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孤高にして最強の剣士、保護した記憶喪失の少女に懐かれる  作者: 遠藤鶴
第二章 黒閃の魔人と神覚の暗殺者
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降臨するリィズ

 ユルゲンスが斧を振り下ろすも、最早ヴィルハルトには掠りもしない。

 反対に、ヴィルハルトから放たれる剣は、確実にユルゲンスの巨躯に傷を刻んでいく。

 実力の差は歴然。しかしそれでも、ユルゲンスは退かない。


「負けられるか……如何なる苦難に陥ろうとも、ジュリウスなら膝を曲げることはない」

「この期に及んで尚それか……随分と厄介なものを遺してくれたな、アイツも」


 ヴィルハルトは忌々しげに顔を歪めながら、しかしユルゲンスから視線を外すことは一切ない。『それでも』と立ち上がる彼に、ヴィルハルトはいよいよ我慢の限界といった様子だ。

 何しろ、ユルゲンスのような『英雄(ジュリウス)を仰ぎ、それを手本とせぬ者は異端』とする価値観の人々こそ、彼が独りを選んだ最大の理由なのだから。


「だが仕方ない。奴の光が貴様を狂わせたというのならーー」


 ヴィルハルトは、外れ者(アウトサイダー)を大剣へと変形させた。ユルゲンスの斧に伍する質量の刃を保持し、待ち構える。


「奴の力で曇った貴様の目を、俺が覚まさせてやろう」


 それは彼なりの宣誓。

 力によって狂った者は、己という更なる力で目覚めさせる。

 端的に言えば、『ユルゲンスの中のジュリウス・ヴァーミリオンを超える』という宣言だ。

 当然、眼前の男がそれを看過出来る筈もなくーー。


「吠えたなヴィルハルトォ!! 『身体強化』ーー二重(ダブル)!!」


 土壇場での、練体術の重ね掛け。これにはヴィルハルトも驚愕を禁じ得ず、両眼を大きく見開く。

 とはいえ、流石に無茶をしているようで、 大きく振り上げた腕は小刻みに震えている。この一撃を避けてしまえば、二度は振るえないだろう。

 それに対してヴィルハルトが取るべき行動は、一つだけだった。


「身体強化ーー四重(クアドラ)!」


 全力の(ユルゲンス)を、全力で迎え撃つ。

 何処かに潜むリィズやセシルの存在は当然忘れていないが、今は関係ない。

 ユルゲンス・ザビコフに『己』を叩きつける。それだけだ。

 ユルゲンスが斧を振り下ろした瞬間、ヴィルハルトも同じように剣を振り下ろした。両者の刃は空中で激突しーー巨斧の刃が、粉々に砕け散った。そのままユルゲンスを断ち切るかと思われた大剣は、しかし軌道を変えると真横の地面を打った。

 練体術の四重掛けによって生まれた人外の膂力は、地面に蜘蛛の巣状のヒビを刻むだけでは飽き足らない。大地との接触によって運動を停止された結果、隕石の落下を思わせる、尋常ならざる衝撃が発生。その余波だけで、ユルゲンスの巨体が紙細工のように吹き飛んだ。当然、周囲の建造物もただではすまない。老朽化した壁が崩れ去り、埃を被った室内が露わになる。

 衝撃が収まると同時、ヴィルハルトは外れ者(アウトサイダー)を元のサイズに戻した。右手に視線を向けると、そこには何かがぶつかり、突き破られた壁が幾つも見える。その先にユルゲンスがいるのだろうが、確認している暇はない。どの道、あの衝撃を受けてはまともに立ち上がる事も出来ない筈だ。

 何より、戦いはまだ終わっていない。


「これが四重重ねの身体強化か。まともに喰らう想像をしたら、ぞっとしないね」


 衝撃波の余韻が収まらない路地裏に、靴の音と女の声が響く。

 ヴィルハルトの目の前には、仮面を身に着けたリィズ・クロームがいた。


「こうして顔を合わせるのは初めてだね。あぁ、そうそう。君、私が誰か――」

「リィズ・クロームだな」


 話し終わるのを待たずに正答を口にしたヴィルハルトに、リィズは舌を巻いた。


「……どうして分かったんだい?」

「顔を合わせるのが初めてなど、見え透いた嘘を吐くな。俺は貴様を覚えている」


 幼少期――エカテリーナの実験台となっていた頃だ。

 何の実験かは忘れたが、その最中に突如現れた女が、エカテリーナと話をしていたのだ。その女こそ、リィズ・クローム。


「何だ、覚えていたのかい。あの時は、互いの研究成果の発表会のようなものでね。私からは、これを見せてあげたのさ」


 リィズが、掌に極小の黒い穴を出現させた。空間と空間を接続するそれは、既存の魔術のどれにも当たらない謎の能力。

 だが、これはエカテリーナも魔物の移動に扱っていたらしいものでもある。


「彼女が言っていた『異界魔法』なるものを、彼女の手記を基に作ってみたのさ。異界魔法『次元孔ワームホール』。エカテリーナ、いや……『魔王』も使ってくれているようで、私も鼻が高いというものさ」

「貴様、知っているのか」

「伊達に賢者なんて呼ばれてはいないのさ。それでなくとも、私は君の倍は生きている。()()()()もね、『最初の魔将』ヴィルハルト・アイゼンベルク」


 柄を持つ手が強く握り込まれ、剣先をリィズに向けるヴィルハルト。


「俺に懸賞金を掛けたのも貴様か」

「そうだよ。まぁ、アレは殆ど意味なかったけど。でもいいさ、私の切り札はここにあるからね」


 そう言ってリィズは、人間大の孔を()()()()()()()()()()に出現させた。

 そこから飛び出してきたのは、ミスリル製の短剣『双刃弓リベレーター』を構えたセシル・クロフォード。


「チィ……!」


 勇者の看板を背負うに足る速度で駆けてきたセシル。剣での防御が間に合わないと察したヴィルハルトは、『硬化』の術を二重に掛けて対応した。

 セシルの刃とヴィルハルトの鎧が衝突し、甲高い金属音が響き渡る。防げた、と胸を撫でおろすことなく、ヴィルハルトはこの状況に微かな違和感を感じていた。

 双刃弓リベレーターは、その名の通り二本の短剣。だが、今セシルが持っているのは『右手の一本だけ』。

 それを察した次の瞬間――セシルの左手から、何かが投げられた。それは首無し鎧デュラハンの胸元に当たると、一切の傷を付けることなく弾かれ、地面に落下する。見るとそれは、何かの鍵のようだった。


「……貴方の強さの理由。連帯術の重ね掛け、再生能力に無尽蔵のスタミナ。そして、外れ者アウトサイダー首無し鎧デュラハン


 両目を包帯で隠した、濃藍の髪の少女。淡々と語る彼女の声を聞きながら、リィズは口で三日月を描いていた。


「その一つを……潰す」


 次の瞬間――首無し鎧デュラハンが、ヴィルハルトの指示なしに、一つ一つのパーツへと分解されて地に落ちた。

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