強欲の罪
いつものように忙しい朝だった。
朝食を終えると、僕はすぐに学校へ向かって飛び出した。
アストン:「しまった!もう七時近い!?」*パンを頬張りながら
ステラ:「えぇ……こんな朝早くに?」
アストン:「教室の当番があるから……ステラ、一人で駅へ歩いても大丈夫だよな?」
ステラ(むくれて):「当たり前でしょ!別に一緒に歩きたいわけじゃないし……チェリーちゃんとムツミちゃんもいるし」
アストン(微笑みながら):「そっか。ならよかった!じゃあ行ってくるよ!」
サイモンおじさん:「いってらっしゃーい!気をつけてな!」
ステラ:「ふん!バカおにぃ!」
駅で次の電車を待っていると、モニターに派手で繰り返し流れる広告が映っていた。
広告に出てきたのは、きちんとしたスーツに上品な眼鏡をかけた、切れ者風の男。
広告の男:「皆さん!法定通貨の使用が、もはや効果的でないことは周知の事実です!インフレのリスクが高く、時間とともに価値が下がるからです!そして今、世界の金融の未来が到来しました!私はグイド・ミダス!ミダス・コーポレーションの創設者です!ここで皆さんに、新しい電子通貨『ミダス・コイン』をご紹介します!」
アストン(独り言):ミダス・コイン……ショッピングモールで宣伝してたあのトークンだ。
グイド(叫ぶように):「ミダス・コインこそが、あらゆるインフレ問題の答えです!トークンの発行枚数が限られているため、需要が高まるほど価値は上昇します!インフレの脅威はもはや存在しません!我々はついに資産を完全に安全に保管できるのです!さらに——」
彼の話を理解しようとしているうちに電車が到着し、僕はすぐに乗り込んだ。
車内で、僕はミダス・コインの広告について考えずにはいられなかった。
アストン(思考):もし本当なら、人生を変えるレベルの話だ……貧困の多くは、時間とともに国の通貨の価値が下がることが原因だからな……
学校に着くと、考え事をしながら教室へ向かった。
教室のドアを開けると、クリスタルが明るい笑顔で迎えてくれた。
クリスタル:「おはよう、アストン!」
アストン:「おはよう、クリス!」
クリスタルは少し頬を染め、まだ渾名で呼ばれることに慣れていない様子だった。
それから、他のクラスメイトたちがエリセナの席を囲んでいるのに気づいた。真ん中でエリセナは慌てた顔をしている。
アストン:「どうしたんだ?」
クリスタル:「わからない。なんかシルべストン・エンタープライズの話で盛り上がってるみたい」
教室の当番をこなしながら、近づいて注意深く耳を澄ました。
エリート生徒1:「シルべストンさん!あなたのシルべストン・エンタープライズがミダス・コーポレーションを支援したって本当ですか!?」
エリート生徒2:「もし本当なら、シルべストン・エンタープライズの当主としてはかなりリスクの高い決断ですね!」
エリセナ(気まずそうに):「ご、ごめんなさい、みんな……お父様の会社のことだから、私はあまり詳しくなくて……」
すると一人の女子生徒がニヤリと笑い、彼女の前に出た。
エリート女子生徒(嘲るように):「そうですか、残念ですね!シルべストン・エンタープライズの唯一の後継者であるにもかかわらず……お嬢様はまだこの話題には幼すぎるようです!彼女と話していても時間の無駄よ!みんな、もう放っておきましょう!」
エリセナは反論できなかった。相手の言葉の大半が事実だったからだ。
他のクラスメイトが去った後、彼女は眉を寄せた。
当番を終えた僕は、彼女を慰めに近づいた。
アストン(ニヤリ):「おはよう、エリ!」
エリセナ(弱く微笑みながら):「アストン……おはよう……」
近くの椅子を引いて、彼女の向かい側に座った。
アストン:「気にすんなよ、エリ。あの連中で興味があるのは君のお父さんの仕事だけだ、君のことではない……」
エリセナ:「それくらいわかってるわ……でも、シルべストン・エンタープライズの唯一の後継者私が……お父様の仕事を何も知らない自分が……なんだか恥ずかしくて」
アストン:「そっか……じゃあ一緒に調べてみないか?正直、僕もシルべストン・エンタープライズに興味あるんだ!どんなビジネスモデルなのかとか、何が作るとか!」
エリセナ(微笑みながら):「アストン……」
彼女はようやく笑みを取り戻した。よかった。
アストン:「でも僕たちはただの学生なんだから。やっぱ無理か……」
エリセナ(首を振って):「ううん……実は小さい頃、お父様の会社に行ったことがあるの。その時、フリーアクセスのキーカードをもらったの」
アストン:「本当か!?それはすごいな!」
エリセナ:「まだ使えるかどうかわからないけど!やっぱりお父様に直接許可をもらうのが正しいよね!」
アストン:「うーん……でもエリのお父さんて、たしか僕のことあまり好きじゃなさそうだよな?」
エリセナはセトレが初めて学校に来た時のことを思い出した。セトレがエリセナの父親との繋がりを自慢し、そしてアストンを脅威だと言ったあの時を。
エリセナ(気まずそうに):「あははは……そうだね……」
他に解決策が見つからず、二人は同時に溜息をついて、今のところシルべストン・エンタープライズを訪れる案を諦めた。
アストン:「とりあえずネットで調べてみよう……それならお父さんの会社の全体像が少しはわかるかも!」
エリセナ:「そうだね」
そして始業のベルが鳴った。
アストン:「続きは後で!」
エリセナ:「うん!私も自分で調べておくね!」
僕はグラシアの前の席に戻った。グラシアは僕たちを見て眉を上げた。
グラシア(興味深そうに):「二人とも浮かれてるわね。何を企んでるの?」
アストン:「グラシア……おはよう!」
シルべストン・エンタープライズについてもっと知りたいという計画を、小声で伝えた。
グラシア(ニヤリ):「面白いね。いいわ、私も加わる」
アストン:「ちょっと……一緒に来いなんて頼んでないぞ」
グラシア:「うるさいわね!興味が湧いたから参加するの!寧ろ感謝しなさい!この天才な私が手伝いたいって!」
アストン:「はいはーい、感謝します」
授業が始まり、先生が到着すると教室は静まり返った。
昼休みになると、僕は席を立って議論を続けようとした。
だがその前に、ヴァルヨネッセが跳ねるように近づいてきた。
ヴァルヨネッセ:「アストン!一緒に昼ご飯食べよ!」
アストン:「ヴァル!?でも今はエリセナと話があるんだ……」
ヴァルヨネッセは、スマホをいじっているエリセナの方を見つめた。
ヴァルヨネッセ:「わかった……アストンなら、ちゃんと理由があるんでしょうね……」
アストン:「ありがとう、ヴァル——」
ヴァルヨネッセ:「でも次は絶対に、私と昼ご飯を食べるのよ。いいわね?」
アストン:「お、おう……」
彼女は席に戻り、代わりにクリスタルを誘った。
ヴァルヨネッセ(微笑みながら):「クリス! 一緒に昼ご飯食べよ!」
クリスタルは気まずそうに頷いた。
クリスタル:「う、うん!」
二人並んで歩いていく姿を見たが、いつものように会話が弾んでいない気がした。
アストン(思考):あの二人、様子がおかしいな……気のせいか?
余計な考えを振り払って、エリセナのところへ向かった。グラシアはすでに彼女の隣に座っていた。
グラシア:「なるほど……金属材料の加工会社、か」
エリセナ:「そうみたい。そして一番利益が出てるのは、金と銀の加工らしい」
僕も座って加わった。
アストン(驚いて):「金と銀!?そりゃシルべストン・エンタープライズが街で一番の大企業になるわけだ!」
エリセナ:「うん……でもこの部分が……ちょっと気になるの」*スマホを見せる
彼女が指した記事の部分を読んだ。
アストン:「シルべストン・エンタープライズの社長が、ミダス・コーポレーションの創設者と接触していたところを目撃された!?」
グラシア:「ということは、密かに同盟を結ぶ計画があるのかも……」
エリセナ:「でもあのミダス・コーポレーション……なんだか信用できない気がするの!」
アストン:「確かに、新しい会社だから信頼性に欠ける部分はあるよな……」
エリセナ(叫ぶように):「違うの、アストン!」
アストン:「え?」
——沈黙——
エリセナ:「あの人、グイド・ミダス……あの笑顔から、すごく危険な悪意を感じるの……」
僕はグラシアを見た。彼女は頷いて同意した。
グラシア:「リシテアに報告しましょう。何か知っているかもしれないわ」
エリセナ:「わかった!」
三人で本部へ向かった。
スレイヤーズ本部では、リシテアが画面越しにキャンディスからの最新報告を受けていた。
キャンディス:「大変です、魔女——いえ、リシテア様!セブンシンズの一人、強欲の罪:グイド・ミダスが人間界への侵攻を計画しています!詳細はまだわかっていませんが、ベルザちゃんが今調べているところです!」
リシテア:「わかったわ……重要な情報をありがとう。よくやった、キャンディスちゃん」
キャンディス(嬉しそうに):「はい!リシテア様!」
画面が消えた。
リシテア(溜息):「せっかく平和な時間を使って研究を進めようと思っていたのに……」
彼女はグループインターホンをオンにして叫んだ。
リシテア:「スレイヤーズ、集合!」
数分後、僕たち三人は本部に到着した。
続いてヴァルヨネッセとノワール・チーム。
そして最後にモルア。
リシテアは、モルアが珍しく遅れてきたのを見て眉を上げた。
モルア(頭を下げて):「ごめん、リシ……寝坊した!」
リシテア:「いいわ!先に準備することがあるから、まだセーフよ!」
モルア(微笑みながら):「そっか……ならよかった〜」
僕はモルアを見つめ、温泉での一件を思い出した。
だがモルアは僕の視線に気づき、素早く目を逸らした。
アストン(思考):師匠……今、避けたよな?やっぱり僕はちゃんと謝らないと!
彼女に近づこうとしたが、彼女は一歩下がった。
アストン:「師匠?」
モルア(緊張して):「お、おぉ!どうした、弟子よ?」
もう一歩近づくと、彼女ももう一歩下がる。
アストン(ショックを受けて):「やっぱり……僕のせいだったんだ!」
すぐに彼女に向かって頭を下げた。
アストン(叫ぶように):「心からお詫びします、師匠!」
みんなが突然の謝罪に息を飲んだ。モルアは驚いて沈黙し、顔が赤くなった。
モルア(動揺して):「な、何を謝ってるんだ、アストン!?あんたは何も悪くない!」
アストン:「いや、悪いのは僕です!本当に後悔してます!だから……どうか許してください、師匠!」
彼女の前に跪き、必死に許しを請うた。みんなが疑わしい目でモルアを見つめる。
モルア(慌てて):「もう……わかったから! とにかく立って、普通にして!」
アストン(叫ぶように):「許してくれたんですか!?ありがとうございます、師匠!もう二度と師匠にそんなことをしません!」
モルアは顔を真っ赤に染め、あのキスを思い出した。
するとエリセナとヴァルヨネッセが僕の肩を掴んだ。
エリセナ(不気味に微笑み):「待って、アストン……『そんなこと』って、具体的に何をしたの?」
ヴァルヨネッセ(暗い目で):「まさか……もう『あのこと』までしたの?彼女と」
アストン(驚いて):「えっ!?」
あまりのストレートさに圧倒され、モルアがキレた。
モルア(顔を赤らめて):「なっ、なにかヤバイことしてないぞ!この馬鹿弟子が私にキスしただけだ!」
——沈黙——
みんな(ショック):「えええええええ!?」
アストン(慌てて):「あ、あれは事故だ!だから僕は謝った!誤解しないでくれ、みんな!」
ヴァルヨネッセ(拗ねて):「でも私とは一度もキスしようとしないわよ……」
エリセナ(低い声で):「私ともキスしてないよ、私の方が長く知り合いなのに……」
リシテア(冷静に):「何がそんなに大ごとなの?ただのキスじゃない……ね、グラシア?」
グラシアは息を飲み、自分も軽いキスをしたことを思い出した。
グラシア(顔を真っ赤に):「え、ええ……」
グラシアの不自然な反応に、エリセナの目が大きく見開かれた。
エリセナ(ショック):「まさか——みんなが、彼にキスしてるの!?」
ヴァルヨネッセ(目を見開いて):「えっ!? 本当に!?」
グラシア(少し頬を染めて):「う、うん……」*頷く
リシテア(さりげなく):「私も一度彼をキスしたわ……それがなにか?」
エリセナ(ショック):「うそ!?リシ先生まで!?」
モルア(息を吐いて):「そうか!みんなもアストンをキスしたのか……なんだかすごく安心だ!」
アストン(叫ぶように):「安心するところはそこ!?」
突然、ヴァルヨネッセが僕の腕に絡みついた。
ヴァルヨネッセ:「絶対に嫌!誰にもアストンを奪わせないから!」*強く抱きつく
アストン(顔を赤らめて):「な——ええっ!?」
部屋の隅で、エリセナ呆然と落ちこぼれた。
エリセナ(ショックで目が虚ろ):「私だけ置いてけぼり……私だけ置いてけぼり……」
その混乱を、アイビー、レミア、ゴロンはお茶を楽しみながら穏やかに微笑んで見ていた。
アイビー:「スレイヤーズ本部のいつもの日常ね……」
レミア:「そうね……」
ゴロン:「へへ……おいしい……」*ビスケットをむしゃむしゃ
準備を終えたリシテアが手を叩いて、みんなの注意を集めた。
リシテア:「よし、スレイヤーズ!私たちの可愛いらしいなスパイ、キャンディスちゃんから最新の報告が入ったわ!」
グラシア:「セブンシンズが、ついに次の動きを……」
リシテア:「その通り。報告によると、そのうちの一人が人間界への侵攻を計画している」
彼女は画面に特定の人物のプロフィールデータを映した。
アストン(驚いて):「彼は——!」
エリセナ(目を見開いて):「まさか!?」
リシテア:「ええ。彼が強欲の罪、グイド・ミダス。電子通貨会社ミダス・コーポレーションの創設者で、画期的な製品で一気に有名になった……」
アストン:「ミダス・コイン……」
リシテア:「正解です。よく知ってるわね」
そしてリシテアは最新のニュースを映した。
記事には、シルべストン・エンタープライズの社長、ゲオルギアス・シルべストンが、ミダス・コーポレーションを正式に支援する契約を結んだ写真が載っていた。
グラシア:「ちっ……これは思ったより厄介わね……」
父親が敵の罠に嵌まってしまったことを悟り、エリセナはショックで膝をついた。
エリセナ(口を覆って):「そんな……お父様……」
——
第102話 強欲の罪 完




