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ドールガール  作者: stenn
9/18

転んだ先

 見事にコケました。



 縁、大爆笑。おかげで最下位確定という不名誉な結果に終わったクラス。体育委員しかり、クラスメイトの殺気を感じながら私は保健室に逃げ込んでいた。




 縁なんかは『俺の勇姿』って大げさに騒いでたけどあんなところに居たくないよ。どうせ縁がぶっちぎるし。つまんない。




 それにあそこにいれば針のむしろで、怖いし。いや、私が悪いんだけど。分かってるんだけどさ。




 擦りむいた膝小僧の消毒をするのはただいま映見君。



 保健医はなぜか留守。使えないよね。




「……痛っ」




「また派手に転んだよね?」




「うっ、ごめんなさい」




 何故謝られたのか分からない。そんな表情で首を傾げる。でも、申し訳なくて私は視線を床に落とした。




「……このリレー映見君も勝ちたかったよね? 楽しそうにしてたし」




「僕は……」




 少しだけ言い淀んだ後、何でもないと呟く。手際よく絆創膏を膝に貼ると『どう?』と尋ねた。




 痛くないなんてことは無いけど、うん。大丈夫。軽く膝を動かしながら映見君に笑いかけると、何故か軽く視線を逸らされた。




 まぁ、いいか。




「ありがとう。あ、そうだ、私に話があったんだよね?」




「そうだねーー話があったんだっけ?」




 少しだけ困ったように笑う映見君。言いにくそうな雰囲気に本当にイジメかもしれないとーー勝手に確信する。だって、言いにくい事って限られるよね? 恋愛話は、まず無いし。家庭の話なんてする? 私家族構成も知らないよ私。残るは学校の事。教師にも言えないことを友達に話すと言えば……いじめだよね!!




 思わず映見君の膝に載せられた手を取って励ますようにして見つめた。




「え?」




 イジメ良くない。




 思わず手を引こうとする映見君の手。それを気にすることもなく私はぐっと大きな手を私の方に引き寄せた。




 励ます意味もあったんだ。私の決意もあるけど。




「わたし。協力するね!! いじめなんて酷い!! きっとほら映見君はかっこいいし、妬んでるんだよ!! 私もまりちゃんも味方だし、何でも遠慮なくーー」




 ……ん?




 あれ?




 唖然として見上げている映見君の顔には『なんの話?』と思いっきり書かれてるんですけど……。



 嫌な予感。




 沈黙が重たい。




 ……。




 ……まさか。




 私の背中にどっとあせがながれ、さぁっと頭から何かが引いていくような気がした。




「違う?」




 ……。




 こくんと子供のように素直に頷くしぐさ。うん。死にたい。いや、むしろ殺してほしい。そう願う。




 ……。




 やだぁァァァァ!!!!!




 訳の分からない悲鳴を上げて私はばっと立ち上がると、頭を抱えるようにして蹲った。




 恥ずかしいよお!!




「ゴメンナサイ」




 神様。時間を巻き戻して。そう考えつつ涙目で見上げれば、私の酷い顔に驚いたのか映見君は声を詰まらせている。




「い……いや。気にしてないからーーでも、優しいね。五木さんは。昔と変わらない」




「昔?」




 呟いて私は顔をあげていた。そこには柔らかく微笑む映見君の姿は私を励ますようにも見えた。




 いい人だなぁ。知ってたけどそう思う。




「そ、昔」




 ーー昔。それは一学期の終わりの方を指しても使えるのかな? 初めて話したのはそれぐらいだよね? 記憶の隅をつついても映見君の姿は現れなかった。これほどの人なら忘れるはずなんてないんだけど。




 ついでに優しいの意味がわかりません。うん。




 映見君はクスクスと笑っている。




「知らないのも無理ないよ。多分あの頃の僕と会っても五木さんは分からないと思うから」




 あの頃……。うーん? 分からないって整形でも? いやいやいや。それはないか。




 うーん。




 うーん?



 ……。




 無理。熱が出そうだし、捻っても思い出せず。




 白旗。




「ええと、どこか出会ったの?」




 映見君は軽く微笑みを浮かべたまま『行こう』と私を促した。時計を見ると結構時間が過ぎてるかも。確かに。もうそろそろ戻らないと。




 嫌だし、胃が痛い……。でも仕方ないよね。私のせいだもん。




 うっ。




 静かな廊下。途中自販でジュースを買い求めると私に手渡す。お金を払おうとしたら持ってなかった現実に泣きたくなる。




 今日は散々だし……お祓いをしようかなぁ。




 ゴメンナサイ。そう謝れば大丈夫と笑って返ってくる。奢り。そう言われてありがとうと素直に返した。




 ヒヤリと冷たいそれ。飲むでもなく手で玩びながら映見君は静かに歩く。ゆっくりなのは小さな私に合わせてくれているためだろうな。




 縁もそうだから。




 ちらりと見上げて映見君の顔を見上げれば整った横顔に太陽の光が重なって何か別の国の人みたいに見えた。




 ふと目が合うとガン見していた自分が恥ずかしくて思わずそらす。それに気づいたのか気づかなかったのか映見君はゆっくりと口を開いていた。




「中2の頃だったかなぁ……」

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