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第86話 地下十階の激震!  双角のベヒモスを崩す絆の風


 地下1階の青空が広がる平原フィールドを突破した後も、俺たち〈アストライア・ドーン〉のメンバーは、二つのパーティでレイドを組みながら迷宮の階層を着実に下っていった。


 地下2階から9階にかけての道中も決して平坦ではなく、岩石を纏うゴーレム系の魔獣や、暗闇から奇襲を仕掛けてくるシャドウ・リザードなど、階層が深まるごとに手強いモンスターが次々と牙を剥いた。


 しかし、俺たちには、揺るぎないチームワークと圧倒的な個々の戦闘力があった。


「それっ、私のガントレットの連続鉄拳で、その硬い装甲を粉々に砕いてあげるよ!」


 ニベアが豪快な突進パンチで岩石ゴーレムの中央核を砕き、ミナミが後方から的確に回復とバフの光を放つ。


「ハルマ君、左側の死角から雑魚の増援が来るよ!」


「任せとけ、シズクさん! 一匹残らず足止めしてやるぜ!」


 ハルマとシズクが息の合った連携で前線を守り、スズカが広範囲のソーサラー魔法で一網打尽にする。


 第一パーティの側でも、リネアの闇魔法が敵の動きを縛り、セラが二丁の魔導銃で正確無比な狙撃を浴びせ、ティアナの聖魔法が全員の背中をしっかりと支えていた。


「皆さんの息がぴったりですね」


 シュリが星辰の魔導書をめくりながら、魔力を循環させる。


「ああ。この調子なら、どんな階層のボスが待ち受けていても怖くない」


 セリアさんが余裕の笑みを浮かべながらうなずきつつ、愛用の魔剣を振るう。


 そして、俺たちはついに、地下十階の最奥へと辿り着いた。


 目の前にそびえ立っていたのは、禍々しい古代の魔紋が刻まれた、圧倒的な威圧感を放つ巨大な黒金の重扉だった。


「ここが地下十階の最奥……。いよいよ最初のフロアボスね」


 シオンが複合剣を構え直しながら、鋭い眼光で扉を見据える。


「ああ。扉の向こうから尋常じゃない重圧を感じる。皆、油断するなよ」


 俺が頷き、メンバー全員がそれぞれの武器を手に取って戦闘態勢を整える。


 ライムがタブレットをパタパタと操作しながら、緊張感のある声で言った。


「マスター、周辺の魔力濃度が急激に跳ね上がっています! 扉の向こうにいるのは、間違いなく手強い大物です!」


「よし、開けるぞ……!」


 俺は重い黒金の扉に手をかけ、全力を込めて押し開いた。


 轟音とともに扉が開き、目の前に現れたのは、マグマの流れる巨大な溶岩ドームのような地下アリーナだった。


 その中央に、圧倒的な巨体を横たえていた影が、重々しくゆっくりと立ち上がる。


【安倍ノ家:ほう……地下十階のフロアボスか。単純な力押しだけでは苦戦が必至だな。ユウたちのパーティがこの巨獣をどう攻略するか、実に興味深い検証になりそうだ。弱点を突く手腕が見ものだな】


【灰かぶりうさぎ:キターーーッ!! ボス部屋の重厚な扉を開けた瞬間の、あのゾクゾクする冒険のロマン!! しかもユウパパとシオンママが並んで立ってるこの背中合わせの構図だけで、私のごちそうさまエネルギーが満タンを振り切ってるんですけど!! 全全全財産をかけてユウ&シオンペアの圧倒的勝利を応援するからね!!(絶叫のあまり喉から血を流すオタク)】


 アリーナの中央で、地響きを立てながら巨体が完全に姿を現した。


 頭上にそびえ立つ、禍々しく輝く巨大な二本の角。山のように盛り上がった筋肉質の巨体から、凄まじい重圧が放たれる。


 俺はすかさず解析を発動し、その詳細なデータを全員の共有ウィンドウに転送した。



 名称: 双角の巨獣『ダブルホーン・ベヒモス』(推奨Lv.68)

 属性: 地・重力(※圧倒的な物理耐久力と突進力を持つが、氷・魔力貫通属性に弱点を持つ)

 特性: 地下10階の最奥に君臨するエリアボス。山のような巨体を誇り、頭部に生えた巨大な二本の角を用いた強烈な突進攻撃と、大地を揺るがす踏みつけによる範囲衝撃波を繰り出す。巨体に似合わず突進スピードが非常に速い。

 弱点部位: 額の中央(二本の角の付け根の間)、および腹部の柔らかい装甲継ぎ目。

 主なドロップ・剥ぎ取り素材: 『ベヒモスの巨双角』、『重厚なる地竜の装甲板』、『巨獣の剛筋』



「推奨レベル68……! これはとんでもないボスが出てきましたね!」


 ティアナが息を呑みながら聖杖を構える。


「推奨レベルが高かろうが関係ないよ。あの巨大な二本の角、ものすごく貴重な素材になりそうじゃない。絶対に綺麗に剥ぎ取って帰ってやる!」


 ニベアがニヤリと笑い、闘志をみなぎらせる。


「皆、気をつけて! データにもある通り、あんな巨体なのに突進スピードが異常に速いはずよ!」


 シオンが警告を発した瞬間、ダブルホーン・ベヒモスが赤く爛々と光る目を剥き出し、低く地を這うような咆哮を轟かせた。


 ──グオォォォォンッ!!


「来るっ……!!」


 私の叫びと同時に、ダブルホーン・ベヒモスがその巨体をまるで砲弾のように急加速させ、凄まじい砂煙を巻き起こしながら一直線に突進してきた。


「速い……っ!?」


 その巨体からは信じられないほどの爆発的な初速に、前衛にいた俺たちは思わず気圧される。


「させないっ! 私の力で受け止めてみせる……っ!」


 シズクさんが両手剣を十字に構え、迫り来る巨獣の突進を正面から受け止めようと踏み込んだが、その凄まじい質量と重力の衝撃波の前に、足元が大きく吹き飛ばされてしまった。


「シズクさんっ!」


「くっ、重すぎる……! 一筋縄じゃいかないね!」


 ハルマが素早く飛び出し、シズクさんの腕を掴んで安全圏へと引き戻す。


「第二パーティ、前線維持が危うい! ミナミ、連続バリアと回復を!」


「任せてセリアさん! ──天上の光よ、我が祈りに応えて厚き盾となれ! あらゆる悪意と災厄を弾き返す、聖別の多重陣――〈セレスティアル・バリア〉!」


 ミナミが掲げた聖典から黄金色の魔力が溢れ出し、幾重もの神聖な光の壁がドーム状に展開される。ベヒモスが放った荒れ狂う衝撃波の余波が直撃した瞬間、激しい摩擦音を立てながらも、光の障壁は気力と聖なる加護で辛うじてその決壊を防ぎきった。


「私の魔法で、足元を凍てつかせて動きを鈍らせてあげるよ──北天の極寒を司る魔の息吹よ、我が杖の導きに集いて凍てつく処刑の刃となれ。足元を繋ぎ止め、その巨体を永遠の眠りに誘え──〈アイシクル・パニッシュメント〉!」


 スズカが杖を地面へ突き立てると、アリーナの床から猛烈な冷気が噴き出し、瞬く間に無数の鋭い氷柱が波状に押し寄せてベヒモスの巨足を拘束しようと襲い掛かる。


 けれど、その巨体は、冷気を纏う氷柱をまるでガラス細工のように一蹴し、一瞬にして粉々に粉砕してしまった。


「硬い……! 氷属性の減速すら弾き返すなんて!」


「よし、ならボクが魔力貫通で隙を作る!」


 セラが二丁の魔導銃から魔力貫通弾を連射し、ベヒモスの腹部の柔らかい装甲継ぎ目を狙撃する。


 続けてルビーが「キュウッ!」と威嚇の炎を吐き出すが、ベヒモスの突進の勢いは一向に衰えない。


「リネア、俺の拘束と合わせて奴の足元を縛ってくれ!」


「這い上がれ、闇の茨。その意志に応じ、永遠の枷となれ──〈バインド・オブ・アビス〉!」


 リネアと俺が同時に魔力を解放し、地面から漆黒の茨と錬金術の鎖を這い上がらせてベヒモスの足首を絡め取る。


「ガァァァッ!!」


 ベヒモスが怒り狂い、強烈な前足の踏みつけによる範囲衝撃波を放った。アリーナ全体が激しく揺れ動き、俺たちは危うく体勢を崩しかける。


「みんな、落ち着いて! 私の風の技で、あの巨体のバランスを完全に崩してあげるわ!」


 その絶妙なタイミングで、最前線へと舞い上がったシオンが、複合剣を鮮やかに一閃させた。


 その纏う気配が、一瞬にして周囲の空気を吸い込むように鋭く研ぎ澄まされていく。


「天を統べる高潔の風霊よ、我が剣の軌跡に集いて世界の理を断て。大気を切り裂き、あらゆる重力と巨体を天へと穿つ神速の真空界──〈天穣・風神葬刃〉!」


 シオンが凛とした声で叫び、剣を一気に振り抜いた瞬間、アリーナ全体の空気が一極集中するように激しく渦巻いた。


 シオンが繰り出した究極の風の絶技が、アリーナ全体を巻き込むほどの凄まじい竜巻へと昇華する。


 轟音を立てて吹き荒れる神速の竜巻は、驚異的な風圧と無数の真空の刃となってダブルホーン・ベヒモスの巨体を丸ごと包み込み、地面から完全に空中へと浮き上がらせた。


「な……っ!? あんなバケモノみたいな巨体を、空中に巻き上げた……!?」


 ハルマが目を見開き、驚愕の声を漏らす。


「すごい……! さすがシオン様、最高にカッコいいです!」


 ライムがタブレットを片手に大興奮で歓声を上げる。


「今だ……っ! 態勢を崩した奴の弱点に、全員の全力火力を叩き込むぞ!!」


 俺の合図とともに、仲間たちの闘志が最高潮に達した。


「マスター、全パーティメンバーの魔力同調および弱点部位のロックオン完了しました! 各人の攻撃火力が最大値を発揮できるよう、空間座標の補正と魔力加速を全開で展開します──今です、一気に畳み掛けましょう!」


 ライムがタブレットを大きく宙に掲げ、幾重ものホログラム演算陣を素早く弾きながら、メンバー全員へ完璧な戦闘サポートの光を浴びせる。


「私のガントレットの全精力を込めた、最強の鉄拳を味わいなさいっ!」


 ニベアが跳躍し、空中で無防備となったベヒモスの腹部装甲の継ぎ目めがけて渾身の重撃を叩き込む。


「ボクの魔導銃の全弾連射、その額の角の付け根を正確に貫くよ!」


 セラが凄まじい連射速度で弱点部位を蜂の巣にする。


「──眠れ、永遠の氷河に抱かれて。凍てつく星屑よ、彼の者を穿て! ──〈ダイヤモンド・ダスト〉!」


 セラの連射による隙を逃さず、スズカの頭上に展開された無数の魔法陣から巨大な氷の塊が降り注ぎ、ベヒモスの動きを完全に封じ込める。


「その聖なる光で、すべてを焼き尽くしましょう。──〈アストラル・スター・バースト〉ッ」


 シュリが放った眩い星辰の光芒が、ベヒモスの身体を焼く。


「いくぞ! ──〈スターバースト・ブレイク〉!」


 セリアさんが放った強力な魔力貫通剣撃が、ベヒモスの巨体に鮮烈な十字の軌跡を刻み込む。


「シズクさん、今だ!」


「任せてハルマ! 私の大剣で両断してあげる――ッ!」


 シズクが豪快に大剣を振るい、ティアナとミナミの援護魔法を背に受けながら、ベヒモスの側面に致命的な一撃を浴びせた。


「リネア、ルビー、フィニッシュを決めよう!」


「了解! 漆黒の極光よ、我が魔力を糧に全てを穿て! ──〈ダーク・エクリプス・レイ〉!

」


「キュイーーッ!」」


 リネアの闇魔法のと、ルビーの超高熱ブレスが融合し、眩い光の奔流となってベヒモスの全身を焼き尽くす。


「そして、これがトドメだ……っ!!」


 俺は極光の錬金杖のモード1〈ライトニング・エッジ・ブレイク〉を最大レヘルで展開しながら、シオンが作り出した竜巻の中心へと飛び込んだ。


 シオンと私の息が完璧に重なり合い、風と光の錬金術が奇跡のような極大の光刃を形作る。


 ──ズバアアアアァァァンッ!!!


 静寂を切り裂くような凄まじい爆発音とともに、ダブルホーン・ベヒモスの巨体からまばゆい光が溢れ出し、その巨大な二本の角がポキリと音を立てて砕け散った。


 巨大な双角の巨獣が、盛大に地面へと崩れ落ち、そのまま光の粒子となって霧散していく。


【システム通知:フロアボス『ダブルホーン・ベヒモス』の討伐に成功しました。経験値を獲得し、パーティメンバー全員がレベルアップしました】


「やったぁぁぁ――っ!!」


 アリーナ中にメンバーの歓声と拍手が響き渡る。


 地面には、目も眩むような黄金の輝きを放つ『ベヒモスの巨双角』や、最高品質の『重厚なる地竜の装甲板』、そして屈強な『巨獣の剛筋』が山のようにドロップしていた。


「やったわね、ユウ! 見て、この立派な二本の角……最高の素材が手に入ったわ!」


 シオンが息を弾ませながら微笑み、俺の隣にふっと降り立った。その瞳には誇らしげな輝きが宿っている。


「ああ、シオンのあの見事な竜巻がなければ、あそこまで綺麗に体制を崩せなかった。そして、本当に見事な連携だったよ、皆!」


 俺が振り返ると、仲間たちは皆、笑顔で互いの健闘を称え合っていた。


 そうして、地下十階のフロアボス討伐を成し遂げた俺たちは、さらなる高みを目指し、地下五十階層へと続く迷宮の奥深くへ向けて、再び力強く歩みを進めていった。


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