別れ
告白……。こくはく?
縁が私に? ナイナイない。ありえない。私と縁はそういう関係じゃないもん。それはママの勘違いただし、私が縁に聞いたところで……爆笑される気がするし。
……。
それに、私縁とそんなこと考えたこともないし……。好きとか嫌いとか。居るのが自然で。
うーん。よくわからないや。
好きっていうのはもっとこう……気持ちが浮き立つような……ドキドキするような?
……うーん。ないなぁ。縁は縁だし。次何を作ってくれるのかドキドキして楽しみだけど。
ともかく、もう一度誤ってみようかと思ってるんだけど。今度は何を謝ればいいのかとんとわかんないし。
怒らせるほど、傷付けたことは確かなんだけど。
また、マリちゃんに相談したら大爆笑。人が本気で悩んでるのに笑い死ぬとか言ってたし。横で聞いていた映見君は笑顔でなんだか殺気を放ってた。
こ、怖いから。
「ともかく。もう一度話してみたら? このままだと元には戻れないよ? それでいいの?」
「いいよね?」
満面の笑顔で言ったのは映見君。何故今日に限ってフギュアを持参してるのかもう謎で、それをどうして私の机に置くかな?
某アニメのヒロイン。生脚と大きな胸が印象的なーー思わず自身の胸に意識が行ってしまう自分が悲しいわ。
ともかく。
クラスメイトの冷たい視線が痛い。でも、断われないよ。最近落ち込んでたからって理由で持ってきたみたいだし。少なくとも励まそうとしてくれたらしいから。
「そんなわけ無いじゃん。映見っち、そんなこと言ってると勝ち目もなくなるよ?」
なんだか分からないけれど痛い所をつかれたらしく映見君はグッと押し黙った。勝ち目って何?それを聞こうと思う前に『ほら、前は急げ。今行かないと絶交するから』と教室から追い出されてしまった。
ううつっ。追い出されても。次の休み時間で良くない? と思うんだけど、仕方ない。ため息一つ。パチンと気合を入れるようにして私は自身の頬を軽く叩いた。
敵地に乗り込む気分。
たのもうーーじゃなくて。
「ごめん、えーー吉岡くん居る?」
私が近くの男子に声をかけると『あ、ロ……』何を言いかけたんだ。何を。きっと睨むと慌てて口を閉じる男子。陰でロリ木とか言われているのは知ってるけどそれ、完全に悪口だからね!!
ちびっ子はともかく承服できません。あとは例のアニメの名前で呼ぶのもやめてください。
不穏な空気から目を逸らして男子は教室を舐めるように見てから近くで漫画を開いていた少年に声をかけた。
「あ、ええとーー? 吉岡ね、なぁ、北山。吉岡は? 嫁が来てんだけど?」
「はぁ? 死ねよ。リア充、浮かれまくってんじゃねぇぞ?」
答えになってませんが。それは。いや、怖いし。なんだか負のオーラでこちらを見ている。
ってか、嫁では無いし。まぁ、いつも縁といることは事実だし。説明をしてもなんだか負のオーラが教室全体を包みそうなのでやめた。
「え、あの。縁は?」
「北里と出ていったぜ。死ねよマジで。裏切り者」
ちっ。舌打ち一つされ漫画に目を移す。
北里ーー。
「ああーーええと。そういうことだから、いいか? 行っても」
うん。そう言う前に漫画を読んでいた少年に軽口を叩きながら絡んでいる。
北里。ポツリと口の中で転がして、私はああ。と軽く吐き出していた。
たしか、このクラスの委員長。学校で一番の美少女だったよ。大きなクリッとした目が特徴。知らない人はいないんじゃないかな? だから例の男子は負のオーラを放っていたんだと思う。
でも、なんで?
二人に接点はクラスメイトって言うだけだし。大体相手はあの縁なのに。
……。
まぁいいか。なんとなく『いなかった』事に安堵して踵を返そうとしたんだけど。
「あ。ロリ嫁」
悪口を縮めるな!! つうか、なに? その怪しげな響きは!! 事情を知らない人が聞いたら捕まるからね?
キッと睨んだ先には一人の少女が立っていた。見たことある気はするけど名前まではわかんない。
で、何でアイスをくわえているの? 購買には売ってないよね? 外に行って買って来たの?
「あーーごめん、ごめん。癖で。で、何しに? ワザワザ。吉岡に用?」
癖ってなに? 不信感が募る。まぁ、そんなこと微塵にも 顔には出さないけど。
「あ、でも居ないみたいなんで」
「ああーーそっか。じゃあ待つ?」
いや、もうすぐチャイムが鳴るよね? なるよね? なんでズルズルと私を引っ張って席につかせるかなぁ?
って、あ。 ここ多分、縁の席だ。 小物が見覚えあるし。
じゃなくて。
「ええと? もう、戻らないと」
「いいじゃん。もう、吉岡の代わりに出席すればーー嫁だし先生も分かってくれるって」
……。
いやいやいや。
イヤイヤ、いや。なに? その理論?無理だからね? 無理。どう考えても。そんなことわかる先生どこにもいないし、嫁じゃないからね?
そうだとしても私の出席はどうなる?
ガタンと私は強めに立ち上がる。
「戻ります」
「えー居ようよ、目の保養が。プニプニで可愛いのに。マジウケるし」
……それが本音か。女の子にまでそんなことを言われるとは思わなかったんだけどさ。
……頬を突かないでください。ペちんと女の子の手を払ったけれど、それすら嬉しいのか『いやぁん』などと言っている。
こっ、怖い。男子より免疫がない分怖い。
ど、どうしたらいいんだろう?
……固まっているとぐいっと女の子を避けるように私の身体は何かに引っ張られた。
「おいこら。清水テメェ何してやがるんだ人の席でーーしかも」
ちらりと見上げればそこに縁の整った顔。目があって慌てて外したのは縁の方だった。
「ち。吉岡。なんだよ。帰ってきてんだ?」
しねばいいのに。そう不穏な言葉を残して去っていく清水さん。いやーーなんだかこのクラス全体不穏な空気なんですが。特に男子。
なに、ここ? こんな負のオーラが漂った不穏なクラス見たことないんですけど。
あ、帰ってきた北里さんもこっちを睨んでらっしゃる。なんとなく目が赤いのは気のせいかな?
ため息一つ落としたのは縁だった。
「ちょっと、こっちへ来い。レン」
「あうーー」
廊下が清々しい空気なんですけどそれは。鳴り始めたチャイムを背にしながら私達はーー縁は私を引き攣りながら誰もいない非常階段へとたどり着いた。
ああ。静か。階段が外のため冷たい空気が心地良い。私はふうっと息をつく。もう授業は無理だろうな。
「お前何のつもりなんだよ?」
「え、ああーーあれは清水さんが……あ。縁は北里さんとーー」
「関係ないだろ? で、なんの用?」
ただでさえ不機嫌を纏っているようなのに、更に縁はムッと顔を歪めた。
ま、負けない。
「……うん、まぁ。あのね、縁。謝りたいと思って」
「何を? 別に怒ってないし」
いや。それは嘘だ。確信もって言うよ? というか、何をと言われてみれば原因らしきものを思いつかないので口ごもるしか無かった。
見据えられて蛇に睨まれたカエルのごとく心細い気分になる。
なんでこんなことに……縁のバカ。じんわり涙が出そうになった。
「分かんないけど。傷付けたのは確かだし……」
「……なぁ。レン。俺思ったんだけど……もうやめるわ。ーーこの関係」
一拍置いたあとに吐き出された言葉。静かに重く、まるで一滴の墨が白紙に落ちるように黒く心を塗りつぶしていく。
意味分からないし。
パチパチと捉えた目線の先。悲しげに笑う少年。
「俺もうレンの家に行かないしーーもう話さないし……お互いのためにもよくねぇと、思うんだ」
「え? なんで? それっておかしいよ?」
何がって……だって当たり前だから。縁がいてその横に私がいて。泣いてる時には励ましてくれて。怒ってくれたり泣いてくれたり。何も話さなくても分かってくれるそんな存在なのに。
そんなのはーー単純に嫌だった。
そんな私の感情を見透かすようにして縁はため息一つ。半眼で私を見つめた。その目にはどこが恨めしげに見える。
「……お前。俺の事便利屋かなんかと勘違いしてるだろ?」
「え?」
刹那ーーだんっと音がして顔を上げてみれば縁の顔がそこにあった。
ちらりと顔を横を向けてみれば腕。私の背中にはーー壁。
いわゆる壁ドンというやつーーなんだけど。これって圧迫感が酷い。というか怖いんですが。
お金持っていません。そう言いたくなる。縁相手でも。
「頼むからーーもうかかわらないでくれる? 俺に」
「でも……」
ふっと離れると縁はイライラしたように頭をボリボリと掻いた。
「分かんないかな? 俺はもう嫌だってんの。疲れたんだよ。レンはもう好きにすればいいーー俺もそうする。でも、レンが『もしも』って……いうーーいや、なんでもねぇよ。じゃあな!」
「縁!」
そう呼び止めるが縁に私の声は届くことはない。無情にもバタンと乱暴にドアは閉じられた。




