すれ違い
く、暗い……。ごんなさい。
次回からは少し明るめでいきたいです。
どうしてこんな事に。
叩きつけるような雨に私は傘も差さず立ち尽くしていた。
あれ? ーー私は何をしてたんだっけ? まりちゃんに励まされて家を出てから。
頬に伝うのがもう何か分からない。涙なのか、雨なのか。拭う事なんてもう無駄で、私は瞬きを忘れたように『それ』を見つめていた。
見覚えのない可愛らしいピンクの傘。どう見ても縁のものでは無かった。
その下で笑い合う美少女ーー北里さんと縁の姿。その頬は軽く朱に染まり、二人の間で温かな空気が流れているようにーー見えた。
瞳孔が収縮する。
ドクン。
ドクン。
煩い心臓。
何も聞こえない。
雨の音さえも。
それを押さえつけるようにして私はグッとブレザーを握っていた。
大丈夫。
はぁっと落ち着かせるように息を付き、ニコリと微笑む。
……だって。どうみても、泣いても喚いてもダメなパターンだよね。これ。
すべて遅いんだ。この結果になったのは私の所為ーー。仕方ない。仕様がない。
でも、失いたくないものは失いたくないんだ。
私は逃げずに二人に声をかけていた。頑張れと自分を励ましながら。かすかに震えてる手。気付かれたくなくてそれを隠すように背中に隠した。
「縁ーー北里さんと帰り? すごいねぇ、縁。進歩したんだ」
そんなあからさまに驚かなくても。縁はバツが悪そうに私からあからさまに目をそらした。
そして、北里さん。
あからさまに睨まないでほしいよ。私これでもイッパイイッパイなんだから。戦う気なんて無いよ。そんな気力ない。
ないけど、さ。
初めて知った。こんな暗くて怖いーー這う様な感情があるって。
本当に。怖いな。
「うるせー。……俺ら付き合うことになったから。そんな事よりお前、びしょ濡れじゃん。傘をーー」
どうやら北里さんがいる手前無下にはできないらしい。縁は不機嫌そうに持っていた黒傘を差し出したけれど、私はヘラっと笑ってみせた。話してくれたことが、優しさを見せてくれる所が少し嬉しかったからかもしれないけど。
私はヒラヒラ手を振ると、ペコリと北里さんに頭を下げる。
「ああ、いいのいいの。マリちゃんから聞いて謝りにきただけだから。すぐ帰るし。それよりも、北里さん。縁のことをお願いします。ぶっきらぼうだけど良い奴なんで」
「……うん」
少しホッとした表情と頬を朱に染める北里さんかわいいなぁ。美少女。縁だって見た目だけならカッコいいし。お似合いだよね。
うん。大丈夫。
手芸は勿体無いけどーー。
……。
少しだけ黙ると縁が顔を歪めた。嫌だなぁ。流石と言うべきなんだよね。幼なじみ。これ以上何かを感じ取られる前に、逃げなきゃ。
「おい、レンーー」
縁が何かを言う前に私は身を翻していた。
「また明日!」
家に帰るとマリちゃんは帰っていた。うまく行った? そんなメールを無視して、私はお風呂に湯を貼った。
鏡を見れば笑顔のまま凍り付いた顔。脱ぎ捨てた制服に目を向ければ、明日乾くだろうかと言う疑念。
まぁいいか。ママが何とかしてくれる……といいな。何も考えず結論づけて、ホカホカのお風呂に身を投げていた。
「……」
ーー大丈夫。
ーー大丈夫。
膝を抱えながら何度も唱えて言い聞かせる。けど、なんでだろう。一向に効かないんだ。頬から笑顔が抜け落ちる。うわぁーーと声を出しそうになって私は思わず口元を湯船に付けていた。
ブクブクと泡が水面に上がる。それを見つめれば涙で歪んだ。
ーー大丈夫だもん。
今まで通り。そうだけど。そうだけど。
今は許して欲しいな。明日には戻るから。きっとーー治っていつものように笑うから。
誰にも聞こえないようにーー私は声を殺して泣いていた。
「大丈夫? 五木さん」
そう言われて私は顔をあげていた。心配そうに覗き込むのは映見君。マリちゃんは少しだけ複雑そうな顔で私を見つめていた。多分大方の事情は知ってるんだと思う。
どうやら縁達のことは学校中の噂だしね。
パンパンと黒板消しを払いながら笑顔を浮かべてみせる。問題はないはずなんだ。
だって何度も練習したし。
「ん。問題ないよ? なんで? ……それにしても、すごいよねぇ。縁。学年の男子一日で敵に回すし」
「ああ……一度ボコられたほうがいいよ、吉岡は。何なら呪ってみる? アイテムならーー」
……。
えっと。
……なぜそんなものを持っているのかなぁ? 懐から出そうとした謎の御札。なんだか負のオーラを放っているような、いないような。ともかくそれを押し戻しながら『大丈夫だから』となだめてみるが、納得がいかない様子だった。
最後は仕方なく戻したけれど。
「ねえ、五木さん。今度遊園地にでも行かない?」
「え?」
コスプレ会場ではなくて? 聖地巡りでもなくて? 即売……いや、言い違いじゃ無いよね。遊園地って言ってる。
私は目をぱちぱちさせていた。それに苦笑を浮かべる映見君。
「俺。そういう所行ったことなくて」
……。
……。
行かなきゃ。ナゾの使命感。
当然ああいう人の集まるところ嫌いなんだけど。でも遊園地だし。大丈夫だね。きっと。
うん。
「うん。別にいいけどーーマリちゃんも行く?」
私は近くで聞いていたマリちゃんに目を向けたが、なぜ微かに怯えた目で首を横に振るかな?
そして引きっっ笑いを浮かべてるんだけど。
「わ、私は部活あるからさ」
帰宅部じゃん。
突っ込むとまたもや怒られた。




