(401 ――俺、異世界転生で成り上がる!)
◇
死因:心拍停止
凶器:ラブコメ
みたいな具合で――俺は死んだ。
どうやら、黒髪貧乳美少女の告られたい恋愛模様に、悶え悶え萌えすぎて。
「いや、まあ、たぶん、だけどね」
最後の記憶がそれだったって話はともかく、今の俺の状態――”新たな人生の始まり”が死んだことを表すのは事実だ。
「この俺もとうとう来てしまった……」
――異世界転生の舞台に!
そして、この世界で活躍するだろう俺、その気持ちにわくわくしていたら、さっそくだった。
俺の目の前でイベントが起こっていた。
”冒険のはじまりの街”に位置するも、名前はまだ知らない街。
その広場で、戦士風のイカツイ男が暴れていた――。
「周りの人達が遠巻きに恐れながら見守るなか、俺が登場。そして、この男の暴挙を俺が軽くあしらう……」
定番すぎてあれだけれど、それっぽい感じのシュチュだろうか。
まあ、それはそれでいいんだけど……。
戦士風のイカツイ男が剣を振り回したり、蹴り飛ばしたりしている相手は、フードを被る黒ずくめの連中。
『うぎゃあああ』とか『ひいいい』とかの悲鳴をあげているが、そのどれも男の声に聞こえるんだよなあ……。
「そこは美少女だろう! とこれから助ける相手にツッコミたくもなる場面だな」
と、残念がっていた時だ。
フード連中の最後の一人が地面に倒される。
その時の声だった『きゃっ』は、女性のものだった。
「なーるほど、”フードの下は実は可愛い女の子だった”パターンだったか!」
そうと分かれば、こうしてはいられない。
俺は勇んで、広間の暴挙の前へ身を乗り出した。
戦士風の男が、ロングソードを天にかざしている。
地面のフードの相手に、突き刺そうとするようだ。
それを阻止するように俺は声を張り上げる。
「待つんだ!」
正直、ドキドキしている。
これが俺にとっての初バトルになるだろうからだ。
その相手となる男、日本人の俺からすると外国人っぽくもあった顔が俺を見た。
――ギロリ。
正直、さらにドキドキしている。
なんていうか……男のにらみは、俺にDQNを彷彿とさせるものだったからだ。
しかし、
「大丈夫だ、俺」
なぜなら、今の俺は転生者だからだ。
女神に特别な力を授けられているチートな存在。
そんな俺が、こんな、たかだかチンピラ程度の相手に負けるはずもない。
――そして、だった。
相手から『なんだ、お前はッ』的、台詞……がなかった。
だから流れ的に、俺が名乗りを上げることはなかった。
つまり、俺が武器を構えることも当然なかったワケで。
ただただ、
①俺は後方に”ふっ飛ばされた”らしく、建物の壁に背中を打ちつけた。
②俺の胸には、投げられたロングソードが突き刺さっていた。
③どうやら俺は、男から問答無用で殺されてしまうらしい……。
「ぐ……ぐはっ」
俺は吐血した。
意識が遠く……とお……く。
――――――
――――
――
【スキル:死んだら再チャレンジ】発動!
◇
死因:心拍停止
凶器:投げられたロングソード
というワケで、こんな感じで死んで生き返った俺は女神の間にいた。
それで、主である女神に、
「普通、『誰だ貴様は!?』とか『何か俺に文句があるのかよ小僧っ』とか言うっしょ。それを無しでいきなりあんな事してくるなんて詐欺だろーよっ。どういうことだってばよ、まったく」
などの不満を少々愚痴ったあと、また”はじまりの街”の広場へと戻った。
――で、だ。
女神に愚痴っている時に、気づいたんだよね。
「”凶暴な男がフードの女の子を襲っている”……と思うよな」
この先入観が、トラップだったんだ。
「危うく騙されるところだった。俺を殺すような男ではあったけれど、よくよく考えると戦士風の格好だし、きっと冒険者ギルドとか騎士団とかに所属していて、悪者のフード連中と戦っている状況なんだよね」
つまり、男のほうを敵としてバトるのではなく、フードの連中とバトるほうが正解だったと思うワケ。
それを確かめるため、俺は【スキル:風魔法】を使った。
標的は悲鳴をあげて、地に伏せるフードの人。
――ぶわっと、その”フード”がめくれる。
「やっぱり」
あらわになったその素顔は、”女の子”と言うにはかなり躊躇する、熟女のそれであった。
すなわち、転生者の俺がきっかけを持つべき相手ではないことが分かる。
ならば必然、きっかけを持つべき相手は、戦士風の男のほう。
おそらく、この出会いから俺は有力冒険者ギルド、騎士団に人脈を作ることになって――の、そんなパターンになりそうな予感だ。
――はたまた、プリンセス的美少女との出会いもそこから、とか異世界転生プランを考えているうちに、だ。
イカツイ男が遠慮なく、ロングソードをフードのおばちゃんに突き立てた。
「エグい。が、こうした異世界じゃ生きるか死ぬかの世界だろうし、慣れるしかないか……」
戦闘を終えた男のもとへ、俺は慎重に歩みよる。
それから、剣を投げられそうになる前に急いでこう伝えた。
「俺が手を貸す必要もなかったようだね」
かなり、いい台詞ではないだろうか。
『俺は君の味方だよ』とアピールしつつ、相手の強さも称えつつ、更には『風魔法を使う俺が只者ではないこと』その実力の片鱗も匂わせた。
うんうん、上出来だろう。
なので。
「俺は――」
と、名乗ろうとした時だった。
バッサリいかれてしまう。
たぶん、俺の胴体が真っ二つだったと思う。
男が牙みたいな歯を見せながら、俺を切り伏せやがった。
「ど……どういうこと……ぐはっ」
俺は吐血し、意識が遠く……とお……く。
――――――
――――
――
【スキル:死んだら再チャレンジ】発動!
◇
「なんでだよ!?」
と愚痴ったら、女神から『彼はきっとプライドが高い戦士だったのよ』となだめられた。
たしかに、『邪魔をするなっ』とか男から言われた気もしなくもなかった。
けどさ、だからといって、問答無用過ぎない? てか、殺す必要性ありますか?
俺、加勢してあげた側なのにさ……。
「納得できね――けれど、だ」
マンガを読むのに忙しいからと、女神の間から追い出されるようにしてまた戻ってきた俺。
そして、”はじまりの街”の広場――から、退散することにした俺。
「そう。別にあの凶暴な男と絶対に関わらないといけないワケでもないんだよね。回避する選択も有りでしょ。というかそれが正解だったんだよね」
なぜなら、しばらく街をうろついていると俺は出会ってしまうのだから。
――銀髪の美幼女に!
頭に蛙を乗せる愛らしい幼女。
言っておくが、俺はロリコンではない。
しかし、異世界の冒険に、この幼女の存在は欠かせない。
紳士諸君らに、一言で伝えるなら。
「幼女とは、”癒やし”なのだよ」
そんなこんなで、おそらく俺のパーティ入りとなるだろうこちらの幼女さんとは、街の通路でぶつかり出会いを果たす。
そして、ここが重要なところで。
なんでも”カサカサ虫の採取”を頼まれている最中で、それができなくて困っている状況だったり。
――フフフ。
きたね、きたよ、分かりやっすいくらいに、幼女加入イベントきたよ。
①俺がその依頼を手伝う
↓
②俺がいなかったら目的が達成できなかった。
↓
③『ありがとう、お兄ちゃん』からの、これからも一緒に旅をすることになる。
「見えたぜ、そのライン! さすが、異世界転生」
「いせかいてんせい、ってなーにー?」
「いやいや、こっちのお話です。気にしないでください」
俺はそう応えて、じゃあ『俺と一緒に探しに行こう!』と幼女、名前はココアの手をとる。
――はたから見ると、事案発生の瞬間だな、これは。
などと、冗談めいた時だった。
俺とココアは、『おい、コラっ』と男の大きな声から呼び止められる。
「チビコはこんなところ何をやっている」
「んーとね。ココア、カサカサ虫見つけられなかったのだー」
振り向けば、俺が知っている男がそこにいた。
二度も俺を殺した、あの戦士風の男だった。
――俺は、つい身構えてしまう。
それが不審な行為に映ることは自覚していた。
だから、オチは読めていた。
「どうせ俺は、また死ぬんだろうっ」
半ばキレたようにして、俺は言葉を吐いた。
◇
「……いや、まあ、変な言い方だけどさ、意外にも、俺は生きていた」
それだけでなく、ココアと顔見知りだった戦士風の男と行動をともにしていたりする。
つまりは、パーティを組んでいるとも言えなくもないこの状況だったりです……。
ただ、まあ……俺が男から無理やり連れ回されている感は否めないんだけれどね。
「チビコごときではやはり無理だろう――と、したたかな俺は調べていたのだ」
戦士風の男がドヤ顔で、幼女に言う。
森の中で交わされていた二人の会話。
それをおとなしく聞く俺の分析では、
――目的は『カサカサ虫の採取』になるようだ。
男曰く、最近調子に乗っているヨーコさんとやらを懲らしめるために、くだんの虫がいるらしい。
それを幼女に頼んだ男が、結局は自分でその虫を取りに行くようである。
「ここだ」
男が示す場所は、くぼみだった。
そこを5メートル以上はあるところから、俺は見下ろすのだが。
「はい。これどーぞ」
幼女ココアが俺に、虫カゴを手渡してくる。
俺は虫取りを手伝うと言っていたし、まあ、それは分かるのだが。
「虫……ってどこにいるの?」
お目当ての虫らしきものが俺には発見できない。
だから、俺は戸惑うのだが、そこにこの男が自信たっぷりの様子でこう言うのだ。
「心配するな。ここは間違いなくブリゴキ塚だ。秘密の場所らしいが、衛生委員長とやらを痛めつけて吐かせてやった」
正直、ゾクゾクした。
嫌な予感に、背筋が凍る思いの俺だった。
そんな冷たい背中に衝撃が走る。
――なんと、男が俺を『そら、いけっ』とばかりに蹴飛ばしやがった!?
宙に放られた俺。
”ブリゴキ塚”というすり鉢状の底へ落ちた俺。
――カサカサ。
「……ま、まじか」
すり鉢状の側面には底からしか見えないだろう隙間があった。
それからそこに、言うまでもない者どもがうごめいていた。
――カサカサ。カサカサ。
奴らの色に反して、頭の中が白くなる。
たぶん、数匹とかのレベルではない数のカサカサ虫が俺に反応している。
――カサカサ、カサカサ、カサカサカサカサカサカサ。
奴らが、奴らが――俺をめがけて集まってきた!?
「いがああああああああああ――」
――――――
――――
――
【スキル:死んだら再チャレンジ】発動!
◇
死因:精神崩壊
凶器:カサカサ虫
「肉体的だけじゃなくて、”精神が死んでも”スキルは発動するのか……」
トラウマを植えつけられた代償に、俺はそんな知識を得た。
それから、
「能力の高さが強さじゃあないのよ。スタンドは精神力がモノをいうの」
マンガを読み終えた女神がそんなことを言ってきた。
まあ、それについて話すことはないのであれですが――。
それよりも。
「あの、女神エイプリル」
「……なんでしょう」
「他の異世界の異世界転生にしてもらえたりできます? 俺、鬼畜男がいるあの異世界に”アリーヴェデルチ(さよなら)”したいんすよ」
「……う~ん」
女神が眉間にシワを寄せる。
そして、『異世界を変更するって結構大変なのよねー』と言いながらも、何か変更手続きらしき所作を見せてくれた。
なので、俺の中での好感度アップを伝えてあげた。
「剣と魔法の世界で、中世ヨーロッパ的、勇者に魔王に、あとスキルだったかしら?」
女神が俺のリクエストを確認する。
ワードをもとに、該当異世界を専用の神様器械で検索するらしい。
「あと、できれば、美少女……それから、ハーレムも」
そうこうしてである。
『最近のゴブリンはあなどれないわよ~』などの女神のアドバイスを参考にした俺に、”新たな異世界”への転生が訪れた。
「今度のも、キミのリクエストに近い異世界だと思うから、最後にしてよ~」
「あーざすっ」
異世界検索ワードに、ゴブリンではなくスライムも入れた。
だとすれば、転生直後、”美少女がスライムに襲われている場面”に遭遇する可能性が高いだろう。
下手をすれば、スラエロ的な展開かもしれない。
「フフフ。まったく、けしからん異世界転生になりそうな俺だ」
俺は期待に胸を膨らませ、転生の光に包まれる――。
―― 女神様に告らせたい〜転生者たちの奇妙な異世界冒険〜 ――
了




