遠足②
「ゼエル! ゼエルは誰と一緒の馬車に乗りたい?」
いたずらっぽい表情で言うアリカ。
いじめっこが、いじめたり、いたずらをしたりする相手に見せるような顔だ。
(やな予感しかしないな……)
と、ゼエルは思い、あとずさるゼエル。
さっさとシュウを紹介して、どっかに行ってしまおう。
アリカからの質問もめんどくさそうだから、答えずにどっか行ってしまったほうがいいのかもしれない。
そして、忘れて置いてってくれたっていい。きっとそっちのほうが楽かもしれない。いや、絶対楽だ。
ゼエルはそんなことを考えながら、アリカの問いを無視してシュウを紹介する。
「アリカ……、馬車の件もいいが、ここにいるシュウのことをスズに紹介したいのだが……」
「……んっ?」
アリカは、ゼエルの横にいるシュウを一瞥して、ゼエルに視線を戻す。
「魔王マモン国の次男ね。知っているわ。
けど、私が今話題にしているのは、ゼエル。あなたの馬車の席について。
魔王マモン国の次男なんてどうだっていいの!」
「――んっ?」
ゼエルはアリカの反応に驚き、どう言葉を返すか困る。
だってそうだろう。一国の次男が、挨拶をしたいと言っているにもかかわらず、一瞥して相手にしないのだから。
9大魔王とその他の魔王の国とは、思っていた以上に上下関係があるのだろうか……、と考えを巡らせながら、スズへの挨拶を希望しているシュウの目を見る。
シュウは相変わらず穏やかににこやかな表情で丁寧にお辞儀をし、
「お忙しい中すみません。
おっしゃる通りで、私は魔王マモン国の次男のシュウゲルになります。
もしよろしければ、スズ様にご挨拶させていただけませんでしょうか?」
と、言う。
ふん、と見下したような目線をアリカはシュウに向け、
「わかったわ。スズに挨拶させてあげる。
ゼエルがシュウって呼んでるから、私もスズもイリカもシュウって呼んでいいわよね?」
「問題ございません」
「それと、スズは学園で9大魔王ルキフグの娘として特別扱いをあまり好みません。
だから、同学年として普通に話してください。
決して、『様』付けで呼んだり、敬語で話をしたりしないようにお願いします」
と、とげのある口調で言うアリカ。
「わかりました」
と、シュウが言うと同時に、
「ゼエルの回答はどうでした?」
と、スズが来たのだった。
なので、シュウは目的の相手であるスズが来たので、
「魔王マモン国の次男シュウゲルと申します。どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
と、スズもにこやかに答える。
どうやら、アリカとは違って、社交的にふるまうようだ。
さすがは一国のお姫様。礼儀をわきまえているということだろう。
「今日、『コア』に参加されるのですね。お互い全力で頑張りましょう」
「はい、頑張ります」
「ですが、今はちょっと大事な用事があるので、詳しい話はまたあとでお話ししましょう」
と、『にこり』と言って、ゼエルのほうを『キリッ』と見て腕を引っ張り言う。
「ゼエル。ユミリィはあなたの隣に座りたいって言っているけれども、あなたは私の彼氏なんだから馬車の席は私の隣がいいのよね?」