第16話〜最終話:復讐のカタチ
いつもお読みいただきありがとうございます!
本エピソード『復讐のカタチ』をもちまして、本作は最終話となります。
仇討ちが当然とされる理不尽な世界で、主人公が田中先生との決戦の末にたどり着いた「答え」を、ぜひ最後まで見届けていただけたら嬉しいです!
しました。
第16話(最終話)〜復讐のカタチ
「首を差し出せ」
冷たいカッターナイフの刃が首元に触れ、金属の冷気が肌を刺す。
視界は自分の血で赤く染まり、肋骨の痛みで息すらまともに吸えない。圧倒的な敗北。僕の企てた復仇戦は、ただの「惨めな授業」として終わろうとしていた。
「……くそっ……!」
僕は震える手で芝生を掴み、血の混じった唾を吐き捨てた。
「笑いたければ笑えよ……! 知識も、武力も、お前には勝てない……! だけどな、田中……! 僕が踏みにじられた青春の悔しさは、お前の完璧な理屈じゃ消せないんだよ!」
カッターナイフの刃がピタリと止まる。
夕日に照らされた田中の表情は、逆光になって見えない。沈黙のあと、田中は深く、本当に深く溜息をついた。
「……ハァ。点数は三十点だな」
シャキシャキシャキ、とカッターナイフの刃が引っ込む音がした。
田中は刃物をポケットに仕舞うと、持っていた巨大三角定規をポンと肩に担ぐ。
「諦めない執念だけは三十点分認めてやる。だがな、お前の言う『復讐』とやらは、最初から計算式が間違っているんだ」
「……え?」
「お前が俺を殺したところで、お前の奪われた青春とやらが戻ってくるわけじゃない。ただ『合法的に血を流した』という記録が残るだけだ。この世界の仇討ち法はな、感情の解消ではなく『清算』のためにある」
田中は鞄から救急箱を取り出し、雑に消毒液とガーゼを僕の頭に押し当てた。
「いっ! 痛い痛い!」
「痛がれるうちは生きている証拠だ。……お前が果たすべき本当の復讐は、俺を殺すことじゃない。俺という理不尽な壁を乗り越えて、この狂った世界で『まともな青春』を生き抜いて見せることだ」
頭を包帯でグルグル巻きにされながら、僕はぽかんと田中を見上げた。
冷徹な教師だと思っていた男の目が、夕日を浴びて少しだけ柔らかく見えた。
「それが、お前が俺に突きつけられる唯一の『解』だ。……立て。芝生が汚れる」
田中は手を差し出すこともなく、すたすたと河川敷の階段を上っていく。
僕は包帯だらけの頭を抱え、痛む身体を起こしながら、去っていく大きな背中に叫んだ。
「……覚えてろよ田中! 次のテストでは絶対にお前から満点取って、文句のつけようもない『返り討ち』にしてやるからな!」
田中は振り返りもせず、ただひらひらと手を振って答えた。
それから、一年が過ぎた。
相変わらずこの世界では、あちこちで「仇討ち」の看板が掲げられ、決闘の手続きが行われている。だが、僕の日常は少しだけ変わっていた。
「おい、そこの漢字間違ってるぞ。『仇討ち』じゃなくて『丸討ち』になってる」
「うわっ! また田中先生のチェックが入った!」
放課後の教室。僕は後輩の決闘状の添削指導(?)をしていた。
あの日以来、僕はカッターナイフを捨て、ペンを握ることにした。この狂った世界で無駄に血を流さず、法とルールの中で賢く生き抜くための「対策講座」を学校で立ち上げたのだ。
「先生、本当に仇討ち行かないんですか? あの田中先生に一報いるんじゃ……」
「ばーか。僕の復讐はもう始まってるんだよ」
ガラガラと教室の扉が開き、三角定規を手にした田中が入ってくる。
「お前たち、補習の時間だ。今日もピタゴラスの定理から叩き込んでやる」
「げぇっ! 逃げろー!」
逃げ惑う生徒たちを眺めながら、僕はクスリと笑った。
血を流して奪い合うだけが復讐じゃない。この理不尽な世界で、自分なりの足跡を残して笑って生きていくこと――それが、僕が田中に見せつけてやった、最高の「復讐のあとの物語」だ。
(了)
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
カッターナイフからペンへと持ち替え、理不尽な世界で自分なりの「答え」を選び取った主人公と、最後まで彼なりのやり方で導いた田中先生の物語、いかがでしたでしょうか。
復讐や仇討ちという重いテーマではありましたが、ただ血を流すだけではない「生き抜くこと」の結末を描くことができて感無量です。
これまで温かい応援やブックマーク、評価をくださった皆様のおかげで、無事に最終話まで走り切ることができました。心より感謝申し上げます!
また次の作品でお会いできるのを楽しみにしています!




