健気 甲斐甲斐 baby 大団 rotund!
善属性のオレ、紛らわしいのでキューティーと名付けた。邪聖少年ビューティーがな。
ビューティー、服飾の魔王ソテー氏にフリフリした服を作らせてはキューティーをきせかえ人形にしていて楽しそうで何よりである。
「ひゃあぁぁぁぁ、ひゃあぁぁぁぁあ!」
壊れて役に立たん皇様を放っておいて未来忍者虹から情報を得るため、引き続き義兄弟、パーティーメンバー、クソガキ王子様ベイビーの許嫁という大所帯で話を聞くことに。
「はい。B君兄様、あーん」
「あーん。ちゅー」
「きゃ、食べ過ぎですー」
こちとら種族が附子だから飽きっぽい性格で、話に集中するために仕方なくクソガキ王子様に扇情的な格好させて新鮮な果物など食わせて貰ってる訳なんだが、王子様の許嫁どもの湿度高い視線には辟易である。
全く。こちらは至って真面目だというのに。真面目に己の性質と向き合って最適解を選んでいるというのに!
「凍土が融けて露出した件のダンジョン、《聖者の山洞》は善属性パーティーでしか攻略できない。だからあなたを善と悪に二分した」
けっ!善属性限定だの悪属性限定だの、制限付きダンジョンでは割りとオーソドックスなルールである。しかし、限定と言っておきながら、忌むべき中立属性は大体普通に入れるからな。最悪、善1、中立5とかのパーティーでも入れるからなそういうダンジョンは。そんなガバガバルール対応のために体をぱっくり裂かれてあんなけったいな分身生んだ訳かよオレは。
「いえ、B君兄様、怒りへの持ってき方がおかしいですよ。今の虹様の説明でよくそこまで中立属性へのヘイト上げられはうんっ」
箸代わり王子様が口答えしてきたので摘まんで黙らせた。
「かつて、いや、今より未来で、旧王家の残党たちはダンジョンのどこかで《楽園》、と呼ばれる場所を見つける。これが致命的だったことが、私のいた時代でわかったのだ」
どう致命的だったのか知らないが、マフラーとバイザーが一万色くらいに光る未来にも旧王家の連中が生きてることが意外である。あれじゃないか?今から搾っと襲って旧王家全員にオレの血を混ぜておけば、その《楽園》とやらでの抵抗活動もしようが無いんじゃないか?
「それも検討に値するな。打てる手は何でも打ちたいところだ。何しろ《楽園》を見つけたのがいつ、どこでなのか、今となっては全くわからないのだ。100年後か、100日後かも」
「だからお祖父ちゃんを影武者にしてここで迎え撃つ作戦も用意したんだ。極力、旧王軍の眼を地上に向けさせる為にね」
穴という穴からフリルが溢れるドレスを善属性のオレたるキューティーに着せ、かつ労働者のカメラで激写しながら邪聖少年が会話に入ってくる。カメラの音と光が煩くてナニ言ってるか聞き取りづらいんだけど。
「彼らより早く見つける必要がある。その《楽園》に眠る最後の神性、習合し損ねた死骸、女神の取りこぼしを」
ああ、なるほど。4人目が生まれるのね。母神たる死と闇の女王、オレ様たる命と光の主神、うっかり事故って生まれた骨と芝の神、そこに秘園の傷跡の神か。それは厄介だな。
「4柱目、どころの問題ではない」
「あなたの長い長い経験から、その予想が立ち」
「あなたのいっぱいいっぱいの蓄積からその理論が生まれ」
「あなたはたった、たった2年の実践でそれを証明してしまった。人間は神になれる、と」
「武辺の極み、叡知の深奥、病の根絶、戦争の消滅。あらゆる自己実現のためには、努力の果てに最後は一心に神に縋るしか、そこまでしか発想の上限がなかった人間たちに、あなたは新たな神になる、というその先を与えてしまった」
「一代で、それが無理なら何代もかけて、神に成らんとするものが、これからどんどんと増えるのだ」
ずっと一人でまくし立てやがって虹め。別に善いじゃねぇか増えたって。元々たくさん居たんだし神様。
「神はあなたひとりだ!!」
「これは、篤い忠義の匂い!」
虹の突然の癇癪に、クソガキ王子様の許嫁その1、聖騎ガール、セクシーパラダイスが反応する。何だ急に。さっきまでずっと、話もろくに聞かず、オレとクソガキ王子様のイチャイチャをじっとり眺めてた癖に。
癇癪を恥じて俯く虹の目を見、オレを見、何やらふんふんふんふん鼻息だか頷きだかを荒くしている。
「恋するレディの目だ。私にはわかる」
いや、虹はオスだが。
「レディ。私はいつだって乙女心を守る騎士さ。元々乗り気だったが、ますますやる気が湧いている。さっきまでの私が清らかにこんこんと湧く泉だったならば、今からの私は間欠泉。レディの恋の熱湯にあてられて、皮膚呼吸も儘ならないよ」
話きけや。てかそれ大火傷してんじゃねえかよ治療しろ。
「俺はつむじ曲がりだからよ?カミサマ乱立して人死にが沢山出るだとか聞かされてたからよ、この場改めて断るつもりだった。未来のことなんて未来の奴に任せれば良いんだ。大層なお題目で働かされるのは懲り懲りだったしな」
どうした野伏ガール、ステーキソース。さっきまでパンケーキデコって投稿してたじゃねえか。お前も急に。
「それが何だよ。本音はそれかよ!最高だぜ全くよ。丁度良いや。下らねぇ殺し合いから拾った命だ。下らねぇことで捨てたかったんだよ。……戯れの一矢とは言え、貴殿は主君の命の恩人である。今こそ返す時ぞ」
何かサムライスイッチ入った。
「私どもの家は、力がなく没落したか力があっても身分が低いか、いずれにせよ餓狼とも呼べぬ負け犬の集まりでした。我らはその走狗とも呼べぬ仔犬で、更に仕える主君はその犬どもに与えられたエサ、でありました」
今度は神娘ガール、ビーストアイズが堂々としゃべりだす。いつもオレに対して怯えていたのに。
「庶子の最下位とはいえ王族の許嫁となれば、金も地位も名誉も権威もありませんが、それでも誇りだけは手に入る。私どものお家は浅ましく彼に飛び付き、骨と皮しか無いような彼の立場を貪るつもりでした。実際は皆様ご存知の通り、無謀な鉄砲玉として使い潰される予定でしたが」
「朕、そんな痩せっぽっちじゃありません。すくすくむちむち育ってますよね?」
雌柿王子様ベイビーがこそこそ耳打ちしてきた。いや、骨と皮ってのは比喩ひょーげんだろ。家臣が真面目に弁舌ふるってるときにコイツ。すくすくむちむちなパーツをむにゅっとコイツ!
「……」
まだ何か言うのかと思ったが、こちらを見て、珍しくクスリと微笑み神娘ガールは座り直した。いや、何でも我慢するの悪い癖だぞお前。言葉が纏まんなくても善いから最後まで言っとけよ。感情吐き出せ。
「あの善属性の主神、キューティーちゃんはつまりベイビーのための分け身なのよね。こっちの悪の方はビューティーちゃんのものだから」
魔剣ガール、スティレットヒールが、ビューティーキューティーの写真撮影会から抜け出してこっちの和に混ざる。
「我々の決める事ではない」
虹の返答は、字面だけなら神に対して不遜である、と嗜めているが、その目は「いや、全部僕のものですが?」と雄弁に訴えている。どいつもこいつも。好き勝手して善いのはオレだけなんだが?
「それで問題ないわ。我ら、パーティ《ベイビーデビルのデラシネ隊》はクエスト《最後の神性の発掘》を拝命します」
「承った」
今度はいつの間に現れたのか受付のおねーさん。善属性のオレたるキューティーを小脇に抱えてビーストアイズに認可する。
「クエストの内容は善神キューティーと共に最後の神性を確保すること。安心したまえ。この地はすでに初心者の街2。君たちの第2の故郷。いくらでも傷付き、何度も帰ってきなさい」
「きゅー!」
戦巫ガール、ディープハードがぼいんぼいんと跳ねて勝鬨?を上げている。アザラシモード気に入ってんのかこいつ。
「ふう。撮り貯めたぜぇ~。じゃあB兄ちゃん、次の町へ行こっか」
え、ダンジョン攻略編始まるんじゃないの?
「始まるけど、僕たちはそのまま各地域の根回しに向かうよ」
「「「「えい、えい、おー」」」」
「きゅー!」
「「「「えい、えい、おー」」」」
「きゅー!」
邪聖少年に気を取られている間に向こう盛り上がっとる!
ガチャリ
むむっ!そしてすくすくむちむちで以てすりすりむにむにしていた筈の箸代わり王子様ベイビーがオレに手枷を嵌めやがった!油断も隙もない!手玉に取られとる!好印象だぞ!!
「じゃあベイ兄さん、お祖父ちゃん、後は頼みました」
「はい、行ってらっしゃいビューティーくん」
「任せとけじゃんぜ」
ふむ、中身紳士ジジイが馴れない言葉遣いで若者ぶるの、善い味だな。
「え、あれ、オレ本当にこの街からフェードアウト?」
「うんB兄ちゃん。今度の主役は僕たちじゃないんだぜ」
むむむっ!爽やかに笑うようになったな邪聖少年!!




