エピローグ
「『正義の傭兵! 学校を救う!』……ひでータイトルだなこりゃ!」
『ガイド』の学校占拠事件から1週間が経ったAMIS八王子支部。第三班以外だれも居ない待合室でジャックが足を机に掛けながらそう言った。彼の手には3流のゴシップ誌の如くデカデカとAMISの功績を称えるタイトルが載った週刊誌がある。
「お金目当てに学校を占拠したテロリストをたまたまその場に居たAMIS社員が撃退……。ある意味何も間違ってないとは言え、やりすぎじゃないですか? 沖田少佐」
廉が僅かな微笑を交えながらこの記事のシナリオを作った沖田少佐を見る。デスクに座る彼は今、何かの書類を眺めながら、不適な笑みで返す。
「なに、雇われ人として、少しでも雇用元のイメージを良くしなければならん。何分我々は人手不足だからな。さて、面接の日程は何時にするか……」
沖田少佐はそう言いながら書類――送られてきた履歴書を眺める。
「ああいう所は強かだよなぁ。オヤジって」
ジャックが小声でそう言うと廉も僅かに苦笑する。すると、待合室の扉が開く。
3人の視線が扉に集中する。その視線の先には白いワンピースを身に纏い、赤い髪をツインテールに纏めた女性――シャリー・シャリアロットが立っていた。
「あれ、社長じゃん? 本社に帰ってたんじゃねーの?」
ジャックが砕けた口調で言うと、彼女は手に持っていた果物が入ったバスケットを上げる。
「お見舞いよ。鳴瀬社員とリサの。事件の後始末で色々忙しくて時間が取れなかったから、改めてね。ここには病院に向かう前に、一度顔を出しておこうと思って来たのよ」
彼女を除いた3人が顔を見合わせる。
「でしたら、ここでお待ちになって下さい。2人とも今日退院して、一度帰宅した後、ここに来る予定ですから」
廉が言うと、彼女は不思議そうな顔をした。
「もう退院? リサは打撲で済んだとは聞いたけど、鳴瀬社員はかなりの重症だったて聞いたわよ? そこまで酷い症状じゃなかったの?」
「んにゃ。重症も重症。超重症だったよ。あの後、検査したら左半身の粉砕骨折に、全身の筋断裂、内臓破裂数カ所、肋骨も2本肺に刺さってるってんで、即行手術室に運ばれてった」
語ってる内容に反比例するようにアッサリと言うジャックに、彼女の表情が険しくなる
「……それ1週間で退院出来る様な怪我には思えないんだけど」
「いや、それがよ。手術が終わって2,3日もしたら後輩、普通に起き上がったんだわ。医者は1か月は集中治療室とか言ってたけど、全然そんなヤバイ気配ないの。しかも前より調子が良くなったとか言って、病室で筋トレまでしてる始末! 不死身過ぎて草生えたわ!」
ジャックがそう言って笑うと、廉が「笑い事じゃないでしょ。もう……」と呟く。ジャックは「生きてればどんな事も笑い話よ!」と応えると、続ける。
「と、言う訳で医者もやることが無いから、今日リサちゃんと一緒に退院って訳」
「……」
シャリアロットが何処か腑に落ちないのか沈黙する。それを察した沖田が言った。
「彼は事件の数日前にナノマシン注射を打っていたので、それが応急処置の役割を果たし、治りが早かったのではないか? と、医者は推測していましたね」
「……本当にそれだけかしら」
彼女は小さく呟き、何かを考えるように口に手を当てる。ジャックが肩をすくめた。
「まあよ。難しい事考えないで、今は全部上手くいった事を喜ぼうぜ? ――それとこれから、ここでリサちゃんと後輩の退院祝いするけど、社長もどう?」
ジャックの提案に廉が続く。
「本当はこういうの職場でやるのは良くないんですが。今は人数が少なくてどうしてもこの場から動けなくて……。ですのでシャリアロットCEOも如何です? 色々用意してますよ?」
シャリアロットは僅かな間を置いた後、思考を中断するように息を吐いて、答える。
「……なら、お言葉に甘えようかしら」
彼女は微笑を浮かべ、部屋に入っていった。
■
病院からのバスを降り。助とリサの2人は自宅への道を歩く。
1週間振りの家路だが、その風景は随分と久しぶりに見る物のように感じられた。
「ッ……!」
「大丈夫か? 月神」
隣を歩いていた彼女が少しだけ体勢を崩したのでそれを支える。彼女は今日退院したとはいえ、僅かだが怪我の痛みが残っているようだった。
「荷物は俺が持つよ」
そう言って助は彼女の荷物を持ち上げる。彼女は深々と頭を下げた。
「ありがとう。やはり君は勇者だな」
「だから大げさだよ」
助は即答する。彼女は幾度も繰り返された問答に僅かに頬を緩めると言った。
「……タスク、君の想いは確かに伝わっていたよ」
「何の事?」
その台詞に合点が行かないでいると、彼女は助の胸にある青い宝石を指さした。
「これか」
助はペンダント状になった石を持ち上げる。それは強い想いを彼女の心に通じる石だった。
「”不幸と戦う”お父上から受け継いだその強い信念が、君を勇ある者にしているのだな」
「聞かれてたのか、少し恥ずかしいな」
助が無表情でそう言うと、彼女は首を横に振る。
「その強い想いを聞いて、私はあの時意識を取り戻す事が出来たんだ。どうか誇ってくれ」
彼女はそう言って穏やかに笑う。助も少しだけ笑って返す。
2人の視界に自宅が見えてくる。彼女は少し間を置いてから口を開く。
「私も君のようにありたい。そして……”君と共にいたい”」
「……?」
彼女から出てくる謎の表現に、助が疑問府を浮かべながら彼女を見る。彼女は宝石のような蒼い瞳を助へと向けながら言った。
「私も君の事を”大切な存在”だと思っているという事だ」
そう言って彼女は再び胸にある青い石を見る。この石が強い想いを伝えると言うのなら――
「……!!!」
助の中で察しが付く。同時に彼は決まりの悪そうな顔で視線を逸らす。
「待て……あの時のアレは”そう言う意味”じゃ無いぞ? ”大切な仲間”って意味で――」
「私にとっては”そういう意味”だよ。タスク」
「――は?」
逸らしていた視線を彼女に戻す。すると目の前には彼女の宝石のような瞳があった。
唇に”柔らかい何か”があたる。
「!?」
突然の感触に助が呆けていると、彼女は顔を離して、すぐ助に背中を向けた。
「さあ。荷物を置いたらみんなの所に行こう! 今日は沢山カレーを食べるぞ!」
彼女はそう言って、家に入っていく。助は扉の前で無表情でそれを見送った。
「……」
唇を触ってみる。ほんの少しだけ心臓の鼓動が早くなった。
■
玄関に荷物を置いた後、父の部屋に入る。
和室の中にある仏壇を開き。簡単に仏壇を拭く。
線香に火を付け、香炉に立てる。淡い火の光が燃え尽きるのを見届け、助はいつものように立ち上がり、仏壇を閉じようとした。
その時ふと父の遺影が目に入った。そこに写る父の表情はあの時と同じ優しい笑顔だった。
助は再び座り直す。そして、父の笑顔を見ながら言った。
「ただいま。今、帰ったよ。父さん」
助は写真に写る父と同じ笑顔を浮かべて、手を合わせた。




