授業⑧
(ざっと、こんな流れでいいでしょう)
イリカが想定したシミュレーションは、どこにもケチをつける事ができないほど、バッチリな流れだとイリカは思った。
イリカはルシゼエルを笑顔で微笑みながら、
「ゼエル、もしよかったら、どっかデートに行かない?」
「ーーあ、ああぁ……」
「『ーーあ、ああぁ……』じゃないでしょ! 『ーーあ、ああぁ……』じゃ!」
「何か……、おかしかったか?」
不思議そうに言うルシゼエル。
イリカが心の中でシミュレーションした通りの言葉を言わないルシゼエルにイラっとして、
「おかしすぎるわよ! 『ーーあ、ああぁ……』じゃ、そこで会話が終わっちゃうでしょ⁉︎
しかも、せっかくデートに誘ったにもかかわらず、『ーーあ、ああぁ……』なんて言う気の抜けた声を聞いたらムカついてくるわ」
「ーーあ、ああぁ……」
「また気の抜けた声を言って……」
『はあー』と思わずため息をつき、頭に手を当ててしまうイリカ。
ルシゼエルは、どうしたものか、と困った顔をして、
「……大丈夫か?」
「ーーだ、大丈夫よ……、ゼエルの頭以外わね。
ゼエルの頭を叩いて治してあげるわ。頭を出しなさい!」
イリカが心の中で想定したシミュレーション通りいかなそうなので過程を飛ばしてとりあえずルシゼエルの頭を叩こうとし、すでにスカートを捲り上げ、ムチに手を当てている。
なんだか昨日と展開が似てきたな、とルシゼエルは思い、
「嫌な予感しかしないのだが……、何をする気なんだ?」
「『ゼエルの頭を叩いて治してあげるわ』と言ったのに聞こえなかったみたいね。
どうやら、耳も悪いようだから、耳も叩いて治してあげるわ」
「いや、そんな事をしなくてーー」
『キーン、コーン、カーン、コーン』
授業の終わりをつげるチャイムが鳴る。ルシゼエルにとっては、まさに救いの音だ。
ルシゼエルは机の上のノートとかを急いで片付けて、
「じゃ、じゃあ、俺は行くところがあるから……」
やや慌て気味に言う。
せっかくムチを取り出したのにルシゼエルを叩く事をできなかったイリカは、授業が終わってしまって面白くない。イリカはなんとかしてルシゼエルを叩きたい。
「待ちなさい。叩かれてから行きなさい」
「ーーなぜ? イリカの目が座ってて怖いのだが……」
「治療よ」
「俺に治療は必要ない」
「まあ、まあ、落ち着いて」
スズはルシゼエルとイリカの会話に割って入り、苦笑いしながら、
「イリカはとりあえずムチをしまって」
「ーーえっ⁉︎ でも……」
「ほら、早く」
「はい……」
スズに言われて仕方がなくムチをしまうイリカ。
スズはルシゼエルに笑顔を向けて言う。
「これから、学食に行きましょう!」




