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転生したのに動かない!? ~石になった俺、気づいたら守り神やってます~  作者: シラフ


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1/11

第1話「石です、はい」

最終話までプロット完成済みです。

エタりません。

更新ペース:毎日投稿。


石に転生した主人公の話です。チートなし、無双なし。

動けないし、見えないし、しゃべれません。

でも——廃都の少女が拾ってくれたので、石なりにやっていきます。


 転生した。


 石に。


(……詰んだ)


 うん。認めたくない。でも、認めるしかなかった。


 視覚がない。聴覚も、鼻も、舌もない。あるのは圧力だけだった。全方向から均等に押されている感じ。硬い。丸い。踏まれても潰れない。雨が当たっても水を吸わない。弾かれて転がると、ころころと転がる。


 ——石じゃなかったら何なんだこれ。


(なんで石なんだ俺は)


 前世の俺は会社員だった。通勤電車で暇つぶしに転生ものを100冊くらい読んでた。勇者召喚、魔王転生、最弱スライムが実は最強——。


 だから、ちょっと憧れてた。転生。


(スライムでもゴブリンでも、卵でも壺でも、ドラゴンの幼体でも良かったんだけど)


 石って。


 動けない。しゃべれない。何もできない。


 転生もの100冊読んで何を学んだんだ俺は。ハーレムどころか、手も足も、目も耳もない。チートは、存在そのものが不可能だ。石が主人公の異世界転生なんて、なろうでも見たことがない。


 俺は虚無の中で、静かに絶望した。


   ◆


 ——で、絶望したまま、どのくらい経ったのか、分からない。


 1時間なのか、1か月なのか、10年なのか。時間の感覚が、まったくない。


 ただ、そのうちに気づいた。何も感じないと思っていたが、うっすら感じるものはあった。


 雨のとき、じっとりと湿る気配。

 日が当たると、かすかに温かい気配。

 踏まれると、振動が届く気配。


 声も、届いた。空気の揺れが石に伝わって、いつしか言葉として解釈できるようになっていた。


(……道端の石ポジション、ってやつか)


 行商人の愚痴、子どもの泣き声、酔っぱらいの独り言。俺の上を、色々な人生が通り過ぎていった。


 このまま何年も何年も転がり続けるんだろうな、と思いながら、俺は意識を半分くらい手放しかけていた。


 ——そのときだった。


   ◆


 小さな手が、俺を拾い上げた。


 軽い。温かい。指が、かすかに震えている。


(人間の手だ。久しぶりすぎる)


「……きれい」


 少女の声だった。幼い。でも、芯がある。


「こんなとこに落ちてた。もったいない」


(俺のこと、きれいって……?)


 石になってから、誰かにそんな言葉をかけられたのは、初めてだった。


 少女は俺をしばらく手のひらで転がしていた。指先の振動が、ゆっくりしていた。何かを確かめているような、ゆっくりした転がし方だった。


 それから——ポケットに入れた。


(え、いいの? 拾ってくれるのか?)


 ——それが、俺と彼女の最初の出会いだった。


   ◆


 半年が過ぎた。


 体感では、もっとずっと短かったような気もする。少女は俺を毎日ポケットに入れて持ち歩いた。


 ここは廃都と呼ばれる街らしい。誰かの噂話の端で、そう知った。昔は栄えていた都の、成れの果て。今は廃墟と貧民街が大半を占めている。


 その街の、路地も市場も、雨の日も、霜が降りた朝も。俺はずっと彼女のポケットの中にいた。


 視覚はない。彼女の1日は、声と振動と温度で聞こえた。


 名前は、途中で知った。路地の向こうから誰かが「ネア」と呼んだ。それが彼女の名だと気づいた。


 荷物を運ぶとき、ネアは足音が重くなる。体が小さいのに、止まらない。持ち上げるときの息の使い方が、大人の真似なのだと分かった。


 薬草を仕分けるとき、指がリズミカルに動く。たまに止まる。難しいのは悩むらしい。迷っている間、ポケットの中で俺はその小さな振動を聞いていた。


 怒鳴られたとき、一瞬だけ体が硬くなる。でも言い返さない。声も変えない。ただ、仕事を続ける。


 誰かに優しくされたときは、「……ありがと」と小さな声で返す。それが、ネアが知っている一番丁寧な言い方らしい、ということも、半年でなんとなく分かった。


 1度だけ——夜中に、ネアが泣いているのを知った。声は出ていなかった。ポケットの中で、体がかすかに、ゆっくりと震えていた。


 何もできなかった。声もない、手もない。ただ、一緒にいた。


 朝には、何事もなかったみたいに、仕事に出ていった。


 半年間、俺はネアの顔を見たことがない。声の高さと体温と足音の運び方だけで、俺はネアを知っていた。


 それでも——ネアがどんな人間なのかは、じゅうぶん過ぎるほど分かっていた。


   ◆


 覚醒は、ある何気ない午後に起きた。


「……こっちがクズ魔石で、こっちが……イシル」


 イシル。


(……イシル?)


 ネアは俺を「イシル」と呼んでいたらしい。いつからかは、分からない。


 石に、名前があるとは思っていなかった。


(……そうか。俺には、名前があったのか)


「全然違う。クズ魔石はなんか濁ってるけど、イシルは透き通ってて……きれい」


 ネアが両手に1つずつ持った。俺と、クズ魔石を、手のひらで転がした。


 2つを近づけた。比べるように、並べるように——俺とクズ魔石が、触れた。


 その瞬間。


 何かが、俺の中を通り抜けた。クズ魔石が、消えた。文字通り、消えた。


*【スキル:意志 を取得しました】*

*【スキル:力石パワーストーン を取得しました】*


「……消えた。クズ魔石が消えた……食べた?」


(食べてない。吸収した。たぶん)


 世界に、音が満ちた。


 温度が分かる。空間の広がりが分かる。ネアの指の感触が分かる。今まで押しつぶされていた感覚が、一気に開いた。


 俺は今、確かに「在る」と感じていた。


 ネアが——また何かを取り出した。


 表面に、くすんだ何かが触れた。さっきのクズ魔石に似た感触。


(……もう1個、か)


 何も起きなかった。


 待った。でも、あの「通り抜ける」感触が来ない。


(……1度だけ、らしい)


「……あれ。駄目だ」


 ネアがもう1個、試した。それも駄目だった。


「……なんで1個だけ?」


(俺が聞きたい)


 ネアが諦めた気配がした。


 それから——


「……ねえ。意識、ある?」


(ある。めちゃくちゃある。半年前からある)


 伝えようとした瞬間。


 意思が波になって、広がった。


『ある。半年前から』


 ネアの手が、びくっと跳ねた。


 俺が落ちた。じゃりっという音がした。痛くはないが、少し不服だった。


(あ。落とされた)


 しばらく、何も聞こえなかった。


 ネアが動かない。呼吸だけが、聞こえる。短い呼吸。


 5秒。10秒。


 ネアが、ゆっくりと屈んだ。俺を拾い上げた。両手で、そっと。


「……今の」


『念話っぽい何かだと思う。届いてるなら、同じか』


「……石、だよね」


(俺が聞きたい。なんで石なんだ俺は)


「……ずっと、いた?」


『ずっといた』


「全部聞こえてた」


 疑問形じゃなかった。確認だった。


『……うん。見えてはいなかったけど』


 ネアが黙った。しばらく、手のひらの上で俺を持ったまま、動かなかった。


「……あれも」


(あれ、というのは、どれのことだろう。色々あり過ぎて絞り込めない)


『……うん』


 ネアの指が、きゅっと俺を握った。強くはなかった。でも、離す気配がなかった。


(全部覚えてる。全部聞いてた。なんなら半年分の感謝がある)


 でも、言わなかった。


 代わりに——


『……拾ってくれてありがとう。半年間』


 ネアは、また黙った。


 風が吹いた。路地の砂を揺らして、通り過ぎた。


「……よろしく、イシル」


『よろしく、ネア』


 ネアの指が、もう1度だけ、俺をきゅっと握った。


 それだけだった。でも、半年間のポケットで学んだ俺には、それが「大事なもの」を確認するときの握り方だと分かった。


 これが俺の、新しい人生の始まりだった。


 動けないし、しゃべれなかったし、今も動けないし、何もできないけど。


 でも——名前がある。隣にいてくれる人がいる。


(まあ……悪くないか)


 石の俺は、そっと思った。動きたくても動けない。でも、動けないなりに、ここに居ようと思った。


読んでくれてありがとう。

石です。転生しました。


半年間、誰にも気づかれず道端に転がっていた。

拾ってくれたのは、ぶっきらぼうな少女だった。


☆評価・ブックマーク、もらえると嬉しい。

石には体がない。でも気持ちは、ある。たぶん。


次回「何もできない」もよろしく。

タイトルの通りだ。何もできない。


——石より

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― 新着の感想 ―
石に転生か……斬新すぎて思いつかなかった。あと、普通に文章の書き方が上手い、これからも伸びてほしい。 あと、プロット完結済みです、エタりませんって書いてるところが俺の小説のあとがきと…
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