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第43話 深緑の出会い、紅玉の瞳が導く新たな絆


 小さな体を震わせていたのは、一匹の小動物だった。


「あれは……カーバンクル!?」


 シオンが思わず声を漏らす。


 そこにいたのは、リスやウサギを思わせる、緑色のフワフワとした毛並みを持つ愛らしい幻獣──カーバンクルだった。

 その額の中央には、夕日を反射したかのように、あるいは深く澄んだ血のように、燃え盛るルビーの如き真紅の宝石が埋め込まれており、そこから微かに神秘的な魔力の光が放たれている。

 カーバンクルは、その白い足元や脇腹からは痛々しく青白い血が流れ、すでに体力の限界を迎えているのは一目でわかった。


【うおおお!  カーバンクルだ!!】


【マジかよ、こんな高位の幻獣が序盤の森にいるのレアすぎんだろ……!】


【モフモフ保護案件キタコレ!!】


 俺たちはすぐに伏せっているカーバンクルのもとへと駆け寄った。


「おい、大丈夫か……?  しっかりしろよ」


 そっとしゃがみ込み、覗き込む。

 近づいてみると、そのルビーの瞳はうっすらと閉じかけ、呼吸も浅い。あちこちに深い擦り傷や魔力障害を引き起こす黒い瘴気が付着しており、放置すれば消滅(デリート)しかねない状態だった。


「大変、急いで治療しないと……!  ティアナ、お願い!」


 シオンが心配そうに見守る中、ティアナはうなずき、自らが手にする『聖者ルミナスの祈り杖』の聖なる浄化の光をふわりと周囲に展開した。


「任せてください。今、楽にしてあげるからね」


 ティアナが杖の効力を極限まで高め、傷口に聖なる癒やしの光を注ぎ込んでいく。

 光の魔力がスーッとその白い毛並みに染み込んでいき、黒い瘴気を綺麗に浄化していくと同時に、痛々しかった傷口がみるみるうちに塞がっていった


 数秒後──。


「キュ……?」


 カーバンクルが、長いまつげをパチパチと瞬かせながら、ゆっくりと目を開いた。

 額のルビーが再び眩いばかりの輝きを取り戻す。怪物の脅威が去り、痛みが消えたことに気づいたのだろう。その黒くつぶらな瞳が、目の前にいる俺やメンバーをしっかりと捉えた。


「キュ、キューーーッ!」


 元気を取り戻したカーバンクルは、嬉しそうに小さな体をピョンと跳ねさせると、いきなり俺の胸元へと飛び込んできた。


 そして、「ペロペロ、ペロペロッ!」と、俺の頬や顎のあたりをものすごい勢いで舐め回し始めたのだ。


「っと、おっと、くすぐったいな……!」


 思わず笑い声を漏らす俺を見て、周囲にいたメンバーが一斉に目を輝かせた。


「わぁ……!  すごい、すっごく懐いてます!」


 ライムが目を丸くしながら、うっとりとした表情でカーバンクルの頭をそっと撫でる。


「ずるい、ユウばかり!  私にも代わって、ねえ、こっち向いて?」


 シオンが目をハートにしながら手を伸ばし、ティアナも普段のおしとやかな表情を完全に崩して、頬を緩ませている。


「なんて可愛いの……!  フワフワのモフモフじゃない。こんな可愛い幻獣、ゲームの中でもめったにお目にかかれないわよ」


 シオンは愛用の片手剣を鞘に収め、その小さな頭を優しくナデナデと撫でてやった。カーバンクルは気持ちよさそうに目を細め、シオンの指先に自分の頬をすりすりとしがみつかせる。

「キュイ〜ン」と甘えるような鳴き声を上げるその姿に、その場にいた全員のハートが完全に撃ち抜かれていた。


 もちろん、配信のチャット欄も「可愛いすぎる!!」「モフモフの破壊力エグい」「これはもう正式にパーティのアイドル決定だな」というコメントで埋め尽くされ、文字が読めないほどのスピードで流れていった。


【ガチ天使降臨してて草】


【ティアナちゃんの聖魔法からのカーバンクル懐きイベント、コンボが美しすぎる】


【安倍ノ家:カーバンクルの出現フラグは確か特定の高魔力エリアの浄化度が一定を超えた時に低確率で発生する隠しイベントだったはずだが……ユウたちのパーティー、こういう細かいサブクエの回収率が異常だな】


【シグレ:きゃーーーっ!!  何この生き物可愛すぎる無理!!  私もそのモフモフにダイブしたーーい!!!  ユウくん変わって!!】


【灰かぶりうさぎ:ウアアアアアアアアアアアアア!!!!!!  なんなのこの最高すぎる展開は!!!!  シオンちゃんがユウくんの隣でカーバンクル愛でながらデレてるとか尊すぎて語彙力消滅したんだが???  無理、ガチでしんどい、画面越しに私の心臓が爆発したから責任取って今すぐ結婚しろ!!!  背中合わせで戦ったあとのこの癒やし空間は何なの?  神の采配?  もう二人で一緒におうち建てて暮らして???  大好き!!!  末永く爆ぜろ!!!!!】


【灰かぶりうさぎ氏、秒速で語彙力蒸発してて草】


 しばらくみんなでその愛らしい仕草に癒やされた後、私たちはそろそろ次の目的地へ向かおうと腰を上げかけた。

 けれど、助け出したカーバンクルは、私たちの足元から離れようとせず、まるで「どこへでもついていくよ」と言わんばかりにトコトコと私の足にしがみついている。


「……どうやら、この子は俺たちと一緒に来るつもりのようだな」


 俺が苦笑いしながら言うと、シオンが嬉しそうに手を叩いた。


「それじゃあ、正式に私たちのパーティの一員として迎え入れましょうよ!  せっかく助けたんだし、こんな可愛い子が仲間になったら、これからの冒険ももっと楽しくなるはずだわ」


「賛成です!  あんなに痛そうだったのに、すっかり元気になって……それに、私たちの魔力にすごく馴染んでいます。きっと良きパートナーになってくれますよ!」


 ライムが嬉しそうに同意の声を上げると、ティアナも優しく微笑みながらうなずいた。


「賛成です。 そうときまれば名前をつけてあげましょう」


 ティアナのその提案に、全員が大きくうなずいた。


 命名タイムの始まりである。みんなが思い思いのアイディアを出し合っていく。


「うーん、やっぱり一番の特徴はこの額の真っ赤な宝石よね。だから、シンプルに『レッド』なんてどう? すごく綺麗でこの子にぴったりだと思う!」


 シオンが提案する。


「それも素敵ですけど、『スカーレット』とかも響きがいいですよね」


 ティアナが腕を組んで真剣な顔で唸る。


「あ、でも『ルージュ』っていうのもいいかも。 フランス語で赤って意味のさ!」


 シオンがオシャレな響きの候補を出すと、ライムもそれに乗っかった。


「『ルージュ』、響きが可愛くておしゃれですね!」


 みんながワイワイと楽しく議論する中、俺はふと、その小さな額で鈍く、しかし力強く輝く真紅の宝石を見つめた。


「みんな、意見をありがとう。どれもすごく素敵な名前だな……。でも、この子が持っているその紅く燃える宝石は、どんな暗闇の雲海でも進むべき道を照らし出す『羅針盤の星』のようにも見えるんだ。だから──」


 俺はみんなを見渡し、そして足元で見上げるカーバンクルに優しい視線を向けた。


「この子の名前は、『ルビー』にしよう。正式名称は、少し気取って『ルビー・レッド・カーバンクル』、愛称はルビーだ。どうかな?」


 俺の言葉を聞いた瞬間、カーバンクルはまるで自分の名前を理解したかのように、「キュイッ!」と元気よく一声鳴き、ぴょんと俺の肩へと飛び乗ってきた。

 そして、俺の頬に自分の小さな鼻先をピトッと押し当てて甘えてみせる。


「うん! 『ルビー』、すごく素敵な名前だね! この子もすっごく気に入ってるみたい!」


 シオンが満面の笑みを浮かべ、ライムやティアナも「すごく似合ってます!」「よかったね、ルビーちゃん!」と口々に祝福の声を送る。


 チャット欄も「ルビーちゃん命名おめでとう!」「命名センス神かよ」「これもう実質レギュラーメンバー決定だな」というお祝いのコメントで一色に染まっていった。


【ルビーちゃん命名おめでとおおおおおおお!!】


【名付け親のユウ様、センス良すぎんか?】


【安倍ノ家:カーバンクルを従者(ペット枠)として正式加入させるのは、今後のダンジョン攻略における索敵・魔力感知の面でとても大きいアドバンテージになるな。流石の采配だ】


【シグレ:ルビーちゃん可愛すぎでしょ……!!  私もいつか絶対にナデナデしにいくから待っててねーーっ!!】


【灰かぶりうさぎ:ユウ様が命名した瞬間にルビーちゃんが嬉しそうに頬擦りしたの見た!?  家族が増えた瞬間じゃんこれもう完璧なホームドラマだよ尊すぎて涙出てきた】


 こうして、俺たちは道中で新たなパートナーである『ルビー』を仲間に加えることとなった。

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