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第31話【伝説のチャンピオン】

 エイリアスはヴィゴとの対戦を許可し、一夜が明けた。




 バスカルにあるギースたちの事務所、と言うよりは倉庫のような古びた一室。

 メカリはノックをするか迷っていた。

 明らかにノックすると手に埃がついてしまう。


 しかしノックをしないと用事も済まない。


「どうぞ」


 ノックが聞こえ、ギースが迎え入れるとメカリは手を拭きながら書類を催促する。

 今日が期限だった書類を受け取りに来たようだ。


「ふぅっ」


 バラバラな書類を整理して、両手で揃えてトンッとデスクへ一回。

 メカリへと差し出す。


「もう出来てるよ、ほら」


 メカリは一枚一枚確実に確認する。


「ん、確かに。いい加減ケチってないで、オペ雇ったりさぁ」


「オペレーターなんて雇うと高いじゃないか!連携は取れてるし、事務は僕がやれば─」


「目の下にクマつくって言っても説得力ないって…」


「くっ!!」


「くっ、て……。それにさ、お母さんにはアイランドシティに豪邸。で?本人はこの家?」


 入るときにノックを躊躇するほどのボロ家だ。


「僕の家はアイランドシティ。こっちは一時的なんだからどんな家でもいい」


「いやぁもうちょっと、ね?よ、よかったらうちに来る?」


「何故だ?何か取りに向かうのか?」


「なんで話の流れでわかんないの!?相変わらず……。はぁ、ここ家賃いくらなの?」


「家賃はタダだ」


「バ、バスカルでタダ!?そんな事って」


 ありえない。大陸でも一番と言っていいほど栄えた街で...。


「不動産の前で物件を見てたらファンのお婆ちゃんが、倉庫を探してるならここをタダで貸してもいいって」


 パチッ…パチパチパチパチパチパチッ!!


 メカリは呆れを通り越して拍手をしていた。


「ここまでとは…褒めるしかないわ…。値段的にレンタルボックスを探してると思われたのね」


「お風呂もテレビもあるし、不自由ないよ」


「何年製のテレビよこれ」


 テーブルのタブレットでテレビをつけるメカリ。


「何勝手に!電気代が──」


 《──ガイザビィズ!!かつての伝説のチャンピオンが!現役最強無敗のチャンプ、ヴィゴに挑戦状を叩きつけました!!早くもオッズは割れており──》


 画面には黒く角が生えた怒りの形相をした仮面の大男が映っている。


(昔一度だけ聞いた先生の本当の名前……。伝説のチャンピオンってなんだ!?あの仮面は?何が起きてる!?)


 ギースのガンに緊急連絡が入る。


(──これは!!?とにかく言う通りに……)


「どうしたの?」


「い、いや。今日の休暇だが、一緒にアイランドシティに行かないか?時間はかかるけど……」


「やった!行く!!」


 メカリはデートだと勘違いしているが、ギースが気づく事はなかった。




 ━━ バトルアリーナ・チャンピオン控室 ━━


 ヴィゴと所属ジムの会長が話し合っている。


「会長さんよぉ!このヴィゴ様がこんな急に呼び出されて、しかもオッサンと試合だと!?」


 派手すぎる髪に自信満々な表情。

 身長はエイリアスより10cmほど高いだろうか。

 バトルスーツをスーツモードにして、これぞヴィゴといった態度がチャンピオンとしての自負を感じさせる。


挿絵(By みてみん)


  会長は小柄で体型は太っており、髪はオールバック。

 こちらも高そうなスーツを着込み、小さな丸いサングラスをした、いかにもすぎる権力者といった風貌の会長。

 その会長がヴィゴには下手に出て、機嫌をとっていた。


「それが、エイリアスさんが言ってるんだよチャンプ」


 試合を組ませる為にライゼを挑発する発言をさせたのはこの会長だ。


「エイリアスさんが来てるのか!?どこだよ会長!」


「今ってわけじゃあ──」


「なんだよー。まっ、エイリアスさんが言うならいいか。ギャラは?いつもの額じゃちょっとな」


「今回は凄いんだよ!伝説のチャンプ対現チャンプ!オッズが盛り上がってて!」


「それだよ!そういう気分が上がる事言ってよ会長さんよぉ」


「ハハ、じゃあ準備をしてくるよチャンプ。今回もよろしく頼むよ」


「このヴィゴ様に任せとけって!」


 会長は頭を下げながら控室を後にした。


(クソガキが……)


「おい」


『はい、ここに』


 ボディーガードも含め、黒服が大勢待機していた。


「例の連中を用意しておけ」


 会長がバトルアリーナ駐車場から、リムジンへ乗り込む。


「へ、へへ、言われた通りにやりました」


 会長はリムジンに乗るなり腰が低くなり、一人の男にペコペコしていた。


「その笑い方をやめろよ。しかしいつ見ても馬鹿みたいな格好だな」


「会長っぽい格好をと言うから、これでもそれなりにしてるつもりなんです」


「格好はいい、まだ許せる。だが、次に俺の黒服たちに偉そうな態度をとってみろ。会長役は終わりだ」


「あれはちょっとでも会長っぽく見せようと──」

「意見は聞いていない」


「は、はい。次からどうやって──」

「質問もなしだ、着いたぞ。匂いがつく。早く降りろ」


「はい!!失礼します!」




 学園は朝からバトルアリーナの話題で持ちきりだった。

 ヒーローは今夜のバトルを楽しみにしながら帰宅した。


「ただいまー!!」


「おかえり」


 いつになく真剣な表情のサリーが出迎える。


「今日ヴィゴが試合するんだ!伝説の──」

「ヒーロー」


「もう、聞いてよママ!!伝説の──」

「あの仮面の人はガービィさんなの」


「……えっ?じゃあ対戦はないの?ガービィは先生だよ?」


「これをガービィさんが……」


「プラチナシートだ!家族の分も!?本当にガービィが対戦するの!?」


 サリーはヒーローにわかるよう、ゆっくりと説明を始めた。


「バトルアリーナはアイランドシティができる前はリーガの街にあったのよ」


「ママがいた街だ!」


「そう。バトルアリーナはね、ガービィさんが創ったの」


「ええ!?すごい!すごいやガービィ!!」


「ヒーロー、真面目な話をしてるからちゃんと聞きなさい」


「……うん」


「ガービィさんは初代チャンピオンで、アイランドシティにバトルアリーナができるまで負けた事はなかった。リーガの、まさに街の希望だった」


 サリーは昔を思い出し、少し涙ぐんでそう言った。


「そうなんだ……。でも本当にすごいよ、ガービィがチャンピオンなんて学園の皆が知ったら──」


「それは絶対にダメ!家族しか知らない事だから。ガービィさんはヒーローにもちゃんと話さないといけないって、そう思ってこのチケットを渡してくれたのよ。わかる?ヒーロー」


「う、うん……」


「まだヒーローには難しいと思うけど、ガービィさんはここで新しい人生を送ってる。ガービィさんが自分から明かさない限りは……。だから言わないでね」


「うん。もしかして俺がバトルの事言ったから!?そのせいで──」


「違う、ヒーローのせいじゃない。パパよ」


「パパ?」


「インタビューで……パパが馬鹿にされたでしょう?」


「それだけで?」


「わからない人には、確かにそうなるね。でもガービィさんにとってはそれだけじゃない。パパが馬鹿にされる事は何より許せない事なのよ。それはママも……」


「三人で止めに行こうよ!ヴィゴは無敗なんだよ!皆もヴィゴが勝つって……」


「パパは……ガービィさんが試合をするって知って、朝から家を出たままだから、ママと二人で行こう?」


「ガービィが怪我したらどうしよう……。そんなの嫌だ」


「そうね、だから二人で応援しに行こう!ね!」


「──うん!」




 ━━ バトルアリーナ ━━


 盛大な、異様とも思える盛り上がりだ。

 当然チケットは高騰し、富裕層しか買えず、雰囲気だけでもとアリーナの周囲は人で溢れていた。


 人工の島はお祭り騒ぎ。

 視聴率、動画配信、その他含め、史上初の記録を次々と叩き出している。

 まさに世界中がバトルを見ていた。


 アリーナにアナウンスが響きわたる。


 《見て下さい!この熱気!熱狂!新旧チャンピオン対決!オッズの方は──》


 アリーナの大型モニターにオッズが公開される。


 《ガイザビィズ 5.12倍》


 《ヴィゴ 1.1倍》


 オッズが公開されるとアリーナが『ワァアアアアアアアアアアアアアッ!!』と大歓声で揺れた。


 《おおっと!朝の時点で割れていたオッズが、今や我らがチャンプ、ヴィゴが優勢!!伝説のチャンプ、ガイザビィズはアンダードッグと見られている!!》


 《無理もありません!冷静に考えればガイザビィズが一時代を築いたのは約20年前!バトルの仕様も変わっている!》


 《では、次に何分で試合が終わるのか!1~3分でヴィゴの勝利条件、オッズはこちら──続いて4~6分で──》


 次々と賭けのオッズが公開されていく。ヴィゴの人気は凄まじく、絶対王者としての一端が垣間見える。




 学園寮の食堂では、生徒たちがモニターに釘付けだった。


『あ!ほらやっぱりヒーローだよ!』


『なんだよあんないい席で!!』


『いいよなあいつの家はさー』


『別に羨ましくない、モニターの方が試合が見やすい』


『だよな!入るのも出るのも混雑するし、よく高い金払って行くよな』


 一見陰口のように見えるがそうではない。

 自分たちでも妬みだとわかって言っているただの軽口だ。

 プラチナシートは年間シートになっており、普通の家庭に買える代物ではなかった。


 12才にとっては世間で流行っていて、ましてや超高額となっているシートに同級生が座るとなると、嫉妬してしまったり、斜に構える幼さは致し方ないところでもある。


 それが気に食わないセドは独り言のように喋る。


「フン、ベラベラと短絡的な奴らだ」


『セ、セド……。ヒーローの味方すんのかよ』


「味方?あいつはただあそこにいるだけだ。お前らがおかしいんだろうよ」


『なんだと!?』


「あれが好きで行ってる顔かよ」


『…………』


「もうすぐ中等部だろ。お前らと協力すると思ったら吐き気がするぜ」


『……悪かったよ。ただの軽口だ』


「……フン」


 セドは至極真っ当な言い分をしているが、言い方もきつかった。

 同級生にとっては本当にただの軽口で、セドが過剰に反応してしまった結果、余計な軋轢あつれきを自ら生んでしまった。


  ここで対立せず、素直に謝れた同級生は少しだけ大人だったのかもしれない。


 それでも、セドはヒーローを庇ったという事実。

 セド自身も気づいていない変化。

 セドとヒーロー、二人の関係も変わろうとしていた。


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