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第63話 栄光の表彰式、黒き凶弾の閃光


 メインアリーナの歓声が、まるで怒濤のようにうねりを上げて天井の魔導ドームを揺らしている。

 数万人を収容する客席は、先ほどの決勝戦の余熱をそのままに、今日一番の熱気を帯びていた。

 

 その熱気の中心で行われていたのが、三位決定戦の激闘だ。

 シオンとシュリという、今大会屈指の美しさと実力を兼ね備えた実力者同士の対決は、最後までどちらが勝つか分からない一進一退の攻防となった。

 だが、接戦の末に勝利を掴み取ったのは、シオンだった。

 

 シュリの放つ『星辰魔法』は、広範囲を高密度な星屑の弾幕で制圧する圧倒的な破壊力と美しさを誇っていた。

 しかし、遠距離からの魔力弾幕に対し、シオンは覚醒スキル〈天壌風霊〉による神速のステップでその軌道を華麗にかわし、一気に間合いを詰めていく。

 近接戦に持ち込んでからのシオンは、風の力を纏わせたしなやかな剣技と、左腕に装着した『青銅魔導の円盾』を巧みに操り、シュリの鉄壁の守りを少しずつ切り崩していった。

 最後は、風の加速を乗せた鋭い一閃がシュリの防護フィールドを捉え、見事に三位の座をもぎ取ったのである。

 

 

 そして、すべての戦いが終わり、いよいよ大会のフィナーレを飾る『表彰式』の時間がやってきた。

 

 夕日に染まり始めたアリーナの中央に設けられた絢爛豪華な特設ステージ上には、黄金の絨毯が敷かれ、厳かなファンファーレが鳴り響いている。

 観客席からの温かい拍手と喝采に包まれながら、上位入賞者である三人のファイターが堂々と入場した。

 ステージの中央には、ウェリアタース王国の国王が、威厳と慈愛に満ちた表情で待っている。


 まず初めに呼ばれたのは、三位のシオンだった。

 彼女は気高いアーク・エルフの血脈を感じさせる凛とした佇まいで国王の前に進み出ると、深く一礼した。

 国王は優しくうなずきながら、シオンの健闘を讃える輝かしいメダルをその首にかけていく。

 シオンはその顔に誇らしい笑みを浮かべ、美しい一礼でそれに応えた。

 

 続いて呼ばれたのは、準優勝となったレオンハルトだ。

 絶対王者としての気品を纏った彼は、静かに王の前に歩み寄り、落ち着いた物腰でメダルを受け取る。

 敗れはしたものの、その背中には王者にふさわしい気高さと、さらなる高みを目指す強い意志が宿っていた。

 

 そして、いよいよ、優勝者である俺の番がやってきた。

 

 アナウンサーが声を張り上げ、会場全体の視線が私へと集中する。

 私は一歩一歩、黄金の絨毯を踏みしめながら国王の正面へと歩み寄った。

 

「よくぞ勝ち上がってくれた、若き勇者よ。そなたの見事な戦いぶり、この国の王として心から誇らしく思う」

 

 国王が温かい声音でそう語りかけながら、私の首元に栄誉の金色のメダルをかけてくれる。

 その瞬間、観客席からの歓声は最高潮に達し、割れんばかりの拍手がアリーナ全体を包み込んだ。

 

 その時だった。

 

 平和な祝祭の空気を一瞬で凍りつかせる、不穏な影が上空を横切った。

 観客席の片隅から、不自然な低音を響かせて魔導ドローンが一機、猛スピードで飛来してきたのだ。

 

「……っ!?」

 

 直感的な危機感が背筋を駆け抜け、俺は反射的に視線を上空へと向けた。

 ドローンの腹部から、無機質な金属光沢を放つ不気味な『黒い球体』が切り離され、ステージの中央へと真っ直ぐに落下していく。

 

 あれは、ゲーム内のシステム的な演出ではない。

 先日、シグレが耳にした、あのゲイルが企てていた『暗殺計画』の残滓──本物の爆弾だ!

 

「国王陛下、危ないっ……!!」

 

 考えるより先に体が動いていた。

 俺は驚愕の表情で固まっている国王に飛びつくように覆いかぶさり、同時に全身の魔力を解放して、特製ジャケットに組み込まれた高出力の防護フィールドを最大展開する。

 

 レオンハルトとシオンも異常を察知し、レオンハルトは即座に自身のスキルで純白の光の障壁を展開し、シオンは風の聖域を広げて周囲の観客や王族を守るように身構えた。

 

 ──ズガァアアアアンッ!!

 

 世界が引き裂かれるような、耳をつんざくすさまじい爆音がアリーナ全体を揺るがした。

 凄まじい衝撃波と閃光がステージを完全に飲み込み、もうもうと立ち込める黒煙が視界を真っ黒に染め上げる。

 

 

【安倍ノ家:これは……! 先日のゲイルの『プランB』というのは、まさかこの表彰式会場での国王暗殺のことだったのか!? セキュリティの網を抜けて魔導ドローンを持ち込むとは、旧帝国の残党組織が裏で糸を引いているに違いない。だが、ユウの反射神経と防護フィールドの展開速度は異常だな。一瞬の判断で最悪の事態を防ぎきった。実に緊迫した局面だ】


【灰かぶりうさぎ:ちょっと待ってええええええええ!!!??? 平和な表彰式が急にハードモードのテロ現場になったんだけどどういうこと!?!? てか、敵の爆弾が落ちてきた瞬間、ユウ君が迷わず国王様に覆いかぶさって身を挺して守ったのカッコよすぎでしょ……!! 男前すぎるでしょユウ君!!! しかも隣ではシオンちゃんもレオンハルト様も一斉に庇う体勢に入ってて、チームワークの良さに私の涙腺がダム決壊したわ! 無事よね!? 誰も怪我してないわよね!? はやく煙晴れてええええええ!!!!!】

 

 

 数秒後、すさまじい爆風と衝撃が収まり、ゆっくりと砂塵と黒煙が晴れていく。

 

 俺は自分の身体を覆っていた防護フィールドを解除し、そっと身を起こした。

 足元の石畳は爆発で大きく抉れていたが、二重三重に展開された防御のおかげで、直撃は完全に防がれていた。

 

「……陛下、お怪我はありませんか?」

 

 俺は息を整えながら、腕の中で固まっていた国王を振り返った。


 国王はしばらくの間、何が起きたのか理解できていない様子だったが、やがてハッと正気に戻り、私の顔を見上げて深い安堵の息を漏らした。

 

「あ、ああ……無事だ……。そなたのおかげで、命拾いした……。ありがとう、ユウよ……本当におかげで助かった……」

 

 その言葉を聞き、俺はホッと胸を撫で下ろす。

 周囲を見渡すと、レオンハルトやシオンも無事な姿を見せており、シオンはこちらに向かって安堵の微笑みを投げかけてくれていた。

 

 騒然とする観客席のざわめきの中、警備にあたっていた王国の精鋭衛兵たちが素早く動き出していた。

 観客席の端の方で、怪しげな魔導遠隔操作端末を握りしめたまま逃げ出そうとしていた男──ゲイルの仲間と思われる関係者が、数人の衛兵によって一網打尽に捕縛され、両手を拘束されて引き立てられていくのが見えた。

 

 最後にとんでもない事件が起きてしまったものの、幸いにも迅速な対応のおかげで怪我人は一人も出なかった。

 

 事件の収束後、ウェリアタース王国の重鎮や貴族たちが次々と俺たちの元へと駆け寄り、代わる代わる深々と頭を下げて感謝の言葉を述べていく。

 

「まさかこのような卑劣な輩が紛れ込んでいようとは……。ユウ殿、あなたが我が国の国王陛下をお救いくださった!  あなたはまさに、この国にとっての英雄です!」

 

 重鎮の一人がそう声を震わせると、それを聞いた観客席からも、熱狂的な歓声と拍手が巻き起こった。

 

「ユウ選手万歳!」

「国王様を守ってくれてありがとう!」

「最高の英雄だぁ――っ!!」

 

 思いがけないハプニングの連続ではあったが、俺たちは互いの無事を喜び合いながら、この長い一日の終わりを迎えるのだった。

 

【安倍ノ家:テロリストの企みは完全に粉砕され、結果としてユウの英雄性が王国全土に知れ渡る形となったな。旧帝国の残党の動きは気にかかるが、今回のイベントクエストとしては大成功の結末と言っていいだろう。ユウたちのこれからの活躍がますます楽しみだ】

 

【灰かぶりうさぎ:やったあああああああ!!  事件はびっくりしたけど、ユウ君が王様を救ったことで名実ともに国の英雄になっちゃったよ!?  すごすぎる!  そして何より、爆発のあとにシオンちゃんと視線を交わして「無事でよかった」ってアイコンタクトしてるの、私にはしっかり見えましたからね!!  もうこれ正式にプロポーズ成立でしょ!?  ウェリアタース王国公認の夫婦爆誕ってことで教会建ててきます!!  ユウ君、シオンちゃん、本当にお疲れ様&最高に尊い時間をありがとうううううう!!!!!】


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