プロローグ:優しすぎる剣聖?
実力では剣の国の方が強い。だが、魔法の国との大戦は敗北するであろうという噂が世界をめぐる。剣の国の実力No.1、剣聖レイラは、優しすぎるのだ。
「美しい」
万人が万人姿を見るとそう言葉を漏らしてしまう剣聖レイラは、大きな目、真っ白な肌、真っ黒な長髪、さらに大きな胸を持つ、凛々しき女性だ。
「レイラ様、今度の戦いでは非情になってください」
レイラの従者である老婆がそう告げる。
「ええ、分かってるわ。そうしないとこの国が負けてしまうから」
「その言葉、もう何万回も聞きましたですぞ。レイラ様の剣の腕前はこの世界で随一でございます。ですが、その性格がその剣の腕をなまくらにしてしまっております。模擬戦では無類の強さを誇る貴方ですが、他者を傷つけることができず、結果としてこの国は戦争に負けてしまう」
レイラはただただ窓から外を見ている。
「貴方の実力を疑う者はおりません。貴方はその剣技にて何度もこの国を救ってきました。相手の剣をはじき、自らの剣を首元につきつけるだけで、相手は尻尾を巻いて逃げ出した。ですがそれは、貴方が相手を傷つけることができると相手が思っているからこそ使える方法です。貴方が他人を傷つけることができないと知れ渡った今、その剣はもはや脅しにもならないのです」
窓の外で、大きな雷が庭に落ちた。
「明日、魔法の国の軍団が、剣の国に攻めてきます。もしもその侵攻を防げなければ、剣の国は終わりです」
レイラは無言のまま、大きく頷いた。
そして翌日、剣の国の城壁の外に、耳をつんざくほどの怒声が響く。
魔法の国の者達が大群となって、剣の国に攻め立ててきたのだ。
剣の国の兵士達も隊列をなし、魔法の国の侵攻を防がんとする。
「私に続け!! 魔法の国の者どもを追い払うぞ」
レイラのその声を聞いた魔法の国の者達がいやらしい笑みを作った。
「へへへへへへ、お優しい剣聖がなんかほざいてるが、無視しろ。あいつは他人を傷つけることができないんだ。過去何度も奴は俺達の前に現れた。だが、一度として俺達を傷つけることはなかったからな」
そんな言葉に対して、剣の国の兵士達も心の中で同意してしまう。
(レイラ様に頼っては駄目だ。あの人にはこの戦いの中、できることはない)
剣の国の兵士がレイラに向ける視線は、冷ややかだ。
レイラは優しい。人だけでなく、魔物一匹殺せない性格の持ち主だ。だからこそこの戦いは、レイラを無視して行われることになるだろう。
「スキル"火炎弾"」
魔法の国の兵士が杖を振ると、炎の弾が剣の国の兵士に向かう。
「スキル"火炎斬"」
剣の国の兵士が剣を横に振ったと同時に現れた炎の斬撃が炎の弾にあたり、付近にかなりの熱が広がった。
「スキル"イカヅチ"」
「スキル"身体能力3倍"」
付近で様々なスキルが発動され、戦いが激化する。
そんなおり、レイラが歩みを進めた。
「へへへへへ、おかざり剣聖が向かってきやがったな」
魔法の国の兵士達の笑い声を聞きながら、レイラは言葉を発した。
「スキル"剣聖"」
レイラがそう告げた直後、レイラの半径数十mくらいにいた魔法の国の兵士達の首は胴体から分離して、地面に転がった。付近に一気に血の匂いと恐怖の声が広がる。
「奴は俺達を攻撃できないはずじゃないのか? それに今の攻撃、目で追うことすらできなかった」
魔法の国の兵士達が、愕然とした表情を作る。
「剣聖ですから」
レイラがそう口にした数分後、戦いは終わっていた。魔法の国の兵士達数千人の中、生きている者はいなくなっていたのだ。
レイラの剣から滴る真っ赤な血が地面に水たまりを作り、そこに映るレイラの顔は、無表情であった。
レイラが剣の国に戻ろうとするただの歩みに剣の国の兵士達は怯え、逃げるように距離を取る。
「ま、まるで人が変わったようだ」
そんな言葉がレイラの耳にとどくが、レイラは気にせず歩く。
(約束は守ったよ、レイラ)
レイラ、いや、レイラと呼ばれた存在はそんなことを思った。
そして剣の国と魔法の国の戦いはその後、早々に終わった。剣の国の勝利という形で。
魔法の国は先の侵攻で、剣の国を完全に陥落させようと思っていた。だからこそかなりの実力者を向かわせたのだ。だが、その実力者達が皆殺しにさせられたという事実に絶望し、勝ちの目がなくなったということで、白旗を上げた。
間違いなくその戦争のMVPであるレイラと呼ばれた存在は思う。
(僕は、誰なんだろう?)




