衝突
「もうやめて。あなたも一緒においで。もっと考えなきゃ」
「お姉ちゃん変わったね。前は私に会いたい会いたいって思ってたくせにさ。人を壊すのが嫌なのは恐いからだよ。正義感じゃない。お姉ちゃんは正義感なんて持ってないの自分でわかってるでしょ?」
「私はただ信じ込んでいるあなたが嫌なだけ。それは宗教と同じ。そうやってこうすればいいんだって信じ込んでいるあなたに従うことが最高に嫌だ」
そう言っている間にも少女は人間を壊し続けた。
ああイライラする。もうこういう子どもの世話するのはうんざり。無視して行っちゃえばいいのになんだか無視できない。
思い出したくも無い陽子の顔が頭の中をぐるぐる回る。
「じゃあお姉ちゃんはどうするの? 私を止める?」
「あなたが聞いてもわからない子なら止める」
「やってみなよ、私もね、この力を色を持った人に使うとどうなるのか知りたいんだ」
「へえ、今のあなたが一番子供らしく見えるよ」
少女が手を掲げて、スタートラインの審判のように素早く振り下ろすと風を裂きながらオレンジ色の鳥が私に向かって突っ込んでくる。物凄い速さ、風切り音がする。避けられない、とっさに身を屈めると青いサメが私を包み込むように身体を丸めた。
鳥の嘴がサメに突き刺さるかと思われたが、それは僅かに表皮を削り取りながら滑るようにしてサメの真上に跳ね上がった。
「サメ肌って堅いんだね。嘴が折れちゃうかと思った」
危険を察知してこの青いサメは私を守ってくれたのか、でもどうしよう、相手のスピードにとてもついていけない。あんなに縦横無尽に飛び回る鳥を仕留められるのだろうか。
面倒くさい、やっぱり謝っちゃおうか、でもだめだ。やっぱりあの子は止めないといけない。
「二人で方法を探そう。もうこんなことやめて、ね? きっと見つかる」
「もう見つかってるんだよ? お姉ちゃん。私面倒くさいこと嫌いなの」
そうだ、面倒くさいじゃないか、他の方法を探すなんてこんな喧嘩よりももっと面倒くさいことだ。頭ではわかってるのに、これって正義感? 私は自分の中に沸き起こる感情を理解できていなかった。
「じゃあやっぱり私はあなたを止めるよ」
このサメに頼るしかない。でもいつまでもサメなんて言っていたら可哀想だ。
名前をつけてあげよう。青いサメ、青、空。
「ソラ、私を守ってね」
そう言うとソラは中空を優雅に泳ぎ始めた。
ソラは鳥ではないけれど宙を泳ぐことができる。
今度はこちらから、攻めてみる。
私の合図でソラはなめらかに鳥のほうへ近づいた。色には海も空も関係ない、ならば飛べるほうが有利というわけではない。ソラの巨体ならば体当たり一つでもハンマーの一撃に近いはず。
「いけ!」