その15 星やら宇宙やら色んなものに願いを
ほとんどがセリフです。
原点にかえって2人だけの会話です。
五月「……で、どの星がベガなんだ?」
比間「あの山の左上の方にある鉄塔の右上の方にあるアレだ。」
五月「え? あの山?」
比間「いや、その山の右のあの山の左上の方にある鉄塔の右上のアレだ。」
五月「全然わかんないよっ! 指で指し示せよっ!」
比間「アレだが。」
五月「余計に分からなくなったよ!!」
こんばんは。比間です。今宵は七夕。織姫と彦星が年に一度だけ会えるという素敵な日です。
そう。そんな日だからこそ、俺はこんな夜更けまで天体観測に駆り出される羽目になった訳で……。
五月「まぁいいよ。次はアルタイルだ!」
比間「アルタイルはあっちの山の……」
五月「山はもういいよっ!!」
とりあえず、少しばかり時を遡る。
〜4時間前〜
五月「笹をとりに行くぞー。」
比間「よし、まずこの縄を解け。詳しい話はその後だ。」
五月「詳しく話すと、今日は七夕だから笹に願いを込めた短冊を吊るしたい。」
比間「詳しく話されたよ。交換条件を提示した意味が無くなったよ。」
五月「そんな訳だから、縄を解いて欲しくば、一緒に笹をとりに来なさい!!」
比間「しかも逆に提示されたよ!」
五月「異論は明日の朝から受け付ける。」
比間「最初っから聞く気ねぇだろ。」
五月「うん。無い。」
比間「正直だなこの野郎!」
五月「さぁ、着いたぞ竹林! 早速、野山にまじりて笹をとって、よろづのことに使おうじゃないか!」
※土地管理者の許可を得ています。
比間「落ち着け。よろづのことじゃなくて短冊を吊るすんだろ。ついでに、野山にまじりてとるのは竹だ。」
五月「時に、竹と笹の違いって何だ?」
比間「どちらも単子葉植物イネ科タケ亜目の植物だが、一般的には筍の皮がついたまま伸びるのが笹。皮が剥がれ落ちるのが竹だそうだ。」
五月「じゃあどっちでもいいや。とりあえず一番長いのを持って帰ろう。」
比間「待てバカ野郎、ここにたどり着くまでに使用した交通手段を思い出せ。」
五月「バスだよ。おぉ、あれはすごく立派な竹だな!」
比間「そうだ。バスだ。そんなでかい竹持ってバスに入れるか?」
五月「お前に持たせるから私は大丈夫だよ。」
比間「そうか。たった今聞き捨てならない衝撃の事実が発覚してしまったが、よく考えてみろ。そのサイズの竹をバスに入れるのは物理的に不可能だ。」
五月「そんなもんやってみないと分からないよ。さぁ、ノコギリ貸して。」
比間「いや、入り口の大きさ的に入らねぇだろ。ついでに言うならノコギリも無い。」
五月「じゃあ鉈でもいいや。」
比間「それも無い。……つーかお前、笹とる宣言しといて鉈系統のもの持ってきて無いのか?」
五月「……え?」
笹をとりに来たのが思いつきなのは、言うまでもない。
五月「……ばっ…バカ野郎っ!! そもそも笹と短冊に願いを届けて貰おうだなんて、考えが安直過ぎる! 本当に叶えて欲しい願いなら、直接織姫と彦星に伝えるべきなんじゃないのかぁっ!!」
比間「『叶えて貰う』という他力本願な姿勢については変える気無いんだな。」
五月「よし、次は星のよく見える所に行くぞ!」
……で、今に至る。
五月「思った。アルタイルもベガも実は空想上の存在何じゃないのか。」
比間「いや、だからアレとアレなんだよ。実際に存在してんだよ。」
五月「信じないぞ、私は!! 一目見るまでは何も信じないぞ!!」
比間「特定出来てないだけで、視界には入ってんだよ! 結構な回数見てんだよ!」
五月「そこで私は考えた。そんな有るんだか無いんだか分からん星達に頼るより、この広い宇宙に願いを叶えて貰おう! と。」
比間「自力で何とかしようとは考えなかった訳だ。」
五月「と、いうことで、宇宙よ! 私の……」
フリーズ。
比間「……どうした?」
五月「よくよく考えてみると、お前がその位置にいたら、私からの宇宙へのメッセージがお前の耳にも届いてしまうではないか! それだけはダメだ!!」
比間「そうか。よーし、俺もいよいよ帰りたいから少しの間あっちに行っててやる。」
五月「……え…あ、いや待った。お前、それ以上離れるなよ。暗い夜道に一人にするなよ。何かの皮を被った何かが出てきたらどうするんだよ!!」
比間「逃げろ。」
五月「根本的な解決になってないよ!!」
比間「じゃあどうするんだよ? 刻一刻と時間は8日に向かっているぞ。」
五月「……あー…あ! この広い宇宙のことだから、きっと声に出さずとも願いを叶えてくれるに違いない!! そうだ。きっとそうだ。むしろそうでもなきゃ困る。」
比間「さてと、果たしてお前は今日、何回自分の意思をねじ曲げた?」
五月「とにかく、今から宇宙にテレパシーを送るから。静かにな。」
五月は、そう言って両手を漆黒の空に振りかざし、非常に真剣な面持ちで、かつ、蟻の囁くような小声で願いを呟いた。
何を願ったのかは聞き取れなかったが、先の発言からして人に……少なくとも俺に聞かれたくないような内容らしいからな。たずねる事はしなかった。
五月「よし、帰ろう。私は七夕を十分満喫した。」
比間「……最終的には、七夕の要素は皆無だったがな。」
五月「うるさい。来年こそはちゃんと笹を用意して願うんだよ!」
ま、俺も一応願っておこう。
…来年の七夕では振り回されませんように。
五月「間に合った。いやー間に合った。ギリギリだ。」
比間「……一応言っておくが、織姫と彦星は6日の夜から7日の明け方にかけて━━」
五月「その説明長いだろ! 間に合わなくなるから切る!!」
比間「なんだとっ!」
お粗末様でしたm(__)m




