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偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜  作者: 藍水ーあいみー
第二章

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魔物討伐【クローラー】

 近頃、魔物が頻繁に目撃されている。下級ではあるものの、人間に危害を及ぼす。


 騎士だけでは間に合わないため急遽、学生の特別討伐班が編成された。


 「よろしく頼むね」


 アース殿下は普段と変わらず、まるで緊張感がない。


 これから上級魔物を討伐しに行くというのに。


 メンバーを決めたのはアース殿下だと聞く。


 最上生の私とアル。来年はその立場となるラエル。多くの期待を受け入学したヘリオン。そして、ユファン。


 一体何を考えているのだ。ユファンの持つ光魔法に攻撃も防御はない。戦いに連れて来るべきではないのに。

 回復支援としてなら護衛を付けなくてはならない。


 ユファンは聖女だ。アース殿下ともあろうお方が知らぬはずがない。


 世界を救ったのは遠い昔の先祖なのだから。


 「アース殿下自ら出向かなくてもよろしいのでは?」


 あの日からアルとはあまり口を聞いていない。生徒会長を辞任して残った接点はクラスメイト。


 だが、引き継ぎや後輩育成、何より明るくてリーダー的存在のアルの周りには常に人が絶えない。


 声をかけたくても近づけずに、最近では一人でいることが増えた。


 「現(・)状(・)を把握しておきたいからね。大丈夫。いざとなったら僕の護衛騎士二人で、君達より強いから」

 「あ、あの!私がいてもお邪魔になるのでは」

 「ユファン嬢は小公爵の命を救ったのだろう?その魔法があれば彼らの命は保証されたも同然だ」

 「は、はい!頑張ります!!」

 「ユファン。あんま気負いすぎんな。そんな簡単に怪我なんてしないからさ」

 「魔法が使えたら、ね」


 後ろでアース殿下が呟いた声が聞こえていたのは、傍にいた騎士だけ。



 魔物討伐のために訪れたのは南の森。ここは比較的に魔物の生息が少ないが上級魔物の住処。


 空気がじんわりと重い。張り付く。


 前後左右。警戒を怠らない。


 前方から水弾が何発も飛んでくる。私達は躱せるがユファンには無理だ。防がなければ。


 風魔法で水弾を上空に弾く。


 三メートルほどの茶色い魔物。四足歩行で、警戒することなく威嚇してくる。


 私の魔力があれば、あの程度の攻撃に苦戦することもない。


 知識がなく、初めて対峙する魔物にユファンは怯えていた。胸の前で手を組み肩を震わせる姿は愛らしい。


 守るようにユファンの前に立ちはだかるラエル。


 一斉に攻撃するまでもない。私の炎は父上と同じくどんな物でも灰にする。


 魔物を囲み、逃げられないように渦を巻く。ものの数秒で焼き尽くす。


 「流石です!クローラー様!!」


 大したことではないがユファンに褒められるのは悪い気がしない。


 私だけが褒められて悔しいラエルは次に現れた魔物は自分が倒すと張り切っていた。


 奥に進めば魔物との遭遇も高くなり、同じ上級でも強さが異なる。


 ありえないことに一撃では倒せなくなってきた。それだけではなかった。もうほとんど魔力が残っていないのだ。


 私だけはない。魔力に自信のあるラエルやヘリオンまでもが。


 王族をも凌ぐとまで言われるほど底の見えなかった魔力が突きかけるなど。


 今、相手にしているのは上級の中で最も速さに長けた魔物。体は小さいが風魔法を駆使して素早く飛び回る。目で追えない速さ。仕留めることが出来ず防御に徹するのみ。


 これまで一度も戦っていないアース殿下は余裕があり、水のベールに包まれ魔物を一匹も通さない。


 ──私も魔力切れを起こしていなければ、あのぐらい……。


 「苦戦しているようだね。助けてあげようか?」

 「結構です!!」


 顔を合わせていたときからずっと、ヘリオンはアース殿下を睨んでいた。


 婚約破棄が決まった翌日、驚くことにシオンと婚約したいと私に頼み込んできたのだ。


 父上に言っても相手にされないと思い、私に口添えして欲しかったのだろう。


 王命で婚約破棄をした以上、新たに婚姻を結ぶなど不可能。そんなこともわからない愚か者ではないだろうに。


 二人の婚約は元々、魔力が唯一、釣り合うという理由から。れっきとした政略結婚。


 大公の血筋に、あのような出来損ないで愚物の血を混ぜることに私は反対だった。


 ケールレル家も嘆き、他国の友人達に上級貴族で魔力に余裕があり、生まれてくる子供のことを考えるとおぞましく見苦しい容姿ではない女性を紹介して欲しいと。


 ケールレル家の考えはヘリオンの意志であると思っていたからこそ、私は驚きを隠せなかった。


 新たに相手を探すのは面倒ではあるが、よりにもよって再びシオンとの婚約を望むなんて。


 「ぐっ……」


 魔力が完全に底を突いた。


 炎の壁が消えると魔物が腕を貫通した。肉を裂き、無理に骨を突き破る。


 「グラン。セイン」

 「「はっ!」」


 待機していた護衛騎士は優れた動体視力で魔物の動きを完璧に追い仕留めた。


 「この程度か。グレンジャー家もケールレル家も。ユファン嬢。君の出番だ。早く治してあげるといい」


 同じように戦っていたアルに魔力なんて残っているはずがない。なぜ無傷なんだ。


 公爵より爵位の低い伯爵だぞ!!


 どうなっているんだ。


 「そんなに不思議じゃないでしょ。僕は貴方方と違って、力をひけらかすように大きな魔法を使わなかった。それだけです」

 「アルフレッド、奥のほうを頼めるか。グランを連れて行って構わないから」

 「ですが、殿下も感じておられるように、この先の魔物を全て討伐は出来ませんよ」

 「わかっている。本来であれば僕が自ら動かなければならないのに、すまない」

 「お気になさらず。血の匂いに釣られて来た魔物は凶暴ですから。正直、そんなのを相手にしたら死んでしまう。殿下でなければ」

 「はは。買いかぶりすぎだよ。僕は弱い。その証拠に一匹も倒してないだろ?」

 「残念ながら。僕の目は節穴ではありません。背後にいた魔物をこっそりと倒してくれていたでしょう」

 「何のことかな?」


 魔物は死角から襲ってくることはなかった。視界で捉えられていた範囲にのみいた。


 まさかアース殿下が最後尾にいたのは守られるためではなく、私達を守るため?


 目を凝らせば至る所に魔物が倒れている。的確に急所を狙い一撃で。


 王立学園は三年になると魔法の実技訓練として課外授業が行われる。


 下級魔物を討伐するだけ。口にするだけなら簡単だが、実際に対峙すると討伐は難しい。


 魔物は生きている。授業で習ったことが実践に活きるかは別。


 そう。別、なのだ。


 普段から魔法を扱う特訓をしていたとしても、上級魔物の巣窟で息をするように簡単に仕留められるものなのか。


 下手をしたら一人で私達よりも多くの数を倒したことになる。


 最大限魔力を絞り、大型魔法を使わなかったとしても魔力切れにならないなんて。


 アース殿下の魔力はそんなにも多かったのか。


 「アルフレッド。くれぐれも無理はしないでくれ」

 「殿下こそお気を付けて」


 アルは父親であるグラン伯爵と共に更に奥に進む。


 グラン伯爵は独身ではあるためアルは養子。実の子ではない。


 貴族の血を引いていて魔法と剣術の才能が目に留まり、引き取ったと聞いた。


 正式な手続きは卒業してから。


 「ユファン嬢。まだ治せないのかい」

 「も、申し訳ありません。すぐに」


 腹を突き破られたラエルは内臓まで傷つき、このままでは死ぬ。


 先程から魔法は発動しているはずなのに、あの日の眩い光と温かさは感じられない。


 「もういいよ、ユファン嬢。そこを退いてくれ」

 「大丈夫です!ラエル様は私が治します」

 「無理だ」


 健気に、必死に頑張ってくれているユファンを冷たく突き放すような一言。


 「今の君ではせいぜい、かすり傷を治す程度の力しかない」

 「そんなわけありません。私はクローラー様を治したんです。ラエル様のことだって」

 「はぁぁ。身の程知らずもここまでくると清々しい」

 「ん゛ん゛!殿下。言葉にはお気を付けを」

 「そうだったね。ごめんごめん」


 ユファンを下がらせ、ラエルの傍らに回復魔道具を置いた。王族が所有する魔道具は貴族が持つ物より遥かに性能が良い。


 私とヘリオンの傷も綺麗に治してくれる。痕を残さずに。


 「運が良かったね。グレンジャー家の次男くん。もしも内臓が破裂していたら魔道具では治せなかった」

 「治して頂きありがとうございました」

 「いや、いいんだよ。目の前に、明らかに怪我をしている人間を放っておくほど僕は鈍感でも鬼畜でもないからね」

 「どういう意味ですか」

 「わからないならいいよ。少し話がしたいけど、周りがうるさいかな」


 一本の大きな水の柱。姿を現す魔物は近づいてこようとしない。


 恐らく、水の柱から魔力を放出している。本能で生きる魔物だからこそ、近づき触れれば死ぬと理解した。


 「実はこの討伐編成、君達に意地悪するためだったんだ。ごめんね」

 「はい?」

 「だって、こうでもしないと自分達の力と向き合わないよね?魔力も実力も並の貴族より高いってだけで自惚れている君達はさ」

 「殿下は随分とおふざけがお好きなようですね」

 「女の子の前だからとカッコつけてバカの一つ覚えみたいに巨大な魔法ばかりを使う。あげくに怪我をして、死にかけて。名家が聞いて呆れる」


 返す言葉もない。


 魔力は有限であるからこそ、魔物と戦うときは慎重にならなければならないと授業で習ったはずなのに。


 愚かな間違いは認めなければならない。


 私達のせいでユファンを危険に晒すところだった。


 「ユファン嬢。君は自分の力をわかっていなさすぎる。平民で魔力を持ち、光魔法を得たことに酔っているのか?」

 「そんなことありません!!」

 「ではなぜ、同行した?」

 「え?」

 「私は君に命令はしていない。出来れば魔物討伐に力を貸して欲しいとお願いをしんだ。断れるように」


 沈黙が流れる。魔物の呻き声も聞こえない。


 殺気にも近いオーラに息を飲む。


 ユファンには耐えきれないらしく俯いてしまった。アース殿下は構わず上から圧をかける。


 「君が魔法を使ったのは約一ヵ月前。それ以降は一度も使えていない。使っていないじゃない。使えていないんだ。これが何を意味するかわかるよね?」


 基礎しか習っていないユファンが最上級魔法を使えたのは偶然。


 魔力も足りていなかった。光魔法は世界を救った英雄の魔法。


 誰かを救いたい気持ちが強ければ強いほど、光魔法は真価を発揮する。


 ユファンの優しい心が私を救ってくれた。


 数えるぐらいしか会っていない私を、そこまで想ってくれているのは、つまり。ユファンは私のことを……。


 「よもや、また奇跡が起きると信じていたのかい?この国に奇跡が起きることはない。絶対に」


 感情が高ぶったせいが不安定に揺れていた水の柱は崩壊。その一瞬を逃さず魔物は一斉に襲いかかってくる。


 私はどうなってもいい。ユファンだけは守らなければ。


 動くよりも先に水と風の合わせた高度な魔法が四方から飛びかかる魔物を脳天を貫く。


 アース殿下は空を見上げた。何かを悔いるように。


 風が吹き木々が揺れ、間から差し込む日差しがアース殿下を照らす。


 「アルフレッドも戻ってきたみたいだし帰ろうか。今ので僕も魔力が尽きた」

 「殿下。ご無事でしたか」


 グラン伯爵がアース殿下の元に駆け寄る。アルも小さく息をついたのを見ると魔力切れ。


 騎士だけが戦える状況になってしまったわけだ。


 大方の魔物は片付いた。横道に逸れなければ魔物と遭遇することもない。


 前後に騎士を配置し来た道を戻る。


 こうなるとわかっていれば魔力石を持ってくるべきだった。


 ずっと誇ってきたグレンジャー家をも侮辱され、今回の討伐で私が残した結果は失態。


 森を抜けると張り詰めていた緊張感から解放された。


 全員が大きく息を吸い、生きていることを実感する。


 私はともかくラエルは死にかけた。回復魔道具で命は救われたとはいえ、医師に診てもらったほうがいい。


 「小公爵。君はシオン嬢を捜しているようだが、どうしてかな」

 「くだらぬ噂を収拾するためです」


 子爵夫妻は事態の収拾に動くつもりはなく、しかもだ!あんな小さな店が王妃殿下御用達だと。


 潰すために手を回した直後、グレンジャー家に王妃殿下から呼び出された。


 余計な話はなく、あの店に手を出すなと忠告をされた。一度目は何も知らなかったから許されたが、知っても尚、手を出すのであれば……。


 王都には他にも店がある中で、あんな店が王妃殿下の目に留まるなんておかしい。


 学生時代に友人だったのなら辻褄は合うが、二人の年齢から違うと断言出来る。


 王妃殿下に「お気に入り」とまで言わせるなんて。それほどの価値があるとも思えない。


 「シオン嬢を追い出したのは君達だろう?連れ戻すなんて随分と虫がいい話だね」

 「勝手に出て行っただけです。私達は関与などしていません」

 「ならば、放っておいてあげたらどうだい」

 「アイツが原因でグレンジャー家の名に傷がついた。責任を持って収めるのがアイツの役目です」

 「ふっ……なるほど。全てシオン嬢が悪いと。では、王太子として命じよう」


 アース殿下の手が伸びてくる。左胸に触れ、徐々に上っていき首で止まった。


 あまり大きくない手は首を絞める形を取る。


 「勝手なことをするな。命令に背くのであれば、反逆者として君は罪人となる。ヘリオン・ケールレル。これは君にも命じたことだ」

 「あんな女にそこまで肩入れするとは、お優しいのですね。アース殿下」

 「この国は重罪を犯した。罪人は裁かれなければならない。僕達も君達も、国民全員。これからの未来を甘んじて受け入れる。それだけだ」


 アース殿下はあんな女に気があるはずがない。根が優しい人のせいで、くだらない正義感が出てしまっている。


 いらない物は切り捨てる。いずれトップに立つのなら時には非情さも必要だ。


 本当にアース殿下が次期国王でいいのか。国の未来が心配になってきた。


 私が父上の跡を継ぎ公爵として家臣になったら、甘い考えは捨てさせる。

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