声の仕事はじめました。
と……
言うわけで私は声の仕事を始めた。
この世界は中世のような時代だけど、
マイクのようなものも存在していた。
どうやら、電気ではなく“魔力”のようなもので稼働しているらしい。
ファンタジーでいうところの魔道具みたいな感覚かな。
一度中を見せてもらったら、青い水晶のようなものに、糸のような細い線で細かく魔法陣のようなものが書かれてあった。
この魔法陣が命令のようなもので、その魔法陣に書かれた命令を青い水晶がしてくれるそうだ。
水晶は魔族のなれの果てだと言っていた。
どういうことなのかはよくわからなかった。
そういえば、私を店内放送の仕事に誘ってくれたおじさんは、ワセリン商会の番頭さんだった。
番頭というと、店長兼経理責任者という感じ。
オーナーの右腕みたいな、偉い人だった。
「あんなにため口きいてた…ごめんなさい、番頭さん。」
私はワセリン商会で働きだした。
基本的には店内放送がメイン
それ以外に
ワセリン商会関係のイベントなどで声の仕事をした。
私は声優を目指していたけど、ほとんどコンビニや100円均一ショップの店員とかをしていた。
こういう声優以外の声の仕事は新鮮だった。
ときおり、お客さんが
「ワセリン商会の店内放送の人の声はキレイ」
と言ってくれるのが、とてもうれしかった。
ある日
番頭さんが、紹介したい人物がいると、男の人を連れてきた。
身長は180㎝くらいで、がっちりとしていて、髪の毛は短め。
体育会系の青年という感じだった。
どこか懐かしい。
だれだろ。
あっ幼なじみの……
彼はこの国の騎士団長で
今度、騎士団主催のイベントがあるそうで、そこの放送を任したいと言われた。
どうも騎士団の中で、ワセリン商会の店内放送のことが話題になったそうで
それで番頭さんに訊ねてきたそうだ。
それで、もしよければということで仕事の話がきた。
私はもちろんお受けした。
騎士団長はほっとした顔をしていた。
そういう気を抜いた顔も彼に似ていた。
こっちの世界にまで彼が助けに来てくれたのかな。
私はそんな事を思っていた。
いやいや。ダメだ。仕事に集中しよう。
騎士団のイベントというのは
軍としての精強さを内外へアピールするような役割があった。
私の中では、トップクラスのイベントだった。
イベント中
会場で風が巻いた。
魔道具がガリガリと異音を鳴らす。
一瞬、音が飛んだ。
「マイクが……?」
けれど、私は手で覆い、もう一度、息を整え、続けた。
それでも、声は届いた。
想像以上にあっけなく、イベントは進み。そして終わった。
そして騎士団長からは、めちゃくちゃ感謝された。
1日前に台本のようなものを渡され
ほとんど準備なしのぶっつけ本番だったが、なんとかなった。
台本をもらって、何時間も何十時間も練習していた頃とくらべると
ぜんぜんダメダメだ。
私は仕事をなめてないか?
そう思ったが、それでも十分だったようだ。
私は、この世界で生きていける気がした。
なんだろう。転生前の私より……。
輝けているような、
そんな気がした。
騎士団のイベントの帰り道
老婆に
「あんた、その紐…
そいつには凄まじい呪力が込められている。
よっぽど大事にされてるねぇ」
と声をかけられた。
この紐は私が専門学校に行くと決まった時に
巫女をやっていた祖母からもらったものだ。
祖母は
「これにはバアチャンの髪の毛が編み込んである。
お前は―――
いずれ異界にのみこまれるやもしれん。
その時……
これが道しるべになろう。
いいか……
だれが譲れといっても、絶対に譲るな。
たとえ命を取られそうでも。
絶対に譲るな」
そう言っていた。
異界というのは、この世界のことなのかな。
でも…
私は転生したんだし。
とその時は
なにも気にしなかった。




