近づかないように。では、始めてください」


 絶対に近づかないように。


 今、すごくフラグみたいなこと言わなかった?



 中庭に出た瞬間、ミーナが飛び出した。


「よーし! 私、探してくる!」


「待って、勢いだけで変なの抜かないでよ!?」


「だいじょぶだいじょぶ!」


「その"だいじょぶ"が一番信用できないの!」


 でもミーナはもう行ってしまった。足が速い。そして迷いがない。ただの薬草採取なのに、宝探しイベントみたいなテンションで一番に突っ込んでいく。


 エルヴィンはそれを見送りながら、静かに言った。


「行動力はありますね」


「うん。行動力はね」


「恐らく、どの草を抜けばいいのかも把握していませんが」


「うん。そこも含めてミーナだから……」


 私はしゃがみ込み、先生が見本として置いていった薬草の絵を見返した。月白草は葉の裏が白い。赤鈴花は茎の根元がうっすら赤い。霧糸葉は細くて似た草が多い。これは間違えやすそうだ。


 エルヴィンが私の横にしゃがむ。


「ボク、少し知っています」


「えっ、ほんと?」


「商会では乾燥薬草も扱いますから。生の状態は詳しくなくても、流通するものの名前と価値くらいは」


 さすが商人の息子。知識の入り方が生活寄りで強い。


 その時だった。


「クロノちゃーん! 見つけたー!」


 ミーナが両手いっぱいに草を抱えて戻ってきた。


「早い!」


「でしょ!」


「その代わり絶対混ざってるよね!?」


 確認するまでもなく、混ざっていた。月白草っぽいもの、雑草、食用ハーブっぽいもの、あと明らかに薬草ではない綺麗な花。


 かわいかったから採ったな、これ。


「うん、混ざってるね」


「えへへ」


「えへへじゃない」


 私は地面に布を広げて、採ってきた草を一本ずつ並べ始めた。


「これが月白草。葉の裏が白いから。こっちは違う、茎の色が薄い」


「えー、似てるのに!」


「似てるのが罠なんだよ」


「なんか騙すために似てるみたい!」


「たぶんそういう草なんだよ」


 エルヴィンはその横で、すでに仕分けを始めていた。


「傷んでいるものときれいなものを分けましょう。種類ごとに束ねた方がいいですね」


「仕事が早い」


「商会では基本です」


「今ちょっとだけ、頼もしさの方が怖さを上回った」


「将来、聖女になるクロノさんにそう言ってもらえて光栄です」


「聖女は絶対やだし、なれる気もしないよ!」


 怖い言い回しやめろ。


 でもここで、ふと気づいた。これ、薬草の知識がなくても、やりようはある。


 前世で散々やってきたのだ。トレカ、缶バッジ、アクスタ、ラバスト、推しぬい、フィギュア、ランダム特典。オタクは整理と保管に命をかける生き物である。私は別に薬草マニアじゃない。でも、似たものを種類ごとに分けて、傷めないように保管するのは得意だ。


 コレクターをなめるな。


「ミーナ、採ったやつはそのまま抱えてこないで。葉が折れるから」


「えっ、そうなの?」


「うん。茎のところを持って、紙に包んで、種類ごとに分けて。重ねすぎない」


「おお……なんかプロっぽい」


「あと名前を覚える時は、特徴と一緒に覚えるといいよ。月白草は"月みたいに白い葉"、赤鈴花は"赤い鈴みたいな根元"、霧糸葉は"霧に紛れそうなくらい細い葉"」


「うわ、覚えやす!」


 エルヴィンが小さく目を見開いた。


「……なるほど」


「え?」


「分類と記憶の結びつけ方が、かなり実用的です」


「いや、そうでもないけど……」


「いえ。整理の発想として非常に優秀です」


 やめて。ただの思いつきを高級品みたいに扱わないでほしい。もともと見た目で名前がついてるんだから、それを少し言い換えただけだ。そんな"希少な才能を見つけてしまった"みたいな顔をされると、こっちが困る。


 ミーナは全然気づかずに元気いっぱいだった。


「じゃあ私、次は"赤い鈴"探してくる!」


「その言い方だと完全に採取クエストのレア素材なんだよな……」


 私のつぶやきも聞かず、ミーナは駆け出していった。でも今度はちゃんと足元を見ている。さっきみたいに両手いっぱい草を引っこ抜くんじゃなくて、茎の色を確認して、葉を傷めないように摘んでいた。


 ミーナが学習している。


 相談して、分担して、ちょっとずつ上手くなっていく。


 ……これ、ちゃんと班活動してるじゃん。



 そんな感じで探索を進めていた時だった。


 少し先の林の入口あたりで、聞き覚えのある声がした。


「だから言ってるだろ! この奥に霧糸葉の最上級、"霧絹葉"があるはずなんだよ!」


 アルガスだ。


 私は顔を上げた。エルヴィンも気づいたらしい。


「……行ってみましょう」


「え、なんで?」


「嫌な予感がします」


「それはわかる」


 三人でそっと茂み越しに覗くと、案の定、リリス班がいた。林の奥、岩場の手前。そこには木の看板が立っている。


 関係者以外立入禁止。魔物出没注意。


 嫌な看板フルセットだ。


 シャーロットちゃんが青い顔で、アルガスの袖を引いていた。


「だ、だめだよアルくん……! そこ、聖堂院の実習範囲じゃないし……!」


「うるせぇ! この洞窟の中に"霧絹葉"があるって、兄貴の騎士仲間が言ってたんだよ! 昔ここで採れたことがあるってな!」


「そ、そうだとしても……今もあるかどうかなんて、わからないよ……?」


 リリスまで眉をひそめていた。


「さすがにここは危険でしょう。立入禁止の札がある場所へ、課題中に入るべきではありませんわ」


 おお。さすがリリス。普段はちょっと面倒くさいけど、危ないものを危ないと言えるあたり、ちゃんと名家の令嬢なんだな。


 ……と思ったのも束の間。


 アルガスが、にやっと笑って言った。


「クロノ・ソーカに勝ちたくねえのか? こんな洞窟にびびるなんて、帝国のゼルファス家も大したことねえな」


 あっ、言っちゃった。


 リリスの眉がぴくっと動いた。数秒の沈黙。それから、目がきらっと光った。


「……そうでしたわね。クロノ・ソーカに勝つ。そのために、あなたと協力したのでしたわね」


「いや、協力目的ほんとにそこなんだ……」


 私の小声のツッコミは、当然届かない。


 リリスは手にしていた小さな扇をぱちんと開き、顎を上げた。


「なめないでいただきたいですわ。さくっと入って、さくっと採って帰ってきます」


 シャーロットちゃんが半泣きで止める。


「り、リリスさんまで!? 暗いし、危ないですよぉ……!」


「安心なさいな。灯りくらいなら任せられますでしょう、アルガス?」


 アルガスは鼻で笑うと、迷いなく一歩前に出た。


「ハッ! 当然だ」


 片手を前に出す。


「燃えろ、灯れ、紅の火――」


 ぼっ。


 手のひらの上に、小さな火の玉が灯った。


 薄暗い洞窟の前で使われると話が違う。赤い火が入口をゆらっと照らして、めちゃくちゃ絵になる。


 ずるい。


 こういう"ファンタジーのかっこいい担当"を自然にやれるの、本当にずるい。私がやると、だいたいプラネタリウムとかレーザーポインターなのに。


 リリスは満足そうにうなずいた。


「では行きますわ」


 そして本当に入っていってしまった。アルガスが先頭、リリスがその後ろ、シャーロットちゃんが「えっ、えっ、待って……!」となりながらついていく。


 ……行った。本当に行った。


 しばらく、私たちは無言でそれを見送った。最初に口を開いたのはミーナだった。


「……どうする?」


「司祭に言う?」


「それが妥当ですね」


 エルヴィンが即答した。


「ですが、今から報告して司祭が来るまでに、さらに奥へ進まれたら間に合わない可能性があります」


 うっ。それはそう。


 ミーナが私の顔を覗き込む。


「クロノちゃん、どうする?」


「なんで私に聞くの」


「なんか一番こういう時、ちゃんと考えてくれそうだから!」


「期待が重い」


 エルヴィンも、静かにうなずいた。


「クロノさん、追いかけましょう。入口付近で追いついて、引き返させるんです」


「いやいやいや。司祭に言うのが先でしょ!?」


「もちろん後で報告はします」


「後で!?」


「ですが、今この場で動けるのはボクたちです」


 ミーナまで、きらきらした目で言った。


「大丈夫だよ! 魔物が出ても、クロノちゃんがいたら安心だし!」


「なんで!?」


「え、だってクロノちゃんだよ?」


「説明になってない!」


 なんで、そんな影ながらヒーローみたいなことをせねばならんの。


 そりゃ放っておいて本気で何かあったら後味は悪い。でも私は別に、洞窟探検ユニットのリーダーじゃないんだけど。


 私は頭を抱えた。


 正解はたぶん、司祭に言うことだ。でも今この瞬間にリリスたちが何か踏み抜いたら終わる。


 えっ、これ詰みイベント?


 ミーナが私の袖をちょんと引いた。


「クロノちゃん」


 その顔は、さっきまでのへらへらした笑顔じゃなかった。


「……お願い」


 うっ。その顔はずるい。ミーナは、いつも明るい。でも、本気で困っている時はちゃんと分かる。


 私はがりがりと頭をかいた。


「……わかったよ」


「ほんと!?」


「ただし!」


 私は指を立てた。


「洞窟の奥まで突っ込むんじゃなくて、入口付近で追いついて引き戻すだけ。少しでも危ないと判断したら即戻って司祭に報告。突撃禁止。勝手な単独行動禁止。特にミーナ!」


「えー、私!?」


「一番しそうだからだよ!」


「はいはーい!」


 返事が軽い。


 エルヴィンは真面目にうなずいた。


「さすがクロノさん。賢明な判断です」


「あと、エルヴィン」


「はい」


「何かあっても、私を過大評価しないこと」


「それは難しいですね」


「難しいとか言うな!」


 もうやだこの班。


 でも、こうなった以上しょうがない。


 私は深く息を吸って、洞窟の暗がりを見た。


 さっきまで薬草採ってたのに、なんで急にダンジョン突入前みたいな空気になってるの。この世界、すぐイベントが発生するな……。


 陽キャと商人の息子が、なぜかやる気に満ちている。その先には、打倒クロノを掲げて先に突っ込んだ三人。


 そして私は、またしても巻き込まれ役である。


 ……ほんと、静かな学園生活って、どうやって送ればいいんだろう。


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