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平凡魔王の善行日記  作者: 雪月華
魔王城周辺
9/23

8話『楽しい事にはハプニングがつきもの』

木々の合間から木漏れが差しこめる中、僕とルリは獲物を探しながら、森の中を歩いていた。


辺りは、あらゆる植物でおおい尽くされ、足踏み場なんて、動物達が通った獣道ぐらいしか見当たらない。森のあちらこちらから動物の鳴き声 (大半が鳥だと思う)が木霊している。


木々の高さもまちまちで、低い物は僕よりも少し高いぐらい (170㎝ぐらいかな?)、高い物だと5~10メートルぐらいあった。


その木々のいくつには木の実や果実が実をつけていた。


「(毒があったら嫌だから、あれを使ってみようかな。)」


ルリに聞いても、見たことがないと言われてしまったので、気を取り直して、魔法の準備に取り掛かった。


人物開示(ステータス)》を確認した時に見つけた魔法「鑑定(リア)」。

僕のレベルが上がっていたので、修得した魔法なのかな...ぐらいに思っている。


この際、食べ物を見分けられたら何でもいいよ。これ以上、塩乾パン食べたくない。......と言うのが本音である。


早速、近くの低木になる赤いりんごのような実に使って見た。



ーー

名前:リンギュル

物類:果実

物価:5ペルカ

ーー



どうやら、毒はないみたい。強い甘味とほのかな酸味が美味しく、かじった跡から果汁が溢れてくる。まんま、りんごと大差ない果実だ。ただ、大きさがピンポン球程の大きさしかない。


リンギュルの他には、ミカンのようなミリカ。さくらんぼのようなチェリピ...とか見つかった。

どれも美味しそうだけど、地球産の物に比べ、味や大きさ等の違いが見てとれた。


果実の他には、フキのようなフリンギ、タケノコのようなケリンコなんかもみつけた。


ルリの実家の方にも、ケリンコやチェリピはある見たいで、チェリピを美味しそうにかじっている。僕が見ている事に気がついたのか『私の顔に何か...』頬を赤く染め、そっぽを向いてしまった。それでも、チェリピを放さないから、余程好きなんだろうな。


事前に「鑑定」で調べたけど、どれにも毒はないようだから安心して、これらを食べる事が出来る。

そう思い、僕もルリが美味しそうに食べているチェリピをかじって見た。


「(あ...あま...!?)」


この感じ、なんて言えば良いのだろう。そうこれは、ほんのりした甘さを期待して買った紅茶が、実は純度100%のメープルシロップ(原液)だったぐらいの甘味を僕は今、感じています。


ようは、甘過ぎるのだ。

ルリは幸せそうに、新しいチェリピをかじっているけど、僕はこれ1つで限界だろうね。美夢もよく甘過ぎるお菓子を幸せそうに食べては、後で体重計の前で唸る事になってだなぁ。どの世界でも女の子の甘い物好きは変わらないみたいだ。











甘い果実チェリピを堪能したルリと僕は、果実や山菜を収穫しつつ、更に森の奥へと来ていた。 


森の入口と違い、奥の方は木々が生い茂り日の光りが余り入らないのか、薄暗く草々は膝下ぐらいしかないが、薄暗いので余計に歩きにくい。


「...ん?」


「クロ...居ました......ウリボンです。」


目の前には、黒毛の猪が歩いていた。

外見は猪だが、何故か尻尾がダイナマイトのようになっており、身の危険を感じると点火され、自爆テロ真っ青な特攻を仕掛けてくるらしく、並の狩人や冒険者では狩るのも難しいとの事。

そんな理由から、肉は高級品として売買され、一部の貴族から好評な食材でもある。


「(この世界には、爆弾って概念もないのか...)」


ルリからウリボンの説明に、爆弾って言葉が混じる事がなかった。爆発は知っているから単純に、爆弾が開発されていないだけかも知れない。


さて、どうするかなぁ。

身の危険を感じると特攻を仕掛けてくるなら、一撃で仕留める必用がある。そして何よりも、僕は動物の解体なんてやったことがないから、どうするかなぁ。


クイクイ.....


...ん?...なんだろう。袖が引っ張られてる。


ルリ...何、自信満々に自分を指差してるの?。何、ルリに任せても良いの?


「......ん...」


コクリ


あ...頷いた。そこまで、自信があるなら任せても大丈夫かな?


「え...っと...じゃあ、任せるね。」


「...任せて」


そう言うと、ブカブカな両袖からナイフが表れ、両手に収まる。続いて、魔法が綴られていく。


ウリボンも魔力を感じたのか、警戒体勢に入るが、尻尾の爆弾には点火されていない。魔法を綴っているのが、見た目が幼いルリだから油断してるのか?。


「いくよ......「瞬間加速(アクセレーション)」」



ボソリと魔法名を唱えた、その瞬間、ルリの姿が消えた。

そして、何かを突き刺すような音と、獣の絶叫。


あわてて視線を向けると、ウリボンの首に両手のナイフを刺したまま、地面を蹴りあげるルリの姿が見えた。ルリは空中で身体をひねり、さらに押し込んだナイフを左右から引き抜き着地する。


「クロ...終わりました。」


ナイフからはウリボンの血が滴り、返り血で頬を汚したルリ。ウリボンは先程の攻撃で絶命したのか、ピクリとも動かない。


「あ、ありがとう。」


正直、凄すぎ。僕ぐらいなら簡単に倒せるんじゃないかな?。それと同時に、何でこの娘は捕まってたのかが疑問でならない。今度、時間がある時にでも聞いてみようかな。


「クロ、そろそろ帰りましょう...血の臭いで、他の獣達が、集まって来ま......ッ!」


その指摘は、少し遅かったかな。そして、ルリも気がついたんだ。ヤバイのが草木を薙ぎ倒し、地響きをあげながらこちらに近づいて来る。




「グガァァァ!」




雄叫びをあげながら、木々を薙ぎ倒し表れたのは、緑色の皮膚をした全長5メートルは有ろうかと言う巨人だった。その目は赤く光り、鋭い牙が並んだ口からは唾液が溢れている。


「『森林(フォレスト・)......の巨人(ジャイアント)』」


「『森林の巨人』?」


「ま、不味いです...クロ。に、逃げ、ない、と...。」


ルリはその場から動かない。イヤ、よく見ると、身体が震えている。『森林の巨人』への恐怖で動けないのだ。


先程、ウリボンを一撃で仕留めたルリが脅えながら、逃げると言う相手。それを、僕は痛いほど体感している。息苦しい程の威圧感。正に、ヘビに睨まれたカエルの気分だよ。


でも、このままでいるのは不味い。あの巨人は血の臭いに釣られてやって来たのだ。あの巨体がウリボン一体で満足するはずない。まず間違いなく僕たちを狩ろうとするだろう。



──......ん...



でも、どうすれば。逃げても、あの巨体に追いかけられたら、あっという間に追い付かれる。



──...こ.......ちゃん...。



だからといって、攻撃に出ても勝てる気がしない。

唯一効きそうな、「海炎爆撃(ブレイズブレス)」は確実に森が火事になって、僕もルリも焼け死ぬ未来しか見えない。



──こっちに来て...お兄ちゃん...。



え...。

なんだ、この声。

僕を呼んでるのか?。でも誰が...


「グガァァァ!」


森林の巨人が僕達目掛けて、拳を降り下ろそうとする。しかし、その拳が振るわれることはなかった。


突如として、草木が『森林の巨人』へと巻き付き、その身体を拘束していく。当然、『森林の巨人』も振りほどこうと暴れるが、枝や蔓、葉が余計に食い込みその動きを阻害していく。



──今のうちに...お姉ちゃんを連れて...早く...。



確かに、逃げるなら今のうちだ。

僕はルリの手を取り、急いでその場から声のする方へ駆け出した。すると、不思議な事に、まるで道を造るように目の前の草が、勝手に倒れていく。


声の主は、自分の下に僕達が来る事を望んでいる。その為に、道を示しているのだろう。


そして、道の終わりまで走りきった僕達は、一本の巨木の下にたどり着いた。巨木の回りに木々は生えておらず、この場所だけが広間のようになって、日の光りで明るく照らされていた。



「やっと会えたね...お兄ちゃん。」


その巨木の下で、僕達は彼女と出会ったんだ。

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