エピローグ
よろしくお願いします。
別れ話になります。苦手な方はご注意ください。
私は、五十嵐唯香。
市ヶ森高校2年C組。
3ヶ月前にクラスメイト達と一緒に異世界に召喚されて、今は他の皆と一緒に訓練や社交の日々を過ごしている。
そんな私達だけれど、召喚された時からは2人、数が減ってしまっている。
玉木達也くん。
この世界に召喚される少し前まで、私と交際していた男子だ。
内向的で自己主張の苦手な私と、控えめで穏やかな性格だった彼。
そんな似た者同士だった私達は、図書館での本の話題をきっかけに話をするようになり、やがてどちらからともなく付き合い始めた。
私達が付き合っていたことは、誰かに話したりということはしなかった。
特に意図があったわけではない。
強いて言うなら、どんな小さなことでも、私達が注目されるのが怖かったから。
知っていたのは、お互いの数少ない友達だけだった。
玉木くんが私と関係を進めたがっているのには気づいていた。
でも私がそうしたことに若干の恐怖心を持っていたことも彼は察してくれて、決して無理を言おうとしなかったことも私には嬉しかった。
一方で玉木くんは頑なに私を自分の家に近づけようとしないところがあって、そこは少し気にはなったのだけれど、そのあたりは何か事情があるのだろうと思うようにしていた。
そんなふうにして、ひっそりと交際を進めていた私達。
ある日のこと、私は、玉木くんから突然別れを告げられた。
「君が好きになる人は他にいる」と言われたものの、私にはわけがわからなかった。
やむなく玉木くんの言葉を受け入れてその場を立ち去る時も、私は歩きながら彼の呼び止める声を待ち続けた。
彼からの声は、最後まで無かった。
玉木くんからの突然の拒絶の後、私は周りからも見てわかるくらいに落ち込んでいた。
実際、友達の心配する声にも応える余裕がなかったという自覚はある。
友達の1人が玉木くんを問い詰めに行ったりしたみたいなのだけれど、彼は頑なに口を閉ざし、何も話すことは無かったらしい。
ただ彼もまた、見る影もなく憔悴していたとのことではあったし、またそれはクラスで彼を見かけてもわかることではあった。
ただその時の私はひたすらに余裕が無く、自分の机でうなだれる彼の姿を横目に見ては自分もさらに戸惑うという、その繰り返しだった。
そんな苦しい日々の中、出口のない闇の中にいた私に、一筋の光が差した。
高山拓司さん。
1つ上の、3年生の男子で陸上部の短距離走のエースで、社交的で大人びた性格の人。
高山さんは私と玉木くんが付き合っていた頃から、何かと私達のことを気にかけてくれていた。
「こういうスタイルの方が似合う」と彼のアドバイスを受けて、髪型も変えてみた。
彼に招かれて、大会を見に行ったこともある。
「大会で1位になったら、ご褒美で1度だけ一緒に遊びに行ってほしい」と懇願され、彼を応援したい気持ちもあってその約束を受けたりもした。
そんな高山さんもまた、玉木くんと別れて落ち込む私の力になってくれようとしていた。
色々と話しかけてくれたり、何度も遊びに誘ったりしてくれていた高山さん。
そんな彼と、放課後の教室で2人になった時、突然私は抱きしめられ、そしてキスをされた。
好きだ、付き合ってほしいと、私が元気になるためならどんなことでもすると言われた。
玉木くんと別れて、傷つき弱っていた私の心は、その真摯な言葉に大きく揺れた。
高山さんの寄せてくれる好意に応えたいという気持ちは、確かにあった。
その気持ちは、日を追うごとに大きくなっていったのも事実だった。
でもその一方で、心の奥底に一点、黒いインクを落としたかのような罪悪感がわだかまっていた。
その罪悪感から逃れるようにして、ある週末、私は高山さんの家で、彼に抱かれた。
一度結ばれたら、後は止まらなかった。
高山さんに抱かれるその温もりに、安心感に、私は夢中になっていった。
そうして日々が過ぎたある月曜日。
いつもの週明け、学校に行けば否応無く玉木くんの姿が目に入ってしまうことに一抹の不安を抱えながらも登校すると、教室にいた彼は人が変わったようになっていた。
穏やかだった眼差しは冷たく、鋭くなり、自分のことをこれまでの「僕」ではなく「オレ」と呼ぶようになる。
お昼休みには今まで少食だったのが比べ物にならない量を食べるようになり、またそれまでは小説が中心だったのがジャンル問わずの本を貪るように読むようになった。
授業中も、先生が目を丸くするぐらいにたくさんの質問を投げかけるようになった。
何が彼を変えたのかは、未だにわからないままだ。
そうこうしているうちに、私達は異世界に召喚された。
私達を勇者と呼び、人類を救うために戦ってほしいという王様や王女様のお願いを断って、玉木くんと、そして同じクラスメイトの水城いづみさんは出て行ってしまった。
玉木くんが出て行く際、私は思わず声をかけようとしたのだけれど、高山さんに制止されてそれは出来なかった。
昼休みが始まってすぐに私のところに来ていた高山さんもまた、召喚に巻き込まれてしまっていたのだ。
一瞬合った玉木くんの目は、私に対する何の感情も無い目だった。
単に、普段話すこともない相手が自分に何か用でもあるのかと、ただそれだけしか思わない目だった。
それから3ヶ月。
出て行った玉木くんと水城さんの行方は、それっきりわからないという。
ただ2人きりの異世界人ということで、2人は今頃きっと一緒にいるのだろう。
2人で旅をしているのか、それともどこかの町で一緒に暮らしているのか。
そう考えると、今でも少し、心が痛む私がいる。
私の方は、日々の訓練も勉強も大変だけれど、高山さんは自分も大変なのに、変わらず私を守ってくれるし、愛してくれる。
でもそんな中でも、ふと考えてしまうことがある。
……私は、玉木くんを見捨ててしまったのではないかと。
彼が必死に上げていた苦しみの叫びに耳をふさぎ、彼が助けを求めて伸ばしていた手を振りほどいてしまったのではないかと。
私もあの時、玉木くんについて一緒に行くべきではなかったのかと。
本当なら、玉木くんの隣にいるのは私のはずではなかったのかと。
私は、本当にこれで良かったのか?
私は、どうすべきだったのか?
高山さんには言えないそんな思いを押し殺しながら、私は、今日を過ごしている。
◇
「よう、今帰ったぜエルナ」
「ミック!?アンタいきなりいなくなって、それから5年も……今まで何やってたのよ!」
「冒険者の修行やってた。ほら見ろよ冒険者証、5級だぜ?スゲーだろ!」
「何が冒険者よ!聞いたわよ、ミズキさんとタマさんにたくさん迷惑かけて……それにミックのお父さんお母さんも、私達も皆心配したんだからね!」
「まあまあ、こうして元気なんだから良いじゃねーか。俺が帰って来たからには、この村の安全は俺に任しときゃもうなんにも心配いらねーからよ。それよりさエルナ、俺もこうして立派に冒険者になったわけだから、今からお前の親んとこ、結婚の挨拶に行こーぜ」
「何バカなこと言ってんのよ。私マルクスと結婚してもう子供も1人いるんだから。行くわけないでしょ」
「結婚!?おいどういうことだよ!お前は俺の恋人だろ!?なんで勝手に結婚なんかしてんだよ!」
「村が大変な時なのに誰にも何も言わないでいきなり勝手にいなくなって、それきり連絡の1つもよこさなかったのはミックの方でしょうが!それに恋人って何よ!私ミックとそんなものになった覚えなんか無いわよ!」
「だ……だってよう、俺とお前と、あんなに仲良くしてたじゃねーか……お前、俺のこと好きだったんじゃねーのかよ……」
「幼馴染なんだから話もするし、何かあれば心配もするわよ。でも別にそれ以上の気持ちなんか無かったし、ミックがよく意地悪してくるの、本当に嫌だったんだからね。とにかく私は今好きな人と一緒になれて幸せなんだから、ミックのことなんか知ったこっちゃないわよ。アンタはラキオスブルックでもどこでも行って、勝手にビッグな冒険者にでも何でもなれば良いじゃない。あ、それからお父さんお母さんにはちゃんと会って、心配かけたこと謝りなさいよ」
「そ……そんなあ……王都と違って、この田舎の村ならデカい顔できると思って、わざわざ帰ってきたのにさあ……」
「……あれ?あそこで騒いでる男、なんか見覚えあるな?」
「ん?……ああ、『メガホン』じゃねえか。ほら、ラキオスブルックのギルドにいた、言うことだけはデカいけど実力はぜんぜんだからそう呼ばれてる」
「ああ!修行もやらないから力もつかないし、組んでも自分のことばっかりで仲間と協力しないから皆に嫌がられてるアイツか!アイツここの出身だったのかよ」
「ひっ……!あ、アンタら……王都の冒険者のアンタらがなんでこんなとこにいるんだよ……?」
「何って、馬車の護衛依頼で来たんだよ。それよりもこりゃあ面白え。王都に良い土産話ができたぜ」
「ま、待ってくれ!こ、このことは誰にも……!」
「ああ心配すんな、今さら何言われたって、お前の評判はこれ以上下がらねえからよ!」
「そりゃそうだ。ギャハハハハ!!」
お読みいただきありがとうございます。
また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。
私生活多忙につき、ここでしばらくの間執筆の期間をいただきたいと思います。
投稿の再開は、10月1日20時からを予定しております。
お待たせしてしまい申し訳ございませんが、何卒よろしくお願いいたします。
代わりに、少しずつ進めておりました前作『メインクーン・ダンス〜異世界しっぽ冒険記〜』の後日談の投稿を、5月8日20時より開始いたします。
予告編を投稿しましたので、よろしければご覧ください。
今後ともタマとミズキを、よろしくお願いします。




