83 狼と羊ではない者達 ⑤
ノブナガの紅茶がこぼれそうになる。
「はあ!? ロイヤールならまだしも、お前があいつの見舞いに行くだと!?」
仲間が一人、昔馴染みの見舞いに行った。
この話から今度はアーサーまでが、そこに出向こうと言い出したのが発端だった。
「もちろん、この会議と諸々の用事。それと明日の祝賀会までに、時間が空くようだったらだけどね」
「いやいやいやっ。いつ行くかとかじゃあなくてよ、あの野郎にそんな義理わあ、ねえだろうがよっ」
「そうだね……義理だと、クエストで一緒になった仲くらいだろうか。でも、恩義は十分過ぎるほどあるだろうね」
まさしく光明だった。
彼の功績がなければ、竜王との関係性は破綻していた。
そう考えるアーサーが、立てかけていた武器を手に取る。
「それで、僕からのお見舞いの品はこれにしようと思うんだけど、どうだろう? やっぱり使っていた物を贈るのは失礼だろうか?」
にこやかだった相談には、ぶふうう――ッと紅茶を吹き出された。
「ちょ、ちょっと待てっ。その名刀を、『沙蘭羅風』をあの野郎にくれてやる、そう言ってんのか!?」
「うん。それで、刀剣に包装は必要だろうか?」
「そうだな、熨斗はあったほうがいいかもな――とか、俺が言うと思ってんのかよ!? そういう話じゃあねえだろがっ。そいつは、名刀匠ガンコ・イッテツの最後の一振りなんだぞっ」
「これの価値は僕も知っているつもりさ。だからこそ、いいや。これでも足りないくらいだと僕は思うよ。なんたって彼――、アレクくんは、ノブナガの身代わりにもなってくれた人だからね」
つまりは、そのお陰で病院に運ぶハメになった。
相手にそう思わせた部分もあるアーサーの言い回しに、ノブナガは渋々引き下がるようだ。
結果、竜王との戦いを避けることができた功労者には違いない。
くわえて、アーサーの中で”仲間の身代わりになってくれた”との揺るぎない誤解が生じている以上、何を言っても無駄――。
と、ノブナガは諦めるが、こうも考える。
――アーサーとしては、大切な仲間を守ってくれた行為には、精一杯の敬意を払いたいんだろう。
「まあ、それが勘違いってところが、すげーもどかしいんだが……」
相手の思い込みが筋金入りで、修正はかなりの苦労を要する。
それを物語るため息を人知れずついたノブナガ。
もちろん、包む物を探す様子のアーサーに向けて。
「なら、アレか。今後はそっちの気分屋をメインに使うってことか?」
「別に彼女は気分屋ってわけでもないだろうさ。ただ、自分が斬るべき相手かを選んでいるだけだよ」
「その選ぶってところが、気まぐれってことなんだがな。肝心な時に役に立たなかった場合は、どうするつもりだ?」
「聖剣エクスユニバーは、悪しき者を滅殺する剣だと言われている。その場合は僕の相手が断罪するに値しないってことだから、都合は良いよね? 僕が間違いを犯さずに済む」
「見方によってちゃあ、そうだけどよ……」
ノブナガから一瞥される美しい武器がある。
今、テーブルに置かれる――カタナと呼ばれる刀剣も、それはそれは素晴らしい一品ではあったが、”神秘の刀剣”と比べてしまえば見劣りする。
――『聖剣エクスユニバー』。
自らの意思を持つ、伝説の宝剣。
その伝説では、神が造りし刀剣とも、神すらも屠る刀剣とも言われていた。
「花柄はやっぱり似合わないよね……だとしたら、他に包めるような物はここにはないかな」
アーサーは”ワザとらしさ”も見えるままに、ノブナガに告げた。
どうでもいいような顔が返ってくる。
この必然にも、笑みを絶やさない。
それが、からかうつもりでの可笑しさだったかはさておき。
――勇者アーサーは、切り出すのだった。
「じゃあ、そろそろ、今回のクエストについての僕からの報告と、『月たる鵺』、それから”西の魔王”討伐に向けてのこれからを話し合おうか」




