王女への読み聞かせ
舞台の評判は上々だった。
しかし……
仕事中に突然、王城への呼び出しが。
私、
「なにか、やらかしたかな……」
番頭さんは、事情を知っているようだったが、
「私が説明するより、王城に行かれるほうがいいでしょう」
とのことだった。
王城はもちろん行ったことはなかったので、
女優に相談すると、きれいな服を貸してくれ、ヘアメイクまで世話してくれた。
礼儀作法は、先生に教わったとおりで、よいそうだった。
時間通り王城につくと、
騎士団長がでてきた。
「マリーさん。
先日は、サンドイッチをありがとうございました。
とても美味しかった。
今日は私が王城を案内します。
どうぞ王女がお待ちです」
私は会釈をし
「わかりました。よろしくお願いいたします」
と言った。
王城はとても広かった。
あちらこちらに、獅子の紋章があった。
きれいに整えられた庭には、ゴミ一つなかった。
「こちらが王女の私室です。
しばらくお待ちを」
騎士団長はノックし声をかける。
「王女様。お約束のお客様です」
「どうぞ」
と中から少女の声がした。
中からは薔薇のいい香りがした。
ピンクと赤と白で統一された、可愛いがセンスのいい部屋だった。
「まぁお座りください。あなたがマリーさんね。
お声の件……
聞きましたわ」
「王女様、恐縮です」
と私
「まぁ固い言葉は抜きにして、私の事は気楽に王女殿下とお呼びになって」
「はぁっ。王女殿下」
「冗談よ。ローズと呼んで」
「わかりました。ローズ様」
「あなた。マリーじゃない。私はローズ。二人合わせてローズマリーとかどう」
二人合わせて、ローズマリーとか、漫才師か!
なんて突っ込めるわけもなく……。
困っていると。
「王女様。マリー殿がお困りです。初対面でボケとツッコミは難しいです」
あー。そうなんだ。ボケとツッコミをして欲しい人なんだ。
私は勇気をふりしぼって
「なんでハーブやねん」
とツッコミをいれた。
王女と騎士団長は目を見合わせて大爆笑。
「マリー。お主はノリがいいのぅ。気に入った。
今日から私の読み聞かせをしておくれ」
と王女。
「読み聞かせ……ですか?」
と私
王女は見た目の年齢は12歳を超えている。
私が困惑していると……。
「あっ。別に字が読めんわけじゃないぞ。
私は、物語を声で聞くことで、
物語をイメージするのが好きなんじゃ」
なるほど。そういうことか、
「あの。ローズ様、私は仕事がありまして。
その仕事の都合もあるものですから」
と答えると、
「商会のほうには、話を通してある。
あの商会は、王室のご用達でな。
昼間は商会で仕事をしろ。
そして夜は王城に来て、読み聞かせをしてくれ。
部屋も食事も用意する。
食事は朝と晩、休みの日は、昼も用意する。
もちろん給金も弾むぞ。商会の給料の倍払おう。
なのでこれからは給料が3倍じゃ。
それでどうじゃ」
なに、その好待遇
「わかりました。謹んでお受けいたします」
と答えた。
「頼むぞ。私は幼い頃、体が弱くてね。物語の中でだけ、自由に走り回れたのじゃ」
と王女はいった。
なるほど……。
そういうことか。
それから私は王城に住み込みで働くことになった。
王城では、先生に教わったマナーが役にたった。
マナーを教わってなかったら、
ヤバかったなと思うシーンが何度もあった。
王女も
「平民にしては、なかなかやるな」
と褒めてくれた。
王女のリクエストは、
恋愛モノから冒険譚まで多岐に渡った。
私は前日に本を預かり、
次の日に読み聞かせをする。
というサイクルにした。
毎日1時間の読み聞かせだった。
「――やがて、騎士は竜の腹の中から、燃えるような言葉を叫んだのです」
そのキャラクターの感情や、出身などを踏まえて、トーンや間のコントロールをした。
キャラクターとして、平民と貴族がよく出てくるので、読み聞かせで、その瞬時の切り替えが、上手くできるようになった。
しかも……
王女が観客ということもあって
なかなかの緊張感の中で鍛えられた。
昔はオーディションでよくあがったが、
この状況に慣れた今なら、緊張しないかもしれない。
それにしても
王城では騎士団長と、
よく顔をあわせる。
王女は騎士団長を見るたびに
「お主、最近王城に来すぎではないか?」
とからかった。
その度に赤くなる顔
幼なじみに本当に似ているなと思った。
騎士団長―――
騎士団の仕事が暇なのだろうか。




