遊園地
雲が流れてた。ふわふわとした綿雲。そういえば昔あの雲が美味しそうに見えたな。手に取ろうとして二階から転がり落ちて両親は心配しすぎて怒り狂うわ縁は泣きじゃくるわ。そして縁が悪いわけではないのに縁のおじさんとおばさんは縁を叱りつけるわで大変だったんだ。まぁ、一緒に遊んでてなぜお前がしっかり見てないんだって理論なんだけど。
ついでに無傷だったのは言うまでもないし。元気です。
縁。ごめんね。
はははは。
……じゃない
。
「というかおかしいよね?」
思わず現実逃避をしてしまった。私は目の前のジェットコースター、身長制限パネルをみて独りごちていた。
大体身長制限なんて130とか、20とかだよね? なんで150以下お断りなんてものがあるんでしょうか?
……うぐう。
なんとか背伸びをしてみるものの届かず。もう少し。もう少しなんだ! こんなことをしてどうにかなるわけじゃないけど!
「ガキは乗れないんだぜ!」
なんて憎まれ口を吐きながら去っていく小学生の首を絞めたいと思ったのは初めてです。
久しぶりに来たのに。昔からジェットコースターに断られ続け、やっと乗れるかと思えばこの仕打ち。
この遊園地で一番人気のものなのに。ネットで見て少し楽しみにしちゃってのに。ほら、人が蛇のように並んでる!
上から見下ろして『ほら、人がゴミのようだ!』とかなんとか言ってみたかったんだ。
のに。
目から血の涙が出そうだからね?
「ま、まぁ。あっちの乗れるかも」
映見君が子供を慰める笑顔でこちらを見ている。うん。私もさ、いい年して凹んでいる場合じゃないの分かってるんだよね。映見君に遊園地を楽しんでもらおうと思わずしおりまで作ったわけだし(……でも恥ずかしすぎるので自身にのみ配布)。
気を使わせては行けないんだけどさ。
でも、がっくりしたんだ。
「ゴメン」
ションポリしたまま謝ると映見君はなぜだか少し嬉しそうに笑う。なんだか……楽しんでますか?
いいけど。
「少し座る? 飲み物持って来るよ」
「あ、大丈夫だよ。そんなに疲れてないし」
と私の声を聞くまでもなく、近くの売店に走っていく映見君。私って情けないなぁ。とため息一つ。ベンチに座ると、カバンから件のしおりを取り出してパラパラめくる。
だ。誰も見てないから、いいよね?
えと、次はーーお化け屋敷か。ここのお化けは結構怖いらしいから気に入ってもらえるかも。パンプをとりだしてと。取り敢えずここからの近道は……探していると目の前に影が落ちた。
「あ、次ね……ここーー?」
そこには小さな少女が立ってた。小学生低学年くらいかなぁ。大きな目でこちらを見ていけれど、目が合えばポロポロと大粒の涙を零す。ばっと縋り付くようにして私に抱きついた。
「オネェちゃん!! ヴェーん!!!」
は?
えっと。
なに? どしたの? 迷子かな? 私子供に好かれると言うよりはなめられるタイプなんだけど。というか。なぜ私?
困惑したまま背中に軽く手を置くと少女は顔を上げた。
「えっと?」
「まなね。まな。ママと逸れちゃって……おねぇちゃあああん!!」
どうしよう? 迷子だよ。やっぱり。迷子センターに行ったほうがいいよね。
「その子は?」
声に顔を上げると不思議そうに映見君が立っていたけれど、すぐに理解したらしく映見君は少女と同じ高さで目線を合わせた。
「お名前は?」
「うぇ。ぐすん。……ま、まな」
……おお。凄いなぁ。手慣れてらっしゃる。そして笑顔が優しい。久々な王子様スマイルに少女はパチパチと目を見開いた。
「そ、ママとはぐれた?」
「うぇーー」
ああ。泣いた。堪えきれずに私の胸で。
どうすればいいかな? とにかく、慰めるようにして良し良しと頭を撫でる。
が。更に泣いた。
うわーん!! 私が泣きたい。でもここで泣いたら私まで迷子と間違われてしまう気が……。
「ママぁ!!」
「迷子センターに行ったほうがいいね」
はぁっと息をついて立ち上がる映見君は私に苦笑を浮かべている。
「かも。せっかくの遊園地なのにごめんね?」
「これはこれで楽しいからいいと思う。五木さん本当にこの娘のおねーさんみたいだな」
言いつつまたもやしゃがむと少女の頭に手を軽く置き、優しく宥めるように『じゃ、ママ探しに行こうか?』と柔らかく微笑むと、小さなまなちゃんはコクンと頷いていた。
その姿はなんだか『お父さん』って感じでなんだかとても微笑ましく見えたんだ。
ーー結局迷子センターにはすでに親御さんが居てまなちゃんは風の如く私達から去っていった。
映見君曰く私はまなちゃんのお母さんに何となく似てるんだそうだ。そうかなぁ? なんか『お母さん』って感じだったんだけど。でも、子供かぁ。
いつかは私も誰かとーー。ふと、縁の顔が浮かんで私は慌てて打ち消していた。
もう、関係ないし。大丈夫だし。
……。
悟られないようにニコリと笑う。
「なんか、可愛かったねぇ?」
思わず感想を漏らすとクスクスと笑う。うーん。なんか怪しいなぁ。
「そんなことはないと思うけど、まさか子供が子供を可愛いと言ってる? みたいな事思ってない?」
ジト目で見ると慌てて肩をすくめている。
「まさか。ただ、五木さんは可愛いなぁと思って」
……可愛い(子供みたいで)だからだよね。わかるよ。扱いはまなちゃんと同じなんだよね。別に構わないけど。
「そんな事より次は何乗る?」
イマイチピンと来なくてスルーするとなんだか困った顔を浮かべてるんだけど。まぁ。いいか。
私は遊園地のパンプをゴソゴソとカバンから掻き出した。
「五木ーー」
呼ばれて顔を上げたんだけど、なぜ固まってるんだろう? 視界を辿ってみてみれば、そこには見慣れた人物が立っていた。
「あ」
娯楽施設の少ない場所でバッティングするって、よくある話だよね。うん。
そこには『楽しそう』な縁と北里さんがいたんだーー。




