後編
「ま、まあ……これでも食べて待ってなさいということだろう」
「あっ!これはさっきのっ!」
「……うむ、毒もなさそうだ。安心なさい」
「ありがとうございます」
食べ損ねた限定品っ!わーい、ありがたくいただきます!
しばらくお菓子とお茶を堪能していると……部屋の外が騒がしくなった。
食べるのをやめ、姿勢をシャキッとして聖女モード。
疲れた表情の国王陛下とお怒り気味の王妃殿下でした。
パーティもお開きになってしまったようです。
「すまないな……あやつがあんなことをするとは」
「私からも謝らせてくださいな」
「いえ、どうせ側妃になるつもりでしたから……」
あの王子と子作りするくらいなら側妃制度万歳ですよねー。聖女や聖人は代々守られるためにほとんどの方が王族と結びつくが正妃か側妃かは聖女が選択可能(側室の場合王族とは白い結婚が多く人によっては愛人を囲うことも……)で白い結婚でも問題ないのは聖女は血筋から選ばれるわけではないかららしいです。
「……殿下は私の悪行を訴えても聞いてもらえなかったと言っていましたけど」
「何ですって?陛下、どういうことですの?」
うわー、王妃様完全お怒りモードだ……一気に部屋の空気が凍ったよ。
「う、うむ。何度もアルティアがやるとは思えないようなことをしたと訴えてきたのだが……まさか、自分で調べもしていないとは思わなくてな」
「それで、どうなさったの?」
「……アルティアがそんなことをするわけないから勘違いだろうと言いました。いつもの戯言かと思ったのが間違いだった……アルティア、本当にすまないな」
「いえ……私もあそこまで思い込んでいるとは知らなかったので」
「はぁ。どうやら私たちは息子の教育を間違えたようですね」
同じ教育を受けた王太子殿下は将来、賢君になると言われているくらいですから……教育の問題ではなさそうですけど。
「……あれほど大勢の前でやからしたからには第2王子は継承権剥奪の上、2人を結婚させ幽閉塔に入れておくしかあるまい」
「ええ、今回ばかりはそうしますわ」
幽閉塔とはやらかした王族が一生を過ごす場所である……ちなみに聖女だけはそこから厳重な警備の元人々を癒す為出られるらしい。ある意味強制労働ってこと……幽閉塔は石造りで冬は寒く夏は暑いところだそう。もちろん最低限の食事はでますが贅沢などもってのほか。
民からすれば普通に暮らせる所だそうですが豪華絢爛な城で暮らしていた第2王子にとっては牢獄でしょうね……
「そうですか……」
「それにここだけの話あのアヤネという娘……見極めたいのだ」
陛下がそう言われるのも無理はない……だってあのスタンピードの領に置いてあったら結界石はアヤネ様が作った結界石が張ったものなんですから。わざわざ民にアピールするため目の前で作ってみせたと聞いていますから、製作者に間違いはありません。
結界は張ると魔物はもちろん人も出入りできなくなるため、常に張ることはなく、緊急事態に使用することが多いです。
良家のお嬢様などは護身用に身につけていることが多いですが、似たような効果をもたらす魔道具(高価)もあるため神殿が独占しているわけでもないそう。
大森林やダンジョンが近くにある都市、隣国との国境などには複数置いてある。
通常、結界は3日ほど持つ為、その間に新たな結界石を用意するなり魔物を倒すなり……結界石の元となる精霊石はダンジョンや鉱山などから採取でき、結界石にする以外にも色々と使われているため聖女が到着すればその場で簡単に用意できるんです。
基本的に結界石の効果は通常3日程度だが、結界石の大きさや魔力の込め様によってはひと月ほど持つものもあるみたいですね……まぁ、よっぽどのことがなければそんなに魔力込めたりしませんけど。
ちなみに結界石を使用した場合、結界石を持ち歩けば結界を維持したまま移動可能。ただし街を囲うほどの結界を張ると結界石はかなり大きいので維持したまま移動はかなり困難らしいです。
「アルティア様が制作した結界石を領主が持っていたのが幸いでした」
「私ですか?」
「ああ、以前領主殿がわざわざ神殿へ来て頼まれ作っていたではないか?……ほら、あのお菓子だよ」
「はいはい!あの甘酸っぱいのがクセになるお菓子ですね!あれ、美味しかったです!」
「そ、そうか……」
そういえば……拳ほどの大きさの石でしたか。
それでできる限り効果を広範囲にして欲しいと頼まれたんですよねー……お土産のお菓子が美味しそうだったし、なんといっても王都では手に入らない特産品でしたし!その日の晩には無くなってしまいましたけど……うん、とっても美味しかったなー。今回の遠征はそれを探す余裕もありませんでしたからね。残念です。
あの時は魔力に余裕があったのでお菓子の分頑張ったんですよねー……でも、あれで街全部は囲えないと思うんですよ。普通は結界石の大きさが50センチは超えるものですから。
ちなみに結界石、ポーションなどの料金は神殿と製作者半々……ただし、材料費は神殿負担。魔力の多い聖女、聖人にとっては良い内職となるんですよ。なので、お菓子をたくさん買っても大丈夫なんですよ!
「ああ、あそこの領主が用意周到で助かったな」
「瘴気もそこまで広がっていなかった為、浄化もすぐできたようですな?」
「ええ、幸い瘴気にさらされた方に大きな被害はありませんでした」
どうも国としても危険な場所には特に結界石を用意するよう達しを出しているそうですが、領主がケチったり結界石自体を信じず用意しない場合もあるんだとか……特に反神殿派。複数を使用することで小さな結界石でも効果範囲をカバーできるが、つなぎ目が不安定になることもあるので推奨はされないらしいですが、小さな村ではよく使われているみたいです。
聖女や聖人にも得て不得手はありますけど、水晶が認めたならば結界は3日程度は持って当然なのです……それなのに1時間も持たなかったといいます。
時々、結界石作りがどうしてもできないという方もいますがそういう方はほかの何かに特化しているものなので、アヤネ様もそのパターンかどうかもしくはそもそも聖女でなかったか見極めるということですね。アヤネ様を密かに保護し養女にするくらいです……不正の方法を知っていてもおかしくはありません。そうでないことを祈りたいですね……
「やはり、もう1度水晶に触れさせるべきでした。申し訳ありません」
神殿長は悔しそうに手を握りしめている。
そういえばアヤネ様は落ち人ゆえスキルの儀も公式にはされていないそうで、侯爵家曰くかつて大聖女と呼ばれたサヤカ様と同じ光魔法だとか……
「光魔法は落ち人の方しかいらっしゃらないので、水晶も認められたのでは?」
「いや、侯爵家が動いていたならどこまで入り込んでいるかわからぬ故、何を信用していいやら……」
アヤネ様の光魔法は本当だと思いますよ?見たこともない光を操っているのを見たことがありますし……時々自分自身をキラキラ輝いて見せていたのはどういう意味かわかりませんでしたけど……そういえば第二王子と一緒にいる時はよくやってたような気もしますね。あれ、チカチカして私はあまり好きじゃなかったんですけどねー……
「うむ、神殿長が慎重になるのも無理ない」
「あそこ、私が王妃になったのがよっぽど悔しかったんでしょうね」
かつて娘を王妃にしたかったクズール侯爵家はもともと反王妃派で王妃の足を引っ張ろうとしていると聞いたことがあります。
「そういえば、私デクラン殿下に追放だと言われたのですが……」
「まぁっ!そんな戯言気にしなくていいですわ!」
「うむ。しかし第2王子がいないとなると第3王子だが……あやつまだ2歳だしの」
「ええ、それはさすがに……」
アルテアさまーって慕ってくださってとっても可愛らしいんですけどねー。さすがに結婚は……
王太子殿下と結婚なさったシェリル様も聖女ですしね……王太子殿下はすでに聖女を正妃にしてるため選択外なんです。
聖女ふたりを妻にっていうのは色々なところからの反発がある上に過去にそれをやって暗黒時代を作りそうになった者もいるそうで聖女、聖人を妻、夫に迎えるのは1人までと決まっているらしいです。
「そうだな……わしの側妃か、辺境伯しかあるまいな」
「私もアルティアでしたら歓迎いたしますわよ!」
えー、国王様と王妃様ってラブラブじゃないですかー……しかも王妃様、極秘だけど今妊娠中だし……前回も高齢出産だったから私が極秘でサポートしたんだよね。それもあって第2王子との婚約が進んだんだけど……ふたりは第2王子とはちがって、いつでも気にかけてくれていた。第2王子が何かしらやからす度「負担をかけてすまない」と何度も声をかけてくれたし、王妃様も様々な配慮も行ってくれた。まぁ、打算もあったんだろうけど……小さなことならまたかってやり過ごせたけど今回はねぇ……無理ですよ。
うん、そういえばそろそろ婚約者を決めなくちゃって時も国王陛下か第2王子か辺境伯の選択肢だったな……辺境伯様は国王陛下の末の弟なんだけど、かなりの変わり者らしい……魔物の生態や遺跡、ダンジョンに興味があってわざわざ辺境伯になったって話でそれよりか近くにいる第2王子のほうが交流を重ねて徐々に仲を深めていけるだろうってなったんだっけ?全く仲良くなれませんでしたけど……
「辺境伯様はなんと?」
「うむ……あやつは遺跡の発掘許可と人員さえ出せば喜んで迎えるだろう」
「そうね、きっと簡単に丸め込……説得できるわね」
うん、それくらい研究バ……熱心なんだって。
辺境には魔物が出る森があってその奥にはいくつか遺跡やダンジョンがあるらしい。
ダンジョンは脅威もあるけど副産物も多く冒険者と呼ばれる人が辺境伯に多くいて、ダンジョンや森にいる魔物を狩って生活してるらしく、街中は比較的安全らしい。
まぁ、私もかつてはそういう生活していたのでそこに心配はありませんね。家族で国を移動する時は野宿なんかも当たり前でしたし。
「しかし、アルティアのご両親が怒りそうだな……」
「そうですね……アルティア、どうしましょう?」
「おふたりは寄付もたくさんしてくださって時々孤児院の子供達に身を守る方法を授けてくださるいい方なんですけどね……」
「「「アルティア(様)が絡まなければ……」」」
そうなんですよね。うちの両親プラス兄弟たちは冒険者としてかなり有名なんですよ……私も聖女になっていなければ両親のように過ごしていたはずです。
色々な国を渡り歩いて、旧友の陛下を訪ねた時に忘れていたスキルの儀をさせてもらったら聖女候補になっちゃったんですよね。10歳の時ですからあれから6年ですか……
あのときは大騒ぎだったなー……そのおかげで両親がこの国に定住することになって魔物の脅威が少し減ったんですよね……
「下手したら国から出て行くなんてこと……言い出さないよな?」
「この国はご飯が美味しいから大丈夫だといいのですが……ほら、わたしが候補者に決まった時もそれでなんとかおさまったじゃありませんか?」
「う、うむ……」
(((美味しいものに目がない一族でよかった……)))
ばーんっ!!
「「話は聞かせてもらったぞ(わよ)!!」」
噂をすればなんとやらってやつですね……
「お父さん、お母さん……食べます?」
「あら、美味しそうだこと」
「おー、アルティア……それは後な?」
「はーい」
残念ながら、気をそらすことは失敗したようです。後は陛下と宰相様と神殿長に頑張ってもらいましょう。
「そもそも、聖女とか必要なわけ?ポーションは錬金術師がいるし、冒険者にはヒーラーだっているし……植物魔法だってあるんだもの」
「だよなー?聖女とか国が求心力集めたいがための道具じゃねぇの?王族に連なる者に嫁ぐルールとかなんだよ?」
「確か、ヒーラーは聖魔法ではなく回復魔法を使うんでしたな?」
「ええ……聖魔法の下位互換って言われてるけど凄腕ならそこらの候補者より使えるわよ(ま、元候補者の子もちらほらいるけど)」
「ほほぅ……」
「おっと、宰相の爺さんよ?そこに手出すんじゃねぇぞ?」
「もちろんですとも……私共も貴方がたを敵に回すほど馬鹿ではありませんよ」
「ちっ。それならいいがよ……もちろん神殿もだぞ?」
「……ええ。わかっております」
あらあら……お父さんもお母さんもここぞとばかり文句を言ってますねー。そもそも国王陛下と旧知の仲で仲が良いからってそんなに言って大丈夫ですかね?
結婚相手の例外は聖女、聖人が強くのぞみ、女神様からオーケーの神託をもらえたら国も貴族も何も言わないらしいですか最近ではその話も聞きません。それ邪魔すると罰があったらしいですけど。
これは公然の秘密ですけど、聖女をやめるひともいるんですよ。元々女神に朝晩きちんと祈らないひとは力も衰えやすくなるため……あえて不真面目に過ごして自由になり冒険者になった子もいたり……同期のあの子は元気ですかねー。
「一応、王族に連なるものが守るとなっているがよ?俺らなら別にアルティア守り通せるぜ?」
「そうねー……結構余裕よね」
「……ぅうむ。一応ルールにもちゃんとルーツがあるのだぞ……それにお主らは強い魔物と聞けば喜び勇んですっ飛んでいくではないか……それで守れるのか?」
「まー、なんとかなるっしょ?アルティア、確か自分ひとり分なら結界石なくても結界張れたよな?」
「ええ。まぁ……どのくらい耐えられるかわかりませんけど」
うーん。お父さんが結構本気で殴っても大丈夫だったし、お母さんの魔法も耐えられたからそこそこ大丈夫だと思うけど……
「それに俺らに魔物倒してくれって依頼してる国王がそれ言う?」
「まぁ、今回はうちのバカ息子がやらかしてしまっているから言い訳のしようもないわね」
王妃様……さすがにバカ息子は……
「確かに聖女以外でも出来ることもあるが、出来ないこともあるだろう」
「はぁー……あれか?結界石か?あんなのなくたってどうにか工夫して暮らしてる国は多いんだぞ?」
「そうよねー……ある意味甘えてるのよね。それに似たような効果の魔道具だってあるし……あとは浄化だったかしら?」
「あれもなー?めっちゃ修行すればなんとかなっちまうんだよな?」
「ええ……長男は才能なかったけど、次男は浄化使えるようになったわよ」
おおー、マリス兄さん流石ですね!ハリス兄さんは脳筋ちっくだから無理だったんですかねー。
「むむむ……だが、聖女たちの結界石のおかげで助けられる命がたくさんあるんだぞ!使えるものを使わず民を危険に晒すのは違うじゃろ?」
お父さんもお母さんもS級冒険者ですからね……結界とかなくても割と余裕ですよね。
あ、S級冒険者っていうのは各国にある冒険者ギルドという組織が決めたものらしくものすごく強い人がなるそうです。聖女でも両親のような飛び抜けた人に嫁いだり、保護されることを選べば自由に過ごせるかもしれませんね。
「それはそうさ。俺たちの国みたいにならないように民を守ることを優先するのはいいと思うぜ?ただよ、王族に聖女や聖人が出たらどうすんだよ?そのお腹の子がそうだったら?」
「あら?それは考えていませんでしたわ……」
そうですよね……過去にもいたようですし、その時は隣国に嫁がれたんでしたっけ?他の国にも聖女のような役割を担っている方がいるそうなので、そこまで重要視されてないのが現実みたいです。
両親の育った国は聖女にあたる人たちを表向きは崇め奉り、裏では奴隷のように酷使して最終的には地図から消えてしまったそうです。両親はシューラス王国へ留学していたため無事だったそうですが、家族や友人のほとんどがどうなったかわからないままだそう……だからこそ色々と思うところがあるんでしょう。
そのこともあり両親は時々『女神様と話せそうならこの辺どーなの?って聞いといて』とか言うんですから。
女神様と会話できた方なんて大聖女と呼ばれる方(ここ数十年前いない)くらいで、ここ通常の神託は一方通行なんですから無茶言わないでほしいですね!
ついにはお父さん威圧スキル発動……これ、A級の魔物のほとんどが動けなくなったり、戦意を喪失するくらいすごいらしいです。
陛下も王妃様も顔色は悪いですけど、なんとか耐えてますね……おや?王妃様は私の作った結界石で耐えたんですか?陛下は代々の魔道具ですか……へぇ、結界石ってそういうのもカットできるんですね?物理的な攻撃も、魔法による攻撃も通さないけど威圧や精神攻撃などには弱いと思っていました。
でも、威圧スキル……体は傷つかなくともトラウマにはなりそうです……あ、私ですか?慣れているので特に何ともありませんよ。
「お父さん、お母さん……その辺にしてあげたら?」
「そうよ。これ以上したら反逆罪とかで捕まっちゃうわよ」
「お?悪い悪い」
宰相様、神殿長や近衛兵の皆さんまで真っ青です。一応、浄化しておきましょう……多少、気分はマシになるはずです。
国王陛下は大きく息を吐いたあと頭抱えてしまいましたし……宰相様も苦虫を潰したようなお顔です。
神殿長に至ってはブツブツと女神様に祈りだしてしまいました……
その後なんとか復活した陛下や宰相様との話し合いにより、とりあえず婚約者(仮)ってことになりました。
本気で気に入らなければ婚約はなし。
いきなり、ルールを変えるのは難しいが今後のためにも色々と検討していくとのこと。ほかの貴族からの横やりを防ぐためにも婚約者(仮)なんだそう。
第2王子に婚約破棄された聖女っていうよりはやらかした第2王子よりもマシな婚約者になってよかったねっていう空気にしたいらしいです。
その言い草っていいのかな?って思ったけど王妃様が
「大勢の前でやらかすアレより研究バカなほうが幾分いいわよ?話もきちんと聞くし……」
「う、うむ……」
王妃様だいぶお怒りの様子……お腹に触らないといいのですけど。辺境伯様はお話が通じる方のようで少し安心しました。
「そうねー、グレッグは研究バカだけどわるい子じゃないものね」
「いっそのこと辺境の坊やそそのかして独立してやろうか?そうすりゃアルティアも好きに過ごせるぞ?」
「はぁ……それができるだけの実力も人脈もあるんだから冗談では済まなくなるぞ?」
「お父さん、そこまでしなくていいよ。いざとなれば国から出ていけばいいじゃない(美味しいもの巡りの旅……アリよね!)」
「おおー、そうか?(美味しいもの巡りの旅か……俺のオススメはな?)」
「……んんっ。アルティア、そう言うことは国王陛下の前で言ってはダメよ?(美味しいもの巡りの旅……いいわね!でも、ここでは大人しくしてなさい!)」
((ハイ……))
「よお、親友……今のは聞かなかったってことでどうだ?」
「うむ。さっきのところからだな?」
ふぅ……なんとかことを荒立てずに済みましたね。
「まぁ、あとはアルティア次第ってとこだな?」
「そうね。アルティアはどうしたい?」
「私は……辺境は危険がある分、聖女が行けば喜ばれるようですし……辺境はかつての落ち人が残したレシピで独自に進化した料理がたくさんあるそうですし、ゴタゴタしそうな王都より楽しそうですから行ってみるのもありかなーって」
「「そう……」」
うん、大勢の前でやらかす第二王子より研究バ……熱心なほうがマシだよ、ね?それでもダメなら、タナカ洋菓子店の本店を目指して旅行するのもいいかもしれませんね……ごくり。
相手も両親が色々あって可愛がっていた辺境伯ならまぁいいだろーってなり、両親も辺境伯領にお引越しして見張るらしいです。
「あっ、王妃様は……」
「わたくしもすでに安定期ですし、シェリルやアンドレがいれば問題ありませんわ」
「う、うむ……できれは出産の時期だけ、季節伺いって事で訪ねてくれると嬉しがの」
「わかりました」
シェリル様もアンドレ様(王妃様の実弟)もかなり優秀な聖女、聖人であるので問題ないはずだけど、そう言われるならその時期はこちらに戻ってこよう。もし戻らなくて何かあった時に絶対後悔すると思うし……
こうして、パーゼル大森林を含む広大な土地を守るグレッグ・パーゼル辺境伯との仮婚約が決定したのである。
他の聖女、聖人より頭ひとつ抜けた実力を持ち(本来なら拳ほどの結界石で街を囲えないし、S級冒険者の威圧スキルを緩和できたりもしない。それに多少空気が悪くなったからといって浄化はしない)最も大聖女に近いと言われたアルティアが抜けた穴は大きいものの、クズール侯爵の力を削ぐことはできたし落ち人の彼女も今までろくに仕事をしなかった分これからは頑張ってくれるようだし……親友とはいえ逆らうと怖いS級冒険者も何とか矛を収めてくれてよかったよかった。と思う国王だったが、しばらくは王妃や王太子、第3王子から冷たい視線を向けられることとなる……
アルティアの両親は娘が望むなら国を出ることも辺境伯領を独立させる手立ても考えていたが、娘が思ったより平気そうなことと辺境での料理を楽しみにしているのでいったんは引き下がることにした。
ただ、何故かクズール侯爵家領から冒険者が減りそれに敏感な商人も減り、領民すらも少しずついなくなり一気に税収が下がったり……何故かクズール侯爵家の屋敷周辺が突然地割れを起きたりした真実を知るのはごく一部の者のみだ。
規格外でマイペース、やるときはやるけど食いしん坊な聖女はスッキリした気分で辺境の地を目指して、美味しいご飯屋さんへ寄り道をしつつ、最強の護衛である両親とプチ旅行を楽しむのであった……
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