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第30話【ガービィの怒り】

「パパー!!」


「おかえり、だろ?ヒーロー」


 いつになったら言えるようになるのか。そんなことを考えるライゼの背後から──


「パパおかえりーっ!」


 とサリーが飛びついた。もはや気にもしないガービィは、ヒーローを注意する。


「お邪魔しまーす。ヒーロー、おかえりくらい言えよー」


「もう慣れたもんだなガービィ……ん?」


「どうしたの?」


 サリーがくっついたまま首を傾げる。ライゼはその腹をむに、と摘まんだ。


「なんだコレは……」


「か、隠れ肥満……」


「隠れきれてない……! 明日からトレーニングだ!」


「パパの料理が美味しいからだねぇ、ヒーロー?」


「うん!!」


「ガッハハ! 俺も太ったっす!」


「……」


──


 四人が食卓を囲んでいると、テレビからバトルアリーナのインタビューが流れてきた。


 ヒーローは食事を止め、夢中になって見ている。


 《このヴィゴ様がN.A.S.H.(ナッシュ)と戦うって? そんなのが見たいのか? こっちは対人のプロ。あいつらは突っ込んでくるだけのモンスター相手だろ? 奴らじゃ相手にならないね》


「そうなの!?パパも勝てないの?」


「ん? ハハハッ、そうかもなぁ」


「えぇ!?」


「ガッハ! ヒーローはまだバトルが好きなのか?」


「うん! ほら、カードもあるよ!」


「ヒーロー、しまいなさい。食事中にパパの鼻水は見たくないだろ?」


「あ、遅かったみたい」


「ぅう、ヒーロー……。パパのカードだってあるんだぞ……」


「パパのもちゃんとあるよ!」


 ブワッとライゼが光を発し、照明を超える輝きがリビングを満たす。


「まぶしいよ……!」


 《N.A.S.H.(ナッシュ)は戦い方がスマートじゃないね。ライゼだっけ? この前も苦戦してたじゃない。弱すぎるぜ。ありゃバトルみたいな対人戦じゃ、ただの的だな》


 《さすがチャンピオン! No.1N.A.S.H.(ナッシュ)でも相手にならないと?》


 《あれは虚像だ。みんな騙されるなよ? あんな戦い方、頭が悪いね。本当は弱いのさ。その点このヴィゴ様は毎試合──》


 ──バキンッ!


 折れたスプーンがガービィの拳に握られていた。


「弁償な」


「す、スイマセン! でもこの野郎!」


「パパもバトルに出てよ! みんなパパがヴィゴより弱いって言うんだよ!」


「ヒーローも、好きに言わせておけばいいじゃないか。あれはリップサービスみたいなもんだろ」


「パパは悔しくないの!?」

「そうっスよ!」


「ガービィ、子どもと一緒になってどうする。こんな事でいちいちバトルなんか……。俺たちN.A.S.H.(ナッシュ)にはやる事がある」


「でも……パパが馬鹿にされてるの、悔しいんだ」


 ぽつりとこぼしたヒーローの声に、ガービィも俯いた。


「ヒーロー……」


「……もう、お腹いっぱい」


 そのまま部屋へ行ってしまったヒーローの背中を、ライゼはじっと見送った。


「その鼻水、どんな構造なんスか」


「……うぅ、反抗期か? やっぱ反抗期なのか?」


「最近の子って、みんなあんな感じスよ」


「じゃあさっき俺を煽ってたお前も、子どもってことでいいな?」


「め、面目ないス……」


 ふと、ガービィがテーブルの下に視線を落とす。そこでは──


 サリーがスプーンをぎゅっと握り締め、にこにこと笑っていた。


 そのスプーンは、あらぬ方向にぐにゃりと曲がっていた。


 ──


 夜。


 街を歩くガービィの形相は、まるで鬼そのものだった。


 すれ違う人々が道をあけ、振り返りもできない気迫を放っていた。


「あの野郎が……ッ! ぐ…く…ぁあ゛あ゛あ゛あ゛!」


 唸るような声。拳を握りしめ、空へ向かって吠える。


「なめやがって……!」


 ──


 翌朝。


 学園では早くもヴィゴの発言が話題となり、ヒーローは囲まれていた。


『なんでヒーローのパパは出ないんだよ?』

『ヴィゴにビビってるだけだろ?』

『やっぱ親子そろって雑魚じゃん』


「パパはN.A.S.H.(ナッシュ)だから……」


『N.A.S.H.(ナッシュ)はバトルアリーナに出てたことあるじゃん!』

『やっぱり逃げてるんだよ!』


 パンチもマリンも割って入れない。雰囲気が殺気立ちすぎていた。


「マサムネ! 何とかヒーローを!」


「ど、どうすれば……!」


 そのとき、突如として人垣が割れた。


 セドが無言のまま力ずくで群衆を押しのけて現れた。


「ヒーロー。なぜ言い返さない」


「えっ……?」


「お前のパパは──最強だろうが!!」


 声を震わせ、歯ぎしりをするセド。


「くだらない煽りで、あの人を馬鹿にするな……!」


「セド……」


 誰もが言葉を失い、やがて群衆はすっと解散していった。


「大丈夫!? ヒーロー!」


「うん……」


 マリンとパンチが駆け寄り、マサムネがぽつりと呟いた。


「セドが……ヒーローを助けた……?」


 ──


 ━━ バトルアリーナ・オーナーシート ━━


『いくらナンバーでも困ります! 止まってください!!』


「エイリアス! エイリァアアスッ!!」


 鬼の形相のまま突入するガービィ。押しとどめる警備を振り切り、扉を蹴破って入ってきた。


「ガイザビィズ!? まさか来てくれるなんて……!」


 オーナーのエイリアスは、感極まったように走り寄り、抱きついてきた。


 すぐさま警備に厳しい口調で言い放つ。


「誰に触れてるの!? 離れなさい!」


『し、しかし!』


「下がりなさい!」


 エイリアスは警備を一喝し、下がらせた。


 二人きりになるとガービィの肩を掴み、腰へ手を回す。


「ガイザビィズ? 何を怒ってるの?」


「俺はガービィだ」


「そう……ね。でも私には──」


「ガービィだ!!」


「……ええ。そう呼ぶようにするから──」


 ブロンドの長い髪、筋肉質な長身、破滅的にガービィへ一途な美女。それがバトルアリーナの絶対的支配者、エイリアス。


「まずは落ち着いて?」


「これが落ち着いていられるか!!」


「会いに……来てくれたんじゃないのね……」


「ヴィゴだ! お前が言わせたのか!」


「話が見えない、何の事?」


「オーナーなら今日のバトルくらい見ろ!」


「み、見るから! 落ち着いて? ね……?」


 慌ててモニターを確認するエイリアス。


 《ライゼだっけ?この前も──》


 全てを見終え──


 ペタン……と崩れ落ち、顔を覆うエイリアス。



「わ、私が言わせるわけ──」


「誰が言わせた!?」


「これは、私たち全員への侮辱だわ……」


 映像を見終えた今、エイリアスも怒りを覚えていた。サリーも含め三人にとって到底許される事ではなかった。


「多分これはヴィゴの所属ジムが言わせたんだと思うけど……」



「俺を……俺をバトルに出せ! ヴィゴとやらせろ!!」




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