第二王子の初恋10
アンジェリーナの助言に従い侍従を王立図書館に遣わせたクリストファーは、今度は誰にも迷惑をかけることなく必要な本を手に入れた。
お陰で、国内の主要な貴族の系譜や各領地の歴史、産業、経済状況を概ね把握することが出来た。
本だけでは知りえない情報は母のマリアンヌ妃や、母方の祖父にあたるシュトラウス侯爵やその取り巻きの貴族達からの情報で補完していった。
それらの情報を元に今一度国王から渡されたリストを見返して、今後自身の派閥に率いれるべき人間をピックアップして優先順位を付ける。
一見、入学までの準備は順調に進んでいるかのようだった。
しかし、未だにリストにアンジェリーナの名前が無い意味は分からぬままであったし、先日のアンジェリーナの意味深な言葉の真相も謎なままであった。
アンジェリーナにプレゼントされた童話集に改めて目を通してみたが、内容は至って普通のものであったし、本自体に何か仕掛けが施されているようでも無かった。
ーーいったい、アンジェリーナは何の意図があってこんな物を寄越したのだ?
アンジェリーナの真意を図りかね、一度手紙でプレゼントの意味を問い質してみた。
例のお茶会の一件以来、アンジェリーナに自分から手紙を送ることを辞めたクリストファーにとってはかなり思い切った行動だった。
ところが、アンジェリーナからの手紙の返事は中庭での時と変わらず「自分の口からは言えない」と、ただそれだけであった。
まさか、自分に構って欲しくて思わせぶりなことを言っているだけなのでは、と一瞬考えたクリストファーであったが直ぐに思い直す。
幼い頃から知っているアンジェリーナの性格を考えれば、そんな思春期の令嬢のような可愛げのある行動などする訳がない。
何か意図があると考えて間違いないだろう。
結局アンジェリーナの意図は分からぬままあっという間に1ヶ月が過ぎ、クリストファーはフェルディナント、アンジェリーナと共にランドール王国王立学院の入学式を迎えることとなった。
そしてクリストファーはこのランドール王国王立学院で、今後の自身の人生を大きく変える「運命の出会い」を果たすこととなる。