第39話
第39話
………土曜日:午前10時前:神楽の本部:12階(最上階)の一室………
女の人「いよいよですね」
神楽 「はい」
神楽の頭上には直径30センチ程の光玉が3つ。(ゆっくりと回転運動をしている)
部屋の壁には12枚の絵画が飾られ、入り口(外)には角星と都筑が立っている。
<応接室>
妹 「ああ、私も見たかったのにぃ・・」
鈴音 「まあ当然ですね」
御影 「・・では、そろそろ移動しましょう」
朱雪 「今日は鈴音様も御一緒ですぅ」
<12階:午前10時>
神楽が両手を広げると、光玉は天井を抜け、瞬く間に200メートル上空へ。
そして、3つの玉は其々別の方向に飛んで行き、民家の中、
床の間の花瓶・テレビのリモコン・台所の冷蔵庫に入って、『補佑の風』を起こす。
神楽 「上手く行きましたね」
女の人「はい。早速、風雅さんと みんなで次の手を考えてきます」
<とある神社の上空(島根県)>
3つの玉(直径30センチ程)が方々に飛んで行く。
程無く、『補佑の風』が一面を覆い始めた。
………地下駐車場:黒い車:運転席に朱雪、助手席に御影、後部座席に鈴音と妹………
〈姉が乗り込み、妹の隣(朱雪の後ろ)に座る〉
女の人「お待たせしました」
朱雪 「出発しますぅ」
〈朱雪が車を発進させる〉
妹 「ねぇ確か、連鎖反応には『鍵』が要るんだったよね」
「霹靂神に渡した『連鎖玉』って、神楽さんの『鍵』が必要なんでしょ?」
女の人「知りたい?」「でも、秘密」
妹 「何それ」
鈴音 「私は知ってますよ。教えないけど」
<回想:神楽と姉>
女の人「どうして霹靂神と同じ『鍵』が使えるんですか?」
神楽 「貴女は霹靂神と協定を結ぶ際、霹靂神本人と どんな約束をしましたか?」
女の人「閃緑さんとの間に男子が生まれたら、」
「その子が4歳になった時に能力の指導をしてくれと頼まれました」
神楽 「神楽と霹靂神は何代かに一度、協定を結ぶ事があります」
「この時、互いに共通の『鍵』を決め、次の代に受け継ぐ習わしです」
「ですから、その時までに新しい『鍵』を考えておいて下さいね」
………霹靂神の支部:10階:応接室………
6人の前にはお茶(紅茶×4・コーヒー・カフェオレ)と茶菓子が配られている。
風雅 「『風』は順調だと報告が入っている」
「正午には四国・中国・近畿・中部・関東全域」
「午後4時頃には日本全土を覆う予定だ」
妹 「これでもう安心だよ・・ね?」
「って、こんな話 前にもあったような・・」
御影 「『覆水盆に返らず』です」
「我々は進行を止めただけで問題が解決した訳ではありません」
鈴音 「では、どうする おつもり?」
女の人「『単位未満の力』・・」
「この力、御影さんは どんな風に考えていますか?」
御影 「物事が変化する時、」
「その力は全て対象物に伝えられるのではなく、一部が『下の単位』に移動します」
「例えば、力を加えて物体を動かす場合、」
「『熱エネルギー』として少し失われるのがそうです」
「近年、『温暖化』という言葉をよく耳にするようになりましたが、」
「これは人類が利用している『変化』が『下の単位』へ次々に移り、」
「最終的に多大な『熱エネルギー』に変わる事を意味しています」
妹 「うーん」
鈴音 「余った『力』は『風』や『波』といったものに順番に変化して、」
「最後が『熱』になるの」
「『異常気象』なんかは、まだ途中の変化ね」
女の人「もしかして、『熱』の次ってあったりするんですか?」
鈴音 「あるわよ。教えないけど」
風雅 「『単位未満の力』は我々の感情にも影響している。人々の鬱積が心配だな」
御影 「情報機器の発達で容易に情報を発信できるようになり、」
「受け手側への影響が懸念されるようになりました」
「情報が無償であるという思い込みが事態を悪化させているようです」
「又、発信側は例え個人情報に繋がる可能性があったとしても、」
「『単位未満』だと気付きません」
「しかし実際には、別の単位で『一単位』以上になっている場合が殆どです」
女の人「それって、『バタフライ効果』ですよね?」
御影 「そうとも言います」
朱雪 「『単位未満の力』は自身の能力を高める上でも無くてはならない概念なんですぅ」
鈴音 「そうね」
「能力者は大抵 自分の『流れ』を掴んで、自身のサイクルを持っているわね」
「あなたはまだ、その域に達していないようだけど」
朱雪 「はうぅ、ハッキリ言われましたぁ」
妹 「鈴音さん、じゃあどうすれば強くなれるんですか?」
鈴音 「人は急に『敏感』になったり『鈍感』になったり出来ないから、」
「そう簡単ではないわね」
「まず、客観的に貴女の『流れ』を観察して教えてくれる人を探すのが一番よ」
女の人「私は妹の変化を毎日見てますけど、」
「『壁』って、簡単に乗り越えられないから『壁』って言うんですよね」
鈴音 「ふふふ」
<別の時間:神代の御前>
男A 「全部隊から成果報告が挙がりました」「予想通りの収獲です」
榊 「先ほど、神楽と霹靂神が『補佑の風』を起こしました」
「時期も規模も当初の予定通りです」
男B 「紫苑と『盃』が得分の見直しを申し出ております」
「如何致しましょうか?」
神代 「鈴音が居らぬと本分を現すか」「この件は其方に一任する」
男女 「・・・」(男女3人は頭を下げ退出)
………午後1時:応接室………
風雅 「ここでの食事は神楽の本部ほどではないが、要望があれば遠慮なく言ってくれ」
女の人「いえ。十分堪能しました」
鈴音 「そうね」
妹 「ごちそうさまでした」
女の人「私ずっと考えてたんですけど、」
「神代は、人の管理や支配が本当の目的だとは思えないんです」
鈴音 「それは何故かしら?」
女の人「何と言うか、」
「人々を『混乱』させるよりも『調整』に重点を置いているような気がするんです」
鈴音 「その答えでは不十分ね」
妹 「えーと、た・ぶ・んっ、」
「お姉ちゃん的には『倹約令』だって言いたいんじゃない?」
女の人「・・・」
鈴音 「あら、正解よ」
一同 「・・・」
………30分後………
妹 「あぁ、今日も頭痛い・・」
女の人「それじゃあ話を纏めるね」
「神代は、人々に『ある物』の無駄遣いをさせて規則性を持たせた後、」
「人や物を整備して、『ある物』の浪費を抑える社会を作ろうとしている」
「所謂『スクラップ・アンド・ビルド』だね」
「そして、この時に生じた『風』や『流れ』を利用して、」
「能力者の発掘や『物』の取得を狙ってるんだよ」
「私達がこれからするべき事は、」
「神代を牽制しつつ、自分達もそれらを取り込んで対抗する事だね」
妹 「それなら楽勝じゃないの?」
「だって神代は『5』で、」
「神楽の『4』と霹靂神の『3』を合わせたら『7』になるよね」
鈴音 「ふふふ」
御影 「残念ながら、力の合成は単純な足し算ではありません」
「神代は、4と3を合わせても精々5にしかならないと鑑みて、」
「この作戦に踏み切ったのだと思います」
風雅 「霹靂神の中には、神楽との共同作戦に異を唱える者も少なくない」
「今回の作戦も、神代が本気で阻止に来たなら成功していたかどうか分からない」
妹 「えー、どうしよう鈴音さん。思ってたのと少し違う。私が考えた・・」
鈴音 「大丈夫。まだその時じゃないから」




