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孤高にして最強の剣士、保護した記憶喪失の少女に懐かれる  作者: 遠藤鶴
第二章 黒閃の魔人と神覚の暗殺者
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甘く見たな

 観客席もいつの間にか静まり返り、決着の時を固唾を呑んで見守っている。


「こんな切り札を隠していたとはな……全く驚かされたよ、ヴィルハルト」

「アンタこそな。まさか外されるとは思わなかったぞ。だが――」


 ヴィルハルトは、ヒビだらけの木剣を構え、獰猛に笑った。

 見るからに砕けそうな剣だが、ヴィルハルトならあと数発は保たせるだろう。

 練体術を使用すると、『武器は自動で強化される』。重ね掛けすればその分も強化されるので、必然彼の木剣はルドルフのそれより硬くなっている。


「もうアンタたちを打ち負かす算段はついた」

「フン、言ってくれますわ」


 強気な発言に、ロザリアもまた良家の令嬢らしからぬ獰猛な笑みで返した。


「叔父様と私(わたくし)は最強ですわ。アナタ達如きに、負けるはずないでしょう?」

「ルドルフさんもロザリアさんも、確かに凄い人達です。それでも……」


 エレインが、グッと拳をロザリアに突き付け、ハッキリと言ってのけた。


「私とヴィルハルトさんは負けません!!」


 四人の心の中が、一つの意志で統一される。


『自分たちは、負けない』 


 その意志の確かめ合いが、最後の激突を告げる合図となった。


「身体強化、《二重(ダブル)》」

「身体強化、《三重(トリプル)》」


『さて、これが最後のぶつかり合いか!? まず最初に仕掛けたのは、ルドルフ氏だ!』

『まあ、剣で防がれても削りにはなるしな。仕掛けねぇ理由はねぇ。気になるのは……』


 ロザリアは魔術を使わず、ルドルフと重ならない位置に陣取っていた。まるで何かを狙っているように、ジッと前を見つめている。一方エレインは、ヴィルハルトの右後ろに真っ直ぐ立っている。『整調』の宣言を行い、それに集中していた。

 ルドルフが上段に剣を構えながら、ヴィルハルトに接近する。速すぎず遅すぎない、絶妙な速度でにじり寄り、プレッシャーを掛けていく。それに対しヴィルハルトは、左斜め前へと小さく進み、横から斬りかかろうとする。ヴィルハルトとルドルフ、両者の間合いが重なり、剣が振られたその時――轟音と共に、ヴィルハルトが木(・)剣(・)を(・)落(・)と(・)し(・)た(・)。


「ッ!!」


 驚愕に目を見開くヴィルハルト。彼が視線を向けた先には、指先から雷光を迸らせるロザリアの姿があった。

 ロザリアが術を行使しなかった理由。それは、『狙いをつけるため』。

 彼女の絶技、秒間十二発の黄雷。彼女はそれらを、寸分違わず同じ位置に――ヴィルハルトの右手に撃ち込んだのだ。

 剣を振る瞬間、左手が柄を手放す瞬間を狙って。


「ロザリアを甘く見たな」


 ルドルフが勝ち誇るように、天雷を放った。ヴィルハルトは落下した剣を前方に蹴飛ばしながら、左に跳躍して天雷を回避。しかし、みすみす逃がす剣聖ではない。


「驕るなよ、ルドルフ。あんな鈍(なまく)ら、俺(・)に(・)は(・)必要ない」


 次の瞬間、ヴィルハルトは拳を握り、ルドルフに殴りかかってきた。三重の身体強化を受けた身から繰り出された拳。が、それでも間合いを詰める必要があった分、ルドルフの剣の方が速く当たる。

 ヴィルハルトの敗北――その可能性をロイドが意識した時、ヴィルハルトの拳が軌道を変えた。

 拳が開かれ、その手はルドルフの剣を受け止めていた。凄まじい衝撃に、一度距離を取ろうとした矢先、左手が彼の剣を掴み、それと同時に右手でも掴まれた。


「まさか、最初からそのつもりで――」

「剣聖の剣を素手で迎え撃つ程愚かではない」


 だが、このまま武器を掴まれたままにするほど、『雷霆』ロザリアは甘くない。再び放たれた黄雷の大群が、ヴィルハルトの右手から力を奪い、剣を手放させた。

 だがそれでも、ヴィルハルトは諦めない。


『えっ……』

『ハァ!?』


 実況と解説が同時に驚愕の声を挙げたが、最早ステージ上の誰も聞いていない。そんなものに耳を傾けられる状況ではないから。


「身体強化、《+一重(プラスワン)》!」


 ヴィルハルトが勝負に出た。再度の練体術四重掛けによって繰り出された拳が、ルドルフの顔面目掛けて放たれた。

 その一撃が撃ち抜いたのは、割り込んだルドルフの木剣だった。

 直撃の瞬間後方に跳んだことにより、衝撃を拡散させ、ギリギリで木剣が砕かれるのを防いだ。その分大きく吹き飛ばされはしたが、今度こそ自分たちの勝ちだ。

 四重の身体強化を解除した彼は、今なおルドルフの元に向かっているが、その動きは先ほどまでとは比較にならない程遅い。

 四重掛けの負荷により三重掛けが出来なくなっている上、ロザリアが重力増加と低下を高速で切り替える妨害を行っているからだ。

 今のヴィルハルトなら、確実に叩ける。そう確信した矢先――ルドルフの背筋に、尋常ならざる寒気が走った。

 悪寒を感じた彼は、ロザリアを横目で見た。するとそこには、態勢を崩している彼女の姿があった。

 そして、もう一つ気が付く。先ほどヴィルハルトが蹴り飛ばした彼の木剣。あ(・)れ(・)は(・)何(・)処(・)に(・)行(・)っ(・)た(・)の(・)か(・)。


「さっきのアンタの言葉だが……そのまま返してやる」


 目の前まで来たヴィルハルトが小さく笑った。


「エレインを甘く見たな」


 その言葉を聞いた直後、気配を感じて後ろを振り向いた。しかし直後、ルドルフの眼前で幾つもの光が炸裂した。

 突然の事態に内心に動揺を宿しながらも眼を見開き、その正体を探ろうとした。

 そして、小柄な少女の体躯を認めると同時、頭頂部から、何かをぶつけられた音と共に微かな痛みが走った。


「……!?」


 今観客たちが見ているのは――手にした木剣を空中で振り下ろし、ルドルフの頭を殴ったエ(・)レ(・)イ(・)ン(・)の(・)姿(・)だった。

 今日最大の驚きで眼を満たすルドルフに、エレインは堂々と言い切った。


「魔導士の役目は、戦士に役目を果たさせること。そして戦士と魔導士は対等。それなら……私が代わりにやっても、何も問題ないはずです!」


 魔導士は前に出ない。そんな常識を持たない彼女だからこそ起こした行動が、ヴィルハルトに勝利を齎した。


「こういう奴なんだよ……こいつは」


『そこまで! この試合、勝者は……ヴィルハルト・アイゼンベルク及びエレイン・アーネット!』


 ヴィルハルトとエレインの勝利を、アルマイレ王が告げると同時、会場を今日一番の歓声が包んだ。

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