水回りは地上階
ふと目が覚める。
メイドさんが掛けてくれたのか、毛布をかぶっていた。
ぼんやりとしたまま身を起こす。
暗い部屋に窓から月明かりが入ってきているのかと思ったら、窓辺のサイドテーブルでメリルちゃんの羽がぼんやりと光っている。
「よーいちさん、おきましたか」
俺がもそもそと起き上がったのに気がついたメリルちゃんがスーッと飛んでくる。
「妖精さんは光りますか」
「ようせいのあかりはひとにさちをもたらすとたっとばれます」
もっとぴかぴか光れば iPadの充電もできるんじゃないか?
「もっと明るくはなりませんか?」
「なりません。しぜんのことわりですゆえに」
妖精の羽は蓄光材が混ざってるのか、それとも後光のたぐいか。
トイレ行きたい。
リビングにメイドさんはまだ待機してるのだろうか。
メイドさんにズボンを下ろす仕草して便座に座る仕草すればわかってくれるだろうか。
意図が気づかれないままにセクハラで警備の兵士を呼ばれるのだろうか。
どこに転んでも尊厳が失われるのなら、救いの可能性にかけてみる。
つまり、メイドさんが居る。→意図に気づいてくれる。→尊厳が守られる。の、たった一つの冴えないやり方だ。
リビングへ続く扉を開くと、小さくベルが鳴る。
カタンと音がして部屋に明かりが灯る。
廊下へ通じる扉のそばにある控えスペースで腰掛けていたらしいメイドさんが立ち上がって腕を振り上げている。灯りの魔法を起動したのか。
「*****」
俺の前に歩いてきたメイドさんは、片手をソファーにむける。座れってことか?
「*****」
「すこしまつようにと」
俺がソファーに座る隙にメイドさんは廊下へと出て行く。お茶の用意でもするのか?
それよりもトイレへ案内してもらいたいんだが。
やはり意志が伝えられないというのは不便だ。
しかし程なくメイドさんが戻ってきた。後ろにもう一人。夕餉の時にメリルちゃんが見えてたメイドさんだ。
「*****」
あとから入ってきたメイドさんが、まず俺を、そしてメリルちゃん見て何か言った。
「*****」
メリルちゃんがメイドさん2に何か話しかける。
「*****」
「*****」
をを、メリルちゃんと話もできるみたいだ。心強い。
「ゆあみのよういがありますが、どうしますかと」
ゆあみ? ああ、湯浴みか。なんかもっと色々話してた気がするが。8割方世間話してた雰囲気だったからな。
「湯浴みもしたいけど、トイレも行きたいです」
良かった。俺の尊厳は守られた。
風呂とトイレは同じ処にあるらしく、メイドさんに案内されて、また廊下を歩き階段を下り廊下を歩く。
どうもこの館の水回りは地上階にあるみたいだ。
上水道があるみたいだけど、魔法で水を湧かせられないのか? ウォシュレットは謎空間から水が吹き出してたけど。
「メリルちゃん。魔法で水は出せないのですか?」
俺の頭の上で鼻歌を歌うメリルちゃんに聞いてみる。鼻歌、ラブライブじゃないか。もう覚えたのか。
「にんげんさんのまほうでは、すぐにいきぎれしますな」
なるほど。魔法だと水量が確保できないのか。魔力が足りないって奴か。
「みずもありませんし」
「? 水がない?」
「みずをわかせるまほうは、ちかくのみずをよぶものですゆえ」
なるほど。何もないところから水がジャブジャブ湧き出るんじゃなくて、大気中の水分とか地下水を湧出させるわけか。
それなりに質量保存がされてるといえるのか?
でも妖精さんはわからんな。頭の上にいるのがわかるんだからそれなりに重さはあるみたいだし、ベッドの天幕を揺らしてたんだから、質量もあるっぽいが。見える人と見えない人がいたり。
「妖精さんは生き物ですか?」
俺の質問に「てつがくてきですな」といって少し考えるメリルちゃん。
「ようせいのはんぶんはまほうでできています。あとはんぶんはやさしさで」
バファリンか!
メリルちゃんがどこからネタを仕込んでるのかが最大のなぞだな!
なんか結構歩いてる気がする。この館でかすぎ。
ここには揚水ポンプってないのかな。揚水ポンプがあれば部屋とは言わずも、各階にトイレ作れるのに。
いちいちこんなに歩き回ってたんじゃ、尊厳が守れない事案が結構発生してるんじゃないか。
ベルサイユ辺りでも壺にして捨ててたって言うし、この時代だと少々なことは気にしなくても大丈夫なのか?
でもやっぱり上層階に水回りがあると便利なはずだ。
揚水ポンプってどんな構造してたっけ。巻き貝のなかに水車が入ってたような?
水車を回すのが魔法でできれば作れると思うんだが。
魔法か。そうだ魔法だ。なにが出来てなにが出来ないか調べたい。
そんなこんなをうだうだと考えながら歩いていたら、ようやく目的の場所に到着したようだ。
それからメリルちゃん、鼻歌にあわせてご機嫌で俺の頭をぽこぽこ叩くのやめてください。




