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第62話【朝食ビュッフェ、五人の皿模様】

 WHBS、二日目の朝 ──。

 五人はトムに言われたビュッフェ会場へと向かった。


「わぁっ!!」


 マリンが楽しそうに朝食ビュッフェを見つめる。


 五人は豪華な料理が乗ったコの字に広がる長いビュッフェ台と、その中央に位置する様々な種類の料理が乗る円卓のビュッフェテーブルに目を輝かせた。

 各々がトレーに皿を好きな数だけ取って乗せ、料理を選び始める。


「昨日の夜飯も凄かったが、さらに豪華だな!」


 パンチが嬉しそうに言ったが、皆は料理に夢中だ。


「今日はどうしよう、まずこの空間に……」


 マサムネがトレーの皿に乗る料理の配分を考えていると、パンチは細かいことは気にするなとばかりにマサムネの肩へ手を置いた。


「好きなもん食えばいいんだよ!」


「う、うん」


 朝日が差し『カチャ、カチャ』と食器の音が会場全体から聞こえて、なんとも心地よい空間だ。

 苦戦したバトル初戦から一夜明け、先ほどまで気だるかった身体はすっきりとして、重かった瞼は軽くなり、皆は気分が晴れやかになっていった。


 五人はマナー通り時計回りで一周し、各々好きな食べ物を皿に取り分け、空いている丸いテーブルに皆で着席。

 マサムネが料理を口に運ぼうとした時、ふとパンチの皿が視界に入り、二度見して驚く。


「朝から揚げ物ばっかり……。よくそんなに入るね」


「好きなものばっかり取ったらこうなった!」


 全体的に茶色で、色々な種類の料理が乱雑に置かれ、溢れそうなほどの量。

 そんな事を言うマサムネの皿はどんなもんだと、パンチはチラリと皿を覗いた。


「マサムネは……少食だな」


 マサムネの皿は少量ずつ、綺麗に料理が並んでいる。


「パンチみたいに朝からそんなに食べられないや。ビュッフェのお皿はそれぞれ性格が出て面白いね」


 (性格?)


 それを聞いて他の皿にも興味が湧いたパンチは、テーブルをなぞるように首をぐるりと一周させる。

 そしてヒーローの皿を指して皆に言った。


「見ろよ!ヒーローはお坊ちゃんだな!」


「なんだよ、お坊ちゃんて」


「めちゃくちゃ綺麗に盛りつけしてあるじゃねぇか。性格ってか、育ちが出てるぜ」


 パンチの皿と違い、前菜、メイン、デザート、一つの美しいコース料理のよう。


「よく父さんがこうやって作って──」


「ぶっふぉ!!」


 ヒーローが言い終わる前にパンチが何かを見つけて吹き出した。

 ヒーローは唾から皿を守りながらパンチに注意する。


「きたないってパンチ!」


「セド!セドの皿!」


 セドの前にはカレーが三皿。

 ヒーローもここぞとばかりにイジりだした。


「ハハハッ、朝からカレーかよセド」


「違う!ライゼカレーだ!」


 パンチがさらに笑う。


「ギャッハハハハッ!チーズ!!チーズ乗せてアレンジしてる!」


 そういえば様々なチーズが置いてあったな。

 それを迷いなくカレーと合わせるとは……。

 パンチは何でもない光景を自分の頭であれやこれやと考えていたら、なんだか面白くなってしまった。


「オレは毎日ライゼカレーなんだ……!チーズはビュッフェだから取っただけだ!」


 マサムネは以前から抱いていた疑問をセドにぶつけた。


「前から思ってたけどライゼさんが好きなの?」


「……フン」


 パンチは誰にともなく、料理を食べながら何気なく呟いた。


「毎日って……まさかセド、CM信じてんじゃねぇか?」


「これを食べれば強くなれるんだ!!」


「──っ!!」


 急に声を荒げるセドに皆は驚いてしまう。

 表情は真剣だ。

 しかしパンチだけはまだ面白がっていた。


「ギャッハッハ!!やっぱ信じてんじゃねぇか!」


「CMでライゼさんが言ってたんだ!あの人がウソなんかつくか!!」


 この剣幕にはいくらデリカシーのないパンチでも、どうやら冗談ではないという事にようやく気付いたようだ。


「お、おい、マジになんなよ」


 悪い空気を断ち切るように──


「おかわりっ!」


 と言ってマリンが離席。

 先ほどから料理を取りに席を立ってはいたが、おかわりとは言わなかった。

 わざと大きな声を出したのだろう。

 マリンなりの気遣いだった。


「ライゼさんと会った事あるの?」


 セドのただならぬ態度に、マサムネは何かを感じ取ったようだ。


「……二度だけな」


 答えに驚いたヒーローはセドの顔を見るが、セドはわざとらしく料理に視線を逸らした。


「父さんとどこで……」


 セドはカレーを食べ進めながら答えた。


「四才の時だ。街で助けられた」


(四才、街で……赤い髪!)


 ヒーローは昔見たテレビの映像がフラッシュバックする。



 【素晴らしい活躍!!小さな男の子をオーガから救い──】



「俺、それ…見てた……かも。オーガじゃなかったか?」


「そうだ」


「何を、何て、いや……」


 ヒーローは視線を右往左往。

 質問がまとまらないほど動揺していた。


「ライゼさんはお前の事を自慢してた」


 視線を落としていたヒーローはすぐにセドの顔を見る。


「オレの事も褒めてくれて、将来……」


 ライゼとの夢の話を、今のヒーローに言っていいものか。

 セドは言葉を切って一考する。


「なんだ、何を話したんだ!?」


「昨日の事のように覚えている……。ライゼさんはカードを買ってくれて──」


 そう言いながら、大事そうに財布からライゼのレアカードを取り出してヒーローに見せた。


「これはオレの宝物になった」


「父さんが……っ!?」


 無理矢理だがヒーローはWHBSに来た。

 もう、いい頃合いだろう。

 話してしまおう、とセドは決心した。

 

「オレを強いと言ってくれた。二回会ったが二回とも、一緒にHERO(ヒーロー)になれたら嬉しい、と言ってくれた」


「──そんな事を?」


「一緒にってのは、お前も入ってるんだヒーロー」


「──!」


「オレとお前はHEROになる。あの人はウソなんか言わない!」


「お、俺は──」


「なーに?何の話?」


 再び料理を取り終えたマリンが戻って来た。

 セドの大きな声を聞いて、またわざと遮ったのだろう。

 二人の顔を見て問題がない事を確認すると、皿をゆっくりと置いた。


 綺麗な盛りつけだ。

 オムレツ、ウインナー、パンにサラダ。まさに朝食だ。


「……フン」


 マリンの皿を見てマサムネに疑問が浮かんだ。


(あれ……?確かさっきも……)


「マリン?」


「なあに?」


「さっきから何回か席を離れてる?」


「うん、料理を取りにね。どうしたの?」


 マリンは質問に答えながらもちゃんと品よく食べ進めている。


 ヒーローはマリンに呆れた様子で聞いた。


「マリン、何周目なんだ?」


「7周目だけど?」


 そう言うと既に皿の料理は空だ。

 席を立ち、8周目に向かうマリンだった。


「……………」


 四人は顔を見合わせて沈黙した。




 アリーナで試合が始まると、昨日までの動きとはまるで違う連携の取れた動きに、会場も盛り上がった。


『なんだよ、やっぱ強かったのか』『なぁ!?俺はあっちのチームに賭けちまったぜ』『いいぞ一年!!』


 A右側のアイランド学園三年生はシーカーヒーロースクールに惨敗。

 A左側のセドたちはこの日順調に勝ち進み、ついにAトーナメント決勝まで進出。

 Aトーナメント決勝は、アイランド学園一年生とシーカーヒーロースクールで争われる事となった。




 控え室では試合前の五人が慌ただしく準備をしていた。


「くそっ!何でうちだけ連闘なんだよ!マサムネにシーカーの試合を見せてやれなかったな!!!」


 パンチが悔しそうに言うとマサムネはフォローする。


「仕方ない!試合が詰まってたんだし、ボクは大丈夫!」


「昨日みたいに試合数多い方がゆっくり用意できたな!」


「改善してもらえるように言うしかないよ。まだ若い大会だから──」


「バッテリーはどこだ!?なんだって未だにこんな重いナトリウム電池なんか──」


 パンチがぶつくさと愚痴を言いながらスーツのバッテリーを探し、背中側からヒーローも急いで着脱を手伝っている。


「このボディカメラ邪魔なんだよ!!」


 セドがスーツの着脱に手間取り、イライラしながら吐き捨てる。

 試合後の汚れたスーツを四角いボックスに投げ込むと、一瞬で綺麗になっていく。


 セドは急いで綺麗になったスーツを手に取った。


HERO(ヒーロー)カメラと一緒でアリーナの契約なんだ! これも仕方ない! パンチ、 見つからないならボクの予備を使って!」


 マサムネはセドをなだめながらパンチに向かって小さなバッテリーを投げる。


「あっつーいっ! このスーツなんで空調ついてないの!?」


「マリン!!あっちで着替えないとパンチが見るよ!!」


「………」


「ほら見てる!!」


 マリンは着替えているパンチの後ろを通って『バチン!!』と背中を叩いて更衣室に向かった。

 ずかずかと苛立ちながら歩き、力強くドアを『バタン!』と閉め、すぐに着替え終わって出て来ると再びパンチを睨んで凄んでいる。


「マ、マリンちゃん……。マサムネェ…」


 パンチはいつものようにマサムネに助けを求める。


「ほ、ほら、今のはマリンもここで着替えちゃってたから──」


 マサムネは皆のフォローをしながら次の試合へ向けて考えていた。


(三年生が惨敗だって!?

 うちの三年生だって弱くない!一体何が……。

 いや、集中しろ!三対三だ!初手は多くない!

 あらゆる可能性を──)



『選手の皆さん!Aトーナメント決勝です!』



 スタッフがいきなりドアを開けて、こちらに視線も合わさず試合開始を伝えると、すぐに走り去って行った。

 なんとも慌ただしい、どうやら運営もバタバタしているようだ。

 気合いを入れるようにマサムネが皆へ語りかけた。


「皆んな、集中して行こう」


 皆は無言でアリーナ中央へ向かう。

関係者用の通路も数試合で慣れてはいたが、闘技場に出るこの階段だけは五人とも緊張してしまう。


 五人は目を合わせ──


 《Aトーナメント決勝!選手の入場です!!》


 アナウンスが流れると階段を駆け上がった。




『ワァアアアアアアアアアアアッ!!』





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