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精霊島の花嫁  作者: 茶野
白き杖を受け継ぐ者
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第一章 リーザインの七不思議 Ⅳ

 この杖に手をかざしてみせよ――。それが最難関と呼ばれるリーザイン魔法学園の入学試験だった。

 何の変哲もない杖、今思えばそれにはめこまれた石が《魔星石》だったわけだが、十二歳のカリンが知る由もない。これで運命が決まる。緊張しながら手をかざしたのをよく覚えている。

 石が光り、杖が浮かび上がった。それこそがカリンのはじめての魔法だったのだ。まぶしい光にカリンは思わず目を閉じた。おそるおそるまぶたをもちあげたとき、目の前に杖はなかった。

 杖は天井に深々と突き刺さっていたのだ。



 *



「十二賢人って変なひとなんですねー」

 アジェスと別れるとすぐに、リリー・エルが本音を口にした。

「そうかしら? アジェスさまはまともな部類に入ると思うんだけど……」

 まずリリー・エルに変なひとと呼ばれる筋合はないだろう。

 試験会場に近づくにつれて、静けさが増していく。おかしい。受験者が控えているはずなのに、物音ひとつ聞こえない。

「きっと緊張してるんですよ、みんな」

 リリー・エルはのんきに笑った。しかし、受験会場の教室の扉を開けると、リリー・エルの表情もかたくなった。

「教室間違えたんですかね、わたしたち」

「ううん、そんなはずないわ。つきあたりだし、部屋番号はさっきと同じだもの」

 教室はもぬけのからだった。机には受験生の荷物が置かれたままになっている。

「みんなトイレにでも行ったのかも」

「何十人もそろって? 実技試験の会場はここなんだから、もう集まっていてもおかしくないのに」

「うーん、ちょっとおかしくないですか。他の部屋も探してみましょうよ」

  一度部屋を出てみると、さらにおかしなことにつきあたりの教室の隣に別の部屋が増えている。カリンとリリー・エルは顔を見合わせた。

「いったいどういうことなの」

「とりあえず、開けてみましょう」

 ためらいなくリリー・エルが新しくあらわれた部屋の扉を開ける。その瞬間、部屋の中から突風が巻き起こり、ふたりのからだをさらった。教室の中にからだが吸いこまれていく。とっさにカリンは杖を召喚したが、抵抗することはできなかった。


「カリン先輩」

 リリー・エルに揺さぶり起こされた。しばらく意識を失っていたらしい。目を開けてあたりを見渡してみても、別段変わったところはない。つきあたりの教室――受験会場の部屋の前に倒れていたようだ。二つ目の部屋の姿はどこにもない。

「なんだったのかしら」

 あいかわらず、教室には人の気配がない。

「……七不思議ですよ」

 リリー・エルが焦ったようにまくしたてる。

「『人が消える教室』と『増える教室』……まちがいありません。リーザインの七不思議です! ひとつ見つけたら半日以内にすべての謎を見つけないと闇の世界に連れ込まれる、あの七不思議ですよ! どうしましょう先輩!」

「ええ?」

 まさか、そんな馬鹿なことがあるものか。

「落ちついて、リリー・エル」

「どうしましょう、先輩。まさかほんとうに七不思議があったなんて、わたし感激です!」

 心配して損をした。

「あたし、そんな七不思議なんて聞いたことがないんだけど」

「カリン先輩は知らなくても、けっこう有名な噂ですよ。えっと残りはなんでしたっけ、『誰もいない部屋から聞こえる音楽』『廊下を歩く人影』『永遠に続く階段』『未来を映す鏡』だったような」

「さっきのと合わせて六つね。あとのひとつは?」

「それはたしか、六つの謎を見つけたらわかるとかいう話だったと思うんですけど」

 聞いてみれば、かなり不気味な謎たちである。

「怖いんですか、先輩? だいじょうぶですよ、わたしがついてますから!」

「きっと、それは魔法よね。魔法ならなんとかなるわ。行くわよ、リリー・エル」

 音楽ならピアノがある音楽室が妥当だろうと、ふたりはまずそこを目指すことになった。音楽の素養のないカリンは在学中、足を踏み入れたことがない。

「あ」

 リリー・エルが突然立ち止まった。

「今、なにか見えませんでした?」

「なにか、って?」

 リリー・エルが廊下の隅を指さしている。その先で、黒く長い影が揺らめいた。

「追いかけますよ、先輩!」

 リリー・エルに腕をつかまれ、カリンは廊下を全速力で走るはめになる。影は光のような速さで駆けていく。必死に追いかけたが廊下のつきあたりの階段を前に、影を見失ってしまった。

「あれが『廊下を歩く人影』ですね、きっと」

「……どう見ても、歩いてはいなかったけどね」

 息を切らすカリンにかまわず、リリー・エルは階段をおりていく。

「先輩、早く来てください!」

「今度はなに?」

 おかしなことに巻き込まれ、カリンはうんざりしていた。受験生たちが消え、教室が増え、いったいなんだというのだ。

 螺旋階段をおりていくと、リリー・エルの驚きの理由が明らかになった。

「この階段、こんなに長くなかったわね」

 ぐるぐると円を描くように、螺旋階段はずっと続いている。下の方は暗くてよく見えないが、同じ階段が続いていることはたしかだろう。リーザイン魔法学園の建物は三階建てだ。地下室はない。長い階段が存在するはずはないのだ。

「戻りますか?」

「無理ね」

 カリンは即答した。来た方を見れば、廊下は消え、上へと階段が続いている。奇妙なところに入りこんでしまったおそろしさに、カリンはふるえた。杖を召喚し、自分自身に言い聞かせる。大丈夫、これは魔法だ。

 息を大きく吸いこむ。冷静になれ。どこかに魔法の存在があるはずだ。

「なんだ、こんなこと」

 カリンはほっと息をついた。わかってしまえば、なんのこともない。

「結界魔法、それに幻惑魔法ね」

 結界魔法で視界をゆがませ、幻惑魔法でそれを信じ込ませる。手はかかっているが、からくりさえ見えれば、カリンにとっては解くのはさほど難しいことではない。

 幻惑魔法を解く方法は大きく分けて二種類ある。一つは術者に解かせること、もう一つは幻惑解除魔法をかけてもらうことだ。幻惑魔法が使えるのは中級以上の魔法使いに限られる。リリー・エルでは手におえない。カリンはみずからに幻惑解除魔法をかけなければならないようだ。

 うまくいくかどうかわからないが、やってみるほかはない。

 カリンはまず、自身の前に結界魔法を張った。

「何してるんですか、先輩」

「魔法を反射させようと思って、ね」

 幻惑解除魔法は勉強をはじめたばかりで、魔法陣と呪文を使わなければ発動できそうもない。慎重に覚えたばかりの魔法陣を描き、長い呪文を唱える。カリンの杖が光を放った。

 よし、うまくいった。今度はリリー・エルの幻を解いてやる。

「実際はほころびだらけだったみたいね」

「ほころび、ですか……?」

 リリー・エルはあまり結界魔法が得意ではない。結界魔法はいろいろな使い方ができるため、カリンは好きなのだが、リリー・エルに言わせれば「地味」。派手な魔法を好むリリー・エルには、目立たないものを見つけるのは至難の業だろう。

 カリンは階段の手すりを指さした。

「見てて」

 カリンが杖の先でその部分を叩くと、光があたりを包み込んだ。結界魔法は解かれ、見慣れた階段へと様変わりする。

「この調子で謎を解いていけばいいってことね」

 なにも恐れることはない。

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