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レイン・シャーク  作者: 西武球場亭内野指定席
第4章
40/61

第39話

定例会から3日後

東京都大田区

東京国際空港(羽田空港)


王国のプライベートジェットを降りた王女には、もはや護衛はいなかった。

いや、正確には空港まで迎えに来た薬師寺家の護衛がついていた。

薬師寺家の護衛2人は王女をエスコートして素早く黒塗りの高級セダンに乗せた。

黒塗りの高級セダンの運転手はいつもの童顔の女(27歳。第22話参照)であった。


「なぜリムジンじゃないの?」

王女は開口一番そう言い放った。

「リムジンだと目立ちすぎますので」

「そう。この車防弾車かしら?」

「もちろんですとも」

「ならいいです。それはそうと喉が渇きました。水くらいありませんの?」

「少々我慢していただけますか」

小橋川は少し怒り気味に言った。

「ふん、ずいぶんとわがままな王女様だこと」

そういうと、奈央は未開封のミネラルウォーターを渡した。

「あら、気が利くのね。ですが、私はもう、王女ではありません。私のことはミシェルとでも呼んでくれませんか」

「では、ミシェルさん。あの王国に何があったのか、教えてくれないか?」

「詳しいことは私の左足小指の爪のQRコードにあります」

「拝見します」

そういうと、奈央はタブPCのカメラでQRコードを撮影した。

「それよりも宿です。社長が気を利かせて六本木の高級ホテルを押さえてくれました」

と、小橋川がいう。

「それで、あんたら呪詛破りの一族が私を護衛してどうしようって言うの?私は諸田家の人々にお願いしたはずですが?」

「私たちは諸田家に委託されたまでのことです。それ以上聞く必要がありますか?」

と、奈央が答える。

「訳ありってことね。なら聞くのは野暮ってものか」

ミシェルは話を止めた。

「聞いていた以上にご聡明ですね」

と、奈央は感心する。

「これでも元は王族ですから」

ミシェルは自信満々にそう答える。


武蔵ホテル六本木

このホテルはかつて外国資本のホテルだったところを買い取ったものである。

買収後にリノベーションをして最上階はVIP向けのスイートルームになっている。

部屋では社長が待っていた。

「広田社長、こんなところで何をやっているんですか?」

「押さえてやったというのにつれない反応だねえ」

「よく言いますね。外国人もなかなか泊まらないから閑古鳥が泣いていたくせに」

「君もだんだん敏夫さんに似てきたね。さて、本題に戻ろう。ミシェル王女、これからどうするんですか?調べたところ、日本の大学に留学するようですが、どちらの大学で?」

社長はミシェルに質問をする。

「早稲田大学ですわ。政治経済学部国際政治学科に合格しました。この4月から1年生です。一生懸命勉強した甲斐がありましたわ」

「なるほど。流石は王国随一の親日家。ですが、卒業後はどうなさるおつもりで?」

「心配には及びませんわ。私、日本で商売を始める予定ですので。それから、お金なら問題ありませんわ。当面はカードでどうにかします。それに今日は商談でございます」

「ほう。商談とは?」

「私が持ってきた宝石類を買い取ってほしいのですわ。あなたのことですから買い叩くなんてことはしないと信じております」


そういうと、ミシェルは自身のスーツケースの下から小さな箱をいくつも出した。

箱の中には宝石が入っていた。ダイヤモンド、サファイア、プラチナ合わせて30点以上。

「ほう。王室財産の密売ですか」

「人聞きの悪いことを。これは全て私のものです。軽く見積もっても1億5千万円はくだらないでしょう。本来ならもう少し持ち出したかったのですが、これが精一杯でした」

「買取はしますが、真贋をはっきりするために鑑定士を呼んでまいりますので、取引はお待ちできますか?」

「構いませんわ。なんなら一部の品には鑑定書もございますわよ。それからもうひとつ」

「なんですか?」

「結婚相手を探してくれませんか?日本人であればよろしいので」

「つまり、お見合いをさせろと」

「そういうことです」

「わかりました。しかし、あなたのお眼鏡にかなう方となりますと、相当の時間がかかりますよ」

「結構。ビザが時間切れになる前に結婚できれば問題ありませんわ」

「なるほど、婚姻による帰化ですか。これなら確かに問題はないでしょう。しかし、王籍を離脱するとはいえ、一国の王女が下民と結婚する貴賤結婚は問題ですよ。我が国に爵位などありませんから」

「あら?爵位が無ければそれに準ずる人を集めればいいじゃない?」

この言葉には流石の広田社長も驚いた。

「簡単に言ってくれますね」

「上流階級の人間を用意すれば良いのですよ。もちろん、口が固い人間以外はお断りですわ」

「わかりました。では、後ほど鑑定士を連れてまいりますので、一旦失礼いたします」

そう言うと、広田社長は部屋を出た。


「あまり、広田社長を困らせないでくれないか」

と、奈央がいう。

「どうしてです?」

「あんな凡庸なツラ構えだが、相当な切れ者だよ。あの社長は。なにせうちのタニマチだからね」

「タニマチ?」

「要はスポンサーだよ。うちの単独じゃ動けない仕事とか、政財界がらみの面では顔役として動いてもらってる。そのかわり、うちは私的なシークレット・サービスとして動く。利害が一致してるってだけじゃなくて、あの人の人柄もあるけどね」

「よくわからないね。そういう事情は」

「そう。しばらくはホテルで暮らすことね。あ、メールだ」

奈央のスマホの画面には以下の文章が記されていた。


『伝言です。ミシェル様に言い忘れていましたが、日本でのオフィスビルのテナント探しや銀行口座開設は我が武蔵グループの系列の不動産業者や武蔵協和銀行をよろしくお願いします。武蔵』


「商魂たくましいこと。ミシェルさん、伝言だ」

そういうと、奈央はミシェルに先程の内容を告げた。


「フフッ、社長自らが営業ですか」

「昔からデリカシーの無い人だから。だけど、どこか憎めないのよ。あの社長。人望があるから、急成長と急拡大できたのよね」


その頃

「王女が日本に着いたのは本当か?」

「間違いありません」

「あの王女に生きてられると非常に面倒なことになる。王家の断絶が我が結社の目的だからな」

「ですが、日本には始祖六家があります。あの王女のことですから、頼まないわけがないですし、私たちに気づいていなかったとしても、ワセダ・ユニバーシティへの留学を隠れ蓑に日本へ逃れることは避けられなかったでしょう」

「本当に用意周到だな。あの王女は」

「どうするんですか?」

「ひとまずは様子見といこう。始祖六家の出方も見ておきたい」



つづく

次回もお楽しみに。

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