職探し
私はマリーの両親の残した郊外の小さな家に住んでいた。
王都までは、乗り合いの荷馬車でおよそ30分。都会に通うには、ちと骨が折れる距離だ。
ここら辺の住民は、農業をするか。王都で働くかのパターンが多い。
私はどうやら1週間前まで、酒場で働いていたが、ときおり来るモヒカン頭の冒険者がからかってくるので、思いっきり頭を空き瓶で殴ったら、さすがにマスターに怒られてクビになったらしい。
マリーってだいじょうぶな子なの?
私はふと心配になった。
ただあまり貯金もないようで、すぐに仕事を探さなくてはならない。
この国の職探しは基本的には張り紙だのみ。
スマホもなければ、求人誌もない。ここでは“足”が頼りの情報網らしい。
前と同様に酒場を探したが、空き瓶で殴った噂が流れていたらしく。
どこも断わられた。
そりゃそうだ。
街を歩いていると、
「マリーさん。マリーさん」
と私を呼ぶ声がする。
だれだろ。このおじさん。
「えーっと、誰だったっけ?」
「あっ私、先日モヒカン頭の冒険者から、助けてもらったモノです。
あの時はありがとうございました。
お礼を言おうとお店に行ったのですが、もうやめられたと聞き」
あっ思い出した。
マリーは、モヒカン冒険者にからかわれていたんだけど
それはマリーがスルーしていて、
でも他のお客さんに絡んでいるのをみて、さすがに頭に来て
殴ったんだった。
「それでどうしたの?」
と、ぶっきらぼうに返す。
もう早く仕事を探さないと…
「もしよろしかったらなんですが…。うちの商会のアナウンスの仕事をしてみませんか?」
「えっなにそれ。すごく興味ある!」
「私が働いているのはワセリン商会と申しまして、この店内でその日のセールの情報とか、迷子のお知らせなどをしています。
そのお仕事をしていた方が、急にしゃべれなくなって、その代役なのですが」
「わかった。やるわ。テストとか、いらないの?」
「えっテストですか?そうですね。では…迷子のお知らせをします。青いTシャツのお子さんでマルク君のお母様がおられましたら、1階受付けまでお知らせください。と言ってもらえますか?」
「わかったわ。
迷子のお知らせをいたします――
青いシャツのお子様、マルクくんのお母様。
いらっしゃいましたら、一階受付までお越しください」
おじさんは、ぼーっとした顔をしている。
「ダメだったかな?」
「ダメだなんて、とんでもない。
あまりにも美しい声だったので、聞き惚れていました。
もちろん採用です」
マリー……
だいじょうぶな子なの?
とか疑ってゴメン。
グッジョブだよ。
イキナリ声の仕事をもらえたよ。
ありがとう。
私は王都でお買い物をして帰ることにした。
まずは薬局にむかう。
のどスプレー、うがい薬、のど飴とかを探すためだ。
しかし残念ながら、この世界にはなかった。
自作するしかないか……。
次は市場に向かう。
美味しそうなパイの肉包みとレーズンの入ったパン。
そしてヤギの乳、あとはハチミツと大根を買った。
マリーはあまり料理をしなかったようだ。
いつもこのメニューだったよう。
ただこれからはハチミツと大根で、だいこん飴を作って食べることにする。
私にとって喉は生命線だからね。