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十五話IF・後編

 大きな目が閉じられ、意識を失った桃理がぐったりと黒威に身を預ける。

「ああ、やっとお前をこの手にできた」

 前はしくじって桃理を黒威のものにすることができなかった。手に入れる前に桃理は死に、魂を追跡するとやっかいなことに世界を渡って行ってしまったのだ。当時、異世界へと干渉できるほどの力のなかった黒威は、地団太を踏んで悔しがることしかできず苦渋を味わった。どうすればもう一度彼女に会えるかを考え、ひたすら力を求めて強くあろうとして、ついには神の端くれとなり望んでいた強い力を得た。

 今度こそ失敗はしない。桃理が人間の雛子となり育っていくのを観察しながら入念にプランを練っていると、目に入ったのは一人の面白そうな少女だった。

 佐藤美紀。彼女は世の中の理不尽さを嘆き、苛立ち、何かにつけ他者のせいにして恨んでいた。唯一心が穏やかになるのは乙女ゲームをプレイしているときのようで、心のよりどころなのだろう、酷く依存している。こいつだと狙いを定めて黒威は彼女に近づいた。起きているときは忘れてしまう夢の中で囁き背中を押すと、しだいに現実へと反映していく。

 黒威がほんの少し誘導してやっただけなのに、佐藤美紀は拍手してあげたいほど見事に動いてくれた。彼女の劣等感を刺激する十一人を殺させ、十二人目に雛子になった桃理、最後の十三人目に自殺させた。雛子以外の全ての魂をも逃がさないように確保しておく。目的のために必要なのだ。

 閉じ込めた雛子になった桃理の様子を眺めていると、佐藤美紀で釣ったほうが契約は上手くいくと確信する。彼女の性格からして復讐できることを教えれば何を払ってでも飛びつくだろう。あの蕩けるような他者を魅了してやまない笑顔が、執念深く恨み一矢報いようとする情熱が、身内に甘く心配する優しさも、全部自分だけのものになると想像するだけで笑いは止まらない。

――桃理を手に入れ、永遠に所有して手放さないのは、この俺だ!

 逸る気持ちを抑え、まずはシナリオ通りに動いてくれた佐藤美紀の前に姿を現せば、嬉々として願望を口にしてくるので欲望に忠実なところは気に入った。褒美とばかりに少しばかり手を入れて良い悪役に仕立て上げてやる。桃理が望む復讐相手がショボイ奴じゃ可哀想だ。勝てないかも、くらいの能力を与えてやろう。これで桃理が死んでくれればすぐに自分のものになるし、死なないならば近くで見守って時が来るのを待てばいい。どちらにしても黒威に損はない。

 他の生贄連中はとりあえず契約し、死んだ後に魂を奪えば黒威の力になる。適当に相手をしつつ、出しゃばらないように調整も加えておく。どうせ、授けた能力の半分も使えないだろうし、問題などあるはずもない。

 桃理の前に現れ悪魔だと名乗ると胡散臭そうな表情をするが、佐藤美紀の名を出せば食いついてくる。無事に契約を交わすと魂を送り出した。ああ、もっと話していたかったと名残惜しいが、これで舞台は整った。後は機が熟すのを待つだけだ。

 桃理が昔と同じ名に戻り、すこやかに成長していくのを眺める。前の桃理とよく似ていて、容姿もそうだがその性格。転生しても本質は変わらないものだが、ここまで同じなのも珍しい。雛子の記憶を引き継いでいるせいか。ということは、雛子だったときから前の桃理と似ていたのか。どこまでいっても彼女は彼女でしかなかった事実に黒威は歓喜する。

 桃理は復讐心を抱きながら力を溜め、ひたすら佐藤美紀を待つ。その執念深さと一途さ、一身に受ける佐藤美紀への感情が羨ましくなる。魔神となったはずの自分がドロドロした気持ちを、あえて我慢をしているのが不思議だ。いつもの自分ならばもっと感情のままに動くのに、慎重さを心掛けているせいか堪えている。ひとえに桃理を確実に手に入れるためだ。全ては愛しい桃理のため。

――早く、早く死ねばいいのに。

 呪詛をかけるように頭の中で唱えてしまうのはご愛嬌。本気でかけようと思えばできるので、力をめないようにするのは必死だった。

 幼稚舎と初等部に桃理は来なかった。どうやら、一族掌握のために動いているらしい。残念だ。桃理のいない場所などつまらないものだから、学園生活は全て白威へと押し付けて黒威は桃理の観察に専念する。

 中等部に上がるとようやく桃理は顔を出した。しもべのせいで受ける嫌がらせを笑って楽しみ、飽きたら僕によって相手を潰させる。自分がゲームのキャラだと気付き驚いたり、復讐相手がいないと右往左往している姿は可愛かったし、生徒会の攻略キャラと絡んでいるのは気に食わないが一抹の夢でしかない。現世ぐらいは彼らに譲ってやってもいいだろう。

 高等部で地盤を固め派閥の勢力拡大をし、来ない佐藤美紀に不安を抱く桃理。つい手を差し伸べてやりたい気持ちになるがぐっと我慢だ。こんな中途半端な場で黒威が出るわけにはいかない。

 二年が経ち、桃理が焦れながら最終学年になったとき、ゲーム主人公の万町陽菜を見つける。おそらく、陽菜を佐藤美紀だと思っているのだろう。残念、外れだ。さて、桃理は佐藤美紀に復讐できるかどうか楽しみだ。

 物語のスパイスとして転生させた他の契約者達はいまいち踊ってくれなかった。予想としては佐藤美紀の前座として活躍してくれると考えていたが儘ならないものだ。黒威は肩を落としながら契約者達に憤る。

 踊る前に速攻で捕まるってどういうことだ。能力的にはそれなりの物をやったが、ああ、ただ使いこなせていなかったせいか。もう少し弱い能力にしてやればよかったのだろうかと嘆息するが、これ以上弱かったら踊ることもできないその他大勢の生徒達モブとかす。自滅するならもっと面白おかしく散ればいいのに、地味すぎて退屈すぎる。もう少しくらい根性はないのだろうか。不愉快な気分の黒威は彼女達契約者が死んだ折に、嫌だと声が上がらないほど働かせてやろうと決めた。

 桃理はゲームの主人公だった陽菜のほうに目を向け、接触をしてからより調べ始める。生徒会で資料を読んで、月菜のほうが佐藤美紀だと当たりをつけた。爽志の口を割るために妖魔使いの能力まで使って健気だ。部屋に戻ると九姉弟に指示を出し、徹底的に月菜の調査を始める。彼らの能力ならすぐに桃理は佐藤美紀が誰だか分かるだろう。そうしたら、どういう復讐方法をするのか。九姉弟を使い徹底的な力の差を見せつけて殺すのか、生徒会を使い彼らの力を用い絶望を知らせるのか、風紀委員会を使い彼らの力を用い奈落の底へと突き落とすのか。楽しみで仕方ない。



 結果は予想外だったが、ひどく桃理らしい。自分を殺させることで龍達の恨みを買わせ、学園で自分の派閥に入っている者達にも嫌わせ、生徒会や風紀委員会に好感度を下げさせる。しかも、事前に手紙で殺すなと厳命している辺りたちが悪い。

 目の前に殺したいほど憎い相手がいるのに、桃理に縛られている龍達は手を下すことができない。生徒会や風紀委員会は殺そうと思えばできるが、夜理の報復を恐れてやらないだろう。まあ、鬼というのは元来頑丈というものだから、殺意丸出しで嬲っても死ぬ確率は低い。佐藤美紀はこれから死んだほうが楽な目に合わされる。いや、死んだとしても黒威と契約した時点で、死後の安寧はないも同然だ。果たして、どちらがマシなのであろうか。

 黒威がニヤニヤ笑いで見ている中、腹から血を流し抱きかかえられた桃理の体から魂が抜け落ちていく。絶大なるユニコーンの癒しも手遅れだったみたいだ。契約に縛られた魂は黒威の元へと引っ張られて手の内へと収まる。

 ようやく捕まえた。笑い出したい気持ちを抑え、誰の邪魔も入らない異空間を築き上げて桃理の魂を閉じ込める。

――もう、逃がしてなんかやらない。


これにてIF編は終わりです。

こっちのENDだと、ちょっと後味悪いかな~って感じですね。

でも、人を呪わば穴二つだからこっちでも別段おかしくないかな?


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