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私が不倫? 離婚したい夫が捏造した証拠を突きつけてきた結果  作者: 品川太朗


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6/6

第6章「慰謝料を払うのは私じゃなくて、あなたたちよ――そして義母さんにはお礼の旅行を」

 


 トシアキが、不倫の証拠はすべて捏造だったと認めた。


 その事実を聞いた私の両親は、当然ながら激怒した。


 特に父は、今すぐトシアキに責任を取らせると息巻いていたのだが、私はそれを止めた。


 だって、それは私の役目だし?


 トシアキとは離婚する。


 それは決まっているし、義父さんも義母さんも、もう反対するつもりはないそうだ。


 むしろ、義母さんからは、


「ノゾミさん、もうあの子のことは気にしなくていいから。あなたは自分の幸せを考えなさい」


 とまで言われてしまった。


 最初に離婚を切り出したときには、あんなに反対していたのに。


 ……まあ、無理もないか。


 自分の息子が、友人と共謀して嫁の不倫を捏造し、慰謝料を取ろうとしたのだから。


 私だって、こんなことになるとは夢にも思っていなかった。


 もっとも、これで全部終わったわけじゃない。


 トシアキたちには、きっちりと責任を取ってもらわないとね。


 そう考えた私は、予定どおり弁護士に相談することにした。


 そして、トシアキから友人の連絡先を確認し、弁護士さんを通じて事情を調べてもらった。


 その過程で、その彼女にも事情を確認したところ、驚くべきことが判明した。


 なんと彼女は、自分が撮影されていたことすら知らなかったのだ。


 ……どういうこと?


 弁護士さんを通じて事情を確認すると、何とも呆れた話が出てきた。


 ある日、トシアキの友人は、自分の彼女を食事デートに誘った。


 少し高級なホテルのレストランを予約したから、一緒に行こうという話だったらしい。


 ……まあ、それだけなら普通よね。


 問題は、そのとき友人が彼女の服装に妙な注文をつけたことだ。


「たまには、こういう服を着てみないか?」


 そう言って、わざわざ服までプレゼントしたらしい。


 さらに、当日は髪型まで指定してきたという。


 彼女は少し不思議に思ったそうだけれど、恋人が自分に似合うと思って選んでくれた服なのだから、悪い気はしなかった。


 むしろ、普段はあまり服装に関心を示さない彼氏が、珍しく張り切っているのを嬉しく思ったくらいだったとか。


 ……うわあ。


 何だか、聞いているこっちが嫌な気分になってきた。


 だって、それって……。


 私に似せるためだったんでしょう?


 そう。


 友人は、トシアキから見せられた私の写真を参考にして、彼女の服装や髪型を私に似せようとしていたのだ。


 服だけでなく、バッグまで似たようなものを用意したらしい。


 そして、何も知らない彼女を連れて、ホテルのレストランへ向かった。


 そのとき、ホテルの入口付近にはトシアキが待機していた。


 二人がホテルに入っていくところを、離れた場所からこっそり撮影するためだ。


 もちろん、彼女はそんなことを知らない。


 恋人と楽しく食事をして、普通にホテルから出てきただけ。


 その間にも、トシアキは例の証明アプリを使って、二人の姿を撮影していたという。


 ……なるほどね。


 だから、あの写真があったのか。


 ホテルに入っていくのも、出てくるのも、確かに実際に撮影された光景だったわけだ。


 しかも、服装も髪型も私に似せてある。


 後ろ姿を中心に撮影すれば、本人だと言い張ることもできると考えたんだろう。


 確かに、あの写真を見たとき、私自身でさえ一瞬、自分が写っているのかと思ったくらいだ。


 でもね。


 写真が本物だからといって、そこに写っている女性が私だという証明にはならないでしょうが!


 ……本当に、よくもまあ、こんな馬鹿なことを考えたものだ。


 しかも、彼女は自分が撮影されたことも、その写真が不倫の証拠として使われたことも、まったく知らなかったのだ。


 彼氏から少し変わったお願いをされた、楽しい食事デート。


 彼女にとっては、ただそれだけの思い出だったはずなのに。


 それが、知らない女性を陥れるための計画に利用されていた。


 ……そりゃ、怒るわよね。


 そして、その事実を知った彼女は……。


 当然ながら、激怒した。


 数日後。


 私は弁護士事務所の会議室にいた。


 向かいにはトシアキと、例の大学時代の友人。


 そして、その友人の彼女も同席していた。


 彼女は、今回の件について事情を説明し、撮影された写真がどう使われたのかを確認するために来てくれたのだ。


 本人も、二人に直接言いたいことがあるという。


 もっとも、その表情は怒りでいっぱいだったけれど。


「……ねえ、一つだけ聞いていい?」


 彼女が、低い声で友人に問いかけた。


「何で、あの日、あの服を着てほしいって言ったの?」


「……え?」


「だから、あの日のデートよ。珍しく服まで買ってくれて、髪型も指定してきたでしょう?」


「……あ、ああ」


「私に似合うと思ったからって、そう言ってたよね?」


「……そうだよ」


「嘘つかないでよ!」


 突然、彼女が声を荒らげた。


「全部、この人に似せるためだったんでしょう!?」


 彼女が私を指差す。


 友人は何も答えなかった。


「私、嬉しかったんだよ! 普段そんなことしないあなたが、私のために服まで選んでくれたんだって!」


「……いや、それは」


「それが何よ! 他人を騙すために、私を着せ替え人形みたいに使ってたわけ!?」


 ……うわあ。


 これは、怒るわ。


 私だって、そんなことをされたら絶対に許せないと思う。


 でも、彼女の怒りはそれだけでは収まらなかった。


「しかも、勝手に写真まで撮ってたって!? 何それ! 気持ち悪い!」


「いや、だから! お前には迷惑かけないつもりだったんだよ!」


「迷惑かけない!? 私が知らないうちに、ホテルに出入りするところを撮って、それを他人の不倫の証拠に使ったんでしょう!?」


「……っ!」


「私が何も知らないのをいいことに、そんなことしてたわけ!?」


 友人はしどろもどろになりながら、何とか言い訳しようとしていた。


「だ、だから、顔は写ってないし……お前だってわからないようにしてたんだよ!」


 ……はあ?


 何、それ。


 それで許されるとでも思ってるの?


 当然、彼女も同じことを思ったらしい。


「そういう問題じゃないでしょう!」


 彼女の怒鳴り声が、会議室に響いた。


「私があなたを信用してたから、言われた服を着て、一緒にデートしたんだよ! それをこんなことに利用するなんて……!」


 そこで彼女は言葉を詰まらせた。


 悔しそうに唇を噛みしめている。


 ……ああ。


 これは、本当に傷ついてるんだ。


 ただ怒っているだけじゃない。


 恋人に裏切られたことが、悔しくて仕方ないのだろう。


 彼女はしばらく俯いていたけれど、やがて顔を上げた。


 そして、友人をまっすぐ見つめる。


「……もう無理。別れよう」


「……は?」


「あなたとは、もう付き合えない」


「ちょ、ちょっと待てよ! 何でそうなるんだよ!」


「何でって……そんなこともわからないの?」


「いや、だから! お前には直接関係ないことだったんだって!」


「私を利用しておいて、関係ないわけないでしょう!」


 ……ごもっとも。


 私も心の中で頷いてしまった。


 すると、友人は突然、隣にいたトシアキを睨みつけた。


「おい、トシアキ! お前のせいだぞ!」


「……はあ?」


「お前が余計なことしなけりゃ、こんなことにはならなかったんだよ!」


 ……おっと。


 今度はそっちに飛び火するの?


 トシアキも、当然ながら黙っていなかった。


「ふざけんなよ! そもそも、この計画を言い出したのはお前だろうが!」


「お前がちゃんと母親を誤魔化してりゃ、バレなかったんだろ!」


「知らねえよ! お前が完璧な計画だって言ったんじゃねえか!」


「お前のせいで彼女に振られたんだぞ! どうしてくれるんだよ!」


「そんなの俺の知ったことじゃねえよ!」


 ……はあ。


 何なのよ、この二人。


 さっきまで仲良く私を陥れようとしていたくせに、今度は責任の押しつけ合い?


 本当に、呆れる。


 すると、彼女が冷たい声で割り込んだ。


「……あのさ。勘違いしないでくれる?」


 二人が口を閉じる。


「私が別れるのは、トシアキさんのせいじゃないから」


「……え?」


「あなたが私を騙したからよ。私があなたを信用してるのを利用して、人を陥れる道具にしたから」


 彼女は、はっきりと言い切った。


「そんな人だってわかった以上、もう一緒にいたくないの」


 友人は口を開いたまま、何も言い返せなかった。


 ……うん。


 本当に、そのとおりだと思う。


 彼女はそれ以上、友人に何も言わなかった。


 代わりに私の方へ向き直ると、深く頭を下げた。


「……本当にすみませんでした。私、何も知らなくて……」


 私は慌てて首を振った。


「いえ、あなたも騙されたんでしょう? だったら謝らないでください」


「でも、私があのホテルに行かなかったら……」


「悪いのは、あなたを騙して利用した人たちですから」


 そう言うと、彼女は少しだけ安心したような顔になった。


 その後、彼女はあの日のデートの事情や、服装を指定されたときのやり取りなどを、弁護士さんに説明してくれた。


 ホテルのレストランを予約したときの記録も残っているらしい。


 おかげで、あの写真に写っていた女性が私ではないことも、はっきり確認できた。


 ……本当に、ありがたい。


 それにしても。


 恋人まで騙して、自分たちの小遣い稼ぎに利用するなんて。


 本当に、救いようのない連中だ。


 さて。


 ここからは、いよいよお金の話だ。


 弁護士さんからは、今回の捏造行為について、トシアキと友人の二人に損害賠償を求める方向で交渉すると説明されていた。


 もちろん、こちらが請求した金額を、そのまま支払ってもらえるとは限らない。


 でも、少なくとも二人が意図的に不倫の証拠を捏造したことは、本人たちも認めている。


 その事実を文書に残し、責任を明確にすることになった。


 彼女も事情の説明を終えて帰ったところで、弁護士さんが書類を取り出した。


「まず、お二人には今回の経緯について、事実関係を確認していただきます。そのうえで、解決金などの条件を話し合いたいと思います」


 二人は渋々ながら書類に目を通していた。


 ところが、金額の話になった途端、また揉め始めた。


「何で俺がそんなに払わなきゃいけないんだよ!」


 トシアキが不満そうに声を上げる。


 すると、友人も負けじと反論した。


「俺だって納得できねえよ! そもそも、お前の離婚の話だろ!」


「お前が金を取ろうって言い出したんだろうが!」


「でも、実際に慰謝料を請求したのはお前じゃねえか!」


 ……また始まった。


 本当に、いい加減にしてほしい。


 しかも、友人は恋人に振られたことまで持ち出してきた。


「こっちは彼女にまで振られたんだぞ! これ以上、俺に損させる気かよ!」


「だから、それは俺のせいじゃないって言ってるだろ!」


「お前がちゃんとやってりゃ、こんなことにならなかったんだよ!」


「ふざけんな! 全部俺に押しつけるつもりか!」


 ……はあ。


 何だか、もう笑えてきた。


 だって、そうでしょう?


 私から慰謝料をふんだくって、小遣い稼ぎをするつもりだった二人が、今度は自分たちが支払うお金のことで喧嘩しているのだ。


 しかも、恋人に振られた責任まで押しつけ合っている。


 本当に、何をやってるんだか。


 もっとも、二人の言い争いをいつまでも聞いているわけにもいかない。


 弁護士さんが、落ち着いた声で話を遮った。


「お二人の間でどのように負担するかについては、別途整理していただく必要があります。まずは今回の行為について、どう責任を取るのかを決めましょう」


 トシアキも友人も、不満そうに黙り込んだ。


 ……まったく。


 最初から素直に話し合えばいいのに。


 結局、その場ですべてが決まったわけではなかった。


 それから何度か弁護士さんを通じてやり取りを重ね、最終的には二人が不倫の証拠を捏造した事実を文書で認め、私に一定の解決金を支払うことで合意した。


 もちろん、関連する画像を勝手に使用したり、第三者に広めたりしないことも約束させた。


 支払いについても、二人がそれぞれ負担する金額を取り決め、後日きちんと支払ってもらった。


 ……やれやれ。


 ようやく、これで一段落ね。


 ただ、話はこれだけでは終わらなかったらしい。


 というのも、トシアキと友人は、最後までお互いに不満を抱えていたからだ。


 友人は、今回の件はトシアキの離婚が原因なのだから、もっと多く負担するべきだと主張。


 一方のトシアキは、計画を考えたのも写真の細工を提案したのも友人なのだから、自分ばかり責任を負うのはおかしいと言い張っていたそうだ。


 ……いや、知らないわよ。


 そんなの、二人で勝手に決めてよね。


 しかも、友人の方は相変わらず、彼女と別れることになった責任までトシアキに押しつけようとしているらしい。


「お前のせいで彼女を失ったんだぞ!」


「だから、それはお前が彼女を騙したからだろ!」


 そんな言い争いを繰り返していると、義母さんから聞かされた。


 ……あらあら。


 とうとう、仲良しだったお友達同士でも喧嘩するようになったわけ?


 何とも皮肉な話だ。


 私から慰謝料を取ろうとした二人が、結局は自分たちのお金を支払うことになり、おまけに友人の方は恋人まで失った。


 そのうえ、今度はお互いを恨み合っている。


 ……本当に、自業自得としか言いようがない。


 もっとも、私にはもう関係のない話だ。


 二人がこれから仲直りしようと、絶交しようと、勝手にすればいい。


 私としては、もう二度と関わりたくないのだから。


 そして、離婚の手続きも無事に終わった。


 財産分与などの必要な取り決めを済ませ、私はようやくトシアキと正式に別れることができた。


 最後に顔を合わせたとき、トシアキはまだ不満そうだった。


「……こんな大事にすることなかっただろ」


 ……はあ?


 また、それ?


「俺だって、ある意味被害者みたいなもんじゃないか」


 ……何を言ってるの、この男は。


「友達に唆されたんだよ。それなのに、何で俺ばっかりこんな目に遭うんだよ」


 私は、しばらくトシアキの顔を見つめた。


 以前の私なら、ここで怒鳴り返していただろう。


 何が被害者よ。


 自分で決めてやったことでしょう。


 そんなふうに、散々言い返していたに違いない。


 でも……。


 不思議なことに、今は何も感じなかった。


 腹も立たない。


 呆れはするけれど、もう言い争う気にもならない。


 だって、関係ないもの。


 この人がこれからどう生きようと、誰と喧嘩しようと、私にはもう関係ないのだ。


 私は小さく息を吐いた。


「……そう。じゃあ、もう話すことはないわね」


「……は?」


「手続きも終わったし、私、帰るから」


「おい、ちょっと待てよ!」


 トシアキが慌てたように声を上げた。


「まだ話は終わってないだろ!」


 私は振り返った。


 そして、静かに答えた。


「私の中では、とっくに終わってるのよ」


 それだけ言うと、私はその場を後にした。


 後ろから何か言っている声が聞こえたような気もしたけれど、もう振り返らなかった。


 ……ああ。


 やっと終わった。


 本当に、長かった。


 結婚してから、まだ一年と少し。


 時間にすれば、それほど長いわけではないのかもしれない。


 でも、私にとっては、ずいぶん長い一年だったように思う。


 それがようやく終わったのだ。


 そう考えると、胸のつかえがすっと取れたような気がした。


 それから数週間後。


 私は、新しく借りたマンションで荷物の片づけをしていた。


 まだ段ボールがいくつも残っているけれど、ようやく自分の生活が始まったという実感が湧いてきた。


 ここには、私の好きなものだけがある。


 家具も、食器も、カーテンも。


 誰かに文句を言われることもなく、自分の好みで選べる。


 ……ああ、幸せ。


 そう思いながら片づけを進めていた私は、ふとトイレに入って、小さく笑ってしまった。


 そこには、使い慣れたウォシュレットが設置されていた。


 結局、あれは私が購入したものだからと、引っ越しの際に持ってきたのだ。


 もちろん、設定は私の好きなようにしてある。


 人が近づけば、自動で蓋が開く。


 便座は上がらない。


 ……うん。


 これよ、これ。


 たったこれだけのことなのに、何だか妙に嬉しい。


 昔は、こんな些細なことでも毎日のように喧嘩していたんだっけ。


 本当に、馬鹿馬鹿しい。


 でも、あの頃はそんな小さな不満が積み重なって、どうしようもなく息苦しかったのだ。


 それが今では、誰にも邪魔されることなく、自分の好きな設定にできる。


 ……なんて快適なんでしょう。


 思わず笑ってしまった。


 さて。


 新生活も落ち着いてきたことだし、そろそろお礼を考えないとね。


 私はスマートフォンを取り出した。


 相手は、もちろん義母さんだ。


 今回の件では、本当にお世話になった。


 あのとき、義母さんが写真の男性に気づいてくれなかったら、私はもっと大変な目に遭っていたかもしれない。


 しかも、その後もトシアキを問い詰め、真相を明らかにしてくれたのだから。


 ……うん。


 やっぱり、きちんとお礼をしておきたい。


 そう思って電話をかけると、義母さんはすぐに出てくれた。


『あら、ノゾミさん。久しぶりね。元気にしてる?』


「はい、おかげさまで。新しい家の片づけも、だいぶ進みました」


『そう、それはよかったわ』


 電話越しに、義母さんの穏やかな声が聞こえてくる。


 何だか、少し懐かしい気持ちになった。


 もう、この人とは嫁と姑という関係ではないんだよね。


 そう考えると、少しだけ寂しい。


 ……でも、別に二度と会ってはいけないわけじゃない。


 私は思い切って切り出した。


「あの、義母さん。落ち着いたら今度、一緒に旅行でも行きませんか?」


『……え?』


 義母さんが驚いた声を上げた。


「今回の件では、本当にお世話になりましたし。何かお礼をしたいなって思ってたんです」


『そんな、気を遣わなくていいのよ』


「いえ、私がそうしたいんです。それに……」


 私は少し笑った。


「トシアキたちから受け取ったお金もありますし、せっかくだから楽しいことに使いたいなって」


『……あらあら』


 義母さんも、思わず笑ってしまったらしい。


『でも、いいの? 離婚した元嫁と姑で旅行なんて』


「ふふっ、それも面白いでしょう?」


『……そうね。確かに、面白いかもしれないわね』


 義母さんは、しばらく笑っていた。


 そして、少しだけしんみりした声で言った。


『ノゾミさん。あなたにそんなふうに言ってもらえるなんて、本当に嬉しいわ』


「私も、義母さんとまたお会いできたら嬉しいです」


『ええ。ぜひ行きましょうね』


「はい!」


 電話を切った後、私は大きく伸びをした。


 ……ああ、いい気分。


 結婚生活は散々だったし、最後にはとんでもない目に遭った。


 でも、全部が悪いことばかりだったわけじゃない。


 義母さんのような、いい人にも出会えたのだから。


 それに、今回のことで一つ、よくわかったことがある。


 自分に合わない相手と、無理をして一緒にいる必要なんてないのだ。


 もちろん、お互いに歩み寄る努力は大切だと思う。


 でも、それでもダメなら、別々の道を歩くという選択だってある。


 私とトシアキは、きっと最初から合わなかったんだろう。


 ……まあ、だからといって、不倫をデッチ上げられるとは思わなかったけどね。


 私は窓を開け、外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


 これからは、自分の人生を自分のために使おう。


 誰かの顔色をうかがうこともなく、くだらないことで毎日喧嘩することもなく。


 好きなものを買って、好きなことをして、自由に暮らす。


 ……うん。


 それが一番よね。


 そう思うと、自然と笑みがこぼれた。


 さて、と。


 まずは義母さんとの旅行先を考えなくちゃ。


 温泉もいいし、美味しいものを食べに行くのもいい。


 せっかくだから、少しくらい贅沢してもいいかもしれない。


 何しろ、そのためのお金は、あの二人が出してくれたんだから。


 ……ふふっ。


 そう考えると、何だか余計に楽しくなってきた。


 私はスマートフォンを手に取り、旅行サイトを開いた。


 さて、義母さんとの旅行は、どこにしようかな?

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