本の森
その日は寝ずに本を手当たり次第読み漁った
そろそろ最後の神様業務体験の時間かな
そう考えているとダイスケが
「ユウジそろそろ最後の体験の時間だよー」
やっぱりそうだった体内時計とはこのことか
私は天界に多少慣れて来ていた
「分かりました、これくらいで体験に行きましょう」
私は読みかけの本をパタンと閉じ
立ち上がりそう言った
ダイスケも少し遅れて同じ行動をとる
3度目ともなると業務体験は慣れたものだった
座り込みブツブツと
助ける助けない叶える叶えない
そう言っていた時間はすぐに過ぎる
3日目も無事終わり交代となる
タイムカードを刻印して業務体験を終える
ダイスケが嬉しそうに聞いて来る
「ユウジ神様業務はどうだった?」
私はそれどころではなかった
「ダイスケさん、ありがとうございます、とても良い体験でした。それよりも早く図書部へ行きたいです」
ダイスケは呆れた顔をしている
「まだ探すつもりなのか?あの中から探し出すのは無理だよ〜、それに神様でもないユウジが僕らのいわゆる上司になれるはずないだろう」
私はそれでも諦めない
「ダイスケさん、早く早く」
右手でチョイチョイと手招きして
急いでとジェスチャーをする
ダイスケはやれやれと歩き始める
図書部へたどり着く
扉を開けると読みかけの本は
全て片付けられている
「あぁ〜、あの本まだ途中だったのに、自動的に片付けられるんですね?」
ダイスケに聞いてみると少し呆れた顔で
「自動的にじゃないよ、片付けも天使の仕事なんだ、掃除も管理も天使がやってるんだよね〜」
管理も天使がやってる?
「じゃあダイスケさん、その天使に聞けば目的の本の場所が分かるのでは?」
ダイスケは右手を顔の前で左右に振り
「無理無理、いくら管理している天使でも何処にどんな本があるのか、きっと覚えてないないよ〜」
私の熱意はそれでも冷めていない
「その天使に聞きましょう、何処に居るんですか?」
ダイスケはゆっくりと本棚の奥を指差し
「この先の突き当たりだよ〜、本気?」
私は力強く頷くと本棚の中を歩き始めた
しばらく歩いていくと壁が見えた
その下にカウンター型の机があり
1人の天使が本を読んでいた
あの天使だな?私は近付き聞いてみる
「すみません、ここの管理している天使ですか?」
見たところ20代後半くらいだろうか
眼鏡をかけてヒョロっとして
如何にも本の虫って感じの女性天使だ
その天使は本を読みながら
「そうです。私が担当しているのは図書部全般です。何か用事ですか?」
せめてこっちを見ろよ そう考えながらも聞く
「神正会の役員の選び方を調べたいんですけど、何処にその本があるか。分かりますか?」
その天使はやっとこちらを見た
「何?神正会の役員にでもなりたいの?」
なかなか話しの分かる天使だ
「そうです。役員になって今の神正会を変えてやるんです」
天使は笑って読みかけの本をパタンと閉じ
「あははは、今の神正会に不満でもあるんですか?今のままでいいじゃないですか?私は不満無いですけどね。探し出すのは大変ですよ?多分あの辺にあったはずですね」
漠然とした位置の本棚を指差す
「えっ?どの辺ですか?」
もう一度漠然と指差し
「だからあの辺です。正確な場所までは覚えてませんけど、読んだ記憶は薄っすらあります。内容までは覚えてませんね」
漠然としているけど有力な情報だ
私は小走りにダイスケの元へ行き
「ダイスケさん、こっちの本棚らしいです」
ダイスケは驚きの表情で
「えっ?場所分かったの?どこ?」
私は先導して漠然と指差していた
本棚の辺りにたどり着く両手を広げて
「この辺りらしいです!」
ダイスケはガッカリした表情に変わる
「この辺りって数万冊はあるよね〜、この中から探し出すわけ?何年かかるのかね〜」
私も同じ意見だったが数億から数万に絞られた
わずかな期待だが私には大きな期待だった