↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完全版】GWO~麗しき女神の秘宝~  作者: 齋藤 雅


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/11

第二話【選ばれし者】

巨大な宇宙船が、ゆっくりと姿勢を変える。


その先。


さらに巨大な艦が、漆黒の宇宙に浮かんでいた。


人類統合母艦《ノアセリア》。


女子教育船の船体側面から、接続アームが伸びていく。


反対側。


別の方向から、もう一隻の宇宙船が接近していた。


男子教育船。


二隻の教育船が、ノアセリアの両側へ並ぶ。


やがて──


ガコンッ。


低い振動が、船内全体へ伝わった。


ドッキング完了。


「うわぁ……。」


リョウコは窓の外を見上げた。


反対側の接続区画。


そこから、男子生徒達が次々とノアセリアへ入っていくのが見える。


カンナが隣で笑った。


「男子やで」


リョウコは、窓の外を見たまま答える。


「見れば分かるよ……。」


カンナは、次々とノアセリアへ入っていく男子生徒達を眺めた。


「いっぱい居るなぁ」


リョウコの肩が落ちる。


「帰りたい……。」


────


「男の子、いっぱいいる……。」


リョウコは、少しだけカンナの後ろへ隠れた。


カンナが振り返る。


「何で隠れるん?」


リョウコは、カンナの肩越しに男子達を覗いた。


「なんとなく……。」


カンナが笑う。


「食べられへんって」


「分かってるよぉ……。」


リョウコは、それでもカンナの後ろから出なかった。


広大な闘技場。


普段は別々の教育船で生活している男子生徒と女子生徒が、一堂に集められていた。


男子校。


女子校。


それぞれの候補生が、向かい合うように整列している。


年に一度。


男女合同で行われる模擬戦。


そして──


その直前に行われる、リットブレイカー所有者選抜。


男子生徒達の視線が、露骨に女子側へ向いていた。


男子生徒の一人が、思わず声を漏らす。


「おお……女子だ……。」


隣の少年も目を輝かせた。


「本物だ……。」


「何だよ、本物って」


「だって女子だぞ?」


「知ってるよ」


ひそひそ。


ざわざわ。


女子側から、冷たい視線が返る。


カンナが呆れた顔をした。


「男子って、いつもあんな感じなんかな」


リョウコが小声で答える。


「知らない……。」


カンナが、横目でリョウコを見る。


「リョウコ、見られてるで」


リョウコは、さらにカンナの陰へ隠れた。


「やめてよぉ……。」


リョウコは、さらに小さくなった。


その少し前。


ミカコが腕を組んで立っている。


二本のトンファーは、腰に固定されていた。


男子側から声が漏れた。


「あの子、可愛くない?」


「ああ。でも強そう」


「強そうっていうか怖そう」


ミカコの眉が動く。


男子達が、一斉に目を逸らした。


その隣。


長い髪を下ろしたカスミは、周囲などまるで気にしていない。


背の高い身体。


手には、いつもの長い棒。


男子生徒の一人が見上げる。


「でか……。」


カスミの目が、ゆっくりと動いた。


「……何?」


「何でもありません!」


そして。


女子側の最前列。


一際小さな少女が立っていた。


タカノ。


二本の剣を腰に下げ、腕を組んでいる。


男子生徒が小声で笑った。


「ちっちゃ……。」


タカノが、そちらを見る。


「聞こえてるよ」


「すみませんでした!」


リョウコは、その光景を遠くから眺めていた。


「みんな元気だなぁ……。」


カンナが横を見る。


「リョウコは元気ないなぁ」


リョウコは、情けない顔で答える。


「帰りたいもん……。」


カンナが笑った。


「まだ何も始まってへんで」


「だから帰りたいの……。」


リョウコは、本気だった。


その時。


闘技場全体に、鋭い声が響いた。


「整列!」


ざわついていた生徒達が、一斉に正面を向く。


中央。


艦長が歩いてきた。


年齢は四十代ほど。


鍛えられた身体。


短く整えられた髪。


その後ろには、男女それぞれの監督。


さらに、複数の教官と警備兵が並んでいる。


生徒達の前で足を止めた。


静寂。


艦長が、ゆっくりと全員を見渡す。


「本日、ここに集まった者を対象に、リットブレイカーの選定儀式を行う」


空気が変わった。


男子も。


女子も。


一気に表情が引き締まる。


ただ一人。


リョウコだけが、遠い目をしていた。


「選ばれる者がいれば、人類最高峰の武器を手にすることになる」


艦長が続ける。


「だが、その前に一つ聞く」


艦長は、生徒達を見渡した。


「戦うことが好きな者はいるか?」


一瞬。


誰も答えなかった。


生徒達が、互いの顔を見る。


その時だった。


男子側の後方。


一人の少年が、勢いよく拳を突き上げた。


「うおぉぉぉぉ!!」


全員の視線が集まる。


少年は、満面の笑みだった。


「大好きだぜ!!」


「俺に任せろぉぉぉ!!」


静寂。


艦長が少年を見る。


「そうか」


「お前は勇敢だな」


少年は意気揚々と返事をする。


「はいっ!」


艦長は、静かに次の言葉を放つ。


「では、お前は退場していい」


「え?」


少年だけではない。


周囲の生徒達からも、戸惑いの声が漏れた。


「えっ?」


「何で?」


「今の駄目なの?」


周囲がざわつく中。


リョウコだけは、黙って艦長を見ていた。


警備兵二人が、少年の両脇に立った。


「ちょっ」


両腕を掴まれる。


「えっ!? 何で!?」


そのまま引きずられていく。


「待って待って待って!」


「戦うの好きって聞いたじゃん!」


「正直に答えただけじゃん!」


艦長の声が、闘技場内に響き渡った。


「帰れっ!!」


扉が開く。


「俺まだ選抜受けてな──」


バタン。


扉が閉じた。


静まり返る闘技場。


カンナが、小さく呟く。


「……ほんまに帰された」


リョウコが頷く。


「かわいそう……。」


艦長が、何事もなかったように前を向く。


「勘違いするな」


その声から、先ほどまでの僅かな軽さが消えた。


「我々が教えているのは、人を傷つける楽しさではない」


誰も喋らない。


「敵を倒した数を競うためでもない」


「戦場で英雄になるためでもない」


艦長は、一人一人の顔を見るように視線を動かした。


「戦わずに済むなら、それが一番いい」


リョウコが、僅かに顔を上げた。


「だが」


艦長の声が強くなる。


「話し合いでは止まらない相手もいる」


「こちらが武器を捨てても、攻撃をやめない相手もいる」


「その時」


「自分を守る力がなければ、生き残れない」


「隣にいる者を守る力がなければ、その者も死ぬ」


静かな声だった。


だが。


闘技場の隅々まで届いた。


「だから我々は戦う」


「戦うために戦うのではない」


「戦いを終わらせるために戦う」


リョウコは、黙って艦長を見つめていた。


「強さを誇るなとは言わない」


「努力した結果だ」


「胸を張ればいい」


「だが」


艦長の目が鋭くなる。


「力を持つ者ほど、その使い道を忘れるな」


「弱い者を踏みつけるために身につけた力なら、そんなものは必要ない」


ミカコが、じっと艦長を見ている。


カスミも。


タカノは無言で頷いた。


表情は違っていたが、誰も目を逸らさなかった。


艦長が最後に言った。


「強くなれ」


「生き残るために」


「守るために」


「そして──」


「いつか、戦わなくていい日を迎えるために」


リョウコの目が、ほんの少しだけ揺れた。


その言葉だけは。


少しだけ好きだと思った。


────


訓示が終わると、


闘技場中央へ透明な台座が運び込まれた。


その左右には、


男子側の担当教官。


女子側の担当教官。


それぞれが、生徒達の前へ進み出る。


台座の上には、


小さな指輪が、一つ置かれていた。


「おお……。」


生徒達から、声が漏れた。


リョウコも思わず目を向ける。


銀色の輪。


その表面には、小さな三つの装飾が埋め込まれていた。


見た目だけなら、


驚くほど普通の指輪だった。


カンナが目を輝かせる。


「あれが……。」


リョウコが呟く。


「リットブレイカー……。」


人類に、たった一つ。


誰もが憧れる武器。


数百年前に生み出されて以来、所有者を選び続けてきた秘宝。


現在は、誰の指にも嵌まっていない。


所有者がいない期間だけ。


年に一度、候補生全員へ選抜の機会が与えられる。


艦長が台座の横へ立つ。


「説明する」


「やることは単純だ」


「一人ずつ前へ出ろ」


「利き手を差し出す」


「それだけだ」


男子側から声が上がった。


「触らないんですか?」


「触る必要はない」


艦長が答える。


「資格があれば、リットブレイカー自身が反応する」


生徒達の表情が一気に強張る。


艦長が、それぞれの担当教官へ目を向ける。


「頼む」


「「はいっ!」」


男子側、女子側。


二人の教官が同時に返事をする。


まず男子側の教官が台座へ立ち、

名簿を開いた。


「始める」


最初の男子生徒が呼ばれた。


「はい!」


勢いよく前へ出る。


台座の前に立つ。


右手を差し出す。


全員が息を呑んだ。


…………。


何も起きない。


「次」


「はい……。」


少年が肩を落とし、戻っていく。


次。


また次。


男子生徒が一人ずつ手を差し出す。


だが。


指輪は沈黙したままだった。


光らない。


動かない。


何の反応も示さない。


やがて女子側へ移る。


続いて、女子側の教官が台座へ上がった。


名簿を開き、名前を読み上げる。


なかなかリットブレイカーは反応しない。


「ミカコ」


名前を呼ばれる。


ミカコが前へ出た。


周囲がざわつく。


校内戦闘ランキング第三位。


期待する声も多い。


ミカコは台座の前に立ち、右手を差し出した。


…………。


何も起きない。


ミカコの眉が僅かに動く。


「……チッ」


そのまま戻った。


「カスミ」


カスミが前へ出る。


右手を差し出す。


…………。


無反応。


カスミは何も言わず、列へ戻る。


「タカノ」


空気が変わった。


男子側からも声が漏れる。


「来るんじゃないか?」


「女子の一位だろ?」


タカノが前へ出る。


台座の前へ立つ。


右手を差し出した。


…………。


何も起こらない。


タカノは数秒、指輪を見つめた。


僅かに歯を食いしばった。


そして、何も言わず踵を返した。


カンナが小声で呟く。


「タカノでも駄目なんや……。」


リョウコは、安心したように息を吐いた。


「じゃあ、あたしなんて絶対大丈夫だね」


カンナが横を見る。


「何が大丈夫なん?」


リョウコは真顔で答える。


「選ばれない」


カンナが呆れた。


「普通そこ安心するとこちゃうやろ」


候補生は減っていく。


一人。


また一人。


それでも、


リットブレイカーは沈黙したまま。


そして。


「カンナ」


「はい!」


カンナが前へ出た。


リョウコが期待の眼差しで、小さく手を握る。


「頑張って」


カンナが振り返る。


「こういう時だけ応援するんやな」


リョウコは、悪びれもせず答えた。


「選ばれたらすごいじゃん」


カンナは苦笑しながら台座へ向かう。


「リョウコも選ばれたいって思いぃや」


カンナが台座の前へ立った。


右手を差し出す。


…………。


何も起きない。


カンナが肩を落とす。


「駄目かぁ……。」


列へ戻ってくる。


リョウコが慰める。


「残念だったね」


カンナは、すぐに笑顔へ戻った。


「まだリョウコがおるで」


リョウコの顔が引きつる。


「やめて」


「何でやねん」


カンナが笑った。


そして。


教官が名簿を見る。


「最後」


リョウコの嫌な予感がした。


「リョウコ」


「…………。」


返事がない。


教官が顔を上げる。


「リョウコ」


カンナが肘で突く。


「呼ばれてるで」


リョウコは俯いたまま答える。


「聞こえてる……。」


カンナが背中を押す。


「行きぃや」


リョウコは踏ん張った。


「やだ……。」


「行け」


さらに強く押された。


「わっ!」


リョウコは、よろよろと列の前へ出た。


視線が集まる。


男子側から声が聞こえる。


「あの子が最下位?」


「有名な?」


「そうらしい」


リョウコの肩が、さらに小さくなる。


「帰りたい……。」


教官が言った。


「手を」


「はい……。」


リョウコは台座の前へ立った。


目の前の指輪を見る。


何とも思わなかった。


欲しくない。


英雄にもなりたくない。


強さの証なんて必要ない。


どうせ自分が選ばれるはずもない。


そう思いながら。


右手を、ゆっくりと差し出した。


その瞬間だった。


ピカッ──


「え?」


リョウコの目の前が、真っ白になった。


次の瞬間。


キィィィィーーーーン!!


「きゃあっ!」


巨大な光が、闘技場全体を包み込んだ。


生徒達が目を覆う。


艦長達も思わず身構える。


「何だ!?」


「反応したぞ!」


光が、さらに強くなる。


リョウコには、何も見えなかった。


ただ。


声だけが聞こえた。


知らない男の声。


少し気の抜けたような。


どこか楽しそうな声。


『俺の“ヘンリスペル”、この子に持ってかれるのか?』


リョウコの目が見開く。


「……誰?」


続いて。


別の男の声。


低く。


荒っぽい。


不機嫌そうな声。


『次は貴様か……。チッ……情けねー面してやがる』


「えぇ!?」


何でいきなり悪口を言われたのか。


まったく分からない。


その瞬間。


台座の上から、指輪が消えた。


「え?」


光が収束する。


静寂。


リョウコは、ゆっくりと右手を見た。


中指。


そこに。


銀色の指輪が嵌まっていた。


「…………。」


リョウコは固まった。


カンナも固まった。


艦長も。

監督も。

教官も。

男子も。

女子も。


全員が、リョウコの右手を見ていた。


数秒。


誰も喋らない。


やがて。


リョウコが小さく呟いた。


「……何で?」


カンナの目が見開かれる。


「リョウコ……。」


リョウコは、指輪を摘まんだ。


「何で?」


引っ張る。


「取れない」


もう一度。


引っ張る。


「取れない!」


さらに力を入れる。


「何で取れないのぉ!?」


カンナが駆け寄ってくる。


「ちょっと見せて!」


二人で指輪を掴む。


カンナが声を掛ける。


「せーの!」


「んんんんん!」


二人は同時に、思い切り引っ張った。


ビクともしない。


リョウコが半泣きになる。


「どうしよう……。」


カンナが真剣な顔で考える。


「しゃあないな」


リョウコが、不安そうに顔を上げる。


「何?」


カンナは、リョウコの指を見る。


「指切断してあげよか?」


リョウコが飛び退いた。


「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」


その瞬間。


ドゴッ!


「ぶっ!」


突然、


リョウコの後頭部に何かが飛び込んできた。


身体が前につんのめる。


「いたぁっ!」


リョウコが頭を押さえながら振り返る。


「誰!?」


そこに。


小さな女の子が浮かんでいた。


人形ほどの大きさ。


桃色の長い髪。


尖った耳。


背中には、小さな羽。


腰に手を当て、怒った顔でリョウコを睨んでいる。


「こらっ!」


リョウコは固まった。


少女が指を突きつける。


「折角選んだのに勝手に外そうとするな!」


「…………。」


リョウコが目を瞬く。


「誰……?」


小さな少女が胸を張った。


「誰だって?」


得意げに鼻を鳴らす。


「ふふん! 聞いて驚け!」


さらに胸を張った。


「ボクは、かの有名な妖精ピック様だ!」


リョウコは、きょとんと見つめる。


「知らないよ!」


ピックの顔が固まった。


「し、知らないっ!?」


すぐさまリョウコの顔へ詰め寄る。


「あんた、ボクを知らないなんて人生の90%損してるよ!」


リョウコが周囲を見る。


「カンナ……。」


だが。


カンナは、不思議そうな顔をしていた。


「どうしたん?」


リョウコが小さな少女を指差す。


「この子……。」


カンナが指先を見る。


「この子?」


「何もおらへんけど」


「え?」


リョウコがもう一度見る。


いる。


思いっきりいる。


空中で腕を組んでいる。


リョウコがピックを指差す。


「いるよ!」


カンナは、その先を目で追う。


「どこに?」


「ここ!」


カンナは何度見ても首を傾げる。


「何もないで」


リョウコが声を上げた。


「いるってば!」


ピックが、ため息をつく。


「どうやら、ボクが見えるのあんただけみたいね」


リョウコの顔が引きつる。


「怖い……。」


ピックの頬がプクッと膨れ上がる。


「失礼な!人をお化けみたいに言うな!」


リョウコは、自分の右手を見る。


「もしかして……この指輪の……。」


ピックが満足そうに頷く。


「そうそう」


リョウコは恐る恐る聞いた。


「外せないの?」


ピックの笑顔が、さらに大きくなる。


「ボクの怨念は、そう簡単に外れやしないよ」


リョウコの顔から血の気が引いた。


「怨念なのぉぉぉ!?」


ピックは、少し考える。


「愛情とも言う……多分」


リョウコが即座に突っ込んだ。


「多分って何ぃぃぃ!?」


周囲の生徒達には、


突然一人で叫び始めたリョウコしか見えていない。


男子生徒が小声で呟く。


「大丈夫か、あの子……。」


別の男子が答える。


「最下位って、そういう意味だったのか……。」


リョウコの叫び声が響く。


「違うよぉぉぉ!」


ピックは腹を抱えて笑った。


「面白いね、あんた」


「あたしは全然面白くない!」


ピックはリョウコの周りを、くるりと飛ぶ。


そして。


右手の指輪を覗き込んだ。


「でもあんたさ」


リョウコが眉を下げる。


「何……?」


ピックの表情が、少しだけ変わった。


リョウコの身体を、じっと見る。


まるで何かを測るように。


「歴代ヘンリスペルの主として、今までで最強かも」


「…………。」


リョウコが首を傾げる。


「ヘンリ……?」


ピックは、楽しそうに続けた。


「いやぁ、すごいすごい」


「あんた、とんでもないもの持ってるよ」


「前の持ち主なんてひっどい奴でさぁ~」


ピックは遠い目をした。


「ちょいとお前さん聞いとくれよ」


リョウコが、指輪をピックの前へ差し出す。


「いや、その前に」


首を傾げた。


「ヘンリスペルって何?」


ピックの動きが止まった。


「……何?」


リョウコが首を傾げる。


「これ、リットブレイカーでしょ?」


ピックはリョウコの顔を覗き込む。


「んぁ?」


「リット……?」


ゆっくりと指輪へ向く。


「…………。」


近づく。


じーっと見る。


さらに近づく。


「…………。」


ピックの顔から、血の気が引いた。


「ぬ……。」


リョウコが不安そうに見る。


「ぬ?」


ピックが震え始める。


「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「わぁっ!?」


ピックは頭を抱えた。


「ヘンリスペルがぁぁぁぁ!!」


指輪を指差す。


「こんなちっぽけな指輪になってるぅぅぅぅぅぅ!!」


「えぇ!?」


ピックは、指輪へ飛びついた。


三つの小さな装飾を見る。


「ちょっと待って!」


「これ……!」


目を見開く。


「ただの宝石だと思ったら、ヘンリスフィアじゃん!」


「削られてるぅぅぅぅぅ!!」


リョウコには、何の話なのかさっぱり分からない。


ピックは半泣きになりながら指輪へしがみついた。


「誰だぁぁぁ!」


「誰だこんな事したのはぁぁぁぁぁ!!」


リョウコが困った顔で尋ねる。


「あの……。」


ピックが振り返る。


「何よ!」


「つまり……あなたが、あたしを選んだの?」


ピックは、ふふんと胸を張る。


「そういうこと!」


リョウコを指差した。


「このボクが、あんたを選んだの!」


リョウコは、右手の指輪を見る。


「……何であたし?」


ピックは、リョウコの顔をじっと見つめた。


「魔力が異常に高かったから」


リョウコが目を瞬く。


「……魔力って何?」


ピックの笑顔が止まった。


「は?」


リョウコは、さらに首を傾げる。


「あと、魔王って何?」


「…………。」


今度は、ピックがリョウコをきょとんと見つめる。


ピックは、信じられないものを見るようにリョウコを見た。


「……あんた、魔力知らないの?」


リョウコが小さく頷く。


「知らない……。」


「魔王も?」


もう一度、頷く。


「知らない……。」


ピックは、しばらく黙ってリョウコを見つめた。


「……マジで?」


リョウコが、三度目の頷きを返す。


ピックは眉をひそめた。


「ちょっと病院に連れて……。」


「行かない」


ピックは頭を抱えた。


「ボクが眠ってる間に何があったのよぉぉぉ!!」


リョウコも負けじと叫び返す。


「知らないよぉぉぉ!」


ピックは、それでもリョウコを指差した。


「と、とにかく!」


勢いのまま言い切る。


「あんた、魔王より魔力値高いから!」


リョウコは頭を抱えた。


「だから魔王って何なのぉ!?」


リョウコの右手。


人類最高峰の秘宝。


リットブレイカー。


その上に、


小さな妖精が腰を下ろした。


「よろしく」


リョウコは、泣きそうな顔で答えた。


「よろしくしたくないよぉ……。」


ピックは、楽しそうに笑った。


こうして──


何も起きないことだけを願っていた少女は。


人類でただ一人。


リットブレイカーの所有者となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。