8話『楽しい事にはハプニングがつきもの』
木々の合間から木漏れが差しこめる中、僕とルリは獲物を探しながら、森の中を歩いていた。
辺りは、あらゆる植物でおおい尽くされ、足踏み場なんて、動物達が通った獣道ぐらいしか見当たらない。森のあちらこちらから動物の鳴き声 (大半が鳥だと思う)が木霊している。
木々の高さもまちまちで、低い物は僕よりも少し高いぐらい (170㎝ぐらいかな?)、高い物だと5~10メートルぐらいあった。
その木々のいくつには木の実や果実が実をつけていた。
「(毒があったら嫌だから、あれを使ってみようかな。)」
ルリに聞いても、見たことがないと言われてしまったので、気を取り直して、魔法の準備に取り掛かった。
《人物開示》を確認した時に見つけた魔法「鑑定」。
僕のレベルが上がっていたので、修得した魔法なのかな...ぐらいに思っている。
この際、食べ物を見分けられたら何でもいいよ。これ以上、塩乾パン食べたくない。......と言うのが本音である。
早速、近くの低木になる赤いりんごのような実に使って見た。
ーー
名前:リンギュル
物類:果実
物価:5ペルカ
ーー
どうやら、毒はないみたい。強い甘味とほのかな酸味が美味しく、かじった跡から果汁が溢れてくる。まんま、りんごと大差ない果実だ。ただ、大きさがピンポン球程の大きさしかない。
リンギュルの他には、ミカンのようなミリカ。さくらんぼのようなチェリピ...とか見つかった。
どれも美味しそうだけど、地球産の物に比べ、味や大きさ等の違いが見てとれた。
果実の他には、フキのようなフリンギ、タケノコのようなケリンコなんかもみつけた。
ルリの実家の方にも、ケリンコやチェリピはある見たいで、チェリピを美味しそうにかじっている。僕が見ている事に気がついたのか『私の顔に何か...』頬を赤く染め、そっぽを向いてしまった。それでも、チェリピを放さないから、余程好きなんだろうな。
事前に「鑑定」で調べたけど、どれにも毒はないようだから安心して、これらを食べる事が出来る。
そう思い、僕もルリが美味しそうに食べているチェリピをかじって見た。
「(あ...あま...!?)」
この感じ、なんて言えば良いのだろう。そうこれは、ほんのりした甘さを期待して買った紅茶が、実は純度100%のメープルシロップ(原液)だったぐらいの甘味を僕は今、感じています。
ようは、甘過ぎるのだ。
ルリは幸せそうに、新しいチェリピをかじっているけど、僕はこれ1つで限界だろうね。美夢もよく甘過ぎるお菓子を幸せそうに食べては、後で体重計の前で唸る事になってだなぁ。どの世界でも女の子の甘い物好きは変わらないみたいだ。
甘い果実チェリピを堪能したルリと僕は、果実や山菜を収穫しつつ、更に森の奥へと来ていた。
森の入口と違い、奥の方は木々が生い茂り日の光りが余り入らないのか、薄暗く草々は膝下ぐらいしかないが、薄暗いので余計に歩きにくい。
「...ん?」
「クロ...居ました......ウリボンです。」
目の前には、黒毛の猪が歩いていた。
外見は猪だが、何故か尻尾がダイナマイトのようになっており、身の危険を感じると点火され、自爆テロ真っ青な特攻を仕掛けてくるらしく、並の狩人や冒険者では狩るのも難しいとの事。
そんな理由から、肉は高級品として売買され、一部の貴族から好評な食材でもある。
「(この世界には、爆弾って概念もないのか...)」
ルリからウリボンの説明に、爆弾って言葉が混じる事がなかった。爆発は知っているから単純に、爆弾が開発されていないだけかも知れない。
さて、どうするかなぁ。
身の危険を感じると特攻を仕掛けてくるなら、一撃で仕留める必用がある。そして何よりも、僕は動物の解体なんてやったことがないから、どうするかなぁ。
クイクイ.....
...ん?...なんだろう。袖が引っ張られてる。
ルリ...何、自信満々に自分を指差してるの?。何、ルリに任せても良いの?
「......ん...」
コクリ
あ...頷いた。そこまで、自信があるなら任せても大丈夫かな?
「え...っと...じゃあ、任せるね。」
「...任せて」
そう言うと、ブカブカな両袖からナイフが表れ、両手に収まる。続いて、魔法が綴られていく。
ウリボンも魔力を感じたのか、警戒体勢に入るが、尻尾の爆弾には点火されていない。魔法を綴っているのが、見た目が幼いルリだから油断してるのか?。
「いくよ......「瞬間加速」」
ボソリと魔法名を唱えた、その瞬間、ルリの姿が消えた。
そして、何かを突き刺すような音と、獣の絶叫。
あわてて視線を向けると、ウリボンの首に両手のナイフを刺したまま、地面を蹴りあげるルリの姿が見えた。ルリは空中で身体をひねり、さらに押し込んだナイフを左右から引き抜き着地する。
「クロ...終わりました。」
ナイフからはウリボンの血が滴り、返り血で頬を汚したルリ。ウリボンは先程の攻撃で絶命したのか、ピクリとも動かない。
「あ、ありがとう。」
正直、凄すぎ。僕ぐらいなら簡単に倒せるんじゃないかな?。それと同時に、何でこの娘は捕まってたのかが疑問でならない。今度、時間がある時にでも聞いてみようかな。
「クロ、そろそろ帰りましょう...血の臭いで、他の獣達が、集まって来ま......ッ!」
その指摘は、少し遅かったかな。そして、ルリも気がついたんだ。ヤバイのが草木を薙ぎ倒し、地響きをあげながらこちらに近づいて来る。
「グガァァァ!」
雄叫びをあげながら、木々を薙ぎ倒し表れたのは、緑色の皮膚をした全長5メートルは有ろうかと言う巨人だった。その目は赤く光り、鋭い牙が並んだ口からは唾液が溢れている。
「『森林......の巨人』」
「『森林の巨人』?」
「ま、不味いです...クロ。に、逃げ、ない、と...。」
ルリはその場から動かない。イヤ、よく見ると、身体が震えている。『森林の巨人』への恐怖で動けないのだ。
先程、ウリボンを一撃で仕留めたルリが脅えながら、逃げると言う相手。それを、僕は痛いほど体感している。息苦しい程の威圧感。正に、ヘビに睨まれたカエルの気分だよ。
でも、このままでいるのは不味い。あの巨人は血の臭いに釣られてやって来たのだ。あの巨体がウリボン一体で満足するはずない。まず間違いなく僕たちを狩ろうとするだろう。
──......ん...
でも、どうすれば。逃げても、あの巨体に追いかけられたら、あっという間に追い付かれる。
──...こ.......ちゃん...。
だからといって、攻撃に出ても勝てる気がしない。
唯一効きそうな、「海炎爆撃」は確実に森が火事になって、僕もルリも焼け死ぬ未来しか見えない。
──こっちに来て...お兄ちゃん...。
え...。
なんだ、この声。
僕を呼んでるのか?。でも誰が...
「グガァァァ!」
森林の巨人が僕達目掛けて、拳を降り下ろそうとする。しかし、その拳が振るわれることはなかった。
突如として、草木が『森林の巨人』へと巻き付き、その身体を拘束していく。当然、『森林の巨人』も振りほどこうと暴れるが、枝や蔓、葉が余計に食い込みその動きを阻害していく。
──今のうちに...お姉ちゃんを連れて...早く...。
確かに、逃げるなら今のうちだ。
僕はルリの手を取り、急いでその場から声のする方へ駆け出した。すると、不思議な事に、まるで道を造るように目の前の草が、勝手に倒れていく。
声の主は、自分の下に僕達が来る事を望んでいる。その為に、道を示しているのだろう。
そして、道の終わりまで走りきった僕達は、一本の巨木の下にたどり着いた。巨木の回りに木々は生えておらず、この場所だけが広間のようになって、日の光りで明るく照らされていた。
「やっと会えたね...お兄ちゃん。」
その巨木の下で、僕達は彼女と出会ったんだ。