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第20話 激突!  守護魔獣ガーディアン・キメラと電脳遊戯部の真価


「グルゥアアアアアァァァッ……!!」


 古代王家の試練場(コロシアム)の石畳を大きく揺るがせながら、守護魔獣『ガーディアン・キメラ』が放った轟音は、単なる威嚇の域を遥かに超えていた。

 凄まじい熱量を伴う爆風が周囲の草木を薙ぎ払い、視界を赤黒い砂塵が覆い尽くす。

 獅子の顔が牙を剥き出しにし、山羊の胴体から伸びる筋肉質な前脚が地面を抉り、そして背後で禍々しくうねる蛇の尾が獲物を狙うように鎌首をもたげる。


 【キタキタキタキタァァァッ!!】


 【開幕からのボスの威圧感がガチすぎて鳥肌立ったわ!】


 【推奨Lv.13のエリートボス相手に、主たちはどう立ち回るんだ……!?】


【安倍ノ家:……ほう。開幕からキメラの個体ランクが通常色より一段階上の『ベータ変異種』だ。この狭いアリーナでのガチンコ初見殺し、見事に対応できるかな】


【また安倍ノ家が解説おじさんしてて草。でもガチで有識者の見解助かる】


 配信のコメント欄は、緊張と興奮が入り混じった弾幕で一瞬にして真っ白に染まった。

 画面の向こうの数万人ものリスナーが固唾を呑んで見守る中、俺たちの足元には、ライムの固有スキルによって展開された青く輝く魔法の光輪──『エリア・エンハンスメント・バリア』が展開され、パーティー全体に強力な物理・魔法防御のバフが付与されていた。


「マスター、キメラの行動パターンを解析しました。獅子頭からの突進および前脚の踏みつけは物理攻撃力が高く、正面からの直撃は危険です。ですが、動きの初動にはわずかな予備動作があります。私の演算予測に合わせて回避すれば、確実に隙が生まれます!」


 ライムが冷静かつ的確なアナウンスを飛ばす。

 その言葉を聞き逃さず、俺はインベントリから手際よく特殊な錬成弾──視界を眩ませる閃光弾と、敵の動きを一時的に鈍らせる重力粘着トラップを同時に取り出し、ステージの地面へと手際よくセットした。


「上等だ……!  ライム、サポート感謝する! シオン、行くぞ!」


「ええ、任せてちょうだい!」


 シオンが新調した『アストラ・クリスタル・ブレード』をふわりと構え、純白のマナの光をその刀身に纏わせた。


 キメラが凄まじい殺気とともに、巨大な前脚を振り上げて真っ直ぐに突進してくる。

 その圧倒的な巨体が生み出す質量と速度は、一歩間違えば一撃でHPの大部分を削り取られるほどの脅威だ。


「ガァァァッ!」


 キメラの突進が目の前に迫った瞬間、俺は狙いすまして地面に仕掛けた重力トラップを発動させた。

 ──シュボッ! という激しい魔力の収縮音とともに、キメラの足元に重力子の磁場が展開され、突進の勢いが急激に減衰する。


「今よ!」


 動きが鈍ったその刹那、シオンの体が流れるような美しいステップで宙を舞った。

 彼女が振るった『アストラ・クリスタル・ブレード』の軌跡が、夜空を裂く流星のように美しく弧を描く。

 刀身に込められた高純度のマナ・クリスタルのエネルギーが、キメラの硬質な外殻をまるでバターのように軽々と切り裂いた。


「シャアアアアァァァッ!!」


 キメラが痛烈な悲鳴を上げ、その巨大なバランスを大きく崩して地面に膝をつく。

 その隙を逃さず、俺はアルケミストの固有スキルを応用した連続錬成弾をキメラの頭部──弱点である中央の魔力コアへと正確に撃ち込んだ。


【すげええええええええええええ!!】


【罠ハメからのシオンちゃんの剣戟コンボが美しすぎる……芸術品かよ……!】


【ライムちゃんのサポート予測も完璧だし、この三人組、結成したばかりとは思えないほどの連携力だな……!】


【安倍ノ家:ふむ、単なるアイテム投擲ではなく、重力の硬化数値とシオンの斬撃ベクトルの同期が完璧だ。この主の指揮能力は、そこらのプロギルドマスター以上だな】


【安倍ノ家の高評価キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!】


 コメント欄が絶賛の嵐で盛り上がる。

 しかし、推奨Lv.13のボスエネミーが、これだけの攻撃で沈むほど甘くはなかった。


「……っ! マスター、気をつけてください! キメラの魔力炉心に急激な熱量上昇反応を検知……! 属性変化、および広範囲ブレス攻撃の構えです!」


 ライムの切迫した警告の声が響き渡った瞬間、キメラの獅子の口から、周囲の空気を焼き尽くすほどの禍々しい紅蓮の炎が渦を巻いて溢れ出した。

 炎・闇属性の複合範囲攻撃──〈ヘル・インフェルノ・ブレス〉の直撃が、ステージ全体を焼き尽くそうと放たれる。


「させないわよっ!」


 シオンが素早く俺の前に立ちふさがり、『アストラ・クリスタル・ブレード』を縦に構えて固有の防御魔法を展開した。

 純白の魔力障壁と紅蓮の炎が激突し、凄まじい爆風と衝撃波が周囲の観客席の石柱を粉々に砕いていく。

 肌を焼くような熱気と衝撃がダイレクトに伝わってくるが、シオンは一歩も引かず、歯を食いしばりながらその猛攻を耐え抜いた。


「ぐっ……!  まだよ……これくらい、私たちの絆の前ではかすり傷にもならないわ!」


 シオンが力強く叫び、防壁に溜まった魔力を一気に弾き返す。


 キメラがブレスの反動でわずかに体勢を崩したその瞬間、ライムが両手を前方に突き出し、自身の固有スキルを全開で稼働させた。


「私の演算処理のすべてをここに……!  敵の魔力回路を一時的にハッキング、全システムに過負荷(オーバーロード)を強制執行します!」

 ライムの掌から眩い青白い光の線が伸び、キメラの全身を巡る魔力回路へと直接侵入していく。

 チリチリとスパークする音とともに、キメラの巨体がピタリと硬直した。ボスの固有スキル発動を完全に阻害する、オートマタならではの超絶的な妨害ハッキングスキルだ。


「今よ、ユウ……!!」


 シオンの叫びを受け、俺はインベントリからただの爆薬を取り出すだけでは満足しなかった。

 俺だけの特殊スキル──〈錬金創成アルケミック・ジェネシス〉。

 それは既存のアイテムを合成するだけでなく、その場の環境や敵の属性データ、さらにはパーティーメンバーの魔力をリアルタイムで物質へと昇華させる、世界にただ一つの反則的な創造スキルだ。


「……ライム、シオン! 二人の魔力を、少しだけ俺に預けてくれ!」


 俺が叫ぶと同時に、ライムの展開していた青い魔法回路と、シオンが纏う碧いマナの残光が、まるで吸い寄せられるように俺の両手へと収束していく。

 俺の目の前には、目に見えない幾何学的な錬成陣が幾重にも展開され、猛烈なスピードで新しい物質の構築が始まった。


【待て待て待て、主の手元がなんか光ってるぞ!?】


【あれは昨日のラボの時以上のエフェクトじゃねえか……!?】


【まさか、その場で新しい装備やアイテムを作り出す気か……っ!?】


【安倍ノ家:……おっと。物質変換のレートを完全に無視したリアルタイム錬成か。あの魔力の収束は、かつてβテストのコードにも存在しなかった未知の領域だぞ……!】


 コメント欄のどよめきを他所に、俺の手の中で灼熱の炎と碧いマナ、そしてライムのデータ量子が混ざり合い、一つの形へと定着していく。

 生み出されたのは、ただの爆薬ではない。

 キメラの弱点である『光・氷属性』の概念と、ラボの炉心から抽出した高純度マナを圧縮した、文字通りの『特製・対魔獣用超高圧錬成弾──〈アストラ・ブラスト・コア〉だ。


「これならどうだ……!  〈錬金創成〉、フルバースト!!」


 俺はキメラの巨大な頭部中央にある魔力コアに肉薄し、その創り出したばかりの結晶弾を直接叩き込み、全力でトリガーを引いた。


 ──ドオオオオオオオオオッ……!!

 ただの爆発ではない。キメラが放とうとした紅蓮の炎のエネルギーそのものを、〈錬金創成〉の力で逆流させ、浄化の光へと完全に変換して内部から爆縮させたのだ。

 青く澄んだ錬金の光と、碧色の閃光が闘技場全体を包み込み、ボスの巨体を分子レベルから優しく、しかし確実に分解していく。


 数秒後、もうもうと立ち込める煙と熱気がゆっくりと晴れていくと、そこにいたはずの守護魔獣の姿は跡形もなく消え去り、代わりにまばゆい光を放つ無数のドロップアイテムと、地面に突き刺さる一本の古代の宝剣が残されていた。


【システム通知:守護魔獣『ガーディアン・キメラ』の討伐に成功しました】


【経験値を獲得し、パーティーメンバーのレベルが上昇しました!】


 プレイヤー名:ユウ レベル:13(+2 UP)

 プレイヤー名:シオン レベル:13(+2 UP)

 プレイヤー名:ライム レベル:12(+2 UP)


【キタ━━━(゜∀゜)━━━!! 撃破ぁぁぁぁぁぁぁ!!】


【推奨Lv.13のボスエネミーをノーミスで撃破とかマジかよ……!】


【ライムちゃんのハッキング支援とシオンちゃんのタンク&アタッカー性能、そして主の爆薬特攻のコンボが完璧すぎた……!  神回更新おめでとう!!】


【安倍ノ家:見事……!  敵の熱量エネルギーを利用した内部爆縮のコンボは、VRMMOの物理演算の盲点を突き抜けた芸術的勝利だ。この配信、歴史の証人になれて本当によかった】


 コメント欄は、爆発的な歓喜と称賛のコメントで完全に埋め尽くされ、同時接続数は一気に11万人を突破。


「……ふう。やったな、二人とも!」


 俺が息を整えながら振り返ると、シオンもライムも、言葉を失ったように目を見開いていた。


「す、すごいわユウ……!  敵の攻撃エネルギーをその場で無力化して、新しい武器の触媒に変えちゃうなんて……あなたのそのスキル、本当に規格外よ!」


「マスター、すごいです!  今の戦闘データの解析値、私の予測を300%も上回っていました……!  これなら、この先のどんな難敵も怖くありません!」


 俺たちは互いの健闘を称え合いながら、キメラが消滅した跡地に散らばった豪華なドロップアイテムの回収に取り掛かった。


> 【システム通知:レアドロップアイテムを獲得しました】

 ・『キメラの業火獣皮』 × 3

 ・『魔獣の双頭角』 × 2

 ・『猛毒の蛇尾』 × 1

 ・『古代王家の試練の証』(※エピックランク・特殊クエストアイテム)

 ・古代の宝剣『キングダム・エッジ』(※レアランク片手剣)


【システム通知:〈錬金創成〉の固有効果が発動しました】

 ・敵のコアと爆薬の融合により、特殊レアドロップ 『星詠みの錬金結晶』 を追加獲得しました!


「すげえ……!  推奨Lv.13のボスだけあって、ドロップの質が昨日のバッファローとは比べ物にならないほど豪華だぞ。特にこの『古代王家の試練の証』と『キングダム・エッジ』『星詠みの錬金結晶』 は、今後の探索で絶対に重要な鍵になるはずだ」


 俺がアイテムの詳細データをリスナーたちに向けて画面に映し出すと、コメント欄からは「その剣めちゃくちゃカッコいいな!」「試練の証ってことは、この先もっと広いエリアに繋がってるのか?」という興奮の声が次々と上がった。


 そして古代王家の試練場の奥。

 キメラを撃破したことで、ステージの最奥にあった巨大な祭壇の封印が解かれ、さらに地下へと続く新たな螺旋階段の入口がその姿を現した。

 薄暗く神秘的な光を放つ階段の先からは、ひんやりとした清涼な風とともに、どこか懐かしいような、それでいて壮大な世界の秘密を予感させる微かな魔力の波動が漂ってくる。


 俺たちはその階段の入口の前に立ち並び、カメラに向かって、そして画面の向こうで固唾を呑み見守っている数万人のリスナーたちに向けて、力強く笑ってみせた。


「みんな、観てくれたか? これが『電脳遊戯部』の二日目の成果だ。……けど、ここはまだこの未踏孤島の入り口に過ぎない。この階段の先、さらに深い謎と冒険が俺たちを待っている」


 シオンが新調した剣を軽やかに構え直し、ライムがホログラムのマップを前方へと投影する。


「さあ、行こう。この世界のてっぺんを掴み取るために!」


 俺たちの宣言に合わせ、同時接続数のカウンターがついに『120000人』を突破した。


 ネット界の伝説へと駆け上がる『電脳遊戯部』の冒険は、ここからさらに加速し、誰も想像しなかった巨大な運命の渦へと飲み込まれていくのだった。



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