対立
海岸への道、今まで一度も歩いたことがなかった。
海に興味がなかったから。それなのに私はどうして海に向かっているんだろう、好きでもない海にあの大嫌いな青いものを取りにいくために。
外灯と暗がりだけしかない世界、無音、無臭、私にはむいている。
いくつもの信号機がチカチカと黄色い残像を描いている。
私の存在も無に限りなく近かった。でもこうして歩いていると今まで思い出さなかったことが思い出されて、少し面倒。
黒い海、砂浜の砂は手ですくうとまるで墨の粉末みたい。
大きな青白い卵が砂浜の真ん中にある。卵はひとりでにひび割れ、中から青いサメのようなものが現れた。それは卵から出るなり、まだでんぷん質に包まれた身体を私の足元に横たえた。
サメだったんだ、なんとなく納得。あれ? 今私気持ち悪いと思っていない。この青いサメに安心している。
サメは細かい粒子に分解され、海風に吹かれて掻き消えた。
あの少女がやっていたように私は手を前に差し出してみる。青い霧が私の周囲を取り囲み、私にじゃれるサメの姿が現れた。
そっと頭を撫でてやるとそれは自分から私の手に背びれをすり寄せてきた。
この力で人間を砕くのか、人間を砕くための力、今まで私が嫌悪していたのは自分自身の人間らしさ? 人間を砕く力を持つ青いものを恐れていたのか。
これが使命、人を壊すことが使命? 陽子が言っていたな。
「私殺されてもいいって思ってるから」
陽子は馬鹿だな、本当に馬鹿。誰に殺されたってそれは同じ死なんだよ。
殺されてもいいなんて本気で言っていたのかな。
私はそれをナルシシズムだって言ったけど、今もそう思っているけど、なんか違うんだよな。直線道路の先に少女と鳥が見える。
なんだかもう行きたくない。
「お姉ちゃんお帰り。お姉ちゃんの色を見せてよ」
私が手を差し出すと同時に現れた巨大なサメを見て少女は飛び上がった。
「凄い凄い! これなら簡単に集められそう」
「ねえ、人を砕く以外に方法はないの?」
「ないよ」
少女は無表情で即答した。
「試してみた?」
「ううん、でもこの方法しか知らないもん」
方法、この子ちょっと変。不自然だ。
「どうしてあなたはその方法を知っているの?」
「そんなこといいじゃん。お姉ちゃん恐いの?」
その上面倒くさがりってところだね。
「恐い? 馬鹿じゃないの? 私はずっとこの世界にいてもいいと思ってる。誰かの犠牲を頼りに前の生活に戻るなんて真っ平。誰の手もかりずに出られる方法を探す。やっぱりガキはガキだね。未練たらたらだよ」
私の誰かを挑発する才能は天才的らしい。少女の表情がみるみる変わっていく。この世界でこの少女に喧嘩を売ることが愚かなことであるとは思う。
でも私の青いサメを見てから気持ちが変わった。この子は何かを壊すために存在するんじゃないと思う。
純粋に感じるこの少女への憤りを止めたくはない。
「お姉ちゃんとは仲良くしたかったんだけどやっぱり駄目だね。私は一人でやるよ」
少女は頭上の鳥を操って再び誰かを、何かという呼び名のほうがしっくりくるそれをいとも簡単に貫いた。白いキラキラした鉱物が空間の歪みから飛び出した。
私は誰がどうなろうと関係ない。でもこの少女は嫌い。何の努力もしようとしない安定した方法にばかり目を取られている。
あれ、私、こんなんじゃなかったはずなのに、努力って何だ。自分で思って恥ずかしいな。




