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後日談1-1 コーディック視点

2、3話で終わるエピソードになる予定です

パラリと書類をめくり、不備がないかをチェックする。

目についた一枚を抜き取りじっくりと読んだ後、別の資料を引き寄せ、必要な情報を探す。

自分の気のせいではないことを確認したのち別の紙にメモを取り、その書類を差し戻しの山に乗せた。


一度休憩するか、と伸びをしてからこれ見よがしにため息をついた。


「…で?」

「………お構いなく。」


突然部屋に入ってきて居座っているくせに、シアはそう言ってソファに寝転がったままだ。

いくら義弟とはいえ婚約者がいる女性がとる態度ではないな、とあきれつつも咎めないのはそういう態度をとれる場が自分の前くらいだと知っているからだ。


「何を拗ねてんだ? どうせイース関連だろ。」


執務机からシアのいるテーブルのほうへ移動すると、シアものそりと起き上った。


「…仕事いいの?」


ちらりと視線をやった先には確かに少なくない量の書類が積まれているが半分以上はただの資料だ。

まだまだ勉強中の身だし、大した仕事は任されていない。

おそらくは一度既に目を通された物だろう。

だからといって放っておいていいというわけではないが目の前の義姉の相談に乗るくらいの時間は十分に取れる。


「休憩。」


シアが持ってきたティーセットを使い二人分のお茶を入れる。


「…コーディックはすごいよね。何でもできるし。」


それを一口飲んだシアはふぅとため息をついてそう言った。


「イース様にも頼られてるし…。」


もうその一言で大体の予想がついた。

またイースがシアに内緒で何かしたのだろう。

あいつはいまだにできるだけシアを政治的なことから遠ざけようとする。

大切に思っているが故なのだろうが、思いっきり逆効果だ。

いつもシアは疎外感を感じてへこんでいるか、あるいは自分が頼りにならないからだと自己嫌悪に陥っている。

当人同士で解決してほしいものだが、まあ、無理だろうな。


「あいつが過保護なのは今に始まったことじゃねえだろ。」

「…そうなんだけど、横に立ちたい身としてはさー…。」


それは本人に言え。俺を巻き込むな。


イースはまだシアを守る対象としてしか見れていないみたいだが、こいつだって伊達に貴族令嬢していないのだ。

カナリヤ様のように、とはいかないだろうがしっかりと王太子妃としての務めを果たせるだけの能力はあると思う。

実際机の上にある書類だって、俺では一日仕事だがシアなら一時間ほどで終わらせるだろう。

資料を見ながらの俺とは違い、領地に関することは大体把握しているからだ。

エンドリック家の人間として過ごした時間の違いのせいとは言え、悔しくないと言ったら嘘になる。


イースがさっさとそのことに気づけばいいんだが、あいつはあいつでシアには安全なところにいてほしいと思っての行動だからなぁ。

遠ざけるから目が届かなくなって付け込まれるんだろうが。


「…ツァミットから、また縁談が来たって聞いた。」


シアがそれを知っているとは思わず、一瞬息をのんだ。


「…やっぱり知ってるんだ。」


私は聞いてないのに、と拗ねたような顔で睨んでくる。


あいつ、シアには自分から話すって言ってたくせに、その前にばれてんじゃねえか…。


いや、そもそも先に俺に相談するなと言いたい。

こいつらは揃いも揃って俺に後押しを期待してくるからな。


「あー…誰に聞いたんだ? カナリヤ様か?」

「ダムシェル様。」


先日国に帰った隣国の王子の名を告げられ、納得する。

彼ならば確かに知っているだろうしシアにも言うだろう。

滞在中は隙あらばシアにちょっかいをかけてイースをからかっていたくらいだ。

からかいだと分かっていてもイースが過剰に反応していたのは二人の間にある気安さが気にかかっていたのだろう。

キースではないと言っていたけど、何かはあるんだろうな。

イースとしてはキースであってくれた方が楽だっただろうに。


「イースが受けると思ってんのか?」

「…そんなことは、ないけど。」


自信はない、か。

イースの想いを疑ってはいないだろうが、家の爵位の低さがネックなんだろうな。

こればっかりは乗り越えるしかない。

一度イースと話すべきか…。


「だって、気持ちだけで終われる話じゃないでしょ? 断るにしたっていろんな、それこそ国同士の関係性にすら関わってくるものだしさ。ちゃんと、知っておかないとだめだと思うんだよ。イース様のそばにいたいなら…。」


やっぱりイースと話さないとだめだな。


「それをちゃんとイースに言え。まずはそこからだろうが。」

「…うん、そうする。」


どうせ、言いに行く前に背中を押してほしかっただけなのだ、こいつは。

話が終わったのならさっさと行って来い、と手を振るがシアはそのまま、またソファに横たわった。


「おい。」

「どうせ今日はイース様忙しいもん。…邪魔はしたくないから。」


そう言われるとこっちも引き下がるしかない。

シアは自分を選んだことでイースが背負うことになった苦労を気にしている。

イースが勝手にシアを巻き込んで、惚れて、正妃にすると決めたのだからそれを背負うのは当然だと思うがシアとしてはそうもいかないらしい。


「そうやって遠慮する方がイースは嫌がると思うけどな。」


と言ってもほかの貴族がつけ入るような隙を作らないほうがいいのも確かだ。

ただ会いに行くだけでも、わがままで殿下を困らせているなどという輩がいないわけではない。

シアを蹴落としたい人間は掃いて捨てるほどいるのだから。


「明日でも何でもいいから気がすんだら部屋に戻れよ。」


気がすむまではいてもいいと言ってしまうあたり、本当に甘いと思う。


「ラジャ!」


…たまに変な言葉使うよな、こいつ。




シアを放置して書類仕事に戻ってどれだけ経ったか。ふと集中が途切れた。

集中していたせいでシアが出ていくのを確認していない。

後で嫌味を言われるか、と顔をあげて、そこにある光景に頭を抱えた。


「こいつ…!」


まさかの爆睡だ。

気づかなかった俺も俺だが、同じ部屋に男がいる状態で寝るか、こいつは…!

まったく男として見ていないことは知っていたが、ここまでとは…。

一度痛い目を見させるべきだろうか。

だがそれをすると確実にイースが面倒なことになる。

それでも本当に取り返しのつかない事態を引き起こす前に多少の面倒は我慢すべきだろうか。


真剣にどうすべきか悩んでいると扉がノックされた。


「はい。」


おそらくはシアを探しに来た侍女あたりだろう。引き取ってもらおう。


「コーディック、ウルレシアはいるか?」


ゴン! と思いっきり頭を机にぶつけた。


よし、落ち着け、俺。


「うん、とりあえず取り次ぎもなくお前がここに来る理由を聞こうか、イース。」

「いや、俺もどうかとは思ったんだが普通に通されたから、つい。」


…一度使用人全員と話をしよう。俺たちが気にしないせいで変な方向に遠慮がなくなりすぎだ。

あとイースも、ついじゃねえから。


「ウルレシアはいないのか? ここだと聞いたんだが。」


イースの立っている位置からは見えていないらしい。

というかこの中でも起きないとか、どんだけ熟睡してんだよ。


「そこにいるだろ。」


くいっとソファのほうを示してやると、イースは首を傾げた後、ソファに近づいた。


「…な!」


うん、その反応は正しい。

ただその疑わしそうな眼はやめろ。俺は何もしてない。


「勝手にそこに居座って寝こけてるだけだ。」


まあ、婚約者がほかの男の部屋で寝入っていれば心中穏やかではないだろう。


「…それ以上近づいたらこれぶん投げるからな。」


シアに手を伸ばそうとしたイースに文鎮を見せて牽制する。

人がいないところでやれよ、まじで。


「…何か、不安にさせてたか?」


シアがいるソファの向かいに座ったイースはシアの顔をじっと見たままそう聞いてきた。


「本人に聞け。」


シアが俺を頼るときは大抵イース関連なことをこいつもわかっている。


「…たまにコーディックに嫉妬する。いつだってウルレシアが頼るのはお前だからな。」


その内容はお前だけどな。


「ま、伊達に従弟してないってことだ。…今回のはお前が悪い。お前が思ってる以上にシアはいろいろ考えてるぞ。ちゃんと話聞いてやれよ。」

「…ああ、そのつもりで来たんだしな。」


…そういえば。


「忙しいんじゃなかったのか?」


なぜこいつはこんな気軽にここにきてるんだ。エンドリック家は城からそんなに近くねえぞ。


「…カナリヤに放りだされた。」


納得した。カナリヤ様はシアの心配を一番に気づいてたってことだ。


「だったらさっさと起こして話しさせるか。」


いまだ寝こけているシアの体をゆすって起こしてやる。


「シア、客だぞ。」

「…コー?」


…ずいぶん懐かしい呼び方を。


「寝ぼけてないで起きろ。イースが来てんぞ。」

「…イース様?」

「おはよう、ウルレシア。」


笑顔であいさつしたイースにつられてかへにょりとした笑顔を返したあと、シアは固まった。


「い、いいい、イース様!?」


見事な混乱っぷりだな。


「話がしたくて来たんだ。少し時間をくれるか?」

「十分待ってください!!」


シアはそう言い放ってものすごい勢いで部屋を出ていった。


「だそうだ。」

「…あ、ああ。」


こっちもこっちで固まってたか。

シアの完全な素を見るのは初めてだろうからな。ま、これから慣れていくだろ。


「お前らさ、いい加減俺を頼るのやめろよ? 今はまだガキだからほっとかれてるけどな。所詮エンドリック家は伯爵家だ。いくらシアの実家でも頼りにすべき家じゃない。」


俺が二人の手助けをできるのは学生の間だけだ。

イースにはもっと頼るべき人間がいるし、シアも嫁げばそうそう会うこともなくなる。

頼られるのは正直嬉しい。だけどこのままではいられないのだ。


「…そう、だな。コーディックは好きな奴とかいないのか?」


なんだその急な話題転換は。


「…どこかのだれかさん達が気になってそれどころじゃなかったもので。」

「そうか…。」


何考えてる? 嫌味も完全に無視しやがったし。


「…誰かを斡旋するつもりか?」


そういう話が来ていてもおかしくはない。受けるかどうかは別だが。


「いや、俺はそういうことをするつもりはない。ただ、そうだな、たぶん諦めたほうがいいぞ。」

「は?」


話が全くつながってない。わざと確信的なことを避けてやがる。


「…何たくらんでる?」

「逃れたいなら見破るんだな。」


不敵に笑うその顔は王族としての顔をしていた。



「お待たせしました、イース様。」


相当急いだのか、十分もたたずにシアが身なりを整えた状態で戻ってきた。

まあ、ノックしてない時点でまだまだ混乱中なのはまるわかりだけどな。


「今日はお忙しいのではなかったのですか?」

「ああ、だがカナリヤがある程度引き受けてくれてな。時間ができたからウルレシアと話がしたいと思ったんだ。」


追い出されたくせに…。まあ、男は見栄を張る生き物だから仕方がない。


「話、ですか?」

「ああ、話しておかないといけないことがあるんだ。」


既にばれているあの話だろう。

まあ、イースから話すということが大事なんだし問題はないか。

ただ、一つ言わせてもらえるなら、


当然のように俺を含めた状態で始めるなよ…!


それでも、いないところで話をされて変にこじれる可能性を考えると口にはできず、結局そのまま聞く羽目になるのだった。

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