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第34話【ライゼVSガイザビィズ】

 ガイザビィズは所属しているリーガジムへと足を運んだ。

 ジムは運営だけでなく、興行に関わるプロモーションやマッチメイクを手がけている。


「会長!会長いるか?」


「チャンピオン!よく来たな!」


「今日のバトルはなしだ。キャンセルしといてくれ」


「なっ、先方に何て言えばいいんだ……!?」


「スマンな」


 会長はそんな一言で片付けるんじゃないよ、と思っていても言い出せない。

 興行はガイザビィズで成り立っている。

 それにこの性格だ、機嫌を損ねると厄介な事になるとよくわかっている。


「ああ!私のチャンピオン!」


「アイリス!何でジムにいるんだ?」


 ジムのソファからアイリスが向かって来る。

 アイリスはリーガのバトルアリーナを運営している女性だ。

 ガイザビィズを見つけるなり嬉しそうに頬を赤らめて近づく。


「今日の対戦相手の件で相談なんだけどね──」


「今日はキャンセルだ!」


「また!?……はぁ、今日は何?」


「一緒に来い」




 向かった先は──


 ━━ リーガ・バトルアリーナ ━━


「なっ……!!」


 アイリスは信じられないといった表情でガイザビィズを睨む。

 No.1HERO(ヒーロー)がアリーナ中央にいるではないか。


「あれってライゼじゃない!!」


 観客席からライゼを指して驚くアイリスに、ガイザビィズは「そうだ」と返事をした。


「観客も入れずにやるなんて!No.1対チャンピオン、メディアも含めた超ビッグマッチになるのに……」


「イリオスが今日見つけてきたんだ」


 ガイザビィズはそのまま観客席からライゼのいるアリーナ中央へと歩き出す。


「そう、わかった。……イリオス!!」


 アイリスは怒った様子でイリオスに詰め寄る。

 二人は実の姉弟で、イリオスは普段から姉に頭が上がらなかった。


「な、何だよ」


「バトルは今大事な時期なのよ!?何でよりによってガイザビィズが試合の時に!」


「ごめんって!アニキの頼みなんだからしょうがないだろ?姉さんもたまには休んでさっ」


 イリオスは胡散臭く、しかし憎めない笑いを浮かべながらアイリスの肩をポンと叩く。


「こんな休みはいらないのよ!ったく……。何よそのハチの着ぐるみ」


 アイリスが観客席に置いてある、アリーナには似つかわしくないハチの着ぐるみを疑問に感じる。


「ライゼが着てたんだよ」


「ハッ!笑えない冗談ね」


 アイリスは弟のいつもの冗談だと受けとった。そして矛先はサリーへ。


「この子は?」


「サリーだよ、ライゼさんと仲良いんだ。ほら、バラックの──」


 イリオスが最後まで言わずとも、アイリスは手をヒラヒラ揺らし、頷いて理解した様子で言葉を遮った。

 サリーがお辞儀をすると、アイリスは優しく微笑んだ。


「ゆっくりしていってねサリー」


「はい!」


 普通であれば微笑ましい光景、なのだが。

 イリオスは姉のアイリスがガイザビィズ以外にはキツい性格だと知っている。


外面そとづらだけはいいんだから……」


 つい本音を漏らしてしまった。


「何か言った!?」


「いいえ何も。ほら、始まっちゃうぞ」


「えっ!?こんなすぐ!?」




 ガイザビィズは首を鳴らしながらライゼを睨み付ける。


「俺様は手加減ができん!準備はいいか?」


「いつでもいいぞ」


 ライゼはリラックスした様子で、とても奇妙だがどこか嬉しそうにも見えた。

 ガービィはそんなライゼの態度に我慢がならない。


「やっぱ舐めてんなテメエ……。【パワーアーマー】、【パワーアップ】、【ラビッツ・フット】」


「っ!!」


 観客席で見ていたアイリスが急いでイリオスへ注意する。


「ラビッツフットまで!!本気じゃない!止めなさい!いくらなんでもNo.1HERO(ヒーロー)がやられたなんてなったら政府が──」


「あのアニキをどうやって止めんの?無理だぜ」


「くっ…何でこんな事に……」


【ラビッツ・フット】は脚全体の強化にすぎないが、パワーアップと相性が良く、更にパワーが増すガイザビィズの切り札だった。


 単純なパンチも脚の蹴り上げで威力が増し、パワーショットの威力は4倍近くまで跳ね上がる。


 さらに──


「速っ!さすがアニキ!!」

「どこ!?」


 ガイザビィズが地面を蹴って移動しただけで、アイリスたちが見失うほどの超スピード。


「パワー……」


 動きながらパワーショットを狙っているガイザビィズ。まだライゼは一歩も動いていない。


 ライゼの真後ろに来た刹那──


「ショットォオ!!」


 回避不可の超範囲。アリーナ全体が揺れ、吹き飛びそうなほどの衝撃だった。


「──っ!?」


 ガイザビィズ渾身の一撃は、ライゼに──


「そんなバカな……」


 掴まれていた。


「すごいパワーだ、ガービィ」


 ライゼがそう言うと、爆風がアリーナを駆け巡り、打撃音が響き渡る。

顔面へのパンチ一発だった。


 ガイザビィズは気を失い、倒れないようにライゼが抱えると、それを見ていたサリーは興奮した様子で言う。


「兄ちゃん!すっ、すごいすごい!ガイザビィズは無敗のチャンピオンなのに!本当に強かったなんて!」


「ハハハッ、そうだろう、そうだろう。兄ちゃんは強いんだ」


 はしゃいでいるサリーとは対照的に、アイリスとイリオスはまだ目の前の光景が信じられない様子だった。


「なんだありゃあ……。あんなのありかよ」


「あの男の能力は雷でしょ!?何をしたの!?」


「ただ殴ったとしか……」


「そんなわけ、そんなわけないでしょ!私のチャンピオンが…無敗の……」




 しばらくして、ガイザビィズは


 ガバッ!


 と急に体を起こした。

頬の痛み、気を失う前に見た手加減したようなパンチ。

自分の攻撃が掴まれ、離れようにも拳が巨大な岩に挟まったかのように動かなかった。


 恐怖、そして次第に湧く屈辱の感情。


 ライゼは優しくガイザビィズを気遣った。


「気がついたか?随分回復力が早いな。【パワーアップ】のおかげなのか?」


「…………」


「大丈夫か?」


「……何をされた?」


「強く殴った」


「何が……何が強くだ!手加減したのはわかってる!俺様は能力すら使わせられなかったのか!?」


 ライゼの気遣いが逆にガイザビィズを苛立たせる。


「ちょっと違うな」


「どういう事だ!実際に能力なんか──」


「雷と、体内のナノマシンだよ。ナノマシンは人間の微弱な電気で動いている。身体が大きくなったり身体能力が上がれば能力は上がるだろう?」


「ああん?」


「エネルギー量が増えるから上がるんだ。そして俺にはその必要がない。なぜなら──」


「雷……か」


「人の微弱な電気どころじゃないんでな。直接ナノマシンに電気を供給できる。これ程相性のいい能力は他にこの世には存在しない」


「でも雷ならうちのバラック村にもいた」


「打つ、放つとは違うんだ、俺は──」


ガイザビィズには説明より見せた方が早いと、変身して見せる。


「──雷帝」


 バチッ…バチン!バチバチッ!!


 と四方に破裂したような雷の音が響く。

ライゼの体は雷へと変化し、あまりのエネルギーに辺り一体はゴロゴロと雷鳴がとどろいていた。


「こ、これは……」


「俺自身が雷なんだ」


「なんてえ力だよ……クソッ!クソが!もう一度だ!」


 それから何日も何日もライゼに挑み続けたが、ただのかすり傷さえつけられなかった。



数日後、ガイザビィズはボロボロにやられ、アリーナのど真ん中に大の字になっていた。

隣で頬杖をつき、胡座をかいている男にどうしても勝てない。

悔しさは勿論あるが、ここまでの実力差があるのによく付き合ってくれたものだと感心している自分もいる。


「あんたよ」


「うん?」


「何でリーガに留まってる?こんな能なしが集まる貧困の街にいる理由は何だ」


「故郷だからだ」


「ウソつくんじゃねぇ。俺様はずっとこの街だが、あんたを見た事がねぇ」


「……故郷なんだ」


「まぁいい。見た目の老化がないな。まだ80歳くらいか?」


「ハハ、今は寿命が長いからな、わからないか」


「会長の世代で170くらいは生きるって噂だ。俺様たちの世代は何歳まで生きるのかそりゃあ恐ろしいぜ」


 ナノマシンが老化や軽い病気などは防いでくれる。

世代が進む毎にナノマシンの含有率が上がっているために、今の世代がどれ程生きるのか想像できず、ガイザビィズは身震いした。


「寿命間近まで見た目が若いからな。幸せな事なんじゃないか?」


「ハ!ガッハハハハッ!幸せ?」


 ガイザビィズは起き上がってアリーナの屋上まで飛び上がり、街を見下ろす。


「ここを見ろ」


ライゼが隣に来たのを確認すると、屋上の縁に足を投げ出して座り、少し猫背気味に項垂れながら話し始めた。


「能なしが集まり、孤児が集まり、貧しく、抜け出す方法もなく、気力まで奪われた!これが……ここ最近生まれた世代はあと何百年と続くんだぞ!」


「…………」


「俺様は変える!俺様が変える!だからアイリスとバトルアリーナを創ったんだ!」


「だからバラック村を……」


「ああ、最近じゃ興行が成功して地価が上がって来てる。もうちょっとだ!ここは立派な街になるぞ!」


「最近生まれた世代……か。ほぼナノマシン化した肉体の寿命は……」


「考えただけでも恐ろしいぜ」


「ハハハッ、まぁガービィたちの世代には関係ないさ」


「えっ?」

「えっ?」


「あんた俺様をいくつだと?まだ二十歳だぜ」





「えっ?」

「えっ?」





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