13.ジェニーの報告
ジェニーは、自分がたどり着いた結論に満足したので、深掘りしすぎて怪しまれないよう話題を変えることにした。
地方には良い庭師が少ないとか、王都の庭師組合から庭師を派遣してもらうことはできるのかとか、グリフォードが喜びそうな話をいくつかしたあと、何本か花の苗を買って、庭師組合の訪問を切り上げた。
もしかするとグリフォードは、あとあとジェニーの来訪に疑念を抱くかもしれない。
田舎から出てきた娘が、王都の賑やかさや華やかさに感激することはあっても、庭師の働きぶりが気になって、組合まで訪ねてくることなどない。
彼は、娘は何か別の目的があってやって来たのではないか――と引っかかりを覚えるだろう。そして、大慌てで、自分の執務室にある金庫の中身を確かめに行くかもしれない――。
(でも、心配することはないわ。もう二度と、庭師組合へ来ることはないだろうし、小一時間もすれば、グリフォードはわたしの顔など忘れてしまうはずだもの)
辻馬車で揺られながら、ジェニーは大きく伸びをした。
黙って彼女に付き従っていたクレアは、緊張感から解放され、向かい側の座席で背中を丸めてうとうとしている。
叱られないのをいいことに、ジェニーは口元を隠さず堂々とあくびもした。
この先のことは、屋敷に帰り、ぬるめのミルクティーと焼き菓子を味わいながらゆっくり考えることにした。
(どうやら解決の鍵は、『悲運の令嬢』が握っていることは間違いないわ――。どうしたら、エリアル嬢に会うことができるのかしら?)
ジェニーは、足元の木箱の中で揺れる勿忘草の苗に問いかけるように、そっと小首を傾げた。
*
ジェニーが屋敷に帰り着くと、先に戻ったジェレミーが、すでに居間で寛いでいた。
着替えや片付けをすませて、ジェニーが居間へ姿を見せると、「ここへお座り」とでも言うように、ジェレミーが椅子のクッションを叩いた。
ジェニーは、ゆっくり椅子に腰を下ろすと、アレックスが入れたミルクティーを口にした。
ジェレミーは、芝居の開幕を待つ客のような顔で、黙ってジェニーを見つめている。
カップと皿をテーブルの上に戻し、小さく息を吐き出してから、ジェニーは兄の方へ向き直った。
「まずは、王都警備騎士団の詰所で聞いたことを伝えるわね」
妹の言葉に、ジェレミーは静かにうなずいた。
ジェニーは、団長のオーガスタスは、シャーロットやジェニーの報告から、スタインズ侯爵家には何か秘密があると感じているらしいことや、スタインズ侯爵家で見習い庭師として働いていたのは、ミエス・フェレンツという名前の少年であることを話した。
「ミエスの仕事ぶりや人柄については、兄夫婦や庭師組合から、彼に関する聞き取りをしたカイルという団員に話を聞いたわ。ミエスは、良いお屋敷に奉公できたと喜んでいたし、悪い友だちとの付き合いもなかったそうよ」
「つまりミエスは、もめ事を起こして、人から命を狙われるような人物ではないということだね?」
ジェニーは、大きくうなずいた。
そして、警備騎士団の中では、投げ文はスタインズ侯爵家への嫌がらせか、単なる悪戯ではないかという意見が出ていて、調査は近々終わるかもしれないと付け足した。
ジェレミーは顎に手を当て、険しい表情でジェニーの話を聞いていた。
兄も自分と同じ気持ちなのだと感じたジェニーは、最後に自分の思いをぶつけてみた。
「ミエスが狙われたのではないとしても、誰かが毒を盛ったのは確かなことでしょう? その人物を捕まえない限り、再び同じことが起こる可能性があるわ。スタインズ侯爵や魔道士団長の意に背くことになるかもしれないけれど、わたしは、うやむやなまま終わらせるのは良くないと思うの」
ジェニーは、スタインズ侯爵邸の中にも自分と同じ気持ちの者がいて、投げ文はその人物が思いついたことではないか――と考えていた。
屋敷の外へ事件が起きたことを知らせて、王都警備騎士団に犯人を捕らえてもらい、ミエスの身を守りたいと思った人物が、スタインズ侯爵邸の中にいるのだ。
(たぶん、それは――)
確証はないが、何となくその人物の見当がついていた。
あの屋敷の中で、ミエスの身を誰よりも案じていると思われる人物は――。
「もしかすると、オーガスタス団長は、こうなることを期待して君を巻き込んだのかもしれないな? 調査を終わらせようという団内の意見を、君に一掃して欲しかったんだろうね。それで、庭師組合では、まだ警備騎士団が把握していない、有益な情報を手に入れることはできたのかい?」
いつの間にかジェレミーの顔から険しさは消え、ジェニーの思いつきを面白がり、楽しむような表情に変わっていた。
ジェニーは、ジェレミーにどう話すか迷っていた。グリフォードから聞いた話をそのまま伝えただけでは、彼が自分と同じように受け止めるとは限らない。
「それは、いくらなんでも考えすぎだよ」と笑われてしまうかもしれない。
ジェニーは、「コホン」と一つ咳払いをした。
「そうね――。警備騎士団の聞き取りとは、ちょっと違う形で話を持っていったから、彼らが聞けなかった話を組合長から聞き出すことができたとは思うわ。まだ、不確かなことばかりだけど、一つだけはっきりしたことがある。それは、わたしは一刻も早くエリアル嬢に会わなければならないということよ――」
呼ばれるのを待っていたら、エリアルにはいつまでたっても会えないかもしれない。
会いたければ会う理由を作り、自分から赴かねばならない。
ジェニーは、先日「まいた種」が芽を出していることを信じて、計画を進めることにした――。




