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孤高にして最強の剣士、保護した記憶喪失の少女に懐かれる  作者: 遠藤鶴
第一章 凶戦士と『自称』仲間たち
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黒閃の魔人と仲間たち

 窓から差し込む朝日が、新たな一日の始まりを告げる。

 エレイン・アーネットは目を擦りながら身体を起こし、寝間着を脱いで普段着に着替えた。


「よし!」


 グッと胸の前で両手を握り込み気合を入れると、小屋の玄関を勢いよく開けた。


「おはようございます、ヴィルハルトさん!」


 外で素振りをするパートナーに声を掛ける。

 魔将との激戦の翌日とは思えない程、ヴィルハルトはいつも通りだ。流石の彼も昨日は睡眠を摂ったはずだが、エレインよりも早起きなのは、休める必要があるのが頭だけだからだろう。

 そのヴィルハルトは、エレインの威勢の良い挨拶に対して眉を顰めながらの皮肉で返した。


「昨日あれだけ動いたというのに、元気だなお前は」

「それはもう、寝てばかりいる訳にも行きませんから!」


 エレインの胸元には、キラリと光る銀色の紋章があった。

 魔将を討ち集会所に帰った後、テオドールが倒れた場所にあった魔晶石を渡した所、大騒ぎとなった。

 当然だろう。大型魔物のそれとは比較にならない密度の魔晶石が出されたという事は、魔将が討伐されたということだ。

 周囲の戦士達の証言もあって、ヴィルハルトとエレインはジュリウスに次ぐ二組目の魔将討伐者として認められる。その際、魔導士で無いにも関わらず戦場に出たエレインも特例的にお咎めなしとなり、その上で二段飛ばしで一気に『上級魔導士』として認められることとなった。


「いや〜〜まさかこんなに早く魔導士になれるなんて思わなかったです! これからは、ヴィルハルトさんの背中は私が守りますね!」

「吐かせ。俺は誰かに背中を預ける気も、背中を預かる気も無い。戦場にいる以上、対等な協力者だろうが」

「お……」


 エレインが目をキラキラさせている。喜ばせる気は無かったヴィルハルトは、再び眉を顰める。


「……何が嬉しいんだ」

「だって今、『対等な協力者』だって。ロイドさんに『仲間だと思ったことない』なんて言ってたヴィルハルトさんが、対(・)等(・)な(・)協(・)力(・)者(・)って言ってくれたんですよ……。そりゃ嬉しいに決まってるじゃないですか〜〜」


 エレインは感動で目に涙を浮かべていた。あのヴィルハルトに認められたことに、記憶にある限り初めての喜びを感じていた。


「仲間とは言っていない」

「え〜〜じゃあ仲間じゃないんですか?」

「……そうとも言っていない」


 否定も肯定もしない、というどっちつかずの態度。しかしエレインは、どちらにせよ認められた事には変わりないと感動を噛み締める。

 そのようなやり取りを交わしていると、俊敏な動きで小屋に近づいてくる人影が二つ、目に入った。二つの影はエレインの目の前で止まると、何やら紙を二枚差し出してきた。

 よく見ると、それは今朝の新聞だった。


「ちょっとアンタ達! これ!」

「面白れぇことになってんぜ」


 二つの人影の正体はロイドとアリナ。彼らの姿を認めた瞬間、ヴィルハルトの表情が氷の様に冷たくなる。


「待て、その前に答えろ。何故お前達がここを知っている」

「エレインちゃんが昨日教えてくれたのよ」

「おい……」

「あ、その……。お二人なら、良いかなと思って……」

「……まあいい、後にするか。で、これはーーッ!?」


 一面記事を見た時、ヴィルハルトは困惑を隠し切れなかった。

 続いて記事を見たエレインは「おぉ〜〜」と声を漏らした。その記事とは、まさにヴィルハルトの記事だった。


『魔将討つ! 『黒閃の魔人』ヴィルハルト・アイゼンベルク!』


「いやまぁ……そりゃそうだろうよ。魔将討伐なんざジュリウスさん以来の偉業だ。こんな特ダネ見逃す訳ねぇって」

「いやでも、黒閃の魔人って何なのよって話よね」

「そりゃアレだ。凶戦士って名を馳せてた奴を勇者なんて認められないだろ? だから魔人なんてつけたんだろうよ。まぁ間違いなくジュリウスさんの異名『白閃の勇者』の対比だな。アリナ的には複雑か?」

「まぁ、アタシも思うところはあるけど……一番アレなのはヴィルハルトでしょ」


 アリナが指で示した方向には、静かに新聞を握りつぶして震えるヴィルハルトの姿があった。


「これを書いたのは何処のどいつだ……」

「待って待って!! 気に入らないのは分かるけど、流石に殴り込みはヤバいわよ!」

「そうだそうだ。言わせときゃ良いんだよ、こういうのは。それにこの異名ちょっと面白ぇし」

「アンタは黙ってなさい!!」


 まさに新聞社に殴り込む気のヴィルハルトを、アリナが必死に止める。ロイドは少し後方から野次馬じみた言動で場を更に混沌とさせる。

 この空気を変えたのは、エレインだった。


「私は良いと思いますよ」

「……ほう? 理由は?」

「魔人って、凄くヴィルハルトさんらしい呼び方じゃないですか? まさに唯一無二じゃないですか! それに、呼ばれ方一つで変わる人じゃないでしょ、ヴィルハルトさんは」


 何処か楽し気に語る彼女の姿には、ヴィルハルトも怪訝な面持ちを見せた。が、すぐに嘆息しながら引き下がった。


「まぁ、その通りだな」


 魔導士となったからか、それとも命を懸けて戦ったからか。エレインに対するヴィルハルトの態度には若干の軟化が見られる。ロイドとアリナは、顔を見合わせて小さく笑った。


「ああ、そうだ。ヴィルハルト、あの魔将が言ってたことだがよ……」

「ちょっ、ロイド!?」

「聞いていたのか」


 唐突に切り出したロイドに肝を冷やしたアリナ。一方で、ヴィルハルトの反応は冷淡だった。あの場にいた以上、聞かれているというのは想定していただろうが、だとしても相変わらずの表情の変わらなさ。その無表情を維持したまま、あっさりと告げる。


「嫌なら無理に会いに来る必要はない。去るなら好きにしろ」

「……はぁ?」


 何を言い出すかと思えば。

 怒りで逆に頭が冷えるのを感じながら、アリナはヴィルハルトの胸元を軽く殴った。拳にミスリルの硬さが伝わり、少し顔を顰めるが、気にしない。


「アンタね、人を舐めるのもいい加減にしなさいよ。アタシが今更そんなことにこだわる様に見えるワケ? アンタが魔王……エカテリーナを嫌ってて、誰より魔物を狩るのに真剣なのも知ってる。どう考えたって人間(アタシら)の敵じゃないわ。……見た目程冷血動物じゃないっても、最近知ったし。それに何より――」


 傍にいたエレインをグイっと抱き寄せ、頬ずりする。


「アンタだけじゃ、エレインちゃんの教育に良くないわ。この娘、アタシの一番弟子だから。アンタだけに任せられないわ」


 アリナの答えに、ロイドが声を上げて笑う。ひとしきり笑った後、いつものニヒルな微笑を浮かべ、自身の思いを述べる。


「まぁ、アリナはこういう奴なんだよ。相手が悪かったな、ヴィルハルト。ちなみにオレの答えは一つだけ」


 グッと拳を突き出すと、彼にしてはレアな満面の笑みで言い放った。


「ダチとつるむのに、理由なんざ要らねぇ」


 二人の反応に、ヴィルハルトは観念したように両手を挙げた。ほんの少しだけ、口の端に弧を描いて。


「なら好きにしろよ。俺の邪魔をしないならな」


 雨季が近いこの時期には似つかわしくない、爽やかな草の匂いを運ぶ風が四人を通り過ぎていく。他人に対し、生涯初の感情を抱いたヴィルハルトは未知の思いを胸に秘めながら、三人の顔を順番に見た。その時だった。


「ねぇ、この音って――」

「いやいや、マジかよ。終わりじゃねぇのかよ」


 魔物の襲来を告げる警鐘が鳴り響く。しかし、考えて見れば『魔将を討たねば魔物は滅びない』のと『魔将を討てば魔物が出なくなる』のはイコールではない。


「そういえば、魔将が倒れた後、魔物は『変な穴に飲み込まれた』って聞いたわね」

「それって……エカテリーナさんのせいですよね?」

「だろうな。多分回収したんだろう。だとしたら、あの人が適当に吐き出して来ててもおかしくねぇな」

「やめましょ、あの人の事考えるの。……というか、ヴィルハルト。アンタその剣――」

「ああ、これか」


 ずっと気になっていたが、聞くタイミングが無かった。

 魔将との闘いで砕けたはずの外れ者(アウトサイダー)がヴィルハルトの背中に平(・)然(・)と(・)収まっているのだ。何がそんなに気になるのか、という面持ちでヴィルハルトは答えた。


「外れ者(アウトサイダー)だ。予備を持っていた」

「いやちょっと待ちなさい!?」

「……? 予備の得物を確保するのは常識だろう」

「そこじゃないわよ! アンタそれ幾らすると思ってんの!? 量産されてるとはいえ魔道具よ、魔道具! ちっさい家なら王都に建てられる金額よ!?」


 頭を抱えて絶叫するアリナを軽くあしらうと、ヴィルハルトは門に向かって歩き出す。鳴らされた鐘は、ここから最も近い門の場所だ。ならばすぐに行ける。身体強化を掛けて駆け出そうとした時――ヴィルハルトは一つ思い出した。

 そういえば、まだ名(・)前(・)を(・)呼(・)ん(・)で(・)い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。


「エレイン」

「……はい?」


 すっとぼけた声を出した魔導士(あいぼう)に、背中を向けたまま指令を告げる。


「何をしている。さっさと魔物(やつら)を潰しに行くぞ」


 エレインを名前で呼ばなかったのは、彼女の正体が自身の敵である可能性を考えたからだ。

 魔物の蔓延る森に一人佇み、魔力を視る特性(スキル)を持つ。ましてウルスラ・マージリントと外見特徴が似ているという点から、当初彼はエレインをエカテリーナの実験体と考えていた。

 しかし、エカテリーナが彼女に殆ど何も触れなかったことから、その可能性は限りなく減少した。

 もし仮にそうだったとしても、別に構わない。

 少し、この少女の人間性に興味が湧いた。


「……はい!」


 花のような笑顔で元気一杯に応えたエレインは、彼に並び立つ。再び歩き出す前に、ヴィルハルトはもう一言付け足した。


「アリナ、ロイド。お前達も急げ」


 とりあえず、この三人は良しとしよう。

 誰に言う訳でもなく、そんなことを思いながら、ヴィルハルトは歩き出した。


「アンタに言われるまでもないっての!」

「丁度いいや。お前に良いモン見せてやるよ、ヴィルハルト。ゴーレムすらぶち抜く新技をな」


 四人は門に向かって行く。

 魔将の一体を倒したが、まだ魔将は存在するし、その先には魔王エカテリーナも待っている。

 道は遠い。が、希望はある。


 半人半魔の『魔人』と、記憶喪失の天才魔法少女。改めて結成した異色のコンビが、魔物蠢く戦場へと駆けていった。

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