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偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜  作者: あいみ
第二章

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魔法が全てではない

 いっぱい構ってもらえて満足したノアールは私達から離れた所で体を丸めて眠りにつく。


 よし。気を取り直して、頑張るぞ!


 この魔法を使いこなせたら、助かる命が増える。


 「レディーは最上級魔法を過去にも使っているようだな」

 「私が?いつ?」

 「レディーの……。グレンジャー家の屋敷でだ」

 「あ!ノアールを助けたとき」


 あのときは無我夢中だった。


 長男がノアールを傷つけようとするんだもん。


 しかも獣呼ばわりまでして。


 思い出したら腹が立ってきた。


 あのときの私はひどく感情的だった。前回は結局、レイの助けがあったから成功したようなもの。

 そう考えると


 「ユファンはすごいなぁ」


 死にかけてる長男を見ても私のように取り乱すことはなく、簡単に治してしまうのだから。


 生まれながらに高貴なお方は違う。


 魔法の才能があって、人生(うんめい)にも恵まれて。私とユファン、同じ運命を辿っているはずなのに、生まれ持っての身分だけでこうも差が出るものなのか。


 「その者は例の……。詳しく聞かせてくれないか」


 詳しくも何も、私の最上級魔法を食らった長男が死にかけて、ユファンが最上級回復魔法で治した。それだけ。


 他に説明のしょうがない。


 「レディー。それは才能や実力ではない。恐らくその魔法は、もう使えないだろう」

 「使えない?」

 「いや……。語弊があった。訓練次第では使えるだろうが、今は使えないということだ」


 どっちにしても?が浮かぶ。


 魔法が使えたのなら魔力は不足していない。具体的なイメージもハッキリさせているから発動もする。


 一度でも使った魔法は次からは発動しやすい。なぜなら、使い方を完璧にイメージしているから。


 ユファンには才能しかない。


 どんな環境でも腐らず、正しいままでいられる。それもきっと、誇り高きグレンジャー家の血筋のおかげ。

 所詮私は、卑しい平民だ。見下され蔑まれるのがお似合い。


 まさに光と闇。対極の存在。


 「その子はまともな特訓などしていないのだろう」

 「うん」


 王立学園に通って日は浅い。


 一年の一学期は魔法が何たるかの基礎を習う。


 学園は貴族が通う場所で、魔力コントロールは家で身に付けてくるのが一般的。魔法の実践訓練は二学期からでも充分。


 平民が家庭教師を雇ったところで、平民相手にまともに教えてくれる貴族などいやしない。独学で学ぶにも限界はある。


 図書館に行って本を読むのも大事だけど、内容を解説してくれる人がいないと理解は厳しい。


 簡単でわかりやすい本はいつだって下級貴族が独占している。残っているのは無駄に小難しい本ばかり。


 ま、ユファンなら理解してしまうかもね。この世界の中心であり、主人公(ヒロイン)なのだから。


 「どんなに突出した才能の持ち主でも、簡単に最上級魔法は使えない」

 「で、でも。ユファンは……」

 「その子が魔法を使ったとき、レディーはどこにいた」

 「同じ部屋にいたけど」

 「それが答えだ。レディーの加護を間近で受けていたからこそ、魔法が発動しただけ。決してその子の才能や実力ではない」


 本当にそうなのだろうか。


 だってユファンはこの世界の主人公。世界はユファンを中心に回る。


 私がいなくなろうが、その事実だけは変わらない。


 攻略対象がピンチに陥ったら、ユファンは何度でも救うのだろう。


 それが、ヒロインというもの。


 「さて。では、行こうか」

 「どこに」

 「レディーの魔法は誰かを助けたい想いが強いほど、成功しやすようだからな」


 何かを思い付いたレイは場所を移すと言った。ノアールを抱っこして後をついて行く。


 人間というのはそれぞれ歩幅が違うため、早歩き、差が開けば小走りになるのが普通。でも、レイは私を気にしながら私に合わせて歩いてくれる。


 シオンの記憶にあるヘリオンとのデートでは、いつも背中しか見ていなかった。私のことなんて眼中になく先を急ぐ。


 ヘリオンの気まぐれでずっと歩かされ足が痛くなったときもあった。


 痛いとか疲れたとか、そんな弱音を吐いたら失望されてもう二度とデートをしてくれないのではと思い言葉を飲み込んだ。


 どんなに着飾っても褒め言葉を聞いた試しもない。上から下まで品定めするようにじっくり見たあと、何の反応もなく背を向けるばかり。


 一度としてシオンを気遣う言葉さえなかったな。


 デートなんてしたくなかったけど、婚約者を放置しているなんて知れたら世間体が悪く、嫌々だったのだろう。


 向かった先はさっきの執務室。


 扉を開けて支えてくれる。


 この、女性なら誰でもやってしまいそうな辺り、めちゃめちゃ紳士だ。


 ──誰とも付き合ったことがない割にエスコートが手馴れているな。


 紳士の嗜みなのだろう。


 一時間も経っていないのにもう戻ってきたことに驚きよりも感心されていた。


 ──いや、ごめんなさい。まだ習得してないです。


 スウェロ殿下のキラキラした眼差しに心が痛い。本当のことを言う前にレイが


 「騎士寮に空間を繋いでくれ」


 ナンシーは聞き返すことも疑問に思うこともなく、すぐに空間を出した。


 レイの言うことは絶対なんだろう。


 切れ目をくぐれば一瞬で目的地につけるんだから、空間魔法は重宝されるよね。


 前はよく騎士寮を見ることは出来なかったけど、普通の学生寮って感じだ。


 訓練場が二つもある。広々と使えていい。


 「レイアークス様!?」


 休憩していた騎士の一人がこちらに気付いた。全員の動きが止まり、すぐ一斉に列を作る。


 先頭にいるのが団長かな。その内の一人、王子がスウェロ殿下とはまた違うキラキラした眼差しを向けてくる。金目がより輝く。


 「今日からレディーの魔力コントロールのため、ここに通わせることにした」

 「え!!?」

 「人間相手のほうが習得しやすいだろう」

 「叔父上が女神様の魔力コントロールを教えているのですか?我々のときのように厳しく、下手くそなんて言ってはダメですよ!!」


 レイはそこまで厳しくはないと思う。私の失敗に呆れなかったのだから。


 「お前達に厳しくしたのは陛下にそうしろと命じられたからだ。甘やかすなんて言語道断。王子の矜持の一つとして一刻も早く魔力コントロールが出来るようにするために」

 「あ、なるほど。そうでしたか」


 相当厳しかったんだな。あんなにも顔が影るなんて。


 王子達だけでなく、騎士団の魔力コントロールも請け負っているのだろうか。騎士達の顔が強ばっている。


 会話の内容からどうやらレイは、騎士団の入隊試験を担っているようだ。


 ──宰相なのに?と思うのは私が余所者である証拠。


 魔物討伐は元々、レイが考案し軍を率いていた。攻撃魔法を持たなくても剣の腕前は随一。上級魔物も一人で倒してしまう。


 宰相の仕事と両立ながら、命に関わる討伐までこなす。


 ──ここにもいたよ。チートが。


 公爵と決定的に違うのは他人を思いやれる広い心を持っているとこ。もちろん、公爵にも尊敬し慕ってくれる人は大勢いる。でもそれは、『公爵』であるから。


 レイは王弟の身分や宰相の肩書きがなくなっても多くの人に慕われる。


 人望が厚く、人に慕われるとはまさにこのこと。


 「レディーの特訓は第二騎士団員に頼みたいのだが」


 第二騎士団入隊試験は至って簡単。制限時間内にレイに一撃を当てればいい。


 鍛え抜かれたレイに当てられないようなら魔物と戦い勝つなど到底不可能。


 王子は幼少期から直接指導を受けていた。魔法に頼るだけが全てじゃないと教えてくれる大人は初めてで、その張本人がそれを証明している。尊敬の念を抱かずにはいられなし、心の底から敬愛して最大の礼儀を尽くす。


 「もちろんです!お任せ下さい!叔父上!!」

 「レクシオルゼは隅で素振りでもしていろ」

 「ええ!?なぜですか!!?」

 「レディーに迷惑をかけるだろう。絶対に」

 「かけませんよ!」


 まるっきり信じていない。


 心外だと言わんばかりに驚く王子は、大袈裟でどこか演技くさい。


 ──だから、信用されてないのでは?


 レイは冗談ではなく本気。王子の笑顔が固まっていく。汗も流れ始めて、捨てられそうな子犬を連想させる涙目を私に向けてくる。


 私はどうしたらいいんだろう。


 関わるのはめんどくさ……ちょっと遠慮しておきたい。


 ここは、ね。うん。やり取りに口を出すのはやめとおこう。


 私は全ての決定に従います。


 口を固く結んでいると王子はかなりショックを受けていた。


 「それと。訓練は木刀ではなく剣を使ってくれ」


 おっと。この人は何を言っているのかな。


 木刀でさえ真剣に取り組んで稽古したら危ないのに、本物の剣を使うなんて。


 かすっただけで血が出るんだよ。もし踏み込んで相手を刺してしまったら……。


 普段から剣を扱う騎士達は死ぬかもしれないと恐怖するわけでもなく、レイの指示に従う。


 ──命はもっと大事にすべきじゃないかな!?


 魔物討伐なんて危険な仕事をしていたら命の価値は下がるかもしれない。


 でも!!彼らが死んだら悲しむ人がいる。


 金属と金属がぶつかり響く音は心臓に悪い。


 私は邪魔にならない場所で見学。さっきまで隣にいたレイは王子に手合わせをお願いされ、相手をしている。

 

 あそこは流石に木刀だ。それでもまぁ、音がおかしいんだけどね。何であれで木刀が折れないのか不思議。


 レイの動きは素人が見てもわかるように洗練されている。まさに達人。


 あんなに派手に素早く動いているのに、王子は正確に打ち込んでいく。


 恐らくだけどすごいのはレイ。どこにどのタイミングで打ち込めばいいのかをわかりやすくするために、わざと小さな隙を作っている。


 指導稽古ってやつかな。


 「レイアークス様は本当に強いですよ」

 「貴方は……」


 王子が庇った団員。名前は知らない。


 三十代半ば。こんなに髪が短かった?


 あのときはわからなかったけど、右頬から耳にかけて大きな傷跡がある。


 生々しい傷は討伐の恐ろしさを明確にしていた。


 「副団長のエノクと申します。女神様。遅くなりましたが、あのときは団長を、レクシオルゼ様を救って頂きありがとうございました」

 「私一人では救えなかった。お礼ならレイに。あと、女神様はやめて下さい」

 「レクシオルゼ様がそう呼んでいらっしゃるのでつい」

 「名前でお願いします。ほんと」

 「はい。かしこまりました。シオン様」

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