はち
「痛っ!」
「うげっ!」
一人の少女の前に正座した二人。一人は大柄な竜人。もう一人は地味なドレスを纏っている。
「エミリアからの拳骨じゃ無いことを感謝なさい。」
ここは、ロイエンタール辺境伯所有の森の中。ダンジョンに向かうブランカ、アルフォンス、エミリアの目の前に突如現れたかつての仲間の魂を宿した者。
合流できたことに喜んだのも束の間、差し出されたキラキラとした水晶に絶句した。
「一つの国を滅ぼし兼ねない行為だな。今の姫様も旦那様も民が苦難を強いられるのは好まない。」
アルフォンスの言葉に口を尖らせるコクレン。
「政治が乱れると一番先に被害が出るのは下々の民だろ。」
項垂れる二人。
「でも、良くやったわ。その体の主は本懐を遂げたのでしょ。国から速やかに離脱し、遠く離れた我が国に来たことは、良しとしましょう。後始末は良いとは言えないけれど。」
ブランカの言葉に一喜一憂する彼等。
「会いたかったわ、虚、阿蘇姫。」
前に正座した二人に抱き付くブランカ。ライラは大泣きをした。
「ひ、姫ざまっ!会いたかったっ!穴に落とされた姫様と旦那様を追って、飛び込んで、死ぬかもって、姫様がいなかったら、魂も死んでた!なのに、あと少しってところで、虚と弾き飛ばされて、虚ともはぐれて、心細かったよー!」
ついつい姫の前では幼児退行してしまう。それを呆れながらも仕方ないことだと見つめるアルフォンスとエミリア。
「コクレンってば、大きい体の子を選んだのね。竜人はこの国では珍しいから、重宝されるわ。そうね、旦那様の近衛になりなさい。貴方が旦那様の側にいてくれたら、百人力だわ!」
コクレンの頭に手を伸ばし撫でるブランカ。
「旦那の?そりゃ、ありがてー!姫様の側もいいが、旦那の側の方が退屈しねーだろ。」
「シュテンも旦那様のお兄様として、近くにいるわ。」
姫の言葉に頷く二人。
シュテンも虚もトラブルメーカーだ。揃うと録なことがないと鬼姫は分かっていた。ある意味、姫のために無茶なことをしがちな二人を抑えられるのは、姫の愛する旦那様だけだ。
「取り敢えず、二人は、前鬼、後鬼の元に行ってこい。」
アルフォンスの言葉にギョッとする二人。
「この世界での約束事なんかを詳しく説明してくれる。」
「んでもって、好き放題仕出かしたこと、怒られてこい。」
ニコニコしながら、エミリアが言う。項垂れたまま、二人は姿を消した。
「さて、楽しくなってきたね、」
「取り敢えずの仲間は揃ったかしら。私も騎獣探しに本腰をいれなくては。」
ついつい本命ではなく、ダンジョン探索を楽しんでいたブランカ達。アルフォンスもエミリアも苦笑している。
「そうですね、きっと、旦那様も淋しがってますよ。」
留守番組の鬼達もきっと、姫に会えなくて淋しがっている。
これ以上、姫を独占するのは良くないとアルフォンスとエミリアは頷き合っていた。