ロザリアとエレイン
会場中が沸き、王が満足げに眼を細めている。この時点で、とりあえず興行としては成功していると言っていいだろう。
しかし、アリナは大勢の観客と違い、苦い顔をしていた。
「まずいわね……」
ヴィルハルトはまだいい。問題はエレインだ。彼女は確かに、魔術の強度についてはロザリアを上回っている。
だが、ロザリアの発動速度がアリナの想定以上だった。現状、ロザリア相手にエレインがまともに張り合えるイメージが浮かばない。
『さて、ロイドさん。現状、有利なのはどちらでしょうか?』
『そりゃあ……ルドルフさんとロザリアだろ』
アリナと同じ考えを、試合の解説を担うロイドが口にしていた。
『ヴィルハルトとルドルフさんは互角か、ややヴィルハルト有利って感じだが……魔導士ならロザリアが上回ってる。このまま打ち合っても、頭を打たれるのはヴィルハルトの方だろうな』
『しかし、ヴィルハルト氏は先程、ルドルフ氏にカウンターを決めていましたけど……』
『今ので仕留められなかったのは、かなり痛いぜ。ルドルフさんに、同じ手はまず通らねえだろうからな』
『なるほど……』
ロイドの評価を裏付けるかのように、ヴィルハルトが放った剣をルドルフが躱す。先ほどまでと違い。身体強化を三重に掛けているのに、だ。
『力押しでは厳しい』というヴィルハルトの予測は正しかった。身体面では圧倒しているはずのヴィルハルトの攻撃を、ルドルフは全て的確に捌いている。ロザリアが『黄雷』を解禁したことで、こちらも虎の子の練体術三重掛けを解禁したものの、肝心の剣の冴えが先刻より鈍っている。
理由は明白だ。
『それにしてもロザリア氏、黄雷の連射から戦術を切り替えた模様。これは……『重力増加』と『重力低下』を高速で切り替えているのでしょうか!?』
『隙を作らせるのは効果が薄いとみたんだろう。ヴィルハルトの眼じゃなくて、動きを阻害する方向に切り替えているな』
ロザリアが、ヴィルハルトに『重力増加』と『重力低下』を交互に発動している。〇.一秒単位で身体の重量が上下しては、さしものヴィルハルトもいつも通りという訳にはいかない。
「このままじゃ……!」
ヴィルハルトを信じて『整調』を掛けることに終始していたエレインは、ここにきてロザリアの脅威を認識した。
私が彼女に勝たないと、ヴィルハルトさんも勝てない。
エレインは、ロザリアを妨害するべく彼女に『黄雷』を打ち込んだ。それに対し、ロザリアはエレインに秒間十二発の黄雷で返事をする。
「ぐぅッッ!!」
練習相手だったアリナの倍の密度の雷撃を受け、エレインの術を扱う手が止まった。それを好機と見たロザリアは、行使する術を『赤炎』に変更。
空中に出現させた八発の火球をヴィルハルト目掛けて撃ち込んだ。
「……チィッ」
ルドルフの身体を使って自身を隠した上で放たれたそれを見て、ヴィルハルトは目を大きく見開いた。殺到する火球をバックステップで躱すと、床に激突した炎が一斉に火柱を生み出した。ステージには対魔術用の加工がされている為、すぐに消える。
が、その火が消える直前に――火の中から、剣を突き出した剣聖が姿を現した。ロザリアが整調を施し、エレインがそれを止めるべく再び黄雷を放つものの、既にルドルフは自身の間合いに、ヴィルハルトを入れていた。
頭上から振り下ろされた『天雷』を、ヴィルハルトは下からの斬り上げ技『昇燕』で迎撃。二つの剣が激しく激突し、両者共に一歩ずつ後退する。が、即座に態勢を立て直し、今度はお互い逆の技を放った。
この時、ロザリアを封じるべくエレインはロザリアに重力増加の術を掛けた。
「ロザリアさんを止めなきゃ……!!」
しかし、それでもロザリアは揺るがない。態勢を崩しながらも、ヴィルハルトに黄雷を連射する。
聞いているはずなのに、止められない。
徐々に焦りを募らせるエレインの目の前で、ヴィルハルトとルドルフの木剣が再び激突し――バギィッという二つの音が、劇場内に響いた。
『あ~~っと! こ、これは!?』
その瞬間、アルマイレ王が席を立ち、叫ぶ。
「試合中断!! 直ぐに替えの物を用意せよ!!!」
王の声と共にスタッフがステージに上がり、完全にへし折れた二つの木剣を回収していった。
黒閃の魔人と斬滅の勇者。彼らの激突に、木剣の方が耐えられなかったのだ。
『し、試合中断です! 観客の皆様、しばしお待ちを!』
思いがけず訪れた待ち時間に、ヴィルハルトは息を吐きながらエレインの元へ来た。
エレインは身体をビクリと震わせて、頭を下げる。
「ごめんなさい、ヴィルハルトさん! 私……全然ロザリアさんを止められなくて……」
彼は何も言わない。エレインは頭を下げたまま、懺悔を続ける。
「ヴィルハルトさんのこと、助けるどころか良いように邪魔されて……私のせいで、ヴィルハルトさんまで負け――」
エレインの言葉は、頭に走った衝撃によって中断された。
「痛っ!?」
ジンジン痛む頭を押さえながら顔を上げると、いつもの仏頂面のままヴィルハルトが口を開いた。
「勘違いもここまで来ると笑えてくるな」
「……え?」




